森の利用と保全の両立に向けて インドネシア・マハカムウル県の農業・林業局と覚書を締結


2014年11月18日、WWFインドネシアは京都大学の北山兼弘教授(森林生態学)とともに、ボルネオ島のインドネシア領東カリマンタンに位置するマハカムウル県の農業・林業局と、持続可能な森林の管理・保全に向けた覚書を交わしました。WWFは2012年より、京都大学の協力を得て、県内で木材生産を手掛けている企業とともに、森の利用と保全の両立を推進する取り組みを行なっています。今回の締結は、本取り組みを県内の他の企業に応用するための土台となるもので、企業による持続可能な森の利用の拡大が期待されます。

伐採企業が取り組む持続可能な森の利用

世界屈指の多様さを誇る熱帯林に覆われた、赤道直下の島、ボルネオ島。その中央部に位置する西クタイ県およびマハカムウル県には、東カリマンタン最長のマハカム川が流れ、約240万ヘクタールものまとまった規模の森が残っています。

ここでは、マレーグマやウンピョウ、イラワジイルカといった、絶滅が危惧されている野生動物の生息が確認されています。

2012年、WWFジャパンは京都大学の協力を得て、企業による森林の利用を評価する取り組みを開始しました。

パートナーは、FSC(R)(Forest Stewardship Council(R):森林管理協議会)認証を取得し、森林を伐採している現地企業、ラタ・ティンバー社。

同社はFSCの基準に基づき、利益ばかりを追求した木材の伐採を行なうことなく、環境や地域社会に配慮した施業に前向きに取り組んできました。

こうした持続可能な森の利用が、実際にどれだけ森林保全に貢献できているのか。2012年に始まった取り組みでは、京都大学の北山兼弘教授(森林生態学)が開発した指標を用いて、客観的に計測することをめざしています。

これにより、適切な森林管理の実践が、生物多様性の保全に寄与することを科学的に証明することが、この試みの大きな狙いです。


マハカム川上流の川沿いに伐採キャンプがある、ラタ・ティンバー社。

京都大学の北山兼弘教授(中央)

マハカムウル県の農業・林業局と覚書を締結

そうした中、2014年11月18日、WWFインドネシアと京都大学のチームは現地の林業局において、森の利用と保全の両立を推進するための覚書を三者間で交わしました。

このことは、2012年よりWWFが進めてきた取り組みが高く評価されたことを示すと同時に、県内に16ある森林伐採企業に、この試みを広げていくための大きな土台となる可能性を示すものです。

農業・林業局長のドディット氏は、締結にあたり次のように述べています。

「この森は私たちの生活に欠かせない水を供給し、農作物に必要な豊かな土壌を育み、また収入源ともなっています。森の生物多様性は、野生生物だけでなく、私たちの暮らしの豊かさにも直結しています。

この豊かな自然を破壊することなく、持続可能な形で利用していく方法を探っていきたいと考えています。」

さらに、「マハカムウル県は2012年にできたばかりの県ですから、新しい取り組みも柔軟にやりやすいと考えています。国内外の大学や研究機関とも協力体制を築き、さまざまな可能性を探っていきたい」と、意欲を示してくれました。

今後、森の利用と保全の両立に向けた取り組みが、県内の各地で加速していくことが期待されます。

マハカムウル県の中心地、ウジュンビラン村。村の玄関口であるマハカム川沿いの船着き場には、通学船が停まっており、学校に通う子どもたちを乗せていた。

覚書を交わした北山教授(右)、マハカムウル県農業・林業局長のドディット氏(中央)、WWFインドネシアのアリフ・ダタ・クスマ(左)

広がる森林保全の輪

この朗報を後押しするかのように、今回の締結にあわせて、マハカム川の上流で木材を伐採しているロダマス社にて、新たにこの取り組みを導入するためのトレーニングが京都大学のチームにより行なわれました。

インドネシア政府から40年間の長期的な伐採権を取得しているロダマス社は、ラタ・ティンバー社と同様、FSC認証を取得しており、適切な森林管理を積極的に推進している企業のひとつです。

FSCのガイドラインに添った操業のために、同社では専任スタッフを配置し、伐採をしてよい樹種の特定や、負荷の少ない搬出ルートの検討をあらかじめ行ない、伐採計画を立てています。

今回のトレーニングには、現場責任者を含め30人近くのスタッフが集まり、活発な議論が交わされました。

今後はこうしたトレーニングを活かし、企業が自らの手で、自分たちの森の健康状態を評価する取り組みが進められていく予定です。また、評価は1回限りではなく、経年変化をしっかり把握していく必要があるでしょう。

また一方で、FSC認証を取得していない県内の伐採企業、スロジャ社でも同様の取り組みが始まりました。双方の経年変化の違いを比較することで、FSCの基準に沿った適切な森林管理の優位性を明らかにすることができないか、期待されています。

こうした企業活動の在り方は、伐採が森全体の自然に及ぼす影響を最小限にとどめることにつながります。さらに、森林回復につとめることで、将来的な経営資源の確保をより確かなものにすることが可能になるでしょう。

森を皆伐して安価に木材や紙を生産し、資源と環境を食いつぶしていくビジネスでは、自社の未来が描けないことに、すでに企業は気づきつつあります。

WWFはこうした取り組みへの支援を通じて、FSCの森林認証の信頼性を高め、世界の森林の持続可能な利用と保全に貢献してゆきたいと考えています。

関連情報

川沿いの伐採キャンプから丸太を運び出す際は、いかだをくんで川を下る。

京都大学のチームによるトレーニング。

樹木の種類を特定したり、木の直径を測るなどして調査が進められる。

ロダマス社のスタッフと京都大学のチーム。

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