「2015年パリ合意」に向けて ペルー・リマ会議(COP20)報告会を実施


2015年1月21日、WWFジャパンは地球温暖化問題に取り組む他のNGOと共にCOP20/CMP10報告会「リマ会議報告会 ~2015年パリ合意への道~」を開催しました。報告会では、2014年12月に南米ペルーのリマにおいて開催された会議(COP20/CMP10)に参加した各団体のスタッフが、これまでの交渉の経緯と、2020年までの各国の取り組み、そして新しい国際枠組みのスタートに向けた議論の内容について報告。さらに、このリマ会議を受けて日本政府がこれからとるべき姿勢について指摘を行ないました。

リマ会議までの経緯

土田道代(CASA)

地球環境市民会議(CASA)の土田氏からは、2014年12月1日から14日までペルーの首都リマにおいて開催されたCOP20・COP/MOP10(国連気候変動枠組条約締約国会議第20回会合・京都議定書締約国会議第10回会合)に至る、国際交渉の経緯と背景についてお話いただきました。

土田氏が指摘する、国際交渉の中でとりわけ重要な議論は2つあります。

一つは、2015年12月にフランスのパリで開催が予定されている国連気候変動会議(COP21)までの合意を目指す、各国が温暖化防止のために実践する取り組みの「2020年以降の新しい法的枠組み」に関する議論。

もう一つは、この新しい枠組みが始動するまでの2020年までに、各国の温室効果ガス排出削減レベルを、どれだけ引き上げられるか、という議論です。

さらに土田氏は、世界の平均気温が産業革命以前と比較して、2度以上を上昇してしまうと、気温と気象の変化によって引き起こされる経済的な影響が生じ、また一度上昇した気温を、再び2度未満に抑えることがより困難になると述べ、そうならないよう対応するため、私たちに残された時間は、あと30年足らずであることを警告。

地球環境市民会議(CASA)の土田氏

そのために、COP21で国際社会がどのような決定を下すのかが非常に重要であるということを強調しました。

また、その前段階であたる今回のCOP20リマ会議では、新しい国際枠組みがスタートする2020年までの取り組みの底上げがどこまで進むのか注目された会議であったと述べられました。

各国の国別目標案に盛り込むべき内容と事前協議・2020年までの削減努力の引き上げ

小西雅子(WWFジャパン)

次いで、WWFジャパンの小西雅子からは、今回のリマ会議で決定されたことの一つである、「全ての国を対象とした新しい枠組みの交渉」について報告しました。

現在2020年までの温室効果ガスの削減目標を持っている国は、世界全体の温室効果ガスの排出量の約80%を占める99カ国を数えます。

しかし、世界にはいまだ目標を設定していない国々があるほか、現状の取り組みを全て合わせても、世界の気温上昇を2度未満に抑えるのは、難しいと指摘されています。

このため、各国による2020年までの削減目標をいかに引き上げるか、また2020年以降の削減に向けた枠組みをどのように作っていくのかが非常になります。

今回のCPO20は、その内容が乏しい結果に終わりましたが、それでも、現在の削減目標をより後退させるものにしてはいけない、という点については守られる結果に落ち着きました。

WWFジャパンの小西雅子

そして、目標案には削減目標だけではなく「適応」という要素も含めること、さらに目標案の総計が科学的に妥当かどうかを検証した結果も明記することが奨励され、その統合報告書を2015年11月1日までに準備することが決定されました。

また難航する話し合いの中で、先進国と途上国の間に衝突が生じる中、その間を取り持つ途上国が一部現れたことや、自主的な取り組みを積極的にアピールする行動に出た点も、COP20の特筆すべき成果でした。

たとえば、COP20のホスト国であるペルー、コロンビアなどの南米の国をはじめとした途上国が「緑の気候基金 」への出資表明をしたことは、交渉に見られた新しい展開です。

さらに世界の排出量の53%を占めるアメリカ、そして中国、EUが、既に目標案を出しているという、カギになる国々の見せた積極性が、後の交渉へも大きく影響してきます。新しい枠組みが議定書のように法的拘束力のある強いものになるのか、また合意に留まるのか、今後加速化する交渉が注目されます。

2015年合意の『要素』(elements)に関する議論

山岸尚之(WWFジャパン)

続いてWWFジャパンの山岸尚之からは、小西からも報告があった国別の目標案をどのように決定していくか、そしてCOP21で交わされる予定の「2015年パリ合意」の下書きになる交渉テキストの「要素」についての議論を報告しました。

この交渉テキストの下書きは、2015年5月までに準備する予定になっています。

要素は「温室効果ガスの排出量削減」や「適応と損失と被害」など13の項目で構成されていますが、既にこの章立てのタイトルを決める時点で、各国の間で議論があり、合意までには非常に難航が予測されています。

その要素の項目の中で、今後注目されると考えらえる項目が3つあります。

1つ目は温暖化の影響の「緩和」の中にある長期目標です。

急激な気候変動を防止するために、平均気温の上昇をどの程度に抑えるのか。そのためにはどの程度、排出量を抑える必要があるのか。

さらに、温暖化の脅威のない脱炭素社会を実現するために、世界の国々はどう長期目標を定めていくべきなのか。これらが大きな論点となっています。

2つ目は同じく「緩和」の中にある「サイクル」の議論です。

これは目下注目されている2025年/2030年までの削減目標にとどまらず、その先を見据えた目標の設定にかかわるものです。

目標期間の設定を5年にするのか、10年にするのか。この議論によって国際社会が目指す取り組みのプロセスは大きく変わる可能性があります。

WWFジャパンの山岸尚之

COP20にて、2020年までの削減目標に関するWWFの記者会見

山岸は日本の石炭火力発電の問題点について話しました

現在のところ、各国により提案や主張が異なっていますが、このような複雑な提案を各国が出してくる背景からは、先々に耐え得るような長期的な枠組みを作ろうとしている積極性がうかがえます。

3つ目の代表的な論点は「資金」の話です。

温暖化に適応するため世界が協力して拠出し、対応にあてる「資金」の話は従来、先進国が中心となりがちでしたが、近年は途上国の中にも資金的な提供をし始めている国々が出てきています。これらをいかに「2015年合意」に含めていくかも、一つの注目すべき論点です。

この「要素」がCOP21に向けた2015年の交渉の中で、どのように組み込まれるのか。その結果として、国際的な枠組みが、どのような国際法や、より緩い決まりであるCOPでの決定として形になるのか。これらが交渉の主役になると考えられます。

REDD+について

西川敦子(CIジャパン)

コンサベーション・インターナショナルジャパン(CI)の西川氏からはREDD+(レッドプラス)の要素にについてお話しがありました。

REDD(Reduction of Emission from Deforestation and forest Degradation)+とは「途上国における森林減少と森林劣化からの排出削減並びに森林保全、持続可能な森林管理、森林炭素蓄積の増強」の略称です。

これは、樹木が蓄積している炭素を大気中に排出し、温暖化を深刻化させる森林破壊をくいとめるため、途上国に対して森林保全に経済的インセンティブを提供することで、温暖化対策を行なう試みです。

コンサベーション・インターナショナルジャパン(CI)の西川氏

実際、世界の温室効果ガスの総排出量全体のおよそ24%が、森林を含めたさまざまな土地の利用によって生じています。2005年にREDDの素案となる提案をコスタリカやパプアニューギニアが提案したことから、ここ10年の中でも大変注目度の高い交渉内容となっています。

今回のCOPでは、セーフガード情報提供システムへの透明性や一貫性を確保するためのガイダンス、および非市場アプローチという緩和だけでなく適応の要素も含めた新たなメカニズムについて議論が行なわれましたが、結論には至りませんでした。

それでも、国際会議の場の外では、2013年のCOP19(ワルシャワ会議)での合意を受け、主に途上国がルールの整備を本格化させ、制度の実施に向け、大きく舵を切ろうとする動きが大きな成果として認識されています。

また、2014年9月にアメリカで開催された国連の「気候サミット」でも、世界の平均気温の上昇を2度未満に抑える目標の実現に向けて出された「森林のためのニューヨーク宣言」に多くの国や企業、団体が支持を表明。意欲的な動きも認められています。

最後に西川氏は、2015年パリ合意に向けて、2020年以降の枠組みにおけるREDD+の位置づけを明確にし、永久に失われてしまうかもしれない森林と、その生物多様性や文化の保全のために、現場でのREDD+の活動を進めていくことが大変重要であると話されました。

日本政府へのメッセージ

平田仁子(気候ネットワーク)

気候ネットワークの平田氏からは、これまでの国際交渉が日本に対してどのような意味があるのか、日本の政府および日本のみなさんへのメッセージとしてお話いただきました。

今回のリマ会議は、具体的な数値を伴った、2020年までの削減目標を持たない日本にとって、大きな影響を及ぼさないものと見る向きがあります。

しかし、ここでの決定は、いまだ国別目標案の内容を決められていない日本に対し、目標案の提出を促すプレッシャーにとなることは間違いありません。

気候ネットワークの平田氏

この目標案について、日本では関係省庁内での検討が進められているものの、提出時期や削減水準は未定のままです。

その中で、特に懸念される点は、原子力再稼働と石炭火力発電の関係です。原子力再稼働に向けた動きの陰で進められている石炭火力発電の建設ラッシュは、CO2(二酸化炭素)の排出削減に大きく矛盾しており、これが結果的に再生可能エネルギーの普及の足かせになりかねません。

また、リマ会議で日本が注目されたことの一つに、日本が推進している、石炭火力発電に対する海外融資について、多くの批判が寄せられたことがあります。

これは、直接今回のリマの合意とは関係はありませんが、これは主に途上国に対する気候変動問題への対応のため融資されるこの資金を、どのように定義していくべきかについての議論につながるものです。

最後に平田氏は、COP21に向け、日本がまず2015年3月という、世界の国々が目指している目標案の提出期限を十分に意識すること、そして途上国からの批判を受けない衡平性のある、意欲的な高い目標を、全力で準備をしてほしいと述べられました。

COP21「パリ会議」に向けて

COP20リマ会議は、全体として、意欲と成果の乏しい結果とはなりましたが、2015年12月に開かれるCOP21パリ会議に向けた確かなステップになりました。

とりわけ、COP21パリ会議で合意が目指されている、2020年以降の「気候変動に関する新しい国際枠組み」の中で、大きな役割を担う「国別目標案」の要件がまがりなりにも決まったことは、重要な点です。

これにより各国は、国別目標案の準備を本格化させていくことになるでしょう。

世界のCO2排出量の約半分を占める国々が、すでに2015年合意成立へ向けての強い意志を示す中、日本もまた、国際社会の中で、気候変動の脅威を削減する上で、どのような貢献ができるのか、問われることになります。

いまだ日本では、国別目標案のための検討が始まったばかりであり、世界から周回遅れは否めません。

国内での議論を活性化し、世界第5位の排出国として責任ある国別目標案を早期に国連に提出することが、まずはCOP21に向けた重要な課題といえるでしょう。

気候変動の活動家として世界を駆けまわるアル・ゴア氏。COP20でも力強いスピーチを行なった

COP20の会場には、すでにCOP21に向けた看板が見られた。

開催概要

COP20/CMP10リマ会議報告会

日時 2015年1月21日(水)
場所 日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール 千代田区日比谷公園1番4号
主催 Climate Action Network (CAN-Japan)
共催 WWFジャパン、気候ネットワーク、FoE Japan、オックスファム・ジャパン、コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、グリーンピース・ジャパン、地球環境市民会議(CASA)、環 境エネルギー政策研究所(ISEP)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表部(RAN)、「環境・持続社会」研究センター (JACSES)
備考 本イベントは、平成26年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて開催されました。

報告会の様子を動画でご覧いただけます

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