国連気候変動リマ会議(COP20・COP/MOP10)の開催:2015年合意へ向けて交渉は進むか


2014年12月1~12日、南米ペルーの首都リマにおいて、COP20・COP/MOP10(国連気候変動枠組条約締約国会議第20回会合・京都議定書締約国会議第10回会合)が開催されます。現在の国連交渉は、2015年12月に気候変動に関する新しい国際枠組みに合意することを目指して進められています。今回の会議では、その新しい国際枠組みの中での排出量削減目標等のあり方、新しい国際枠組み全体の骨格、そして、新しい国際枠組みがスタートする2020年までの取り組みの底上げが主な論点となる予定です。

現在の国連気候変動交渉の流れ

2014年12月1~12日、南米ペルーの首都リマにおいて、COP20・COP/MOP10(国連気候変動枠組条約締約国会議第20回会合・京都議定書締約国会議第10回会合)が開催されます。 現在の国連交渉は、2015年12月に気候変動に関する新しい国際枠組みに合意することを目指して進められています。

ここでいう「新しい国際枠組み」とは、国際的な気候変動(温暖化)対策のルール、目標、支援の仕組み等全体を指しており、これまでは、2008~2012年までの京都議定書の第1約束期間、そして、2013年~2020年までの自主的削減目標を基礎とした体制が中心となってきました(EU等一部の国は2013〜2020年も京都議定書の第2約束期間を継続しています)。

今度は、さらに次の2020年以降に始まる新しい、包括的な国際枠組みを作ることを主な目的としています。 その交渉の主な場としては、2011年に南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17・COP/MOP7での合意に基づき、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)が舞台となっています。

今回のCOP20・COP/MOP10の会期中も、形式上は、このADPにおいて議論が行なわれる形になります。

ADPの2つの「ワークストリーム」

ADPには、2つの大きな論点分野があり、それぞれ「ワークストリーム」と呼ばれています。

ワークストリーム1 2015年までに、2020年から始まる新しい国際枠組みに合意する
ワークストリーム2 2020年までの各国の取り組みを底上げする具体策を検討する

ワークストリーム1は、2015年までに合意する新しい国際枠組みに関する交渉を、ワークストリーム2は、2020年までの各国の取り組みの底上げを議論しています。

なぜ「底上げ」が必要になるかといえば、現在各国が自主的に約束している取り組みでは、あきらかに、「地球温暖化による平均気温上昇を2度未満に抑える」という国際的な目標に足りないためです。

2014年11月に発表された国連環境計画(UNEP)の報告書(The Emission Gap Report)によれば、必要な削減量と約束されている削減量との差(ギャップ)は、2020年時点で80~100億トンにも上ると試算されています(現在のアメリカ1国分の排出量より大きい数字です)。

ワークストリーム1について

ワークストリーム1については、2015年までのおおまかな交渉のスケジュールが合意されています。 それによれば、今回のCOP20・COP/MOP10までに、新しい国際枠組みの構成の「要素」(elements)について議論をし、2015年5月までに、本格交渉の基礎となる交渉テキスト(新しい合意の下書き)を作ることになっています。

今回のCOPの議長国であるペルーは、このスケジュールをやや前倒しにして、今回の会議において、交渉テキストに近いものを作ってしまおうという意欲を示しています。

ここでいう「要素」とは、別の言い方をすれば、新しい合意文書の章立てや骨格をどうするかということで、排出量削減(緩和)を中心としたい先進国と、資金支援をより詳細に組み込みたい途上国との間で意見の対立が起きています。

加えて、2013年のポーランド・ワルシャワでのCOP19・COP/MOP9において、各国が新しい国際枠組みにおける自国の目標案(国別目標案)をいつまでに出すかということが議論になりました。

厳しい交渉の末、弱い表現ではありますが、「2015年3月」という期限が決定文書に入りました。 各国とも、この時期を目安に国内での議論や準備を進めることが期待されています。

ワークストリーム2について

ワークストリーム2については、2013年のCOP19で、削減のポテンシャルが高い分野に関する専門家を集めての「専門家会合(TEMs; Technical Expert Meetings)」を会議と並行して開催し、その議論の中で、国連気候変動会議の場がどのように現場レベルでの削減の取り組みを後押しできるかを議論することになりました。 そして、2014年の3回のADP会合に合わせて実際に議論がされてきました。

この「専門家会合」と呼ばれるプロセスが、どのような成果を挙げることができるかどうかも課題です。

COP20・COP/MOP10の主要論点

COP20・COP/MOP10では、既に述べたADPに加えて、SB(補助機関)会合と呼ばれる技術的・専門的な議題を議論する場もありますが、主な交渉の場は、前述したADPとなります。

SBでは、たとえば、海外での削減量に対してクレジットを発行して、売買を可能とするようないわゆる市場メカニズムの議論や、森林伐採・劣化等からの排出量削減に関する「REDD+」と呼ばれる分野に関する議題があります。

今回のADPには、大きく分けて3つの論点があります(下表)。最初の2つは、ワークストリーム1に属し、3点目はワークストリーム2の論点です。

  • 新しい国際枠組みの中での排出量削減目標等のあり方 新しい国際枠組み全体の骨格 2020年までの取り組みの底上げに関する専門家会合の今後

以下では、それぞれの論点について簡単に解説をします。

国別目標案の情報要件と事前レビューのあり方

前述の通り、各国は国別目標案を2015年3月までに出すことが期待されています。この国別目標案は、英語では、正式名称の頭文字をとってINDCs(Intended Nationally Determined Contributions)と呼ばれます。

最終的な合意予定は2015年12月であるのに、早い段階で国別目標案を出すことになったのは、過去の交渉で、会議直前に各国が目標を持ち寄ったため、お互いの目標が持つ意味合いの理解を深める時間がなかったという経験を踏まえてのことです。

事前に各国の目標案を持ち寄り、それらが気候変動対策の観点から十分か(たとえば、国際的な目標である「地球の平均気温上昇を2℃未満におさえる」という目標達成に必要な削減量に足りているか)、そして、お互いにとって衡平であるか、という観点から見直しをするということが意図されているからです(この作業を、2015年12月の合意の前に行なうという意味で、「事前レビュー」もしくは「事前協議」と呼びます)。

そのためにも、各国が国別目標案を提示する時に、どのような情報を提示するべきか、という論点について、今回のリマ会議までに合意することになっています。

この論点は、やや技術的な論点と言えますが非常に重要です。なぜなら、ここで情報要件をどのようにするのかによって、各国の目標の形式も事実上決まり、その後の事前レビュー作業がどのようなものになるのかも決まってくるからです。

特に、新しい枠組みでは、途上国の国別目標案は、ある国は「2030年までに、なりゆきのケースと比べて、GDPあたりの温室効果ガス排出量を10%削減」という形式をとり、ある国はさらに違う形式をとる、というように、形式が多様化する可能性があります。

こうなると、「なりゆきのケース」とは何か、GDPの想定はどうなっているのか、などの情報がないと、正確な排出量見通しは分かりません。

それによって、目標の厳しさも変わりますし、実際に世界全体の排出量にどのような影響があるのかも変わります。

また、事前レビューを、実際にはどのようにやるのか、そして、その国別目標案に入れる内容は、国の責任の重さや能力(発展度合い)などによって差異化するべきか否か、なども争点になります。

さらに、「目標」と言うと、一般的には、温暖化の原因である温室効果ガス排出量の削減目標が念頭に置かれますが、「国別目標案」には、そうした削減目標だけではなく、温暖化の影響に対する適応対策に関する目標や、途上国への資金・技術支援なども入れるべきだという意見が、途上国の一部にあり、あくまで削減目標(緩和)を中心としたい先進国と対立が起きています。

新しい国際枠組みの「要素」について

2015年の新しい国際枠組みにおいては、各国の排出量削減目標(形式はいろいろあれども)が入ってくることは多くの国が前提としています。

しかし、その他の分野、たとえば、適応、資金支援、技術移転、キャパシティ・ビルディング(能力開発支援)の分野をどのように組み込むかについては、国々の間で対立があります。

一般的に、先進国は、排出量削減(緩和)を中心に枠組みを作り、その他の部分については、これまでの交渉の中で作られた機関を有効に活用していくことで十分ではないか、という立場をとっています。

これに対して、途上国は、適応も緩和と同じくらい重要であると主張し(特にアフリカ諸国、後発発展途上国(LDC)、島嶼国など)、資金支援、技術移転、能力開発といった分野についても、等しく扱うべきだと主張しています。

こうした対立を乗り越えて、新しい合意の要素に合意し、骨格を作れるかどうかが議論されます。

2020年へ向けての削減努力底上げのための「専門家会合」の今後

2020年までの各国の取り組み底上げのための具体策を検討するために設立された「専門家会合(TEMs)」は、2014年に既に3回開催されました。

いずれの会合でも、具体策について、各国代表、国際専門機関、専門家、自治体連合・ビジネス団体などからの参加者によって活発な議論が行なわれ、参加者の中でも、政治的な対立で膠着しがちな国連交渉にあって、生産的な議論ができる場として、この会合自体はおおむね好評でした。

ただ、具体的な各国の行動に結びつくのか、そのためには、現在の形をただ続けるだけでいいのかなど、議論を具体的な成果に結びつけるための妙案が、まだ出てきておらず、今回の会議でどのような方向性が出るか注目されています。

日本がやるべきこと

ADPでの交渉は、基本的に、2015年までに新しい国際枠組みの合意を目指しつつ、2020年までの取り組みの底上げを図るという流れで来ています。

その中で、各国は、いよいよ、新しい枠組みにおいてどのように排出量削減に貢献することができるのかを問われるようになってきました。

2014年10月から11月にかけて、EU、そしてアメリカと中国が、相次いで自国(地域)の排出量削減目標を発表し、国際的な気運が盛り上がりを見せています。

まだ、国別目標案の情報要件が定まっていないので、正式な提出にはいたっていませんが、世界のCO2排出量の約半分を占める国々が、すでに2015年合意成立へ向けての強い意志を示していると言えます。

そのような状況下にあって、日本国内ではまだ新しい目標に関する議論が始まったばかりであり、実質的な目標議論が停滞しています。

このままでは、これから難しくなっていく国際交渉において、出遅れることは必定です。

今回のリマ会議での積極的な貢献とともに、国内での議論の活性化も必要です。

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