2014年 国連気候変動ボン会議(SB40,ADP2.5)報告


2014年6月4日から15日まで、ドイツのボンで気候変動に関する国連の補助機関会合(SB40,ADP2.5)が開催されました。今回のボンの会議では、各国の大臣級の会合も開催されましたが、集まった閣僚は少なく、ハイレベルでの議論に進展は見られませんでした。それでも、各国が国別の削減目標案を2015年3月に国連に提出することについて、コンセンサスが広がるなど、一定の成果が認められました。重要な3点について報告します。

2020年までの取り組みと、2020年以降の枠組み

今回のボンでの会合は、2014年12月にペルーのリマで開催される予定のCOP20に向け、各国の温室効果ガスの削減をめぐる、2つの大きな論点を持つ会議となりました。

  • 2015年までに合意すべき、2020年以降の新たな法的枠組み(2015年合意)」についての議論
  • 2020年までの削減の取り組みを底上げする具体的なアクションプランを深められるか

また、この会議では、毎年6月に行なわれる補助機関会合としてははじめて、各国の大臣級の会合も開催され、各国政府の政治的意思を高めることが期待されましたが、集まった閣僚は少なく、ハイレベルの議論が深まることはありませんでした。

それでも国別の削減目標案について、どんな情報を入れるべきかの議論は進み、また2015年の3月に各国が国連に提出するというコンセンサスが広がったのは成果と言えるでしょう。

2014年ボン会議(SB40,ADP2.5)に見られた重要な3つの点

  1. ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)2020年新枠組みにおける国別目標案の議論の進展
  2. 「2015年合意」のをめぐる議論の進展
  3. 2020年までの削減量の引き上げの議論

関連情報

各議論の詳細

1. ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)2020年新枠組みにおける国別目標案の議論の進展

2013年にワルシャワで開催されたCOP19(国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議)では、2030年頃をめどとする「国別目標案(Intended Nationally Determined Contribution, without prejudice of its legal nature of the contribution)」を、各国が2015年3月までに提示するよう奨励されました。

2015年末にパリで開催が予定されているCOP21の場で、各国が削減目標を最終的に決定するに先立ち、それぞれの目標案を事前にチェックし合うことで、より大幅な排出削減と、排出削減努力のより衡平な分担をめざすためです。

2014年3月に開催されたADPで、6月のボン会議より議論の場が「コンタクト・グループ」と呼ばれる公式な交渉の場に移すことが決められたのも、その事前のチェックを進めるための措置でした。

ここで大切なことは、以下の2つのポイントとなります。これらは、今回のボンでの会合の重要な論点でした。

  • (1-1)2015年3月に、各国が国別目標案をきちんと国連に提出できるかどうか
  • (1-2)この国別目標案の提出時に、「どのような情報を提出すべきか」

(1-1)目標案の2015年3月提出

3月提出は、その後に半年かけて目標案の妥当性や衡平性を見ていくために、非常に重要です。 EUはすでに2030年に向けての目標を3月に提出することを早くから表明しており、EU内部での議論も着々と進んでいます。

またアメリカも3月提出を明言しました。
現在アメリカは、オバマ大統領のリーダーシップのもと、石炭火力発電所の排出規制を導入しつつあり、「2020年目標」の達成が視野に入ると同時に、次の目標(アメリカは2025年までの5年間の目標となる予定らしい)の裏打ちの議論も進んでいることが伺われます。

また中国も、1週目に大臣が「2015年の前半に提出する」と明言。 これによって、EU、アメリカ、中国の国別目標案が、2015年前半までに出そろうことになる可能性が高まりつつあります。

一方、日本では「2015年3月の提出を検討中」としつつも、まだ国内議論も始まっておらず、周回遅れの感が否めません。

今回のボン会議の2週目には、世界の市民社会から「日本のような重要な先進国が国別目標案を期限までに出さないならば、交渉に非常に冷水を浴びせることになる。目標案提出が遅れれば遅れるほど、そのあとの衡平性や妥当性を見るプロセスも短くなってその機能が危うくなってしまう」と強く提出を促される一幕もありました。国内の議論を加速させることが急務といえます。

会議の様子

東京都の発表

(1-2)国別目標案の中身と情報について

会議5日の朝に初めて開かれたADPコンタクト・グループでは、共同議長が、議長作成の国別目標案の合意文書草案を示しました。

この草案では例えば、排出削減の貢献のタイプ(温室効果ガス排出削減目標か、原単位目標か、BAUからの削減かなど)、約束期間、森林吸収源や市場メカニズムを使用するかどうか? などが、提出する情報としてあげられています。

また、国別目標案が提出された後に、各国間の目標の妥当性などを比較できるようになっているかどうかが、非常に注目されます。このため、「自国の目標がどのように衡平で野心的かを説明すること」との項目が草案には入りました。

本来は衡平性をはかる指標に合意できればベストですが、政治的に非常な困難が予測される中、少なくとも、各国に対して説明が求められれば、各国間の目標分担が衡平と言えるかどうかを国際的にチェックしやすくなります。

この共同議長の提案に対して、中国、インド、フィリピン、アルゼンチン、サウジアラビアなど一部の途上国の同志が集まったグループ(Like Minded Developing Countries: LMDC。先進国の責任を強く追及する考えを持つグループ)が、自分たちの決定文書案を提出し、共同議長の案ではなく、自分たちの案をもとにすべきと主張して、交渉が一時停滞しました。

しかし、先進国を中心に多くの国が議長案をもとにすることに合意し、各国は具体的な中身の議論に入りました。

大きな意見の隔たりがあったのは、下記の2つの項目についてです。

イ)各国間の差異化をどうするか

LMDC、アフリカ諸国を中心とした国々が、「気候変動枠組条約の附属書1国と非附属書1国の差異化をそのまま続けるべき」と主張。対して先進国、および一部ラテンアメリカ諸国などは、「国の開発程度が急速に変化しているのを反映して差異化も変化させていくべき」と主張し、平行線をたどった。

ロ)国別目標案は、温室効果ガスの削減目標だけを対象とするべきか、資金援助・適応なども含むべきか

先進国は「比較可能な削減目標を決めるプロセスに集中すべき」と主張するのに対し、途上国は「途上国の削減行動に必要となる資金援助も先進国の貢献として含むべき。また適応も削減と同じくらい重要なので国別目標案の中に含めるべき」と主張。これも平行線をたどりました。

しかし各国が考えていることが、議論の中から明らかになったことは、それ自体が進展でもあります。
会議では今後、共同議長が改定する決定文書案をもとに、次の10月会合でさらなる議論が続けられることが決まりました。

2014年12月に開かれるリマ会議(COP20)では、国別目標案の中身について合意しなければならないので、この次の会合までに各国はさらに提出意見を出し、議論を深めることが必要となります。

2. 「2015年合意」のをめぐる議論の進展

2013年のワルシャワ会議(COP19)では、2014年のリマ会議(COP20)において、次のことを実現することを予定する計画が決定されました。

  • 2015年12月のパリ会議(COP21)で合意が予定されている「温暖化防止に向けた2020年以降の新しい国際的な枠組み(2015年合意)」の、項目や要素について、各国が合意すること
  • 2015年5月までに、その要素を元に、交渉テキストを作ること

このため、今回のボン会合では、この要素についての交渉が開始され、交渉文書が作られていくことが期待されていました。

しかし、会議開催前に、共同議長が要素を箇条書きした文書を示して、議論を進めようとしたところ、LMDCを中心とする途上国が「なぜ議長が勝手に文書を作るのか。交渉のもととなる文書は各国が決めるべきであり、議長が決めるべきではない」と強く反発。

議長は「これまでの各国の議論をまとめただけだ」と説明しましたが、交渉のムードは非常に悪くなってしまいました。

LMDCは自らが作成した文書案を提出し、それをもとに交渉すべきだとしましたが、今度はこれに、他の国々が反発。どの文書を元に交渉すべきかで、議論が平行線をたどりました。

会議2週目になってようやくLMDCを含む途上国が態度を軟化させ、各国が提出した会議文書や発言を元に、議長が意見を統合した文書を作ることを容認。2014年10月に予定されている会合までに、「非公式文書」として議長が用意することになりました。

この決定を受けて、各国は、「2015年合意」の要素に何を入れるべきか、その構成はどうあるべきかなどについて、具体的に意見を述べ、なんとか中身の議論が進みはじめました。

会議最終局面では、ブラジルの政府代表から「各国は食材を持ってくるから、議長はキッチンでその食材を元に料理を作ってください(つまり各国の意見を元に、議長が統合交渉文書案を作ってください)。ただし、その料理が気に入らなければ、気に入る料理ができるまで作りなおしてくださいね」と、冗談を交えた発言も飛び出し、会議は和やかな雰囲気で終了しました。

結果として、

  • 各国は議長に「食材」をなるべく早く、数多く提出すること
  • 共同議長は10月の会合前までに「非公式文書」として各国の意見を統合した交渉テキスト案を用意すること
  • 同時に、10月会合の進め方を示す

ということが会議の結果、決まりました。「2015年合意」に向けた本格的な交渉が、なんとか始まったと言えるでしょう。

3. 2020年までの削減量の引き上げの議論

各国は現在、2015年合意による2020年以降の枠組みの議論とは別に、2020年までにどのように温室効果ガスの排出を削減するのか、その「自主目標」や行動計画をさだめ、取り組んでいます。

この自主目標は、2010年にメキシコでのカンクン会議(COP16)で交わされた「カンクン合意」に基づき、各国が提出したものです。

しかし、その目標値は、全ての国の分を足し合わせても、温暖化による影響を回避するために必要とされる「産業革命前に比べて、世界の平均気温上昇を2度未満に抑える」には足りないことが指摘されています。

このため、2020年までに、いかに実質的に削減量を引き上げていけるか、という「2020年目標」が、現在行なわれている国連での会議のもう一つの交渉の焦点となっています。

この件については、2013年のワルシャワ会議(COP19)で、小島嶼国グループの提案により、さまざまな技術や政策を通じた削減の機会を、専門的に追究していく専門家会合が立ち上げられました。

現在は、その会合の成果を、いかに「2020年目標」の引き上げに、具体的につなげていけるかが問われています。

2014年3月に開かれた会合では、再生可能エネルギーとエネルギー効率改善についての経験が、各国や各機関から共有されました。

そして、今回開催された6月のボン会合では、さらにフォローアップが行なわれ、特に、温暖化対策に先進的に取り組んでいる世界の都市が招待されて、その経験を共有し、いかに取り組みを国レベルに広げていくかが議論されました。

日本からは国内の自治体で、最初にキャップ&トレード型の「排出量取引制度」を導入した東京都が登壇して、その仕組みを紹介。参加していた各国政府の間からは、「政策の導入にあたって大きな初期資金は必要なかったこと」、「いかに企業を説得していったか」について高い関心が寄せられました。

さらにこの他、土地利用に関する専門家会合も開催され、同様に先進的なケースが共有されました。

2014年末のリマ会議(COP20)では、これらの成果が、各国の目標値の底上げにつなげるように何らかの形で決定がされることになっています。

また、リマ会議に先だつ10月の会合では、温室効果ガスの回収技術(CCS)と、CO2以外の温室効果ガスの取り扱い(詳細は未定)などが、この専門家会合のテーマに上がる予定です。

総じてこの専門家会合は、各国の2020年目標そのものを引き上げていくのが政治的に非常に難しい中、側面的に目標の引き上げに貢献するものとして評価が高く、リマでのCOP20終了後にも、継続していこうとする機運が高まっています。

終わりに

今回のボン会合は、結果として「2015年合意」の交渉が、ようやく真の交渉の局面に入った、意味のある会議となりました。

「2015年合意」をめぐっては、各国の間の意見相違も明らかになり、埋めがたく思われる大きな隔たりもありますが、意見を同じくするところもあることも見え始めています。

また、2015年3月に提出する国別目標案についても、要素として何が入るべきかなのか、文書を元に交渉が進められる見通しが立ったように思われます。

2015年3月に、自国の国別目標案を提出する意思のある国と、その意思を表明できない国も、具体的に浮かび上がってきました。

まったく霧の中であった2015年合意の形が、おぼろげながら見えてきたといえるかもしれません。

日本としては、まず2020年以降の目標案の国内議論を、積極的に進め、2015年3月までに欧米とともに目標案を提出することが求められます。

もちろん、その目標案は、最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書を受けて、世界の地球温暖化防止に、十分に寄与できる内容であることが重要です。

目標案については、他国の目標と比べた時、何を以て日本が「衡平」かつ野心的な目標だと考えているのか、その理由についても説明が求められることになる見込みです。それに十分こたえられるような目標案であることが、強く望まれます。

2015年12月のパリ会議(COP21)までの半年間に、各国がそれぞれの目標案を比較、検証していくプロセスにおいては、世界の市民社会もさまざまな衡平性の指標を使って、目標の妥当性や衡平性を図っていく予定です。

日本は「その検証プロセスに市民社会の関与を」と提出意見の中で言及しており、この点に関しては、世界の市民社会からも日本の提案が歓迎されています。市民社会の検証にこたえられる日本の目標案の発表が期待されます。

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