セミナー「風力発電大量導入へ向けての挑戦」を開催しました


WWFジャパンでは、日本の将来のエネルギーのあり方について、各専門分野の方々と議論を深め、エネルギーシナリオ4部作(2011年~2013年)を発表してきました。そこでは、風力や太陽光などの自然エネルギー(再生可能エネルギー)のみですべてのエネルギー需要を満たすというエネルギービジョンを示しています。2014年1月31日に東京で開催したセミナー「風力発電大量導入へ向けての挑戦」では、特に、風力発電に焦点をあてて、日本への大量導入の可能性と、それを実現する際の課題について、国内外の有識者とともに考えました。

エネルギーシナリオと風力発電

WWFジャパン気候変動・エネルギーグループの池原庸介は、「WWFジャパンのエネルギーシナリオの中での風力の役割」と題した講演の中で、『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ』の4部作である「省エネ編」(2011年7月)、「自然エネルギー編」(2011年11月)、「費用算定編」(2013年3月)、「電力系統編」(2013年9月)の要点を紹介しました。

気候変動を防ぐためには、二酸化炭素を大量に排出する社会からの構造転換を図らなくてはなりません。脱炭素社会においては、まず省エネの徹底を図り、その上で、必要なエネルギーを自然エネルギー(以下の本文中では自然エネルギーと再生可能エネルギーは同義)でまかなっていく必要があります。それが可能であることを示したのがエネルギーシナリオです。

このシナリオでは、2050年までに、必要なエネルギーをすべて自然エネルギーに置き換えられるとしています。これによって、エネルギー起源のCO2はゼロになると池原は話しました。その場合、そこに至る道程として、2030年には電力の50%が自然エネルギーになり、化石燃料やその他の発電方式を上回り始めます。

自然エネルギーが多くなり、発電量が一時的に電力需要を上回る時間帯には、余剰電力は蓄電するか、もしくは水を電気分解して水素を取り出します。この水素は燃料や熱需要を満たす上で、重要な役割を果たします。

ほほ満席となったセミナー会場

WWFジャパン気候変動・エネルギーグループの池原庸介

高い政策目標を掲げれば、このシナリオは実現可能であることを、池原はデンマークの例を引きながら説明しました。同国では、2013年12月に、1カ月の電力消費の54.8%を風力発電で満たしました。

世界的に見ても、新規に設置される電力設備に関しては自然エネルギーがすでに50%以上を占めるようになっています。風力発電だけをみても、この10年で、約10倍にまで急成長しています。これからの電力の主流をなすのは自然エネルギーであることを会場に伝えました。

秋田における風力発電の可能性

NPO法人「環境あきた県民フォーラム」の山本久博氏は、「日本での大規模風力へ向けた取り組み 風の王国プロジェクトの挑戦」と題した講演の中で、秋田において大規模な風力発電設備の導入を目指すプロジェクトを紹介し、参加者の関心を引きました。

秋田県の日本海に臨む沿岸部は強い季節風が吹きつけるため、長らく住民を悩ましてきました。砂が舞い上がり、町にも降ることがあるといいます。200年ほど前から砂防林の植林が始まり、対策が講じられてきました。それが、ここへきて、むしろ強い風を生かすことのできる風力発電に、秋田では注目が集まっています。

風車1,000基の設置を掲げる風の王国プロジェクトの第一ステージは地上風車です。どのくらいの強さの風が実際に吹いているのか風況調査がおこなわれ、周囲の環境への影響を調べる環境アセスメントが現在、実施中です。県内事業者に利益がもたらされるよう、地域主体の目的会社である株式会社 風の王国が設立されています。このプロジェクトは三原則を掲げ、地域の風資源を利用して、地域が発展することを目指しています。

NPO法人「環境あきた県民フォーラム」の山本久博氏

<風の王国の三原則>(以下のうち、少なくとも2つを満たす必要がある)

  1. 地域の企業・組織・個人がプロジェクトの2分の1以上を所有していること。
  2. プロジェクトの意思決定は地域に基礎をおく組織によっておこなわれること。
  3. 社会的・経済的利益の2分の1以上は地域に分配されること。

特筆すべきは、「能代機械工業会」に属する秋田県能代市の11の企業がドイツ製風車のメンテナンス業務を日立の技術指導のもと、受注することになったことです。

地場企業グループがこうした業務を引き受けるのは国内では初のケースです。風力発電事業に対して、オール秋田で臨もうとする意欲的な言葉が山本氏の口から語られました。風力発電は事業開始までに3-5年の時間がかかるため体制整備にも力が注がれています。

秋田における洋上風車の試み

風の王国プロジェクトの第二ステージは沖合での洋上風車です。 計426基の風車により、およそ300万キロワットの発電がなされる見込みです。洋上に浮かせる工法ではなく、水深20~30mの浅い海域に着床させる工法をとります。426基はどこに設置するか、図面上では決まっています。

電気は海底ケーブルを敷設し、新潟県柏崎まで送られ、そこから送配電網に接続される案を練っているということです。海底ケーブルは経済産業省にも提案がなされています。秋田産の安全なエネルギーが日本の持続可能な社会を成り立たせる可能性があります。

洋上風車は、周辺海域で操業する漁業者の理解が欠かせませんが、漁業者との共同作業とすることで、この点をクリアしつつあります。426基の風車のレイアウト自体を、漁場に配慮しながら、漁業者と一緒におこなっているのです。

山本氏は、ゆくゆくは秋田県を全国でもっとも住みたい県にするという野心的な目標を、ユーモアを交えて披露し、会場の笑いと関心を一気に引き寄せました。426基の完成には10年以上の時間と大規模な投資金額が必要とのことでしたが、明るい将来展望に会場では期待感が高まりました。

ヨーロッパでの風力発電の経験に学ぶ

ドイツで自然エネルギーの普及に力を注ぐエナジーノーティクス社のCEOであるトマス・アッカーマン氏が来日しました。

同氏は、「国際的な経験に基づいた日本における風力大量導入の課題と機会」という題で講演し、風力発電を中心に、自然エネルギーがいかにしてヨーロッパに導入され、適切に運用されてきているか、その実態と得られた教訓を話しました。

通訳の労をとったのは関西大学システム理工学部の安田准教授。自身の経験を踏まえながら、アッカーマン氏の英語を分かりやすい日本語に置き換え、会場の理解を促しました。

アッカーマン氏は、既存の電力系統に風力発電や太陽光発電を大規模に受け入れても、大きな問題を生じないことを、実績をもとに説明しました。ヨーロッパでは110ギガワットの風力発電、37ギガワットの太陽光発電が設置されています。

例えば、デンマークでは風力発電は2013年の電力需要の33.2%を満たし、スペインでも風力発電が2013年の電力需要の21.1%を満たしました。自然エネルギーに頼ると電力の供給が不安定になるという疑念やうわさを否定してみせました。

エナジーノーティクス社のCEO
トマス・アッカーマン氏

自然エネルギーで電気代は高くならない

日本でも2012年に導入された自然エネルギーの「固定価格買い取り制度」は、ヨーロッパではすでに成功を収めています。

自然エネルギーのために、高い電気代を負担させられているという事実も見当たりません。関西大学の安田准教授は、税抜き価格で比較した場合、デンマーク、ポルトガル、スペイン、ドイツなどの風力発電の導入上位国の電気代は、日本よりも安いことを示しました。

アッカーマン氏は、原子力発電は補助金なしでは成り立たず、価格が高どまりすることを付け加えました。風力などは、買い取り価格を実勢に応じて下げていくことができ、むしろ優位に立つということです。

ドイツでは、二酸化炭素などの温室効果ガスを2020年に、1990年比で40%減とし、2050年には80%減~95%減にするという政策目標を掲げています。

これにともない、再生可能エネルギーの電力に占める割合を、2020年には35%、2050年には80%にする目標をもっています。これへ向けて着々と導入を進めているのです。

よく知られているように、ドイツの原子力発電所は2022年にはすべて停止される予定です。

関西大学システム理工学部の安田准教授

自然エネルギーの安定供給は可能

自然エネルギーの発電が安定的でないという指摘に対しては、たくさんの風車を広域的に運用することにより、個々の風車の発電の変動幅を平滑化し、変動を吸収する方法を示しました。

すべてを風力でまかなうわけではなく、太陽光やその他の自然エネルギーを組み合わせれば懸念するような事態は生じないし、実際に、ヨーロッパでは生じていないことを説明しました。

安田准教授は、原子力や火力であっても、もともと不測の停止という事態は起こりうることであるため、電力系統全体としての安定度や信頼度を確保するという視点の方が重要であるとしました。

広域で集合化して風力発電をとらえたときには、ヨーロッパでは電力系統の安定度も信頼度も低下していないことが実証されているとしました。

最後に、自然エネルギーは停電を引き起こすのではないかという疑念に対しては、アッカーマン氏は、ヨーロッパで停電の少ない最上位国は、小国である1位のルクセンブルクをのぞくとしても、2位がデンマーク、3位がドイツと風力発電の大量導入国が並んでいるグラフを示して回答としました。

安田准教授は、風力発電にまつわる誤解を解き、神話を否定する資料を「欧州の経験に基づいた日本での可能性」と題して用意し、会場の要求に応えました。

特に、風力発電を大規模に受け入れられるかどうかは、技術的な問題ではなく、経済的あるいは法制度上の制約であるとしました。既存の設備でも相当量を受け入れられるはずなのですが、そのためのルールが整備されておらず、導入を阻んでいる実情を説明しました。

日本でも大量導入を

こうしてヨーロッパですでに大規模に導入され、電力の供給も安定的である事実をみれば、日本においても、法制度などを整えることで、自然エネルギーは大幅に導入を図ることができるはずです。

自然エネルギーのさらなる拡大のためには、追加的投資が必要ですが、その費用は、冒頭でWWFジャパンの池原が紹介したとおりに、GDP比で毎年1.7%程度であり、2030年頃からは、化石燃料の購入費用の節約額が投資費用を上回っていくようになります。

2050年時点では、正味232兆円の便益を生み出すという試算が成り立ちます。このことは、エネルギーシナリオの「費用算定編」(2013年3月)で明らかにされています。

今の私たちの政策決定が、将来の私たちの社会の安定的でコスト的にも見合うエネルギーを決めます。ひいては、エネルギー起源の温室効果ガス(二酸化炭素)がゼロとなり、地球温暖化を食い止め、気候変動を抑制することにつながります。

WWFジャパンでは、引き続き、風力発電をはじめとする自然エネルギーの導入拡大の提言に努めていきます。

セミナー概要:WWFジャパンセミナー 風力発電大量導入へ向けての挑戦

 
日時 2014年1月31日(金)12:45〜15:00
内容

プログラムおよび資料

1.WWFジャパンのエネルギーシナリオの中での風力の役割
  WWFジャパン 気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 池原庸介
講演資料

2.日本での大規模風力へ向けた取り組み ~「風の王国 プロジェクト」の挑戦
  NPO法人 環境あきた県民フォーラム 参与 山本久博氏
講演資料

3.国際的な経験に基づいた日本における風力大量導入の課題と機会
  エナジーノーティクス社 CEO 兼共同創設者 トマス・アッカーマン氏
講演資料

4.欧州の経験に基づいた日本での可能性
  関西大学 システム理工学部電気電子情報工学科 准教授 安田陽氏
講演資料

5.質疑応答&意見交換

【トマス・アッカーマン(Thomas Ackermann)博士について】
ドイツを拠点とする再生可能エネルギーのコンサルタント会社・EnergynauticsのCEO 兼共同創設者。これまでにドイツ、スウェーデン、デンマーク、米国などの風力発電業界および電力業界での業務経験をもつ。現在、ストックホルム王立科学院 (スウェーデン)およびドイツのダルムシュタット工科大学(ドイツ)で講師を務める。また、毎年開催される"Wind and Solar Integration Workshop"を 主催し、再生可能エネルギーの系統連系に関して電力業界や発展途上国に向けさまざまな講演に携わっている。ベルリン工科大学(ドイツ)で機械工学の修士号 および MBA、ダンディン大学(ニュージーランド)で物理学の修士号、ストックホルム王立科学院で博士号を取得。

主催 WWFジャパン
場所 東京国際フォーラム 会議室G610
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-5-1

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