2013年「南三陸町復興応援ツアー」実施報告


2013年4月27日、28日の2日間にわたり、WWFジャパンでは、東日本大震災で被災した南三陸町戸倉地区を訪れる1泊2日のツアーを開催しました。訪問先の南三陸町戸倉地区は、WWFジャパンが震災直後から取り組んできた「暮らしと自然の復興プロジェクト」等を通じ、支援を続けている地域です。ご参加くださったのは、WWFジャパンの会員とそのご家族やお友達、総勢19名の方々。地元の方のご協力も得て開催の運びとなった今回のツアーでは、皆さまからいただいてきたご支援で実現できた活動の成果や現状、そして今の課題について、ご理解と共感を深めていただきました。

ギンザケ・カキ・ホタテ...養殖の現場から復興を考える

ツアー初日、JR仙台駅に集合した参加者の皆さんは、貸し切りバスで出発しました。

被災地は初めて、という方も多い中、バスは目的地の南三陸町へ。震災前の姿を取り戻し始めた地域もありますが、巨大な津波の爪痕は、そこかしこに残されていました。

1.5時間ほどの道中の車内では、参加者の皆さんに自己紹介をしていただき、WWFのスタッフからは、南三陸町で進めるプロジェクトの目的と水産業の現状について、説明を行ないました。

最初の訪問先は、宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所(以下、戸倉漁協)です。

なぜ、この戸倉漁協が訪問先に選ばれたか。その理由は今、戸倉漁協が震災を機に、以前に行なっていた、カキの「過密養殖」を改善する取り組みを進め、それを地域復興の一つとして位置付けているからです。

過密養殖とは、生産量を増やすために、カキなどを海中で密集した状態で養殖を行なうことをいいます。

しかし、密集すればするほど、飼料(エサ)や養殖している魚介類からの排泄物(糞)などにより、海の環境が悪化する可能性が高まります。

過密を解消すれば、海の環境が改善されて、魚介類の成育も良くなり、良質な水産物の収穫と、収入の増加が期待されます。

しかし、一時的には生産量や売り上げ額も下がるため、この問題は、漁協の皆さんにとっても長い間の課題でした。

改善を決意するきっかけとなったのは、2011年3月の大津波でした。

震災以前の過密養殖をそのまま再開するのではなく、海の環境にできるだけ負荷をかけない持続可能な養殖業への転換を決断したのです。

WWFジャパンでは「暮らしと自然の復興プロジェクト」を通じて、戸倉の地元の志津川湾の海の自然環境調査、海洋汚染調査、漁業経済調査を実施。戸倉の水産業を支援してきました。

水産業の復興は地域の豊かな自然環境の適切な利用と保全を進め、地域の復興にも繋げてゆくこの戸倉漁協の取り組みは、「暮らしと自然の復興」プロジェクトがめざす、自然環境に配慮した復興そのものだったからです。

今回のツアーでは、ギンザケ・カキ・ホタテの養殖施設を船の上から見学。実際に養殖業に従事する漁協の方々から、震災後に改善した養殖の成果などについて説明を受けました。

さらに、漁協の皆さんと交流を兼ねたディスカッションを実施。関西や関東から多く参加されたツアー参加者の皆さんは、戸倉地域の産品を購入することで支援したいという思いを、強く持たれた様子です。

今味わったばかりのカキやホタテ、ホヤやギンザケをいつも扱っている店舗があるのかといった質問も多数いただき、活発な意見交換をすることができました。

被災直後の戸倉地区

WWFのスタッフによる南三陸町でのプロジェクトの説明

最初の訪問地宮城県漁協志津川支所戸倉出張所(戸倉漁協)

震災後に育った大きなカキ

ツアー参加者の皆さんも海へ

大震災から2年後の、被災地を視察

2日目は、東日本大震災の被災地を巡る「語り部バスツアー」でプログラムがスタートしました。参加者はいずれも、南三陸町の状況を見るのは初めての方ばかりです。

この南三陸町は、東北各県の被災地の中でも、とりわけ大きな被害が出た自治体の一つです。

津波で被災し、破壊された建物の残骸は、既に大部分が撤去されて更地になり、がれきは数か所に集積していました。しかし、こうした被災地域を、今後どうしてゆくのかについては、まだ具体的にはほとんど動きが無い状態です。

このバスツアーでは、被災地のモニュメントともいうべきポイントをめぐりながら、現地の語り部ボランティアの方に、震災の時の様子をお話いただきました。

前日の、現地入りするバスの中でも目撃した風景に言葉を失った皆さんですが、当時の状況と現在残されている問題について、より具体的に知ることができたようでした。

地域の未来を担う
「戸倉地域スクール」からの発表

WWFジャパンが南三陸町戸倉地区で、水産業への支援と共に実施してきた取り組みの一つに、地域の子どもたちを対象とした「海の学習会」があります。

戸倉はもともと、海とともに生きてきた町。これからの復興を実現してゆく上でも、未来を担う子どもたちには、地元の海への理解を深める機会を大切にしてもらわねばなりません。

そこで、2012年には地元の戸倉中学校で海に関する出張授業を実施。また、「戸倉地域スクール」の子どもたちとも、志津川湾でのシュノーケリング観察会や、石垣島白保での交流会などを開催してきました。

この「戸倉地域スクール」とは 震災で大きなハンディを背負った地区の子どもたちに、力強く前に進んでゆく力をつけてもらおうと、PTA関係者や漁業関係者が協力して立ち上げた「被災地での人育ての仕組み」です。

WWFをはじめとする、さまざまな支援団体との連携を進めながら「地元の環境、漁業、伝統芸能」を素材にして、中高生が、得難い体験活動や実践的活動を積み重ねてきました。

今回のツアーでは、こうした「戸倉地域スクール」の多彩な活動と、その成果も発表してもらいました。また、特にWWFと実施した活動をまとめた映像の上映会も行ない、参加者の皆さんに観ていただきました。

スクールの子どもたちが話してくれたのは、震災の時のこと、これまで学習してきたこと、そして、自分たちの住む戸倉地区を、今後どのようにしていきたいか、ということです。

津波から避難した時の話や、亡くなった級友の遺影を携えての卒業式の話では、思わず目頭を押さえる参加者の方もおり、発表後の質疑応答では、「海を嫌いにならずに、是非これからの地域を再生する担い手となってほしい」という励ましの言葉も聞かれました。

震災を乗り越えて、子どもたちにこれからも力強く生きてほしい。これはツアーに参加されていた皆さん全員の思いと言ってよいでしょう。

この交流会を最後に、ツアーすべてのプログラムを終了。南三陸町を出発し、一路仙台に向かいました。途中、被災地の事業者が仮設店舗で営業している「南三陸さんさん商店街」に立ち寄った後、JR仙台駅で解散となりました。

参加者の皆さんのさまざまな思い

これまで被災地を訪れる機会を逃してきたが、時間がやっとできたという方。教育に携わっているが戸倉地域スクールの活動に興味があるという方。今回のツアーには、皆さま色々な思いを持つ方が、ご参加くださったようでした。

ツアー終了後にもまた、丁寧なご感想をいただきました。ここにいくつかを、要約してご紹介いたします。

「被災地支援を継続してください。また、被災地の特産品や水産物のカタログ販売などを検討ください。現地にはなかなか行くことができませんが、気持ちだけはつながっていたいから」

「生態系に配慮した、地域復興の様子と重要さがよくわかりました。WWFの活動の実績も、目で見て確かめることができ、良かったです」

また、今回のツアーでも改めて確認されたことですが、東日本大震災は、まだまったくといってよいほどに、事態が収束をみていません。

これを風化させないことは、日本が国全体で取り組んでゆくべき、大きな課題です。

そうした中で、震災を越えて未来を見据え、しっかり歩み続けている戸倉地域の皆さんと、日本の各地から集まった参加者の皆さんに、交流いただける機会を作れたことは、WWFにとっても、大きな意味のあるツアー開催となりました。

WWFジャパンはこれからも、戸倉地域の皆さんとともに、自然と共に生きる地域の復興を支えてゆきます。

また同時に、そうした取り組みが、世界に通用する「持続可能な水産業」として確立されるように、支援してゆきます。

船上から見る養殖場

水から揚げたばかりのホタテ

漁協の皆さんとのディスカッション

津波を受けた被災現場

防災庁舎の残骸を前にした皆さん

「戸倉地域スクール」からの発表

戸倉地域スクールが実施した志津川湾でのシュノーケリング

多くの参加者から激励が寄せられました。

お買い物で地元を支援!

ご参加いただき、ありがとうございました!

復興はまだまだこれから!ご支援を、よろしくお願いいたします!

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是非ご協力を、お願いいたします!(6月末日まで)

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