2013年 国連気候変動ボン会議(ADP2)


2013年最初の国連気候変動会議が、ドイツ・ボンにおいて4月29日~5月3日の日程で開催されます。今回以降の主なテーマは2つ。1つは、2020年以降の、地球温暖化防止のための「新しい国際枠組み」に関する合意へ向けての議論です。この新しい枠組みは2015年までに作ることになっているので「2015年合意」と呼ばれます。もう1つは「2020年までの野心の引き上げ」、つまり、世界各国の2020年へ向けての排出量削減の取組みの底上げについての議論です。どちらも重要なテーマで、11月のポーランド・ワルシャワでのCOP19へ向けての議論が始まります。

今後の主たる交渉舞台となるADP

今回開催されるのは、「ダーバン・プラットフォームに関する特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action;ADP)」の会合です。

このADPと呼ばれる作業部会は、2011年のCOP17の決定によって設立され、2012年から交渉の場として機能しています。

そして、同年のCOP18・COP/MOP8(カタール・ドーハ)において、既存の2つの作業部会である条約AWG(AWG LCA)と議定書AWG(AWG KP)がその作業を終了し、閉じられたことで、このADPが、今後の交渉の主な舞台となりました。

今回はその最初の会合ということになります。

2つの「ワークストリーム」

この作業部会に課せられた作業は大きく分けて2つあり、それら2つは、「ワークストリーム(作業の流れ、過程)」と呼ばれています。

ワークストリーム1は、新しい国際枠組みに向けた交渉です。

COP17の決定では、この交渉は、2015年までに合意を得ることが目指されています。そして、その時点で合意された新枠組みは、各国での批准等の手続きを経て、2020年から効力を持つものとされています。

一般的には、全ての国々が参加する包括的な枠組みを、新しい「議定書」のような国際協定として合意することが目指されていますが、どのような形の枠組みに具体的になるかは、今後の交渉次第です。

ワークストリーム2は、2020年「まで」の野心のレベルの引き上げです。

ここでいう「野心(ambition)」とは、一般的には世界各国の排出量削減努力の度合いのことを指します。
現状では、各国(先進国・途上国両方含む)が自主的に掲げている削減目標を達成したとしても、「気温上昇を2度未満に抑える」という大目標を達成するために必要な削減量と比較すると、2020年時点で80~130億トンの差があると言われています。

これはアメリカの1年間の排出量よりも多い甚大な差です。また、本来、「2度未満」目標達成のためには、世界全体の排出量の傾向が、2020年よりも前に(WWFは2015年までを主張しています)増加方向から減少方向に転じなければならないと言われています。

この意味からも、「2020年までの野心の引き上げ」は重要で、各国の目標や取組みの直接的な底上げの他に、国際船舶や航空からの排出量削減や、温室効果ガス以外で気候変動の原因となる物質の削減等、様々な案が議論されています。

ワークストリーム1 2015年合意 2020年からの新しい国際枠組みに関する合意を2015年までに作ること
ワークストリーム2 2020年までの野心の引き上げ 世界各国の2020年までの排出量削減の取組みを底上げする

アイディア出しの会合?

今回のADP会合は、2015年へ向けた一連の交渉過程では序盤に当たります。このため、議長が提案している会議の形式は、ワークストリーム1も2も共に、まずは全体的なワークショップを開催した後に、個別テーマのラウンドテーブルと開催するというものになっています。

この提案の意味は、今回の会合は、各国が意見を調整して何か文書を作るような「交渉」ではなく、アイディアを出しあったり、意見を率直に交換しあったりする準備的な会合と位置づけられているということです。

ただ、「交渉」でないからといって、今回の会合が重要でないというわけではありません。今回の会合で行われる議論によって、徐々に、本格的に交渉に入っていく時の問題の整理の仕方等が見えてくるかもしれないからです。

何が争点か

今回の会合では、ワークショップやラウンドテーブルで個別のテーマが設定され、議長が各国に考えて欲しい「問い」のリストも準備しています。

いずれも、「2015年合意」や「2020年までの野心の引き上げ」にとって重要なものが多いですが、それらの多くに共通し、底辺を流れているテーマとして、「衡平性」に関する問題があります。

国と国との間の「衡平性」については、1992年に作られた国連気候変動枠組条約の中で定められた原則として、「共通だが差異のある責任原則」があります。

この原則は、先進国と途上国は、共同で温暖化に取組まなければならないという点において責任は「共通」だが、そもそも現在の温暖化を引き起こしてきたのは先進国であるから、まずは先進国が対策を行うべきだという風に解釈されてきました。しかし、中国やインドなどの新興国が経済的にも力をつけ、排出量でも大きくなってきた昨今、この原則の解釈を見直すべきだとの意見も多くなってきました。

しかし、ことはそう簡単ではありません。何が「衡平」であるかという問いには、さまざまな答えがありうるからです。単純に排出量の大きさに応じて責任を分担するべきだという考えもあるでしょうし、国民一人当たりの排出量が大事だという考えもあります。
また、それぞれの国の豊かさや、その国がどれくらい削減できるかを考慮するべきだとの考えもあります。

この「衡平性」のテーマについて、どんな議論がされていくのか、そして、どのように議論が整理されていくのかは、今後の「交渉」にとっても極めて重要な意味を持ちます。これはあくまで1つの事例ですが、今回の会議が「序盤」とはいえ重要になりうる理由の1つです。

日本は?

日本は、現在、国内の排出量削減目標の見直し作業が宙に浮いた状態となってしまっており、「2015年合意」や「2020年までの野心の引き上げ」の双方について、あまり突っ込んだ議論ができない状態にあります。

やはり「自国がどこまでやる用意があるのか」を持って議論に参加できないことには、大きな制約がつきまといます。日本国内では「海外での削減に貢献すればよい」との声も強くありますが、この議論は国際交渉では安易な責任転嫁・放棄ととらえられることもあるので、注意しなければなりません。

2015年に向けて徐々に難しくなっていくことが予想されるこの交渉過程において、日本がどの程度「重要な国」であることができるのか、問われる年になりそうです。

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