持続可能な復興へ向けた支援 岩手県住田町の取り組み


2011年3月11日、東日本大震災の発生に対応し、町をあげて被災地支援に乗り出した岩手県気仙郡住田町。住田町自体は内陸の山林地帯に位置する林業の町ですが、古くから陸前高田、大船渡と地縁、血縁の深い暮らしをしてきました。震災直後からこれらの市で救援活動を展開しましたが、注目されたのは、町の独自予算でいち早く木造の仮設住宅を建設し、被災者に長期化が予想された避難生活の場を提供したことです。その仮設住宅の材も、70%以上がFSCを取得した住田の森林から調達され、緊急対応の際にも環境配慮が可能なことを示しました。FSCジャパンのネットワークを通じて、住田町の被災地支援を知ったWWFジャパンでは、この木造仮設住宅への自然エネルギー供給をつながり・ぬくもりプロジェクトに提案し、最終的に110棟すべてに太陽熱温水器が乗り、また仮設住宅の周りには太陽光発電による街灯が灯りました。

いち早い生存者支援へ

予想をはるかに上回る規模で日本中を揺るがせた、東日本大震災から2年が経ちました。南北500㎞に渡る沿岸部の被災地は、津波によって壊滅的な被害を受け、地元自治体は救援活動で手いっぱいな時期が長く続きました。

宮城や岩手ではこの非常事態に、内陸に隣接した市町村が、全面的な支援に乗り出しました。例えば宮城県登米市では、WWFジャパンが水産復興モデル地区として支援している南三陸町戸倉地区のために、3月13日には廃校になっていた小学校を整え、被災した戸倉小・中学校の児童生徒と職員を受け入れました。

大きな被害を受けた陸前高田

高台の山中に児童とともに避難し、2日を野営して難を逃れた戸倉小学校校長は、「体育館に布団が敷かれているのを見て、これで眠れると心底有難かった」と述べています。

岩手県気仙郡住田町も、そんな自治体の一つです。住田町自体は、海を持たない内陸の山の町ですが、昔から東隣の陸前高田市、大船渡市との関係は"気仙郡"として深く、今回の事態に、震災当日から町をあげて救援活動に駆けつけ、消防団は行方不明者の捜索に当たりました。

このような支援に加え、住田町は次の段階で必要な被災者のケアを想定し、震災の3日後には町有地を使って、仮設住宅の建設に着工しました。

もともと住田町では、震災前から、日本で手に入れやすい素材で、加工も容易な木造の仮設住宅を考案しており、国の災害救助法に基づく災害救助基準などに基づき、被災者への提供を国に検討要請していたのです。

住田町の決断

今回の震災に際しては、一刻も早く被災者の方々が落ち着いた暮らしに入れるように、急ピッチで建設が進められましたが、この時、効果的だったのがパネル工法です。

町内の工場で町産材を製材して作ったパネルは、規格が統一されていますから組み立ても効率よく進みます。4月初旬には、仮設住宅への入居受付が開始され、5月はじめにはできあがった住宅への入居が、順次開始されました。

住田町とWWFジャパンは、もともとFSC(Forest Stewardship Council;森林管理協議会)の推進を通じてご縁があります。

FSCは国際的な森林認証機関で、FSC森林認証は、適切な森林管理のもとで、環境や社会に配慮してつくられた原材料や製品であることを示し、WWFは世界の森林を守るための一つの手段として、FSCの普及と推進に取り組んでいます。

そして住田町も、2009年3月に気仙地方森林組合として町の森林がFSC森林認証を取得して以来、FSC認証製品の普及に取り組んできました。

震災から20日ほどで、住田町ではFSC森林認証材を70%以上使った木造仮設住宅の建設を始め、初動の速さによって、陸前高田、大船渡の被災者の方たちに、迅速に仮設住宅を提供していきました。

一方、災害救助法による国からの支援については、被災自治体ではないこと、建築発注者として適法とならないことから、町独自の予算で建設を進めることを早い段階で決定しました。

そして最終的には、当初予定の93戸に県からの要請も加わり、110戸を建設することになりました。

住田町の仮設建設現場(2011年4月)

FSC材を使った仮設住宅

仮設住宅の中はこんな様子

東日本大震災「つながり・ぬくもりプロジェクト」との出会い

このような住田町の決断に対し、民間からも支援の申し出が相次ぎました。

例えばFSCジャパンでは、3月末の住田町仮設住宅着工に際しサッシ不足が発生し、岩手のメンバーからの呼びかけで提供可能な業者情報を探すメールが飛び交いました。またモア・トゥリーズでは、1軒250万円と概算された建設資金や、ペレットストーブの提供に対する支援募集を開始しました。

現場を訪れて話を聞くWWFのスタッフ

一方、WWFジャパンでは、「暮らしと自然の復興プロジェクト」の中で、環境配慮を欠かさない復興への支援を進めるため、東北の被災地で生じているさまざまなニーズの聞き取りを開始しました。

その一環で、WWFも推奨する「適切な森林管理に配慮したFSC材」を主に作られた、住田町の仮設住宅を取材したのです。

そのWWF「暮らしと自然のプロジェクト」では、2011年4月4日に発足した「つながり・ぬくもりプロジェクト」に参加し、電気やお湯へのアクセスを絶たれた避難所への、小型太陽光発電や太陽熱温水器設置、あるいはバイオマスによるお風呂支援を開始していました。

FSC材の仮設住宅に、自然エネルギーによる熱と電気供給。被災され、すべてを失った皆さんの生活支援として光熱費の節約になるだけでなく、包括的な環境配慮としてもモデルケースになり得ます。

さっそくWWFジャパンでは、FSCジャパンの岩手の関係者にお願いし、住田町に「つながり・ぬくもりプロジェクト」を紹介いただきました。そしてまずは、4月上旬に太陽光発電担当のレクスタさんが現場に赴き、町長と建設課に面会。その後より幅広に、「つながり・ぬくもりプロジェクト」と住田町のあいだで、自然エネルギー支援に関する協議が始まりました。

110棟の仮設住宅への太陽熱温水器提供

2011年5月下旬に、住田町町長とつながり・ぬくもりプロジェクトの幹事団体がWWFジャパンに参集し、最終的にまとまったのは、「110棟の仮設住宅に太陽熱温水器を提供する」という大きなプロジェクトでした。

ペレットストーブは、すでに他団体の支援が決まっており、つながり・ぬくもりプロジェクトの実質的な支援可能性は、太陽光発電か太陽熱温水器でした。そして110戸に平等にという観点から、資金面で実現性の高い太陽熱温水器が選ばれたのです。

それでも工事費や最低限の機器代等で、予算総額は1000万円を超えましたが、幸いなことに三井物産環境基金の「東日本大震災復興助成」の資金が決まりました。

設置は、仮設住宅への入居がほぼ完了した、8月初旬から開始されました。

実際には、陸前高田市で被災した工務店の関係者を中心に、ほかにも仮設住宅入居者の中から大工さんが、温水器の提供元であるチリウヒーターから手ほどきを受けて、設置に携わりました。

県立病院医療局に建設されたうち、最後の5戸への設置が完了したのは、暮れも押し詰まった12月26日。5か月をかけて、つながり・ぬくもりプロジェクトの一大プロジェクトが完成しました。

約200リットル、石油のポリタンク10杯分の容量を持つ太陽熱温水器は、電気もガスも使わず太陽の熱だけで、夏だと60℃以上のお湯を沸かすことができます。

屋根に設置される温水器

出来上がった仮設住宅(2011年8月)

これだけあれば、4人家族がシャワーを浴びて、まだまだ余裕の湯量です。水が凍る厳寒時には、水道管と一緒で水抜きをしておかないと、給水管が破裂してしまう、という利用上の注意点はありますが、冷える東北でも、年の4分の3は使うことができる日照量があります。

住田町の仮設住宅でも2012年4月になると、太陽さえ出れば屋根の上の温水器の水は60度を超え、仮設住宅のお風呂で追い炊きの代わりに重宝したそうです。

そしてこういった機会に、プロパンガスの節約ができるのが、被災された皆さんの生活支援となりました。

仮住まいのプロパンガスは、「時期によっては1カ月に1万円以上かかって、被災前とは大違い」と、入居者は驚かれていましたが、それを少しでも抑えることができれば生活の立て直しには吉報です。

丁寧に扱っていけば、半永久的にお湯を供給し続けられる太陽熱温水器の良さは、百聞は一見にしかず。仮設住宅に入居した皆さんの多くは、自宅を再建した暁には使い続けたいと希望されているそうです。

持続可能な復興を見据えた住田町の復興住宅設計

住田町の仮設住宅にはほかにも、「つながり・ぬくもりプロジェクト」から33基の太陽光発電式の街灯が提供され、被災された皆さんの暮らしに役立てられています。

身の回りにある自然素材を自然なままに(=持続的に)活用しようというコンセプトで、木造の仮設住宅を考案した住田町にとって、その住宅のエネルギーをなるべく「自然素材」で賄おうという流れは、これまた自然なものでした。

被災された方にとっては、慣れない場所での新生活の始まりでしたが、住田町の木造住宅は、普通のプレハブ仮設と違い、戸建でプライバシーも守られます。

また木材という自然の素材が、暑さ寒さを緩和し湿気も吸収するので、簡易普請ではありますが住み心地もまずまず。入居時期は厳しい冬を抜けた春から初夏でしたが、その後の梅雨の時期や夏、それに再び巡ってきた冬のあいだに、木造住宅の良さが改めて認識されることになりました。

加えて壁や屋根に細工がしやすく、太陽熱温水器の設置といった建った後からの加工も楽で、利用が終わった後もほとんどゴミが出ないなど利便性も抜群で、「なぜ木材で仮設住宅を? とよく質問を受けますが、なぜ木材を使わないんですか? と逆に訊きたい」と、住田町町長は「つながり・ぬくもりプロジェクト」の報告会でも語りました。

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今回の震災では、津波被害の範囲の広さと激しさに、被災自治体の復興計画は遅れがちです。

特に、学校や市役所といった公共施設の高台移転がなかなか進まないため、被災した皆さんも復興住宅を建てる用地の確保が難しいようです。

住田町が支援している陸前高田市は、特に被災範囲が広く、気仙川を遡った津波は、奥まったところにある小高い山肌まで洗い流してしまいました。残された安全な土地にも限りがあり、厳しい調整が続けられていますが、一刻も早く傷ついた人々が落ち着いて、新しい生活に向けて前へ進めるよう、行政の迅速な対応が待たれます。

住田町では第3セクターの住田住宅産業株式会社などと協働し、仮設住宅建設・提供が一段落ついた時点で、復興をさらに長い目で見た、持続可能な木材を使った復興住宅のデザイン、提案を練ってきました。

これから加速していく住宅再建の流れに向けて、FSCの材を使い「パネル化工法」という組み立てを取り入れた木の家は、大枠は規格品でも住み手の意向をきめ細かに反映させられる、ゆとりを持たせた設計になっています。

モア・トゥリーズによって東京・六本木ヒルズで展示された住田町の仮設住宅

復興に向けた新しい取り組みとして紹介された。

屋根のこう配も、太陽光発電や太陽熱温水器を載せやすい「切妻」で、ペレットや薪ストーブの煙突用の穴も必要に応じて開けられるのが、木造のいいところです。そして省エネ施工を加え、できる限り太陽熱温水器をはじめ、太陽光発電、バイオマス暖房など、自然エネルギー装置も取り入れていきたいと考えています。

エネルギー面からみると、家庭のエネルギー消費の27.7%が給湯、26.8%が暖房に使われています(資源エネルギー庁;エネルギー白書2012)。つまり半分以上は熱利用、わざわざすべて電気にしなくても、初期投資が低く抑えられる太陽熱温水器やバイオマスを上手に組み合わせれば、自然エネルギーで効率よく日常生活をまかなうことができます。

住田町の復興住宅は、仮設住宅に引き続き、木材もエネルギーも持続可能な、自然と調和した将来を見据えた提案を目指しているのです。

そして肝心なのは、そこから再生可能な資源に対する更なる需要が生まれ、持続可能な産業として成り立っていくこと。

住田町では、木造建築や木材の供給を中心に主軸である林業サイクルが循環し、そこから派生する端材でペレットを製造し、エネルギー源として供給できる体制が整っています。

これを活性化しながら森林林業日本一を目指すだけでなく、他地域にも広げて日本を元気にしたいと、設計図などの情報も積極的に公開しています。

震災後、安全安心なエネルギーに対する関心が高まったこともあり、最近はペレット製造が追いつかないぐらい需要が伸びているそうですが、復興支援の中でもFSC認証などの環境持続性を確保し、そこから自然エネルギー活用のすそ野を広げる住田町の取り組みには、WWFジャパンも大いに期待しています。

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