温暖化対策も選べる「選択肢」を、即刻、提示しなおすべき


声明 2012年7月1日

6月29日、政府のエネルギー・環境会議は、「エネルギー・環境に関する選択肢」を提示しました。
WWFジャパン(世界自然保護基金)は、長年にわたって地球温暖化防止と、自然エネルギーの導入推進に取り組んできた立場から、以下のとおり、この「選択肢」に対する声明を発表します。

政府のエネルギー・環境会議によって提示された、「エネルギー・環境に関する選択肢」は、2030年の発電電力量における原子力発電の割合(%)で3つに分けたもので、①ゼロシナリオ、②15シナリオ、③20~25シナリオとなっている。

それぞれの選択肢において、再生可能エネルギーが電力に占める比率は、①30%もしくは35%、②30%、③30~25%で、火力発電比率が①65~70%、②55%、③50%と大きく違う。政府は、これらの選択肢についての国民的議論を、7月から8月にかけて行い、8月にエネルギー・環境の大きな方向を定める革新的エネルギー・環境戦略を決定する予定だ。

下の表は、政府選択肢と、WWFジャパンが昨年11月に発表した「脱炭素社会へ向けたエネルギーシナリオ」における数値を比較したものである。

 
  ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25
シナリオ
WWF
シナリオ
  追加対策      
       
GHG排出量
(1990年比)
2030年 -16% -23% -23% -25% (*)-53%
2020年 (*)0% -5% 0% -7% -9% -10~11% (*)-25%
最終エネルギー消費
(2010年比)
  -19% -22% -19% -19% -34%
再生可能エネルギー
電力比率
  30% 35% 30% 30~25% 63%
火力発電 70% 65% 55% 50% 34%
石炭 28% 21% 20% 18% 15%
LNG 36% 38% 29% 27% 12%
石油 6% 6% 5% 5% 7%
  • (*) WWFシナリオでは、エネルギー起源以外のGHG排出量は計算していないため、非エネルギー起源の排出量については、国立環境研究所の慎重ケース・高位対策の数字を使用した。

特に指摘したい点は、政府から示された選択肢には、原発の選択肢は提示されたが、温暖化対策には、選択できる選択肢が示されていないことである。

まず、省エネが不充分である。温暖化対策の基本である省エネは、3つの選択肢においてほぼ一律におかれてしまった(表の「最終エネルギー消費(2010年比)」参照)。本来、電力は、国全体のエネルギーの4割を占めるにすぎず(供給側)、発電過程で6割が無駄になっている。発電過程における省エネや、電力以外の残り6割のエネルギー使用時にこそ、省エネの差がつく。その省エネの努力度を選べない選択肢が、エネルギーと温暖化に関する選択肢といえるだろうか?

また火力発電の内訳も、CO2排出量の多い石炭から、より少ないLNGへシフトすることが中期的には重要な温暖化対策となる。しかし、環境省が示した内訳(石炭の比率を下げてLNGを上げる)ではなく、経産省の示した石炭をより多く使用する内訳に近づけられてしまっている。選べない選択肢の中に、石炭をこのままの水準で使い続ける内容が入れられているのは極めて問題である。

さらに、再生可能エネルギー電力の比率も、当初議論されていた「35%」から、いつの間にか、1つの選択肢を除き「30%」に引き下げられている。

温暖化対策において鍵となる省エネ、火力発電比率、再生可能エネルギー比率が、いずれも不充分な内容となっているため、結果として、温室効果ガス排出量については、2020年までに、1990年比で ①0~7%、②9%、③10~11%の削減とされている。これは、京都議定書の第1約束期間(2008〜2012年)の目標である6%削減から、次の8年間で1%~5%積み増すだけの数値であり、『次の8年で、日本は温室効果ガスの削減の深堀にはチャレンジしません』と、世界に公言するようなものである。国連交渉の場で、各国の削減目標をいかに引き上げるかを激しく議論している最中に、これほど温暖化対策をないがしろにすることを公言してよいものだろうか。

①ゼロシナリオのみには、温暖化対策を強化するオプションがつけられているが、なぜ他の②15シナリオや③20~25シナリオには、そのオプションがつけられないのか? 現に環境省の選択肢案では、「原発15シナリオ」と「温暖化対策高位ケース」を組み合わせた場合は、2020年の温室効果ガス排出量が、1990年比で15%削減となるシナリオも示されていた。それさえもはずされて、国民に提示されたのは遺憾といわざるをえない。
従来の温暖化対策が、原発という不安定かつ非持続可能な電源に過度に依存していたことが、現在の難しい状況を招いている。よって、今後「選択」すべきは、原発に依存せずとも、温暖化対策をきちんと進めていくことができる将来であるべきだ。

WWFの「脱炭素社会へ向けたエネルギーシナリオ」では、今ある省エネ技術の積み上げと再生可能エネルギーの急速な普及で、原発の新設は行わず、2020年に温室効果ガス排出量の25%削減は可能であると示されている。

温暖化対策については選べず、対策を行わないということを公言するような選択肢だけを、このように国民に迫ることは許されない。温暖化対策も選べる選択肢を即刻提示し直すべきである。

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お問合せ

WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ(climatechange@wwf.or.jp)

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