選択肢提示に関する意見書


意見書 2012年6月21日

エネルギー・環境会議 御中
国家戦略担当大臣 古川元久 殿(内閣府特命担当大臣 兼任)
経済産業大臣 枝野幸男 殿
環境大臣 細野豪志 殿
外務大臣 玄葉光一郎 殿
文部科学大臣 平野博文 殿
農林水産大臣 郡司彰 殿
国土交通大臣 羽田雄一郎 殿
内閣府副大臣 石田勝之 殿

拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
総合資源エネルギー調査会、中央環境審議会、原子力委員会からの選択肢原案提示を受け、いよいよエネルギー・環境会議から、国民へ選択肢が提示されようとしています。

6月8日にエネルギー・環境会議から提示された「選択肢に関する中間的整理」を見ると、「原発への依存度低減」と「温暖化抑制」の両立を可能とする選択肢が弱められる可能性が高いことを危惧します。

エネルギーに関する選択は、将来世代の環境を、私たち現世代が決めることを意味します。もの言えぬ将来世代へツケを回さない選択肢を残し、国民的議論の過程で心ある国民が意思をきちんと表明できる選択肢として提示する義務が政府にはあります。

来る選択肢提示に向けて、WWFジャパンは以下の意見書を提出します。
ご高配のほど、よろしくお願い申し上げます。敬具

公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン
会長 德川恒孝

  1. 安全なエネルギーと温暖化対策は、省エネの強度で決まる:省エネの強度を選択できる選択肢を出すべき
  2. 選択肢の火力発電の内訳では、CO2排出量のもっとも多い石炭を減少させ、LNGの比率を上げること
  3. 原発は温暖化対策ではない:原発と温暖化対策がトレードオフであるような見せ方をすべきでない
  4. 経済モデルによる計算結果の見せ方は、前提条件を明らかにし、特定の利益に誘導する提示をしないこと
  5. 2020年目標を同時に検討して結論を出すこと:国際公約した25%を提示する努力をするべき
  6. 国民的議論の過程に市民参画のプロセスを明示し、さらに国民の意思が示されたならば、最終決定で選択に追加変更の余地を残すこと

(1)安全なエネルギーと温暖化対策は、省エネの強度で決まる:省エネの強度を選択できる選択肢を出すべき

総合資源エネルギー調査会(以下総合エネ調)からの選択肢は、「市場に任せる」とした選択肢を除き、すべてが2030年の電力は2010年比10%削減、一次エネルギーでは20%削減となっており、選択肢間で省エネルギーの程度に差がありません。

安全なエネルギーで賄う社会も温暖化対策も、すべてはまず省エネルギーをどの程度深掘りしていけるかにかかっています。「中間まとめ」の中では、「節電は徹底、一次エネルギーベースの省エネも徹底」とされているだけであり、このままでは省エネをどの程度徹底するかを、国民が選択できる機会を奪ってしまうことを懸念します。「更なる省エネを実施する妥当性」については、国民的議論の中でも、再度、検討がされるべきです。

したがってエネルギー・環境会議から出される最終的な「複数のシナリオ」では、少なくとも、中央環境審議会(以下中環審)の「温暖化対策に関する選択肢」において省エネの程度について3ケースが示されていることを踏まえるべきです(国立環境研究所の試算では、2030年の最終エネルギー消費量は2010年に比べて低位ケースで15%減、中位ケースで20%減、高位ケースで23%減)。

そして、省エネルギーへの取組みの程度の違いを、国民へわかる形で選択肢として出すべきです。特に、原発0%と原発15%のそれぞれについて、現状の「温暖化対策の選択肢」がそうしているように、少なくとも中位と高位の温暖化対策(=省エネルギー対策)をそれぞれ組み合わせた2案を提示することが重要です。

なお、中環審から出された対策・施策の3ケース(高位・中位・低位)では、素材系4業種については、高位・中位・低位ケースすべて同じ対策・施策となっているなど、省エネの可能性を吟味し尽くしたとは言えない状況です。WWFジャパンが2011年7月に発表した「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案〈省エネルギー編〉」では、2030年に2008年比で32.7%減(2010年比では33.3%)最終エネルギー消費量を削減可能であることを示しています。

中環審の提示した対策高位ケースよりも、10%前後さらに省エネを進める余地があることを示したシナリオが既にあることも申し添えておきます。

(2)選択肢の火力発電の内訳では、CO2排出量のもっとも多い石炭を減少させ、LNGの比率を上げること

1990年以降、日本の温室効果ガスが増加してきたのは、石炭火力発電所を大幅に新設し、石炭の使用量を増やしたことが原因でした。時代に逆行したこの動きで増加した石炭火力発電所については今後のエネルギー政策できちんと是正し、計画的に減少させていくべきです。再生可能エネルギー社会へとシフトしていく移行期には、化石燃料比率は、石炭からCO2排出量の低いLNGへとシフトさせるべきです。

ところが、総合エネ調から出された選択肢と、中環審から出された選択肢では、石炭とLNG率が大幅に異なっています。たとえば原発15%ケースでは、それぞれ約50%を占める火力の内訳は、総合エネ調では石炭:LNGの比率が2:1に対し、中環審(高位ケース)では石炭:LNGの比率は1:2と大きな開きがあります。

総合エネ調では、原発0%、15%、25%いずれの選択肢においても石炭の発電電力量は、2000億kWhを超えており、ほぼ現状の石炭火力発電量を温存することになる選択です。これでは省エネや再エネの普及で温暖化対策を加速しても、大量排出する石炭火力発電の温存で、せっかくの温暖化対策の強化が相殺されてしまうことになります。

中央環境審議会地球環境部会第108回・2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会第21回合同会合第3回参考資料5-1(2012/6/8)

再生可能エネルギー大量導入時に必要となるバックアップ電源としても優れているLNG火力発電へのシフトは、一石二鳥の理にかなった電源選択です。またコスト的にも、安定供給的にも、石炭火力に比べて遜色なく、むしろ優れている面も多いことが中環審から提示されています。

したがって、最終選択肢を出す際に調整する火力の内訳では、中環審の内訳を採用し、可能な限り石炭火力を減少させ、LNG火力へのシフトをはかる選択肢を採用するべきです。火力の内訳は選択肢が提示される前に決められてしまい、国民が選択できるかたちにはならないと考えられるので、エネルギー環境会議において、未来社会へふさわしい決断として、石炭火力発電を減らした選択肢を、はじめから国民へ提示することを強く求めます。

(3)原発は温暖化対策ではない:原発と温暖化対策がトレードオフであるような見せ方をすべきでない

今までの日本では原発が地球温暖化対策であると強弁し、原発に頼るあまり真の温暖化対策を放置してきました。多大な環境負荷を与える原発はそもそも温暖化対策にはなりえません。ましてや、東京電力福島原発事故以降の文脈では、原子力政策における選択肢の幅は、そもそもほとんどないはずです。

エネルギー・環境会議から出す最終選択肢においては、あたかも原発によって温暖化対策が決まるような誤解を与える見せ方は、国民に対して決してすべきではありません。真の温暖化対策である省エネや再生可能エネルギーによる対策の強度によって、温室効果ガス排出量が変わることを示す選択肢の出し方をするべきです。

また現状のままで新たな温暖化対策は行わないという選択肢である成り行きケース(中環審の温暖化対策低位ケースなど)は、選択肢からははずすべきです。

国際エネルギー機関によると、2035年までに許容されるエネルギー起源CO2総排出量の5分の4はすでに既存の資本ストックに固定化されており、2017年までに新規の厳格な温暖化対策をとらなければ、その時点で導入されているエネルギー関連インフラが、2度未満を実現するために許容されるCO2のすべてを排出してしまうと警告しています。

温暖化対策を遅らせることは致命的である中、「温暖化対策をしない」という選択肢を国民に提示することは、国際的にも無責任のそしりを免れません。

(4)経済モデルによる計算結果の見せ方は、前提条件を明らかにし、特定の利益に誘導する提示をしないこと

エネルギーミックスの選択肢と合わせて、温暖化対策の選択肢においても、技術モデルと経済モデルによって、対策の効果や経済への影響など多くの情報が示されました。

しかし、モデルは経済成長率や主要素材の生産量などに一定の前提をおいて検討するものであり、前提次第で結果が大きく異なるものです。また現状の産業構造の延長線上で考えるため、新しい産業の創出や新たな経済効果を十分に反映しているとは言えず、低炭素社会へ大きく舵を切る選択肢を評価するには、そうしたモデルが持つ限界を十分に踏まえる必要があります。

2009年の麻生政権の際に、温暖化の目標選択にあたって、家庭の負担額を誤った手法で見せるなど適切ではないモデルの見せ方による誘導が見られましたが、同じ過ちを繰り返すべきではありません。

したがって前提などを明示し、モデルができることや限界を示したうえであくまでも参考として提示するべきです。その提示の仕方には利害関係のないコミュニケーションのプロを使うような工夫が考えられます。 

(5)2020年目標を同時に検討して結論を出すこと:国際公約した25%を提示する努力をするべき

2030年を中心とする議論が進んでいますが、温暖化対策を遅らせる余裕はありません。国際交渉で焦点となっている2020年目標も早急に示すべきであり、2030年目標と同時に提示していくことは必然です。

世界的な温暖化対策の中で遅れが生じれば、温暖化の進行を食い止めることはより困難になります。現在、国連における議論では、いかにして各国の2020年削減目標・削減行動の水準を引き上げるかが交渉の争点となっています。日本が2020年目標を軽視することは、その直接的な影響に加え、他国の姿勢にも影響を与え、その致命的な「遅れ」に更に拍車をかける可能性があります。

京都議定書の第2約束期間を事実上拒否した日本が、さらに2020年目標の提示を遅らせ、カンクン合意の実施にすら後ろ向きというのは国際的にも許されるものではありません。

また目標の引上げが国際交渉の中心となっている中、少なくとも国際公約した2020年25%削減目標の提示に向けて最大限努力するべきで、国民にわかりやすく2020年目標の選択肢も提示するべきです。 

(6)国民的議論に市民参画のプロセスを明示し、さらに国民の意思が示されたならば、最終決定で選択に追加変更の余地を残すこと

選択肢を元に行われる国民的議論は、透明なプロセスで、市民社会が容易に参画できる形であるべきです。たとえば全国で自発的に行われる市民集会などで集中して議論された結論などを受け止めるプロセスを明確にするなど、多くの国民が熟考して示した意思を反映できるプロセスを提示するべきです。

さらに、今回示される選択肢は限定されたものにならざるを得ないことを鑑みて、最終的な決定の際には、議論の際に示される国民の意思に基づいて、追加変更の余地を残すべきです。

以上6項目について、WWFジャパンからの意見を提示させていただきました。
ご高配をいただき、十分にご検討くださいますようにお願い申し上げます。

WWFジャパンのエネルギーシナリオは下記サイトからダウンロードできます。

『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案<省エネルギー編>』

『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案<100%自然エネルギー編>』

 

■本件に関するお問合せ先:

WWFジャパン(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)
気候変動・エネルギーグループ 
〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル6F
Tel:03-3769-3509 Fax:03-3769-1717  climatechange@wwf.or.jp

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