どうして重要!?「省エネルギー」がつくる未来


【シリーズ】新しいエネルギーを考える 第2回

東日本大震災後、原発停止の影響に対処するため、いま東京電力と東北電力の管区を中心に、率先した節電が行なわれています。冷房の使用が集中するなど、電力需要の高まりが予想される夏場の電力供給不足が懸念される中、政府は15%の節電目標を掲げ、産業界も積極的な取組みを打ち出し始めました。ここで重要なのは、節電は「今夏を乗り切れば終わり」ではなく、「今後ながく続けていくべきもの」だということです。これまでの電気の使いすぎに気づき始めた日本。節電に代表される「省エネ」が、日本だけでなく、世界全体にとってもなぜ重要なのか。今回はその基本を考えます。

「自然エネルギー100%」実現に不可欠な「省エネ」

世界全体で2050年までに「自然エネルギーの割合を100%まで高めること」が可能であることを示した、WWFのエネルギー・レポート。このレポートの前提条件の一つに、『省エネの徹底』があります。

2050年には地球の総人口は90億を超えると予測されており、エネルギーのニーズが増大するとみられています。
さらに、第1回目でも触れたとおり、現在も、確実な電気の無い生活を送っている人々が、世界には14億人(*1)おり、この人々にも,安全で安心できるエネルギー供給を実現してゆかねばなりません。

このためには、太陽光や風力などの自然エネルギーを拡大するだけでなく、世界全体で、エネルギー需要を大幅に減らす「省エネルギー」が欠かせません。

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省エネの二本柱

省エネの柱:その1「効率の向上」

「省エネルギー」を考える時に、大事なことが一つあります。
それは、「省エネ」が必ずしも「我慢」や「不便」の代名詞ではない、ということです。

省エネには、二つの重要な切り口があります。
一つ目は、「エネルギー効率の向上」です。
これは、消費エネルギーがなるべく低い製品や機器をメーカーは提供し、消費者はそれを選ぶ、ということです。

たとえば、同じ性能の二つの製品を選ぶ時、
製品Aがエネルギーを100消費し、製品Bが70で済むとしたら、製品Bを選んだ方が良い、ということになります。
これは、利便性を変えることなく、消費するエネルギーを省くことを実現する、一つの手段です。

このような利用できる技術の中で最良の技術のことを「BAT(Best Available Technology)」と呼びます。

個人や企業、地域社会、そして国々など、あらゆるレベルにおいてBATが選ばれるよう、基準やしくみを適用していく必要があります。

たとえば、省エネ型の自動車に対する税率を下げたり、逆に燃費の悪い自動車には高い税を課す、といった制度の導入もその一例です。

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省エネの柱:その2「行動の変革」

二つ目の切り口は、そうした選択を判断する、私たち自身の「行動の変革」です。

企業の行動や、国による経済政策、個々人の生活スタイルなど、社会活動の全てにおいて、エネルギーを多く消費する、現在の行動を改めていく必要があります。

これは単純に生活の質を落としたり、急激な変化を求めるものではありません。
まず、本当に必要な量のエネルギーを見極め、浪費を改めるところから始めて、徐々に使うエネルギーの少ない社会へと移行していくことです。

ものづくりにおいても、本当に必要なモノはつくりながら、その工程や、輸送に必要なエネルギーをなるべく少なくするよう工夫。さらに、それを後押しするような、制度や政策を打ち立てます。

以上のような省エネを徹底することにより、WWFのエネルギー・レポートでは、2050年の世界のエネルギー消費量が、2010年に比べ約「20%低くなる」ことを示しています(図参照)。

どの分野においても、省エネのための解決策と可能性は既にあります。課題は、いかに早く、それらを世界全体で展開できるか、ということです。

以下では、WWFのレポートで指摘・想定している、さまざまな分野における、省エネの解決策の例を解説します。

産業部門の省エネ解決策

社会に必要なさまざまなモノやサービスを生み出し、世界の経済の基幹をなす、産業部門。モノづくりのために消費されているエネルギーは、実に膨大です。プロセスの無駄を省き効率化することができれば、世界は大幅な省エネを実現することができます。

また、エネルギー効率の良い省エネ製品が多く生産され、市場での選択肢が増えれば、個々人が生活の中で実現できる省エネの幅も広がります。

製造過程のスリム化を徹底!

製造時に必要とされる、あらゆるエネルギーを削減する発想と工夫が必要です。不要な工程を省くなど、さまざまな無駄を徹底的に無くしたり、BATを積極的に活用することによって、使うエネルギーの量を最少化します。
これらは日本の企業が得意とするところです!新設の工場のみに留まらず、既設工場の改善も重要です。

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使う材料の量を減らす+リサイクルを徹底!

製品一つにつき、使用する材料の量が少なくなるよう設計を工夫すれば、必要な資源の量を抑え、採掘やその輸送にかかるエネルギーを減らすことができます。
またリサイクルやリユース(再利用)の推進は、材料の有効利用につながるだけでなく、新たな資源の採掘やその輸送、加工等にかかるエネルギーを省くことにつながります。

材料そのものを工夫する

加工などに要するエネルギー量が、なるべく少ない素材を使うことも重要です。また、耐久性が高く、リサイクル可能な材料を優先して製造に使用すれば、製造後もさまざまなところで、省エネの可能性を広げることになります。
セメントや鉄、プラスチックなど、エネルギーをたくさん必要とする従来の材質に代わる新しい材料の研究開発も必要でしょう。

全ての製造過程に「省エネの概念」を!

製造時のエネルギー削減に加えて、製品設計の全ての段階に「省エネの概念」を組み込むことも重要です。
エネルギー効率のよい省エネ製品を生産すれば、家庭等における省エネにもつながります。

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新たな政策の導入

こうした取り組みを実現する上で大事なのが、技術水準の向上とともに、省エネに関する基準とルールを作ることです。エネルギーを浪費する工場や製品を規制するため、エネルギー効率の基準と、それを守ることを義務付けた法律を設け、各国がそれを導入する必要があります。
こうした基準は、世界レベルで設定し、定期的にモニタリングをしながら、強化を図ってゆくことも重要です。

建築物部門の省エネ解決策

企業が使っているオフィスや家庭などを含む建築物部門。オフィスの場合は、企業単位でまとめて計画的に省エネを実現できる利点があります。

新規建築は徹底的に省エネで!

新たに建物を建築する際に、高気密性・高断熱性の外面や、ヒートポンプ、太陽光の活用などの既存技術を積極的に活用するだけで、冷暖房に石炭や石油等を使わずに済みます。

こうした建物では、窓から差し込む日の光や、人や電化製品から生じる熱、そして太陽熱利用システムやヒートポンプなどから十分な熱を得ることができ、その熱を外へ逃がさず建物内部にしっかりと閉じ込めることができます。

WWFのエネルギー・レポートでは、2030年までに全ての新築建築物がこの条件を満たしていることを想定しています。

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すでにある建物は「省エネ」リフォームを

既 存の建物については、壁や屋根、床面の断熱化、断熱性の高い窓ガラスへの交換、熱回収換気システムの導入などにより、熱の需要を60%削減可能です。残り の40%と給湯の需要については、太陽熱を利用する小規模なシステムと、ヒートポンプの導入等でまかなうことができます。

2050年までにこれらを実施するためには、床面積で毎年2~3%の改修が必要です。実際ドイツでは、すでにこのペースで改修を進めています(*2)。

政治と制度でも後押しを

以 上を実現するには、全ての新規の築建物に対する厳しい「エネルギー効率基準」を設けることが重要です。また、既存の建物に対しては、改修ペースを早めるこ とを後押しする法律や、またこうした取り組みが、企業にとって有利になるような、税制上などのインセンティブを設けることが有効です。

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運輸部門の省エネ解決策

運 輸部門は、文字通り、人や物資を運ぶ部門。個人の生活、産業、あらゆる社会的な移動を担うところです。現在、その交通手段の主たる燃料は、ガソリンなどの 化石燃料であったり、化石燃料に依存した発電による電力であったります。この部門のエネルギー方針の改善は、大きな省エネ効果をもたらす可能性を持ってい ます。

「ヒトやモノを運ぶ」その基礎に「省エネ」を

旅 行のための自動車の利用や、貨物列車による物資の移動に必要なエネルギーを減らす場合、まず考えるべきことは、同じ距離を運ぶ際に「より少ないエネルギー で移動できる手段」へ移行していくことです。この「モーダル・シフト」(移動手段の移行)と呼ばれる選択が広く必要とされています。

人の移動手段での省エネ

人の移動には、個々人の車利用よりも、自転車や、バス、鉄道などの公共機関の利用を優先することが大切です。また、距離が短い場合は、飛行機ではなく、高速鉄道の利用に替える方が、省エネになります。

モノの輸送に際しての省エネ

貨物輸送では、航空機よりも鉄道や船舶を利用する方が、省エネにつながります。貨物船の場合、港の配置や航路の最適化、天候予測の活用、航海速度の低減などにより、燃料消費を大幅に削減することが可能です。

例えば海流を効果的に活用すれば、エンジンを回す燃料を節約できます。
航空機輸送の場合も、航空交通管理の改善、効率化が省エネにつながります。さらに、トラックなどの陸上輸送については、低燃費の車両の普及や、物流オペレーションをさらに効率化していくことが不可欠です。

例えば、集約拠点を設けて荷物を行き先ごとに仕分けることでトラックの積載効率が向上し、便数を減らすことができます。

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公共交通機関への投資

以上を実現するには、自動車に代わる、便利で手頃、かつエネルギー効率の高い公共交通機関に大規模な投資を行なうことが必要です。
特に重要なのは、鉄道インフラの改善。再生可能エネルギーでつくられた電気で走る高速鉄道は、旅客機による人の移動を減らし、鉄道による貨物の輸送を可能にします。
そのためには、距離に関わらず、鉄道などの公共交通手段が、自動車や航空機よりも安く利用できなくてはなりません。

運輸に際してのさらなる工夫

以上に加えて、移動や輸送の回数・距離を減らしたり、都市計画や物流、コミュニケーション技術の改善などを通じた、さらに踏み込んだ取組みも重要となってきます。

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私たちが選ぶ「省エネ」の道

これらを実現できるか否か、それは私たちの選択次第です。
日頃からエネルギーを浪費しない行動をとるだけでなく、既にある技術(BAT)を徹底して活用した省エネ製品や、政策を求め、選択していくこと、その行動を示すことで、省エネと自然エネルギーに支えられた、新しい世界が実現するのです。

個人や企業、地域社会、政府、今の社会をかたちづくる全ての主体が、その道を選ぶか、どうか。今、その判断が問われています。

 

■Reference

  1. IEA, World Energy Outlook (WEO) 2010, Paris
  2. DE Gov, 2006: German CO2 buildings report by the Federal Ministry of Transport, Building and Urban Development, “CO2 Gebaudereport”, www.bmvbs.de

関連情報

【シリーズ】新しいエネルギーを考える

WWFのエネルギー・レポートについて

世 界で利用されているさまざまなエネルギーを「100%!」再生可能なエネルギーで供給する。「そんなこと、出来るわけがない」と思われるかもしれませ ん。WWFは2011年2月3日、エネルギーに関する新しい報告書『The Energy Report - 100% Renewable Energy By 2050』を発表し、「再生可能エネルギー100%」の実現が経済的、技術的に可能であることを示しました。
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