動画撮影に成功!アムールヒョウ調査で新たな事実


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

極東ロシア、沿海地方(プリモルスキー地方)でWWFが取り組んでいるアムールヒョウの生息調査で、新たな事実が確認できました。2011年から導入された自動ビデオカメラを用いた調査で、これまで確認されていた数を上回る12頭のアムールヒョウの姿を捉えることに成功したのです。伐採や森林火災で劣化した森を回復させるために行われているチョウセンゴヨウ(ベニマツ)の植林や、新たな「ヒョウの森」国立公園設立に向けた調整の前進など、ヒョウと森林を守る活動が加速するなか、取り組みを後押する朗報となりました。

わずか40頭、豊かな森を象徴するアムールヒョウ

ロシア、中国の国境地帯に広がる沿海地方南西部の森林は、針葉樹と広葉樹が混交した、世界的にも有数の豊かな生物多様性を誇る森です。しかし、毎年冬が終わる頃から発生し、深刻な被害をもたらす大規模な森林火災、伐採や農地開発などにより、かつて大地を覆っていた森は減少し、そこに生息するさまざまな野生生物も減少や絶滅が心配されています。

なかでも、推定個体数わずか40頭ほどといわれるヒョウの亜種、アムールヒョウは、その代表的な野生動物の一つ。WWFは、生態系の頂点に立ち、この地域を象徴する動物の保護と生息地である森林の保全、回復に努めてきました。

2006年からは、WWFと同じく現地でヒョウの保護活動を行なう野生生物保護協会(Wildlife Conservation Society:WCS)と協力し、自動カメラ(静止画)を使った調査を開始。2011年2月には、自動ビデオカメラも導入し、縄張りをもって単独で行動することの多いヒョウの保護活動を行なう上での基幹となる、個体数や生息域に関するデータの収集を継続してきました。

そして2011年春、調査開始後初めて、自動ビデオカメラに野生のアムールヒョウの姿を捉えることに成功しました。調査に参加しているWWFロシア・アムール支部でヒョウの保護プロジェクトを担当するセルゲイ・アラミレフは、「映像のおかげで、アムールヒョウの生態的特性を明かすデータが得られました」と話します。映像には、つがいと思われるヒョウや、メスのヒョウが成長した仔を連れた姿も記録されていました。


01.jpg
 
02.jpg
 
03.jpg

自動カメラを使った調査には色々な限界がありました。たとえば、静止画の自動撮影では、複数のヒョウが順番に通ったりした場合、最初の個体しか撮影できないケースなどがあったからです。動画による撮影は、そうした問題の解決にもつながりました。

個体数増加への期待

これらの映像はまた、個体数の推定においても、信頼のおける情報を提供してくれました。
ヒョウの特徴的な模様は、一頭ずつ異なりますが、ビデオカメラがもたらした鮮明な映像はその差を明確に捉えており、それぞれ個体の識別を可能にしました。

2008年以降、静止画像を撮影する自動カメラを使った調査では、同地域内で確認できていたアムールヒョウは7~9頭でした。それが、今回の映像撮影の成功により、新たに4頭が確認され、合計で少なくとも12頭のアムールヒョウが生息していることが分かりました。

これはつまり、調査対象地での個体数が50%増加しているということです。しかもそのうち4頭は仔を産むことができる年齢のメスとみられ、同地域で今後さらに、個体数が増える可能性があることを示しています。

セルゲイ・アラミレフは、「この調査結果はヒョウの一部の生息地で行なわれたもので、生息域全体の個体数が増えたことを証明するものとは、まだいえない」としつつも、「この一連の調査が終了する2012年の冬には、この傾向が正しいと証明されることを期待している」といいます。

極東ロシアの森、その保全に向けた課題と取り組み

今回の調査が行なわれている地域は、もともと3つの保護区に分かれ、異なる機関がそれぞれに管理を行なってきた地域です。

そのためWWFは、これらを一つに統合して管理するとともに、面積も拡大し、森がかつてのような多様で豊かな状態へと回復されるよう「ヒョウの森」国立公園設立を提案し続けてきました。その甲斐あって、2008年には、3つの保護区を統合して管理することが合意され、現在は新たな国立公園設立に向け、より具体的な調整が行なわれています。

また、新たな国立公園設立に向けた取り組みと並行して、森林火災や伐採で劣化したアムールヒョウの生息地を回復させるため、百万本のチョウセンゴヨウを植える取り組みも行なわれています。2011年は、5月から6月までの約2カ月間に、820名のボランティアの協力を得て、354ヘクタールに、57万6000本の苗が植えられ、来年の春には残りの植林が行なわれる予定です。

もちろん、傷んだ森にたくさんの木を植えたからといって、そこがすぐに元通りになるわけではなく、「ヒョウの森」国立公園設立への取り組みも、まだ道のりの途中です。しかし、今回の調査結果は、これらの活動が、希少なアムールヒョウの生きる森を、確実に保全してゆく上で有効であることを示しているといえます。

野生生物保護協会(WCS)が行なっている地域での調査結果を含めたアムールヒョウの生息域全体の生息調査の報告も、まもなく発表される予定です。WWFでは、今後も極東ロシアの森林の保全と回復、そしてアムールヒョウの保護活動に積極的に取り組んでいきます。

記者発表資料

04.jpg

06.jpg

参加したボランティアの一人は、「一度でもチョウセンゴヨウの苗植えを経験すれば、何も考えずに火を起こしたりしなくなるはずです。辛い作業を思いだし、森を大切にするでしょう」と話してくれました。

関連記事

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP