四国・剣山の森をめぐる地域対話集会


四国の剣山山系には、絶滅のおそれのあるツキノワグマをはじめ、シカ、サル、イノシシなど、さまざまな野生生物が生息しています。もちろん、農林業を営みながら、山間部に暮らしている人たちもいます。どうすれば豊かな森を成り立たせることができるのか、その課題を明らかにするための地域対話集会「剣山の森を考える~野生動物と森、人のかかわりについて」が2010年3月5日と12日に開かれました。

豊かな森づくりのための地域対話集会

四国に限らず、山林が放置され、荒れるところが日本各地で目立つようになっています。山林が荒れると、野生の鳥獣が増えすぎたり、逆に減少したりして、生態系にも影響が現れます。その結果、地域で営まれている農林業にも被害を生じることがあります。

問題解決のためには、生態学的な調査と同時に、地元で暮らす人たちの声を拾い集めて社会学的な知見を収集することも必要になってきます。3年後をめどに今後の豊かな森づくりのための提言をまとめるべく、NPO法人四国自然史科学研究センターが主催して、剣山山系の山あい2カ所で地域対話集会が開かれました。

この剣山山系では、同研究センターがツキノワグマの生態調査を実施。WWFジャパンも2005年以来、丸紅株式会社の資金的支援を得て、同研究センターとの共同研究という形で調査を進めてきました。

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これによって明らかになったツキノワグマの行動圏をもとに、地元の行政や国、国会議員などに働きかけ、2009年秋には鳥獣保護区の拡大という成果に結びつけました。ツキノワグマは20~30頭程度と絶滅の危機に瀕しているので、積極的な保護策が求められているのです。

増える野生鳥獣被害と四国自然史科学研究センターの報告

ただ、剣山山系ではニホンジカやニホンザルなどが近年増えたとみられ、場所によっては下草の大半が食べられてしまい、農作物や若い樹木がねらわれる例が増えています。野生鳥獣を適正に管理することで被害を抑え、農林業を守ることも大切な視点になっています。

そのためには、地域に暮らす人たちの実際の声を聞くことが最初の一歩になります。

四国自然史科学研究センター主催による、今回の対話集会では、同研究センターが科学調査の結果を示しました。

無人カメラによる撮影から、テン、ニホンジカ、ニホンザル、ツキノワグマ、タヌキ、アナグマ、ハクビシン、イノシシ、カモシカ、ニホンリス、ノウサギなどが生息していることがわかりました。こうした野生生物が見られるということは、それだけ剣山山系にはさまざまなタイプの生態系があり、命を育む力があるということです。

また、歴史をふりかえり、江戸時代には野生生物の生息に適した天然林が豊富にあったのが、明治期からの本格的な造林の開始とともに減っていったことが語られました。19世紀に入ってからは、銃の普及が進んだことも、影響しはじめます。

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太平洋戦争中は銃が戦争に供与されたため、鳥獣の数が回復しましたが、戦後の森林開発ブームによって生息適地が大幅に減り、なおかつ狩猟が盛んになったため、野生鳥獣は減少に向かいます。

しかし、1970年代を過ぎたあたりから過疎化が進み、管理されない山林が増え、狩猟者の減少もあいまって、野生鳥獣が再び生息数を増やしています。

地域の鳥獣被害と模索される解決策

対話集会には30人あまりの人たちが集まりましたが、地域で農林業を営んでいる人たちからは、シカやサルを中心とした農林業被害の深刻さが次々に語られました。

栽培している果樹が食べられてしまうこと、せっかく広葉樹を植えても台無しにされてしまうこと、人間の側が柵に囲われる状態になってしまっていることなど、鳥獣被害への憤懣は収まりません。

「捕獲しようにも、狩猟免許がないといけないといった規制が多すぎる」、「シカが増えている原因を突き止めないと、獲るにも獲りきれない」、「森林が放置されると農業被害がでる」、「現場を見ていないとだめ」といった声が上がりました。

その一方で、「防護柵で覆ったところでは植生が回復しつつある」、「森林整備によって奥山の環境収容力を高めることはできる。人里にいるシカをどう減らすかが課題」、「シカの問題と向き合いたい」、「集落の人たちが狩猟者を育て、自分たちで対応する力をつけないといけない」など、解決策を模索する声も出ました。

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剣山から遠い徳島市内在住の参加者は、「森の中に暮らす人たちがどういう思いでいるのかが分かった。こういう場を設けてくれた研究センターに感謝したい」、「若い世代にどういう森を残すのか、ビジョンをまとめる必要がある」という感想が述べられ、拍手がわくシーンもありました。

ガイドラインの策定に向けて

NPO法人四国自然史科学研究センターは3年後をめどに、「野生鳥獣の生息地整備ガイドライン」の案を作成し、フォーラムを開いて報告する構想を持っています。

今回の対話集会は、そのために、森林保全や林業施策を見直すこと、地域の課題や方向性を抽出することを念頭に置いて開催されたものです。

生態学的な知見とともに、今回のような社会学的な知見を集約し、総合的な生息地管理の提言ができれば、四国にとどまらず、日本の各地にも適用され、うまくすれば海外にも紹介できるようになるかもしれません。

今回の地域対話集会は、WWFジャパンと丸紅株式会社もその開催を後援しました。
野生動物、森、人の3つの視点で、豊かな森づくりを可能にするような提言がまとまるかどうか、注目したいと思います。

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