中国と香港のエコロジカル・フットプリント報告書がまとまる


報告書『エコロジカル・フットプリント・レポート 香港2010』が2011年1月16日に公表され、過日まとめられていた報告書『エコロジカル・フットプリント・レポート 中国2010』とあわせて、経済発展を遂げる中国のフットプリントの現状が明らかになりました。この2つの報告書によって、中国では特にカーボン・フットプリントが急激に増大しており、これを減らすことが、中国および地球環境の持続可能性のために急務であることが示されました。

中国全体のエコロジカル・フットプリントが報告される

香港のフットプリントに関する報告書『エコロジカル・フットプリント・レポート 香港2010』が2011年1月16日に公表され、2010年11月15日に、すでにとりまとめられていた中国に関する報告書『エコロジカル・フットプリント・レポート 中国2010』とあわせて、中国全体のエコロジカル・フットプリントの現状を把握することができるようになりました。(計算の根拠となるデータはいずれも2007年データ。ただし、中国行政区分ごとのデータは2008年(後述))

この報告書は、WWFがグローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)とともにまとめたものです。
香港のエコロジカル・フットプリントが示すところでは、もし人類がみな、香港の人々と同じ暮らしをするなら、地球が2.2個必要であることが分かりました。

2010年10月13日に公表された『生きている地球レポート2010』は、世界全体では、人類の暮らしを支えるのに地球が1.5個必要であることが示されていました。従って、香港の場合はこの世界平均を大きく上回ることになります。

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『エコロジカル・フットプリント・レポート 中国2010』

カーボン・フットプリントの大きな香港

香港のエコロジカル・フットプリントは、その60%がCO2の排出によるカーボン・フットプリントが占めています。1962年時点とくらべると24倍にもなっています。

カーボン・フットプリントの26%は、香港自身が排出するCO2によるものですが、残りの74%は輸入品によるものです。つまり、牛肉やシーフード、木材などを香港は輸入して消費していますが、こうした産物が海外で生産される際に排出されるCO2が、香港のカーボン・フットプリントの大半を占めています。

香港は穀物、肉類、シーフード、木材などを海外からの輸入に大きく頼る経済構造となっています。WWF香港の自然保護ディレクターであるアンディ・コールニシュは「香港は、海外の自然資源に過剰に依存している」と述べています。

香港自身のCO2排出量を減らすと同時に、その輸入品についても持続可能な形で生産されたものに代えていかなくてはいけません。林産物であればFSCの認証を受けたものが持続可能な産物となります。香港では近年FSC認証紙を扱う業者が増えていますが、これは持続可能な産物への需要が増えていることの証拠と言えます。
消費者は林産物やシーフードなどに関して、もっと持続可能なものを求めるように変わることが必要です。

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発展する上海の町並み

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香港のフットプリントの内訳

中国のフットプリントが急増

香港を除いた中国のフットプリントに関しては、近年、大きく増えていることが明らかになりました。
これは、WWFと“中国の環境と開発に関する国際協力委員会”(CCICED:China Council for International Cooperation on Environment and Development)が共同でとりまとめ、2010年11月15日に発表した『エコロジカル・フットプリント・レポート 中国2010』が明らかにしているものです。

 

中国のエコロジカル・フットプリントと生物生産力の変化

 

最新の2007年データで見ると、中国は、人類がみな中国の人々と同じ暮らしをするなら、地球を1.2個必要とする状態になっています。
グラフにあるとおり、中国のエコロジカル・フットプリントは、1970年代後半から、中国自身のもつ生物生産力(Biocapacity)を超過し始めましたが、その生態学的赤字(Ecological Deficit)は、2003年以降、急増しています。

中国は、1970年代末に始まる改革開放政策の結果として、この30年間に著しい経済発展を遂げてきました。中国の一人あたり所得は50倍以上にもなりましたが、同時に急速な工業化、都市の拡大、集約的農業は自然に対する負荷も増大させました。

CO2排出と都市部が増大の要因

中国の31の中国行政区分のうち29において、カーボン・フットプリントがエコロジカル・フットプリント全体の半分以上を占めました。

直轄市のうち上海、北京、天津、および工業化の進んだ山東省では、カーボン・フットプリントは65%を超えています。(注:中国全体のデータはGFNによる2007年のものですが、行政区分ごとのデータについては中国科学院地理科学・資源研究所による2008年データです)

農村部と都市部でも明らかな違いがありました。それは第一に所得格差と、そこから生じる消費とエネルギー利用の違いに反映されています。

その分析によれば、一人あたりGDPが3万人民元(1/19時点のレートで4,545USドル)を超える省については、エコロジカル・フットプリントはGDPの値に比例して大きくなることが分かりました。中国では、高所得者層は圧倒的に都市部に居住しており、都市部のエコロジカル・フットプリントは農村部の1.4倍~2.5倍にもなります。

一人あたりでは北京がもっとも大きなフットプリントを記録しており、雲南省がもっとも小さくなっています。

中国は地球環境の持続可能性を左右する

CCICEDの事務局長である祝光耀氏は、「私たちの環境は生きていくための基礎であり、人類が発展していくための土台をなすものである。近年の急速な社会経済的発展のために、ますます環境問題は将来の経済成長のボトルネックになりつつある」と述べています。

さらに、「持続可能な発展を実現するためには、次の20年が中国にとって重要になる。このことを念頭に置けば、資源効率がよく、環境に優しい社会の構築を加速させることが中国政府の目標となる」と言います。

WWFインターナショナルのジム・リープ事務局長も、「中国の未来を危うくすることなく、人々の福利を向上させていくには、そのフットプリントに対する意識を高めていくことが重要なステップになる」と言います。

そして、「今回の分析は、中国が低炭素型発展モデルに速やかに移行することの重要性をはっきりと示している。そして、この発展モデルへの移行は、エネルギー利用の効率化、よりクリーンなエネルギー、持続可能な都市への転換によって果たされるだろう」と、今後の中国の道筋をリープ事務局長は示します。

省エネ対策の導入や製造業からサービス業への移行により、エコロジカル・フットプリント増加のペースはある程度落ち着いていく可能性がありますが、エコロジカル・フットプリント削減の取り組みを本格化させる必要があります。

この点に関してリープ事務局長は、「今日の中国が地球に与える影響は、近現代の歴史上、どの年代にも増して大きくなっている。より優れた管理手法や効率性を通じて自然資源に対する圧力を低減させることにより、中国は競争力を得つつ、地球環境を支えていくために重要な役割を果たすことができるだろう」としています。

 

報告書(PDF形式)

中国のエコロジカル・フットプリント

香港のエコロジカル・フットプリント

 

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