ICCAT、地中海クロマグロ資源の確実な回復に向けた合意は成らず


フランス・パリで開かれていたICCATの特別会合は、結局、地中海のクロマグロ資源の回復を確実に実現できるような方策に合意することなく終わりました。資源管理を担う国際機関の、再三にわたる楽観的すぎる合意は、大西洋クロマグロ資源の枯渇をさらに深刻化させる、きわめて重大な問題です。

長期的な視点なし、目先の利益を優先

今2010年11月19日から27日まで開催されていたICCAT(大西洋マグロ類保存委員会)の特別会合は、大西洋および地中海のクロマグロ(本まぐろ)資源の保全を実現できるかどうかが問われる、重要な会議でした。

しかし、参加各国による合意は、このマグロ資源を確実に回復させ、持続可能な形で利用するとはいえない内容で、いずれも、長期的な視野に欠けた、目先の利益ばかりを優先したものでした。

まず、今回ICCATは、各国が漁獲してよい総漁獲量(漁獲割当量)について、12,900トンで合意しました。
これは、2010年にICCATが合意した13,500トンよりも、わずかに600トン減っただけの内容です。

WWFが「予防的原則に基づき、資源を持続可能な形で利用し続けるために必要」だとして提案していた総漁獲量は、6,000トン以下。
結果的には、確実に資源の回復が見込まれる漁獲量の、倍以上の漁獲が認められたことになります。

また、同じくWWFが求めていた、産卵域での操業の禁止についても、科学委員会から報告されたのみで、改善にむけた方策の議論は、ほとんど行なわれませんでした。

WWFはこれらの結果について、持続可能な利用を確実にする対策が充分図られていないと、失意を表明しました。

ICCATは今まで、何度も十分な対策をとる機会がありました。それにも関わらず、長期的な資源利用よりも目の前の利益を優先させてきました。今回も、地中海で横行しているルール違反や、決められた手続きをとらないクロマグロ漁に対して、日本から厳しい指摘がなされながらも、効果のある対策を見いだすことができなかったのです。

唯一の救い

こうした中で評価できた点は、「前年までに漁獲割当量を超えて漁獲した過剰生産分については、それ以降の年間割当量から差し引く」ことに合意がなされたことです。これは、WWFも求めていた点の一つでした。

実際、フランスは2007年に10,000トンを過剰に漁獲したことが判明していますが、2011年はその分を差し引いた1,000トンが割当量となりました。

さらに、この割当量は、WWFが以前から過剰な漁獲の原因の一つとして指摘してきた、巻網などを使う大規模漁業者にではなく、伝統的な小規模漁業に優先して割り当てられます。

持続可能なレベルで漁業を続けてきた、これらの地域の漁業者たちへの配慮が、わずかでも残されたことは、評価すべき点といえます。

それでも全体的には、WWFなどが、ICCATの加盟国政府代表に対し訴えてきた「予防的原則に基づいた管理計画が実行されなければ、大西洋と地中海のクロマグロ資源を確実に回復させることはできない」という基本的な主張は、パリの会合の場には広く届きませんでした。

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大西洋のクロマグロ。「本マグロ」として日本では流通しているマグロの一種

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パリでのICCAT特別会合。

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蓄養場の生け簀を泳ぐマグロ。蓄養は、若いマグロも根こそぎ獲ってしまうため、漁業資源の減少を引き起こしています。

世界には海域ごとにマグロの資源管理を行なう5つの国際管理機関があります。地中海を含む大西洋を管轄するのはICCATです。
くわしく見る

リーダーシップはどこへ?

今回のICCAT会合では、日本政府はカギを握る立場として注目されていました。

その理由は、2010年3月のカタールのドーハで開催されたワシントン条約締約国会議で、地中海クロマグロの国際取引規制提案が否決された際、その提案に断固反対した日本政府は、「クロマグロ資源を回復する機能はICCATにある。ICCATでの資源管理を徹底する」という点を強調し、反対の理由としていたからです。

事実、EU(欧州連合)、日本、ノルウエー、カナダ、アメリカといった、地中海マグロの漁獲と消費にかかわる主要国は、今回のICCATの特別会合では、科学的根拠に基づいた、マグロの持続可能な漁業を行なうための施策を導入するため、主導的役割をとる、と約束していました。

しかし、最大消費国である日本や、最大の割当量を保持するEUによる、その強いリーダーシップは、最後まで発揮されることがありませんでした。

ただ、遵守については本会合中、日本は、時間をかけて生産国の遵守状況を確認し、「今後ルールを守らない国は休漁すべき」という意見を述べ、こうした主張は大西洋クロマグロ資源管理の最後の勧告案に盛り込まれました。

こうした点から、IUU(違法、無報告、無規制)漁業に対する厳しい姿勢は見られましたが、生産国に必ずルールを守らせる、という重い宿題を背負ったといえます。
2011年の漁期が始まる前に、日本がどれだけ違法漁業に対して抑止力を発揮できるか、世界から注目されています。

地中海クロマグロ資源はどうなるのか

ICCATに代わって、地中海クロマグロの資源管理を担える国際機関はありません。そして、補完的な手段として提案された、ワシントン条約での取引規制も否決されました。

今回の会合の結果、2010年並みの漁獲量が約束されましたが、これは、「食べられなくなる」ことや「値段が上がる」ことが「回避された」ことを示す結果ではありません。

近い将来、全くこのマグロが食べられなくなってしまうかもしれない、深刻な危機の表われです。

現在も、地中海では、ルールを守らないマグロ漁業の管理や生産の実態が、次々に明らかにされています。その中で、世界最大の地中海産クロマグロの消費国である日本の政府や、輸入商社、小売企業が、どのような対応をとっていくのか。

違法なものを確実に国内に入れない取り組みを徹底し、この問題に真剣に向き合うことが日本に求められているといえます。

しかし、日本のこうした取り組みだけで、問題を解決するのは困難です。
WWFが開催前から投げかけて来た、ICCATがこのまま機能不全でよいのか、誰がクロマグロを枯渇から救うのか、という問いに、今世界の誰もが答えられない状態になっています。

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