ゴールドスタンダード


ゴールド・スタンダードとは、 CDM (クリーン開発メカニズム)や JI (共同実施)プロジェクトの「質」の高さに関する認証基準です。温室効果ガスの削減につながると同時に、持続可能な開発に貢献することを支援するためのツールで、クレジットの買い手に対しては、クレジットの「質」を保証するものです。

ゴールドスタンダードとは

京都議定書の中で導入された CDMは、その条文において、

  • 温室効果ガス削減に寄与すること
  • ホスト国の持続可能な発展に貢献すること

この2つが目的とされています。しかし、個々の CDM プロジェクトの実施において、それらの目的が確実に達成されるとは限りません。ゴールド・スタンダードは、 CDM プロジェクトが、本当の意味で環境保全上の利益を生み出すことを支援するために作られた基準です。

ゴールド・スタンダードは、 CDM および JI の両方に使用できる他、京都議定書下のクレジットを目的としないプロジェクトにも適用できます。しかし、主に CDM を念頭においた制度ではあるので、以下の説明では CDM への適用を前提としています。

質の高いクレジットを保証

プロジェクトが、気候変動防止と持続可能性により高い水準で貢献をし、結果としてより品質の高いクレジットを生み出すことを保証するというのが、ゴールド・ スタンダードの目的です。

このツールによって、プロジェクトを実施する側や対象地域のコミュニティにとっては、そのプロジェクトが追加的で、気候変動防止や地域の持続可能な開発に着実に貢献しているという信頼が得られると同時に、クレジットの買い手の側から見れば、プロジェクトの質についてより高い確実性を得て買うことができます。

ゴールド・スタンダードは、プロジェクトに対してより高い質を求めますが、通常の CDM のプロジェクト実施に加えて追加的な認証は必要ありません。ゴールド・スタンダードとしての認証は、通常の CDM プロジェクトのサイクルの中で行なうことができます。

認証を取るためには?

ゴールド・スタンダードの認証を得るためには、通常のプロジェクト・デザイン・ドキュメント(PDD)に加えて、ゴールド・スタンダード・パスポート(Gold Standard Passport)という文書を提出します。

ゴールド・スタンダード・パスポートには、プロジェクトの持続可能性と温暖化防止への貢献をより強化するためのいくつかの項目が加えられており、それをもって運営機関(OE)に有効性等の審査をしてもらう必要があります。

ただし、ゴールド・スタンダードは、このスタンダードの水準に適合しないプロジェクトを「否定」するためのものではありません。より品質の高いプロジェクトをカーボン市場の中で推進するための、あくまでも1つのツールです。

ゴールド・スタンダードの特徴: 3つのスクリーンによる審査

プロジェクトがゴールド・スタンダード・プロジェクトとして認証されるためには、通常のCDMの審査に加えて、主に次の4つのスクリーニングをパスしなければなりません。これらはすべて前述のゴールド・スタンダード・パスポート の中に含まれています。

(1) プロジェクトの適格性

このスクリーニングは、プロジェクトのタイプによる選定です。現在のところ、主に2つのタイプのプロジェクトがゴールド・スタンダードに適合するものとして認められています。
1つは、再生可能エネルギーに関するプロジェクトで、もう1つは、消費側でのエネルギー効率向上に関するプロジェクトです。今後、植林・再植林や農業といった「土地利用と森林」(Land Use & Forest)分野のプロジェクトも順次対象に加わっていく予定です。

これらのプロジェクト・タイプの選定は、以下の3つの基準で選定されています。

  • (持続可能な開発へ向けての)パラダイム・シフトをもたらすようなエネルギー技術
  • 追加性と持続可能性
  • 環境 NGO による広範なサポート

関連情報:ゴールド・スタンダードとして認められるプロジェクトのタイプ

再生可能エネルギー
  • 太陽光
  • 太陽熱(電力/熱)
  • 環境的に信頼できるバイオマス/バイオガス /液体バイオ燃料(熱/電力/コジェネレーション、輸送用燃料)
  • 風力発電
  • 地熱発電
  • 小型低インパクト水力発電( 20MW を上限として、 WCD (世界ダム会議)ガイドラインに適合しているもの)
エネルギー消費の効率向上
  • 産業部門
  • 家庭部門
  • 運輸部門
  • 公共部門
  • 農業部門
  • 業務部門のエネルギー効率

(2) 追加性およびベースライン

追加性およびベースラインに関する審査は、プロジェクトが真の意味で温暖化防止に貢献するための鍵となるものです。

先進国は、 CDMプロジェクトを実施してクレジット(CER)を得ることで、その分、余分に排出することが許されます。したがって、もしCDMが無くても実施されたようなプロジェクトがCDMプロジェクトとして実施され、クレジットが発生してしまうと、地球全体としては排出量が(京都議定書で約束されたよりも)増加してしまうことになります。

このスクリーニングは、追加的でなく、CDMがなくても実施されたようなプロジェクトに対してゴールド・スタンダードのクレジットが発行されないことを確実に保証することを目的としています。

したがって、プロジェクト・デベロッパーは以下の2つの質問に答えなければなりません。

  • 問1:そのプロジェクトは CDMがなかったら実施されたか?
  • 問2:そのプロジェクトによって、プロジェクトがなかった場合より確実に温室効果ガスの削減がなされるか?

問1に対する答えは「いいえ」に、問2に対する答えは「はい」にならなければいけません。

問1に「いいえ」と答えるためには、そのプロジェクトがたとえば事前に行われることが決定・公表されていてはならないのです。また、CDMが無かったらそのプロジェクトが実施されえなかったかどうかの評価は、保守的(conservative)に行われる必要があります。その際、CDM理事会より提示されている「追加性の証明と評価ツール」(tool for the demonstration and assessment of additionality)などを参照することが望まれます。

(3) 持続可能な開発への貢献

プロジェクトの持続可能な開発や地域コミュニティの利益への貢献を確実にするため、 以下の手段でプロジェクトの持続可能性が評価および確認されなければなりません。

  • 「持続可能な開発マトリックス」(sustainable development matrix)を用いたチェック
  • 「無危害」評価('Do no harm' assessment)の実施チェック
  • 持続可能性モニタリング計画の策定

持続可能な開発マトリックスでは、以下の3つのカテゴリーに分類された12の持続可能性指標に沿って評価が行なわれます。

  • 大気環境の改善など、地域やグローバルなレベルでの環境面での持続可能性への貢献
  • 貧困減少など社会的な側面からの持続可能性や開発への貢献
  • 先進国への技術依存の解消など、経済的・技術的発展への貢献

「無危害」評価では、ミレニアム開発目標に基づくUNDPのセーフガード原則に則り、以下の4つのカテゴリーに分類された11の指標に沿って評価を行ないます。

  • 人権
  • 労働基準
  • 環境保全
  • 腐敗防止

プロジェクト活動の持続可能な開発への影響をモニターし、プロジェクトが実際に持続可能な開発に貢献したかを検証する持続可能性モニタリング計画を策定します。持続可能な開発マトリックスおよび「無危害」評価において見出されたリスクに対する緩和策の全てがモニタリングの対象となります。

これら 3つの詳しい手順などは、GSツールキットの Annex に記載されています。

(4) ステーク・ホルダー・コンサルテーション

地域コミュニティやその他の利害関係者の意向がプロジェクトの設計段階から組み入れられることが確認されます。

認証の仕組み

上述したように、プロジェクトがゴールド・スタンダードに適合するかどうかの認証には、プロジェクト・デベロッパーは、PDDに加えてゴールド・スタンダード・パスポートを提出し、通常のCDMと同様にして、運営機関(OE)によるプロジェクトの有効化を受ければよいことになっています。

ゴールド・スタンダードとして有効化されたプロジェクトのリストは、ゴールド・スタンダード事務局のウェブサイトでも公表されます。

環境NGOによる支持

ゴールド・スタンダードは、当初はWWFのイニシアチブによって作られました。しかし、これは、WWFの認証基準となることを目的として作られたものではありません。認証基準は、政府、企業、 NGOなどの関係者との協議を通じて作成され、特に、「環境NGOコミュニティによって支持される」認証基準となることを目指して作られました。結果として、多くの NGOがゴールド・スタンダードへの支持を表明しています。これらNGOのリストはゴールド・スタンダードのウェブサイト上に掲載されています。

また、ゴールド・スタンダードは、定期的に見直しやアップデートが行なわれています。その意味で、「生きた」スタンダードであり、固定的なものではありません。

「リスクの削減」というゴールド・スタンダードのメリット

持続可能な開発や気候変動防止により確実に寄与するということの他に、ゴールド・スタンダードが持つメリットとしては、プロジェクトに関わる様々なリスクを減らす効果が挙げられます。

たとえば、ゴールド・スタンダードの中に組み込まれている持続可能性の評価やステーク・ホルダーとの会合をきちんと経ることによって、プロジェクトが、地域 コミュニティなどから思わぬ反発を受け、その実施に遅れが出たりするリスクを小さくすることができます。また、追加性に関する審査も、通常より保守的かつ明確に示すことが要求されるため、理事会での審査を通過する可能性が高くなります。

さらに、より一般的なCSR(企業の社会的責任)の観点からは、自社が出資しているプロジェクトが、現地の持続可能な開発や気候変動防止に貢献していることを明示するツールにもなります。他方面からの批判を受けるリスクを減少させることにも貢献するでしょう。

そして、信頼できる、質の高いクレジットということで、プレミアムがつき、より高い価格で売ることが可能になると考えられます。

関連資料

ゴールド・スタンダードについては、以下をはじめとする関連資料が用意されています。

Gold Standard Requirements ゴールド・スタンダード 要綱(ver2.0仮訳はこちら:PDF
Gold Standard Toolkit ゴールド・スタンダード ツールキット
Gold Standard Passport ゴールド・スタンダード パスポート
Gold Standard Brochure 普通用パンフレット

全ての資料は、下記連絡先に記載されているゴールド・スタンダードのウェブサイトより入手可能です。
一部、準備中のものがあるかもしれませんので、ご了承ください。

連絡先:ゴールド・スタンダード事務局

Foundation secretariat

The Gold Standard Foundation
Avenue Louis-Casai 79
CH-1216 Geneva-Cointrin
Switzerland

Phone +41 (0) 22 788 7080
Fax +41 (0) 22 788 7082

www.cdmgoldstandard.org

ゴールド・スタンダードに関する詳細は、上記事務局へお問合せください。本ウェブサイトの情報はゴールド・スタンダード普及のためにWWFジャパンが作成したものであり、実際の手続きの詳細はゴールド・スタンダード・パスポート等に従う必要があります。

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