ゾウ・パトロール隊の犠牲


自然保護室の川江です。

先日、私たちのフィールドである、インドネシア・スマトラ島のブキ・バリサン・セラタン国立公園に行った折、非常にショッキングな事件に遭遇しました。

ゾウ・パトロール隊に所属するゾウが、象牙を狙った密猟者の手にかかり殺されたのです。

犠牲になったのは「ヨンギ」と名付けられた34歳のオスで、1996年に同地で保護され、2009年からゾウ・パトロール隊の一員として活躍していました。

ゾウ・パトロールは、集落などに出没する野生のゾウを、森に静かに追い返すために組織された、ゾウ使いと使役ゾウによるチームで、これまで幾度も人とゾウの間のトラブルを防ぎ、国立公園の保全に貢献してきました。

残念ながら、ブキ・バリサン・セラタンでも野生のスマトラゾウの密猟が毎年少数ながら続いており、ここ数年はまたそれが増加傾向にあります。

在りし日のヨンギ。体重3.3トンの堂々たるオスのゾウでした。

死体には銃で撃たれた傷がなく、また周りの茂みや木が暴れて倒された様子もないことから、獣医の所見では毒物か麻酔薬による殺害が疑われています。

それでも、パトロール隊で飼育されていたゾウが殺された例は、過去に一度もありませんでした。

大切な「仲間」だったヨンギ。
その死は、国立公園の森を守るため共に働いてきたスタッフたちに、大きな衝撃と悲しみをもたらしました。許せない気持ちでいっぱいです。

今も続く、保護されているはずの森林の伐採、野生動物の密猟、そして違法取引。

このスマトラに限りませんが、自然を損なうこうした犯罪行為は、全て絡み合い、つながっています。

象牙は、根元で切り取られていました。場所は、国立公園事務所からわずかに200mほど離れた地点で、夜11時以降に殺害されたようです。

ですが、どれほどに大きな問題であろうと、私たちはそれに立ち向かい、いつか解決できる日を信じて、活動を続けていかねばと強く思います。

ヨンギの犠牲を、無駄にしないためにも。

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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