スマトラ「ゾウのパトロール隊に会いに行くツアー」を実施しました!


世界で6番目の広さを持つ島、インドネシアのスマトラ島。その南端に広がる大規模な自然保護区が、ブキ・バリサン・セラタン(BBS)国立公園です。WWFジャパンでは、現在その保全活動を支援している国立公園と周辺地域を訪問する、日本からのエコツアーを、2011年9月18日~23日の6日間の日程で実施しました。

日本からの一般客をはじめて受け入れ

インドネシアのスマトラ島の南端に広がるブキ・バリサン・セラタン(BBS)国立公園は、スマトラトラ、スマトラサイ、アジアゾウという3種の貴重な大型哺乳類が生息する保護区であり、現在、自然林を再生するための取り組みが行なわれています。
この活動を積極的に支援しているWWFジャパンでは、国立公園と周辺地域を訪問するツアーを、2011年9月18日(日)~23日(金)の6日間の日程で実施しました。一般のツアー客を迎えるのは、バリサン・セラタン国立公園にとって初めてのことです。
この記念すべきツアーには、WWFジャパンの会員の方を中心に10名にご参加をいただきました。

9月18日に日本を発った一行は翌日朝、ジャカルタ空港から空路約1時間のところにある、スマトラ島のランパン空港に到着しました。ここは、バリサン・セラタンの玄関口にあたります。
そこからさらに、車で約一時間の場所に位置する「バタフライ・パーク」が最初の訪問場所です。絶滅危惧種2種を含む蝶を飼育しているこの公園で、ツアー参加者の皆さんに対し、ご挨拶も兼ねてWWFインドネシアのスタッフと共に、WWFが実施している主な活動を紹介しました。

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様々な植物の育つ公園内を散策するツアー一行。

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ブキ・バリサン・セラタンでの、熱い歓待!そしてゾウとの出会い

この後一行は、バリサン・セラタン国立公園の管理事務所へ。公園や周辺地域の概要、また、国立公園の森林を守ることが、水源の確保や水力発電所の稼動など、住民の日々のくらしにもつながることを、担当者が熱心に説明してくれました。

ツアー参加者との意見交換では、公園内に不法占拠している人たちの立ち退きを、うまくやるためにはどうしたらよいか、また、違法伐採による木材を取り引きしている日本企業はあるのかなど、積極的なご質問もいただきました。

翌9月20日、本ツアーの目玉であるゾウ乗り体験のため、国立公園内に置かれた、ゾウパトロール隊の詰め所に向かいます。

パトロール隊は4頭のゾウと5人のレンジャー、森林生態系などの専門家2人からなる編成で、現在は1チームが活動しています。
ほぼ毎日実施するパトロールでは、約6時間かけて25~30kmを巡回しますが、1週間~10日をかけて、より広域なパトロールも実施しています。

パトロール隊の結成は2009年。以前は、人間や民家がゾウに襲われたり、逆に住民が腹いせにゾウを毒殺したりという事件も起こっていましたが、隊の結成と活動開始以来、そうした事故数は激減しています。パトロールによって、人やパトロールの像を警戒する野生のゾウが、人の住む場所にあまり近づかなくなったためです。

この隊の運営は、ほぼ100%、WWFジャパンからの支援で支えられています。数年前は1棟しかなかった建物も、現在は4棟にまで増えました。
今回のツアーでは、参加者の皆さんに、このパトロール隊のゾウの背に実際に乗っていただき、上から眺めた森の様や、パトロールの様子を見ていただきました。

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夕刻は、BBSの位置するテンガムス行政区の公邸に招待されてのディナー。日本人の訪問がこの地域にとってどれほど期待されているかを物語る、手厚い歓待となりました。

参加者は2グループに分かれ、約45分のゾウ乗りを体験しました。

自然林再生のための植樹も、いよいよ10月から

また、このパトロール対の巡回ルートのすぐ脇には、現地の自然林を再生するための、1万5,000本の苗木を植えた苗床があります。参加者は、そこから好きな木を数本選び、記念の植樹を実施しました。

パトロール隊の巡回ルートと、植樹を今後行なう予定のエリアには、かつて違法に拓かれた農園の跡地も含まれています。これらの場所は、人が退去した後も、放置された場所も含まれており、一見緑おおわれてはいても、自然の植生とはだいぶ異なった植物がはびこり、元の姿には程遠い状況になっています。

WWFジャパンの支援で育てられた苗木は、雨季に入る2011年10月から、ここで一斉に、植樹されることになっています。

この日の晩は、前日に続き地域の行政担当者が一行の泊まっているホテルまで、挨拶に訪れました。
保全すべき森の自然に恵まれ、またその破壊の問題と背中合わせでくらしている地域では、住民が違法伐採や密猟といった違法な行為に頼らず生計を立てられるように、代替事業を確立しなくてはなりません。

これが、地域行政がこれからの環境政策を進めるうえでの、重要な鍵となることを、担当者の人たちはよく理解しているのです。こうした現地のもてなしや熱意からも、日本からの観光に寄せる高い期待が感じるツアーとなりました。

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植林用の苗。大切に育てられています

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開花したラフレシアを、運よく目撃!

環境に配慮したコーヒーとカカオの農園へ

実質的なツアー最終日となった翌日。この日は、個体数がわずか300頭しかいないスマトラサイを密猟から守る活動をしている団体RPU(サイ保護チーム)の拠点を訪れ、周辺の自然林で、森の様子や動物の足跡などを見学し、午後はバリサン・セラタン国立公園のバッファー・ゾーンで栽培されているカカオやコーヒーの農園を訪れました。

バッファー・ゾーンとは、人の居住地と国立公園の間に広がるエリアのことで、人の利用をある程度認めつつ、国立公園の自然を守ることを目的に設置されるエリアのことです。

ここの農園では、環境にも配慮した付加価値の高い産品を生産することに合意した農家が、組合組織をつくり、事業を運営しています。
近い将来、環境に配慮して生産されたことを証明する認証も取得する予定です。

このような、環境に配慮して作られたコーヒーを、日本や世界の市場が積極的に買い付ければ、環境に配慮した生産者を支援することにもなり、現地の環境保全への間接的な貢献にもなります。

これを最後に、翌日一行は、ランパン市内で観光した後、ジャカルタに移動。9月23日朝、無事成田空港に到着しました。

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コーヒーを買うことが、環境保全につながっていく

ツアーを終えて

バリサン・セラタン国立公園を初めて訪れた参加者の皆さんにとって、このツアーは決して楽なものではありませんでした。
公園に入るまでには悪路を長い時間かけて移動しなければならず、飲料用には常時ペットボトルが手放せません。水のシャワーしか出ないホテルに、面食らった方もいらっしゃいました。

それにも関わらず、道中常に明るい雰囲気を作ってくださり、一緒に行動いただいた参加者の皆さまに、WWFジャパン、インドネシア双方のスタッフは、感謝の念でいっぱいでした。本当にお疲れ様でした。

たった6日ではありましたが、日本人がこの地を訪れたことは、WWFの現地スタッフや、地域住民にとって大きな意味があります。

バリサン・セラタンを訪れる観光客が継続して出てくることや、環境に配慮したコーヒーやココアが市場から求められ、農園がもっと広がること、そして自然林の再生が充分に管理されながら進み、その面積が増大すること、すべてが国立公園と周辺地域の保護活動を維持する力となるからです。

環境保全への理解を深めるためには、取り組みの現場を見ていただくことに勝るものはありません。
今回のツアーも、そのためにはどのような内容を盛り込むべきか、また、参加者の皆さんにも納得していただけるのか、検討を深めるための貴重な機会となりました。

バリサン・セラタンへのツアーは、国立公園などの保護区、さらにはスマトラ島の自然を今後も守っていくための、一つの取り組みの始まりと言ってもよいでしょう。WWFジャパンとWWFインドネシアは、これからも多くのサポーターとともに、世界的にも稀有なこの地の自然環境を保全し、できるかぎりの再生を図ってゆきたいと考えています。

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ツアー参加者の皆さんとWWFスタッフ

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