企業にとっての生物多様性と生態系サービス


2010年に日本が生物多様性条約締約国会議(CBD・COP10)を名古屋に招致したことを契機として、日本企業の間でも確実に認知度が高まってきた「生物多様性」。生物多様性と、そこから提供される生態系サービスが、なぜ今、企業の取組課題となっているのでしょうか。

生態系サービスと企業

企業活動は自然界からさまざまなサービスを受けています。
原材料としての木材や水産物、操業の様々な過程で必要となる水など、物質的サービスだけでなく(供給サービス)、洪水や土砂崩れといった操業環境自体を脅かす災害も、自然環境の破壊や劣化に起因していることが少なくありません(調節サービス)。

また、観光業のように、自然そのもの美しさによってビジネスが成り立っていることもあります(文化的サービス)。

何よりも、自然資源が再生産されるからこそ、資源を継続的に入手することが可能なのです(基盤サービス)。

このようにビジネス全般を下支えしていると言ってもいい生態系サービスですが、これまでそのサービスの多くは、コストとして計上されてきませんでした。

しかし、それを産み出す資本に当たる生物多様性は過去40年間に3割も減少しています。

ストックは減少する一方、生態系サービスというフローに対する需要圧は、新興国での需要拡大もあり増加の一途を辿る中で、資本を増強するための投資が必要であるという問題提起が成されました。

それが「生物多様性と生態系サービスの経済学(The Economics of Ecosystems & Biodiversity: TEEB)です。

生物多様性が与える4つのインパクト

これまでコストとして計上されてこなかったために、生物多様性という資本及び生態系サービスというフローが事業活動に与えるインパクトの把握も行なわれてきませんでした。

しかし、事業活動による違いはあるものの、事業にとってのインパクトは大別すると次の4つが挙げられます。

  1. 市場機会としての生物多様性
  2. リスクとしての生物多様性
  3. コストとしての生物多様性
  4. ビジネスの持続性としての生物多様性

コスト化をめぐる試み

生物多様性と生態系サービスが事業環境の重要な構成要素であることは分かったとしても、それを事業に組み込む上での大きな障害の一つが、財務的に計上できない点にあります。

この金銭的評価については、前述のTEEBがいくつかの事例を基に考え方を提示していますし、政府レベルでは国家勘定に生物多様性の価値も計上する試みが世界銀行主導で進められています。

生物多様性や生態系サービスは、地域性が非常に強いため、温室効果ガスのように定量的に金銭換算することは出来ませんが、ある特定の地域で特定の利用者にもたらしている金銭的効果を推計することは可能です。また日本の一部自治体が採用している水源税は、コストとして生態系サービスが実際に計上されることを示しています。

WWFと企業の取り組み

企業活動は、生態系に悪影響を与えるものであると同時に、生態系サービスに依存するものでもあります。

生物多様性に深くかかわっている企業が、その保全に対して持つ可能性は、非常に大きいといえるでしょう。また、そのことは、企業自体にとっても、事業存続のリスクとチャンスを考える一つのカギになります。

そうした認識が深まりつつある中で、WWFは、企業との対話や連携を通して、地球環境と生物多様性の保全と、そのための持続可能な社会の構築を目指しています。
WWFとの連携にはさまざまな方法があります。是非、可能な方法でのご検討をください。

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WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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