【シリーズ】改正!種の保存法(1)生物の捕獲・採取をめぐって


国内の希少な野生生物、そして日本がかかわる国際的な絶滅危機種を保全する法律の一つ、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」。その改正案が2017年2月28日、閣議決定されました。今回の改正は、前回2013年の法改正での決議を受け行なわれたもので、評価すべき点がいくつか見受けられる一方、いまだ解決を見ない問題が残されています。「種の保存法」はどう変わるのか。日本の自然保護を左右するその課題と展望について、シリーズでお伝えします。

「種の保存法」改正の軌跡

今国会(第193回通常国会)の衆参両院で、「種の保存法」の改正案が審議されようとしています。

この法律は、もともと、1993年12月に発効した国際法「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」に対応するため、日本で制定されました。

しかしその内容は、絶滅の危機にある野生生物を、「種(しゅ)」という単位で保護することに主目的が置かれ、生態系の保全という意味では、不十分な点が多くありました。

そこで、前回2013年の法改正で、WWFなどの自然保護団体の働きかけにより、第1条の目的条項に「生物の多様性の確保」が加えられることになりました。

これにより単独の種の保護から、自然環境の保全へ、保全対象と法律の持つ目的が、拡大されたのです。

さらに、この改正では、施行から3年後、つまり2017年に再度、法改正を行なうことが取り決められました。

全体として、この2013年の法改正では、WWFが望んでいた抜本的な改正は実現しませんでしたが、それでも、次回の法改正につながる確かな前進が認められたのです。

2017年の「種の保存法」改正

改正が迫る2016年の一年間、「種の保存法」を所管する環境省は、各分野の専門家による法改正に関する検討会などを実施。

「種の保存法」が真に野生生物種の保全に貢献する法律となるように、WWFジャパンとトラフィックもこれに参加し、継続した意見の陳述や提言を行なってきました。

そして、一連の議論を踏まえ、環境省は「種の保存法」の改正案を発表。

これが、2017年2月28日に閣議決定され、国会で審議される運びとなりました。 この改正で、環境省が大きく見直したとする点は、大きく以下の4点になります。

1.二次的自然等に分布する絶滅危惧種保全の推進:
「特定第二種国内希少野生動植物種」制度の創設

2. 動植物園と連携した生息域外保全等の推進:
「認定希少種保全動植物園等」制度の創設

3. 国際希少野生動植物種の流通管理強化:
①個体等登録手続の改善 / ②「特別国際種事業者」の登録制度の創設

4. 生息地等保護区の保全の促進
①「科学委員会」の法定化 / ②国内希少野生動植物種の提案募集制度創設

さらにこの他にも、改正に向けて日本国内の各自然保護団体が、重要な課題として指摘してきた問題点、改善点がありました。

今回はこの中から特に、「二次的自然等に分布する絶滅危惧種保全の推進」について解説します。

「国内希少野生動植物種」の保護と、その捕獲・採取

絶滅のおそれのある日本の野生生物を保護することを、大きな目的に据えた「種の保存法」では、「国内希少野生動植物種」を指定しています。

この「国内希少野生動植物種」は、日本が国として法的な保護を約束している日本の野生生物で、現在はトキ、ライチョウ、イリオモテヤマネコ、アベサンショウウオ、アユモドキ、ヤシャゲンゴロウ、ムニンツツジ、ヤクシマリンドウなど、208種が対象となっています。

これらの動植物については、それぞれについて保護増殖事業計画が策定されるほか、捕獲・採取なども禁止されています。

つまり、これらの生物の捕獲や採取などを行ない、罪が認められた場合は、「種の保存法違反」という罪状になるのです。

もちろん、学術研究や、人工的な繁殖計画を行なうための捕獲や採取は可能であり、実際、保護のためには、そうした取り組みが欠かせません。

しかし、そのためには当然ながら、特別な捕獲許可を環境省に申請する必要があり、その手続きが調査研究などを阻害してしまう例が、以前から指摘されていました。

特に、水田や里山のような「二次的自然」と呼ばれる環境に生息する魚類や両生類、昆虫類など、身近な動植物ほどその例が顕著でした。

「特定第二種国内希少野生動植物種」制度の創設とその課題

そこで、今回の法改正をめぐる検討の中では、これらに種については、保全のための調査等を促進するために、規制の除外とするべき、という声がありました。

そして、その対応として、今回新たに「特定第二種国内希少野生動植物種」というカテゴリーが新設されることになったのです。

この「特定第二種国内希少野生動植物種」に指定された動植物は、「販売又は頒布をする目的以外の目的」であれば、捕獲や採取を可能とする、というのが環境省の改正案の内容になります。

しかし、この捕獲規制除外のルールは、保護のための調査研究をやり易くする反面、過剰な捕獲を防げなくなる危険性もはらんでいます。

たとえば、どんなに大量に捕獲しても「販売・頒布目的以外」であれば、咎められることがありませんし、仮に販売目的の捕獲、採取であったとしても、「そのつもりはなかった」と主張することで、言い逃れることもできてしまいます。

これらの事例を罪に問うことができなくなるため、この改正案については、司法の専門家からもその実効性を疑問視する指摘がなされています。

必要とされる対応は?

ここで述べた捕獲規制除外の問題について、WWFとトラフィックは、その「目的」を限定するよう修正を求め、提案しています。

具体的には、現行の環境省の案にある「販売または頒布する目的以外」という記述を、「学術研究又は繁殖目的、その他、環境省令で定める目的」に限り許可する、という表現に変更することです。

こうすることで、「販売以外ならば何でも捕獲・採取OK」になってしまう問題は、抑えることができるでしょう。

現在、環境省が公開している日本の絶滅危機種のリスト「レッドリスト」に掲載されている野生生物は、実に3,500種以上。

その大半は、法的な保護下に置かれていない一方、保護が義務付けられている「国内希少野生動植物種」は、以前より増えたとはいえ、200種あまり。

2030年までに見込まれる追加指定の種数を加えても、700種にとどまっています。

捕獲や採取は一切認めるべきではない、という考え方もありますが、こうした日本の希少な野生生物を、今後より多く、長期的に保全していくためには、捕獲や採取を伴う科学的な調査が研究を行なうことが欠かせません。

その点を考慮しても、今回の法改正で検討された、捕獲の規制を一部解除する試みには、意味があるといえるでしょう。

しかし、そうした新しい施策が、むしろ危機につながる大量捕獲や取引を招くものになってしまうのであれば、それは本末転倒です。

今回の「種の保存法」の改正案は今後、衆議院および参議委での審議を経て、成立する見込みですが、実際にどの動植物を「特定第二種国内希少野生動植物種」に指定するかは、いまだ不明です。

おそらく、改正法案の決議後、その枠組みのもとで環境省が定める「政省令」で指定されることになると思われますが、実際どのような動植物が選ばれ、その種についてどのような保護上のリスクが生じ得るのか。

WWFとトラフィックでは引き続き注目しながら、提言を続けてゆきたいと考えています。

*この「【シリーズ】改正!種の保存法」では、次回は2つ目の改正のポイントとして、「問い直される動物園・水族館をめぐる制度」をお伝えいたします。

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