熱帯林を守りながら電力を!スマトラ島での小水力発電


スマトラサイやトラ、アジアゾウなどの絶滅危機種が生息する、インドネシア・スマトラ島のブキ・バリサン・セラタン国立公園。その周辺で今、森林の保全活動と両立した、小規模な水力による発電プロジェクトが進められています。周辺で、コーヒーやカカオの農園開発が進む中、地域住民の方々と共に、ブキ・バリサン・セラタンの自然をどのように守っていくのか。保全の現場で始まった、自然エネルギーの活用をめざす、その新しい試みを紹介します。

森林破壊を招く貧しさと「電力不足」

スマトラ島南部のランプン州にある、ブキ・バリサン・セラタン国立公園。

ここは、インドネシアでも屈指の規模と、自然の豊かさを誇る自然保護区で、ユネスコの世界自然遺産にも登録されている、重要なエリアの一つです。

しかし、ランプン州では、各地でコーヒー農園やカカオ農園の開発が進行。

近年は、伐採などが制限されている森でも、木材として価値の高いチークやマホガニーが伐採されているほか、その跡地が農園に転換されるケースも出ています。

これらは、国立公園の内外で、トラやサイ、ゾウなどの絶滅危惧種をはじめとする、多くの野生生物の生息環境を脅かし、深刻な問題となっています。

こうした森林の利用の背景には、地域の人々の生活の苦しさがあります。

国立公園の周辺などで暮らす、約70万世帯の人たちは、基本的に公共の電気へのアクセスがなく、自家用のディーゼル発電機を多く使っています。

しかし、ここ数年、インドネシアでは石油の価格が高騰。多くの住民が、電力の使用を制限せざるを得ない状況に追い込まれてきました。

生活の不便や貧しさが、周辺の森の木々をさらに利用し、農園を広げ、自然を壊してしまう、大きな要因の一つとなってきたのです。

世界自然遺産にも指定されている、ブキ・バリサン・セラタン国立公園の森。

スマトラトラ

地元の集落で使われているディーゼル発電機

森林保全と両立した自然エネルギー開発

そこで、WWFでは、ブキ・バリサン・セラタン国立公園周辺の森林を保全しながら、自然エネルギーを普及させる地域モデルを作るため、2015年1月、自然エネルギーによる電力の供給プロジェクトを開始しました。

対象となったのは、国立公園に隣接するスカ・バンジャール村。

プロジェクトでは、この村の75~85世帯(約360人)に、自然エネルギーによる電力を供給しつつ、流域の土地利用計画を村の人たちと共同で策定し、住民主体の森林保全を促進することを目指しています。

小水力発電に着目した理由は、地域の特殊な地形にありました。

ブキ・バリサン・セラタン国立公園は、もともとスマトラ島の西部を南北に走る、長大な脊梁山脈の南端に位置しており、周辺には急峻な斜面と、たくさんの川や沢があります。

小水力発電という自然エネルギーを利用した開発の可能性が、十分にある地域ということです。

この計画では、大きな堰やダムのように川をせき止めず、高低差のある場所に水路(水管)を引き、5kwと10kwの発電機をそれぞれ3機と1機設置、水の落ちる勢いでタービンを回すことで発電し、周囲の自然環境への影響を最小限に抑える工夫がなされています。

さらに、こうした小水力発電の設備を維持するためには、川に泥が堆積しないように、流域の森林を保全することが必要になります。

つまり、小水力発電の設置を促進することが、安価な電力を地域に供給するだけでなく、森林破壊を防ぐ取り組みにもつながるのです。

スカ・バンジャール村の位置図

地域が主体となった森林保全をめざして

プロジェクトでは、2015年6月までの最初の半年間、スカ・バンジャール村で小水力発電を実施するにあたり、社会・経済的影響調査と環境影響調査を実施しました。

この結果、村が、国立公園と保護林、そして本来は利用が厳しくされている制限生産林と隣接していること、さらに、その制限生産林の森林区分が近年、地域の人たちが利用可能な「コミュニティ林」へと変更され、木材の切りだしや、コーヒーやカカオ、ゴム農園の開発が行なわれていることが分かりました。

そこで、プロジェクトでは制限生産林を通って村内へと流れ込む、タタサン川とシリンバラック川に、小水力発電の設備を設置し、その流域の森林を無秩序な伐採と乱開発から守る方針を策定。

樹木の伐採と農地転換の制限を取り決めた、「土地利用計画」を、村の人たちと共同で作成し、その実現をはかることにしました。

今後は、この土地利用計画について、村の人たちとの間で合意を交わし、雨期が始まる11月頃までに、送電線と発電機を設置する予定です。

また、発電機の設置後も、その維持や管理と、土地利用計画の実施状況を継続して調査し、さらに、プロジェクトが終了した後には、スカ・バンジャール村の事例を基にした、環境教育教材を作り、他の村々や地方政府に配布することで、同様の取り組みの普及と、地域が主体となった森林保全活動の拡大を目指すことにしています。

スカ・バンジャール村の土地利用現況。調査の結果、村人の85%が農業で生計を立て、村の面積665haのうち、アブラヤシやコーヒーなどの農園が285ha、水田が235haを占めていることが分かった。

小水力発電機を設置予定の川

日本の消費者ができること

インドネシアのスマトラ島では、スカ・バンジャール村やランプン州に限らず、他の多くの地域でも農園開拓に伴う森林伐採が進行しています。

特に、開発に適した平地が広がる島東部のリアウ州やジャンビ州では、パーム油を生産するための農園開拓や紙パルプ用の人工植林を目的とした大規模森林伐採が進行しています。

こうして生産されたパーム油や紙は日本へも輸出されており、例えば日本で使用されるコピー用紙のおよそ3分の1はインドネシアで生産されたものです。

これらのコピー用紙には、自然の森を大規模に伐採することによって安価に作られているものもあり、消費者が「安いから」という理由だけでこうした商品を選ぶことは、そうした自然破壊的な生産方法を黙認することにつながりかねません。

このような持続可能でない生産を防ぐために、消費者の立場からもできることがあります。

それは、環境に配慮して生産されたことを証明する「FSC認証」の付いた紙や、「RSPO認証」の付いた石けんなどの商品を購入することです。

日本の消費者がこうした認証マーク付きの商品を積極的に選択することによって、自然破壊的な生産を行なうメーカーを市場から追いやり、スマトラ島での持続可能な一次産品の生産と森林の保全に貢献することができるのです。

WWFは、今後もスマトラ島の現場で森林と絶滅危惧種の保全に取り組むと同時に、日本の企業や消費者に対して、環境に配慮して生産された原材料の購買・調達を働きかけていきます。

※この小水力発電の設置プロジェクトは、トヨタ自動車株式会社のトヨタ環境活動助成プログラムの助成を受けて実施しています。

関連情報

コーヒー農園に転換された森林(手前)と残された森林(奥)。間には川が流れる

スマトラゾウ

持続可能なパーム油の証であるRSPOの認証マーク

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