研究集会「絶滅危惧種保全研究会」を開催


絶滅の危機にある野生生物を保全する、日本の重要な法律の一つに「種の保存法」があります。この法律は2013年に改正された際に、「国内希少野生動植物種を、2020年までに300種新規指定する」といった意欲的な附帯決議が付けられました。これらの項目をいかに実現するのか?関心を寄せる方々とともに考える研究集会が、2014年3月6日に、東京都内で開催されました。

2013年に改正された種の保存法

絶滅のおそれのある国内外の野生生物を守る法律である「種の保存法」(正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)は、2013年の国会で、1992年の制定以来、実質的にはじめてといっていい内容をもって改正されました。

この時、改正された法律そのもの以上に注目を集めたのが、国会の衆参両議院でつけられた「附帯決議」です。

そこには、「国内希少野生動植物種を、2020年までに300種新規指定する」、「"種の保全戦略"に種指定に関する国民による提案方法を明記する」といった、意欲的な項目が加えられました。

これらは実現できれば、絶滅のおそれのある日本の野生生物を、より広く守ってゆく上で、非常に大きな効力を発揮する可能性を秘めた施策となります。

法律の改正内容そのものについても、違反に対する「罰則の大幅な引き上げ」や、目的条項への「生物の多様性の確保」(第一条)という文言の追加、「教育活動等により国民の理解を深めること」(第五十三条)などが盛り込まれました。

これまで、個々の野生生物種の保護に視点を置いていたこの法律が、今回初めて、その目的に「生物多様性」というより広い対象を設定したことは、日本の生物や自然環境の保全を進める上でも、重要な点となります。

まだ残されている課題

さらに、この改正では、附則第七条に基づき、「種の保存法」を3年後に見直すことになりました。

種の絶滅を防ぐという、この法律の本来の機能が発揮されるためには、まだ他にも改正すべき点が多くあります。

その改正を行なうための代表的かつ重要な論点が、「附帯決議」として付けられた、以下の点です。

  • 2020年までに国内の希少な動植物を300種、種の保存法のもとで新規指定するための仕組み作り
  • 種指定への国民による提案方法および政府の回答方法
  • 種の保全戦略を「法定計画」とすること
  • 種の指定を進めるための専門家による常設の科学委員会を「法定化」すること など

こうした論点について検討するため、NGO関係者が、市民団体、研究者、行政(国、自治体)の垣根をこえて参加できる「絶滅危惧種保全研究会」の設立を提案。2013年から、この研究会の場で検討を続けてきました。

そして、そこで明らかにされた課題等を広く共有するため、2014年3月6日に、一般にも公開された研究集会を開催しました。

主催は、「野生生物と社会」学会行政研究部会および絶滅危惧種保全研究会。WWFジャパンも共催し、企画と実施にかかわり、約80名の方の参加を得ることができました。

2013年の「種の保存法」の改正時にも力を合わせ、その改善につとめたNGO各団体と研究者は、3年後の次期の法改正に向けて、有益な提言を続けていきます。

たくさんの参加者を得て盛況となった研究集会

研究集会の各報告 要旨

罰則が強化された種の保存法

研究集会の冒頭のあいさつで、環境省自然環境局野生生物課の担当者より、絶滅危惧種の保全に関する取り組みについて話がありました。

改正された種の保存法では、罰則が大幅に引き上げられました。 「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金。法人については1億円以下の罰金」となりました。

これは犯罪の抑止効果をねらったものということです。

種の保存法の改正に関する国会審議では、3,597種の環境省レッドリスト掲載種のうち89種(法改正当時は90種)しか、同法の国内希少野生動植物種に指定されていないことが問題となりました。

つまり、絶滅のおそれがありながら、ごく一部の種しか法的保護の対象になっていないのです。

環境省では、「種の保全戦略」という絶滅危惧種を守るための戦略(正式名称:絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略)をまとめていることが話されました。何をどう優先順位をつけながら施策を講じていくのか、政府の考えをまとめたものです。

種の保存法で種の指定をした後の保全策の有効性などを勘案しながら、今後の取り組みが進められていくことになっています。

【講演】改正「種の保存法」における国内希少種の追加指定の課題

石井 実(大阪府立大学・生命環境科学研究科教授)

大阪府立大学・大学院の石井実教授は、まず昆虫類を例にとりながら、第4次レッドリストの特徴を述べました。

昆虫類はレッドリストを更新するたびに、絶滅危惧種が増加しています。調べるほどに、新たに危機に瀕している種があることが明らかになっていく状態です。

これは、科学的調査の進展と裏腹の関係にあり、種数の増加がそのまま昆虫を取り巻く状況が悪化していることを意味する、とまでは言えません。今でも調査の精度は昆虫目によって異なります。

大阪府立大学大学院の石井実教授

ただし、里山や池沼・水田、河川流域などの環境の変化が起きているのはたしかであり、それにともない生息が困難になる種が生じています。

たとえば、里山では化石燃料の普及にともない薪炭が利用されなくなり、人の手が入らなくなっています。

里山林は遷移し、ギフチョウやオオクワガタなどの昆虫が衰退していっています。

田んぼでは乾田化が進んでおり、農薬の使用もあいまって、水辺に生息するタガメなどに影響が現れています。

昆虫類に迫る危機は、生物多様性に迫る4つの危機と同じということです。 すなわち、

  1. 開発など人間活動による危機
  2. 自然に対する働きかけの縮小による危機
  3. 外来種や化学物質など人間により持ち込まれたものによる危機
  4. 温暖化など地球環境の変化による危機

種の保存法に指定されている昆虫類のうち、小笠原のオガサワラシジミ、オガサワラハンミョウ、オガサワラトンボなどは、小笠原が世界遺産への登録を目指していることもあって、予算規模が大きく、多くの主体が関与しながら取り組みが進められています。

一方、うまくいっていないケースでは、環境省の予算が乏しく、種の保存法に指定されたのみで、一部の市民団体や個人の無償の努力にまかせられている実態があります。

石井教授は、環境省、都道府県、民間団体が適切に役割分担し、パートナーシップを構築することが重要であるとしました。

今では、生息地にいる個体群だけでは危機に瀕する昆虫類の存続が保証されないことから、生息域外保全も考えに入れた上で、"国内希少種保全センター"のような研究機関および施設を設置することを提言として述べました。

【講演】京都府の支援制度で保全団体の活動が進んだ事例の報告

島 純一(京都府文化環境部自然環境保全課)

京都府の自然環境保全課の島純一さんは、京都府が設けた支援制度により、地域の保全団体の活動が、どのように進んだか、その事例の報告を行ないました。

京都府が、国に先駆けて市民による種の指定提案制度を条例に盛り込んだのは2007年。

これは、京都府が絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例で指定している25種のうち7種が府民提案を受けたものです。そして、提案をした保全団体に、その保全活動をまかせています。

京都府文化環境部自然環境保全課の島純一氏

府の登録認定を受けた保全団体は、調査や保全活動をおこなう際、条例に定める規制措置の適用除外となります。また、保全活動のための補助制度を利用することができ、財政的な支援を受けられます。

その結果、生息生育地の調査、外来魚の駆除、シカの防護柵設置、自然観察会の実施などさまざまな取り組みがおこなわれているということです。

一方、登録保全団体が7団体と少なく、今後は団体を増やしていく必要性があり、登録団体にあっても、その多くが若手後継者の育成を課題としているとのことです。

【報告】保全生態学から見た保全の考え方とその実現

鷲谷いづみ(東京大学大学院・農学生命科学研究科教授)

東京大学・大学院の鷲谷いづみ教授は、保全生態学においては、保全の単位を遺伝的に把握した上で、絶滅と隣り合わせの小さな個体群になる前に、衰退要因を取り除く努力を注ぐべきだ、とまず指摘されました。

植物およびそれを利用する生物を専門とする鷲谷教授は、個体群の動向について調査研究を重ね、成長の期待できるソース個体群と減少していくシンク個体群に分けて把握しています。

こうした生成と消滅を繰り返しながら存続する個体群をひとまとまりにメタ個体群として捉え、消失する個体群よりも新たに生まれる個体群が全体として上回れば、そのメタ個体群は存続可能であると判断します。

東京大学大学院の鷲谷いづみ教授

危機にある植物の事例として、カワラノギクが取り上げられました。 河原という太陽の光が強く、高温にさらされやすい環境には、河原固有の植物が生育しますが、そのひとつがカワラノギクです。

しかし、その河原環境へシナダレススメガヤという外来牧草が侵入し、ソース個体群を形成しているところがあります。そのままでは、カワラノギクが急速に減少していく危機感が生まれました。

鷲谷教授は栃木県の鬼怒川中流域で、市民団体とともにシナダレススメガヤを除去する活動を展開しています。あとにはカワラノギクの種子をまき、育てます。

すると、事業を開始した2001年以降急速に回復途上にのったということです。科学と市民参加が連携した順応的管理を続ける重要性を訴えました。

サクラソウについても、各地の保全団体と活動しており、大学の研究室と協働した取り組みがなされています。

こうしたところでは、地域の魅力を高め、郷土愛を育める可能性があると話しました。大学側にあっては、若手研究者の育成が課題となっています。

総合討論

コーディネーター 高橋満彦(富山大学・人間発達科学部准教授)

総合討論では、絶滅のおそれのある生物については、これまでの低予算では対応しきれないこと、種指定をして終わりではなく積極的な保全策が必要であること、特定の種にしぼった保全活動よりは生物多様性の高いホットスポットをまとめて重要生息地として保全する方が賢明であることなどが話されました。

3年後の見直しが附則の第七条に書き込まれていますが、それへ向けて準備すべきことは多々あります。

平成26年春にまとめられる種の保全戦略は、そのままでは任意の戦略でしかなく、実効性が担保されません。

富山大学の高橋満彦准教授がコーディネートした総合討論

附帯決議にも書かれたとおり、保全戦略は法定計画として、進捗状況が国会に報告されるようにする必要性があります。

保全がうまくいっていなければ必要な手だてが講じられる必要がありますが、それも法定計画でなければなされない心配があります。

また、生息地の保護区は現時点で全国に9地区しかありません。この日の集会で示されたように、生息生育地をしっかり保全していくためには、保護区をもっと広げていく必要性があります。

【開催概要】研究集会「絶滅危惧種保全研究会」

日時 2014年3月6日(木)
場所 モンベル品川店2階会議室 東京都港区高輪4-8-4 モンベル高輪ビル
参加者数 約80名
主催 「野生生物と社会」学会行政研究部会および絶滅危惧種保全研究会
共催 WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会
内容 挨拶(環境省:絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略案の説明など) 1)改正「種の保存法」における国内希少種の追加指定の課題
石井 実(大阪府立大学・生命環境科学研究科教授) 2)京都府の支援制度で保全団体の活動が進んだ事例の報告
島 純一(京都府文化環境部自然環境保全課) 3)保全生態学から見た保全の考え方とその実現
鷲谷いづみ(東京大学大学院・農学生命科学研究科教授) 4)総合討論
コーディネーター 高橋満彦(富山大学・人間発達科学部准教授)
質疑応答
備考 この研究集会の会場は、株式会社モンベルのご厚意により提供されました。

関連情報

【参考サイト】参議院のサイト

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