サケ養殖とASC認証


天然の漁獲量を超える養殖サケの生産量

サケは、アメリカやヨーロッパ、日本などで最も親しまれている魚の一種です。天然養殖を合わせた世界のサケ生産量は、需要の増大に伴い1980年代から約4倍に拡大しています。生産量に占める養殖の割合は7割にのぼり、ノルウェーやチリが主要な生産国となっています。

サケは日本国内でも盛んに漁獲されますが、近年は輸入量が増加傾向にあり、ノルウェーやチリで養殖されたサケも多く流通しています。焼き魚やムニエルとしてだけでなく、最近はお刺身や寿司ネタとして人気の養殖サケですが、養殖された地域の自然環境への影響や、他の魚種に悪影響を与えることが懸念されています。たとえば、ウィルスや寄生虫をもったサケが養殖場から逃げ出した場合に、感染症や疾病が海洋に広がってしまうおそれがあることや、餌の原料になる魚が過剰に漁獲されると海の生態系に影響を与えるおそれがあるなど、深刻な環境への影響が指摘されています。

ASCの認証制度は、こうした問題を解決し、養殖が環境保全上も社会的にも責任あるものとなるよう手助けするものです。

サケ養殖の課題

現在、サケのASC基準では主に7つの課題が挙げられています。具体的な課題としては、
(1)生物多様性への影響
(2)エサのための資源と原料の効率的利用
(3)天然魚個体群への負荷
(4)スモルト化(幼魚育成)のための湖沼の利用
(5)地元住民や労働者などに関する社会問題
(6)病気と化学物質の使用
(7)サケの逃走
が挙げられ、これらに対しWWFでは、ASCの養殖認証を推進することなどによって、海域の保全活動を推進しています。

ASC の養殖認証の基準について

責任あるサケ養殖を目指すASC認証制度では、「ASCサケ基準」が策定されています。そこでは、以下の原則の下に、認証のための基準が定められています。

原則1:法令順守

基本的要件として、ASC認証を受ける養殖場は、関連する法的義務(許認可等を含む)を順守していることが求められる。

原則2:自然環境および生物多様性への悪影響の軽減

サケ養殖によって起こりうる自然環境および生物多様性への影響に対処すること。給餌やサケの排泄物により底質環境や水質が悪化しないよう、モニタリングと影響評価を行い、適切な密度で養殖することが求められる。食害生物の駆除にあたっては規定の手順を踏み、養殖場における野生動物の死亡記録は情報を整理し適切な対策を講じる必要がある。

原則3:天然個体群への影響の軽減

養殖場が媒介とする寄生虫(海シラミ)の感染拡大、外来種養殖による野生化、養殖個体の生け簀外への逃げだしにより、天然個体群への影響が出ないよう、適切な対策、モニタリング、リスク評価を実施しなければならない。地域主体の共同管理制度に参加するとともに、NGO、研究者、政府機関との積極的に連携が求められる。

原則4:飼料、廃棄物、化学薬品等の適切な管理

飼料や治療目的以外で使用する化学薬品の利用によって起こりうる悪影響に対処すること。飼料原料はトレーサビリティーを確保し、魚粉、魚油は絶滅危惧種が原料になっていないこと、依存率が一定値以下であることが求められる。遺伝子組み換え作物を飼料原料にしている場合は、情報を開示すること。廃棄物は適切に処理もしくはリサイクルをし、エネルギー消費量、温室効果ガス排出量の記録を付けること。生け簀網の銅加工、防汚剤の使用に際しては規定に従わなければならない。

原則5:適切な病害虫の管理

サケ養殖における病害虫と医薬品処理による悪影響の軽減を目的としており、有資格者による定期的な検診を含む病害虫の管理計画の策定が求められる。主要生産国および輸入国、ならびにWHO指定の化学薬品の使用は認められない。ウィルス性疾病による死亡率は10%以下とし、原因不明もしくは特定疾病による死亡が増加した場合、関連当局への報告、モニタリングその他の対処を行う必要がある。

原則6:養殖場の責任ある管理運営

養殖場は労働者に安全な労働環境を提供し、不合理、不平等な条件で労働を強いてはならない。児童労働、強制労働、虐待的懲戒行為、過剰な残業、不適切な賃金体系は認められない。

原則7:地域社会に対する責任

養殖場は近隣の地域社会との軋轢を軽減し、紛争解決のための努力が求められる。地域組織との定期的な意見交換の場を持ち、地域社会、先住民社会の資源利用に対し配慮しなければならない。

原則8:責任ある幼魚(スモルト)の生産

幼魚の生産にあたり、上記原則1~7に該当する基準を順守する必要がある。取水排水にかかる許認可、労基法の順守、貴重な自然環境や絶滅危惧種への影響調査、リンの排出量や逃げ出した個体数、廃棄物やエネルギー消費量の記録開示、病害虫の適切な管理計画と記録の保持、など。

ASCサケ基準は、タイセイヨウサケ属とサケ属に適用される。

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