「WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクト」は、2004年9月に、WWFジャパンと株式会社ブリヂストンが共同でスタートしました。
これは、琵琶湖流域の水環境を地域市民、行政、企業が一体となって守り、失われつつある、水をめぐる自然と人との関係を取り戻すことを目指した取り組みです。プロジェクト開始から2007年度までは、琵琶湖博物館うおの会の活動をもとにした琵琶湖お魚ネットワークの一員として、琵琶湖の湖東地域で活動しました。
現在は、湖東・湖北地域におけるブリヂストン彦根工場の社員の皆さんによる自然観察会の開催や、地域の自然観察会の支援活動を柱に、琵琶湖流域全体の保全活動への支援も行なっています。

ブリヂストン彦根工場を拠点とした自然観察会
柱となる活動は、ブリヂストン彦根工場を拠点とした、自然観察会の開催や調査活動です。湖東・湖北を中心とした流域河川で、社員の方々が水辺の生き物の観察と調査を実施するとともに、工場周辺の自治体などが主催する観察会や調査を支援する活動も行なっています。
地道な活動を継続した結果、地域住民並びに従業員やその家族、各々の中に地域環境を大切にする意識が芽生え、工場の環境改善活動をはじめ地域における各種の環境活動に主体的に参加する仲間が年々増えてきています。
活動実績
このプロジェクトが立ち上がった2004年には、映像作家の今森光彦さんの協力により、DVD『里山日誌』(小学館)の上映会を開き、工場の皆さんと琵琶湖流域の自然環境についての学習会を行ないました。
2005年1月には、工場の皆さんによる第1回の自然観察会を実施。4月からは、琵琶湖博物館うおの会や地域の多賀町立博物館のサポートを受けながら、参加対象を地域の方々にも広げて、自然観察会を開催しました。
2006年には地域の皆さんとともに環境シンポジウムを開催。2007年からは、地域の皆さんが主催する自然観察会を支援する活動も始まりました。
2009年には主催、支援も含めて年間9回の自然観察会に関わるなど、継続的な湖東・湖北地域の貴重な生物多様性の保全活動を続けています。
自然観察会と調査の意義
琵琶湖流域の湖東・湖北地域の上流域は、アユやビワマスのように、琵琶湖に流れ込む川を遡上し、産卵する、まるで湖を海のように利用して回遊する魚類が生息しています。
また、鈴鹿山系からの豊富な湧き水があり、タカハヤ、カジカなど、きれいな水に生息する在来種による生態系が広がっています。
ところが、こうしたきれいな水環境の生態系は、気候変動や外来生物の進入があれば、たちまち崩れてしまいかねない、微妙なバランスの上に成り立っています。
WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクトでは、この脆弱な生態系のモニタリングと保全を目的として、清流芹川を中心に、湖東・湖北近辺の中上流域に焦点を当てて、自然観察会を開催しつつ調査活動を行なってきました。
調査からわかったこと
1)在来種の生物多様性の確認
現在のところ、調査活動が行なわれた川の流域には、タカハヤ、カジカなどの清流域を好む魚をはじめ、古くからこの地域に生きる在来の魚種が生息しているほか、多くのホタルが観察できるなど、生物が生息する好条件を備えた場所が多々あることが確認されました。
また、これらの川には、季節に応じてヨシノボリやアユなどが琵琶湖から遡上していたことから、魚類の自然で健全な回遊が行なわれていることが、明らかになりました。この結果から、現在も在来種によって構成される生態系と、生物多様性が存続していることが確認されました。
2)外来種の脅威の確認
WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクトのモニタリング調査によって、発見生息数は少ないものの、調査活動を行なった流域にオオクチバス、ブルーギルなどの特定外来生物が、徐々に定着しつあることが観察されました。
この結果、今後のこの地域の在来種による脆弱な生態系が、外来生物によって崩壊する可能性が認められ、継続してモニタリングと防除を行なっていく必要があることが明らかになりました。

豊かな自然が広がる琵琶湖の風景

芹川での観察会

芹川のタカハヤ

カジカ

大田川での観察会

ヨシノボリ
調査からわかったこと Q&A
Q1:調査活動場所はどこですか?
A1:主な調査活動域は、琵琶湖流域の東岸の北よりで、鈴鹿山脈から平野にいたる地域が調査対象地域となっています。琵琶湖流域の呼び名では、湖東・湖北地域と言われる地域です。これらの地域の河川及び農業水路を中心に調査をしてきました。湖東地域では、芹川水系、犬上川水系、宇曽川水系、野瀬川で観察会が行われました。湖北地域では、田川水系でのべ6回の観察会が行われました。
Q2:何回くらいお魚の自然観察会が開かれましたか?
A2:WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクトが、主催もしくは地域支援として関わってきたお魚観察会は2005年~2009年の間で計23回にもなります。湖東地域はのべ17回、湖北地域のべ6回の観察会が開かれました。
2005年は3回、2006年は2回、2007年は3回、2008年は6回、2009年は9回行なわれてきました。プロジェクト全体ではお魚観察会以外にも、ホタルやトンボの観察会やシンポジウムなどの水環境保全にかかわるイベント活動が行なわれました。
Q3:川の上流域、中流域、下流域、どこを主に調べたのですか?
A3:主に川の上流域を中心に主に12の地域で調査してきました。琵琶湖の水面は、海抜80mの標高に位置しています。これを基準に考えると、川の下流域である標高80~100mの場所では、3地域で調査を実施してきました。河川区分では中上流域に相当する標高100m以上の地域では、9地域で調査を行なってきました。

グラフ:主な調査地域の標高
Q4:何種類のお魚たちと出会えましたか?
A4:5年間のお魚観察会を通じて観察できたお魚の種類は、およそ次の22種類です*。ニゴロブナ、メダカ、アカザ、アジメドジョウ、アブラボテ、カジカ類、アマゴ、タカハヤ、アブラハヤ、モツゴ、フナ類、ドジョウ、シマドジョウ、ナマズ、ドンコ、アユ、ヨシノボリ類、オイカワ、カワムツ、カワムツやオイカワのこども、タモロコ、ヌマチチブ、ブルーギル、オオクチバスです。これは琵琶湖の周辺に生息する全魚種の約4分の1に相当します。
(*注:現場で種を見分けるのが難しいフナやヨシノボリについては、便宜上、フナ類を1種、ヨシノボリ類を1種と数えています。)
Q5:どのようなお魚とたくさん出会えましたか?
A5:下のグラフは、観察会を通じて観察できたお魚ごとに、調査した場所のうち何カ所で見られたかを示すグラフです。もっともたくさん出会えたお魚は「カワムツ」と「ヨシノボリ類」です。カワムツはのべ19カ所で出会えました。また、ヨシノボリ類はのべ17カ所で出会えました。カワムツやヨシノボリといった、もともと生息している魚(在来種)が今でも各地に生息しているということは、豊かな自然環境が残っていることを意味します。さらに、琵琶湖流域では希少となってしまったお魚(絶滅危惧種)が発見されました。その一方で、外来生物もみられました。

カワムツ

外来魚のブラックバス
グラフ:出現地点数のお魚ランキング

Q6:希少なお魚たちと出会えましたか?
A6:16種もの魚と出会うことができました。絶滅危惧種のリストをレッドリストといい、環境省や滋賀県などが、それぞれ国レベル、県レベルで作成していますが、これに記載されている魚が、お魚観察会でも確認されました。環境省のレッドリストに登録されている魚種で確認されたのは、ニゴロブナ、メダカ、アカザ、アジメドジョウ、アブラボテ、アマゴ、カジカの7種類。ただし、ニゴロブナは本来の生息地である琵琶湖の湖内から離れていたので、それを除くと6種です。
また、滋賀県のレッドリストに登録されている魚種は、メダカ、アブラボテ、モツゴ、カジカ、アジメドジョウ、アカザ、タカハヤ、ドンコ、ドジョウ、ギンブナ、ニゴロブナ、アブラハヤ、タカハヤ、ナマズ、アマゴ、アユの16種類にのぼりました。ニゴロブナを除いても15種類もの絶滅が心配されるお魚たちと出会えました(表1)。
| 絶滅危惧種 | 環境省レッドリスト | 滋賀県レッドリスト |
|---|---|---|
| ニゴロブナ | 絶滅危惧ⅠB類(EN) | 要注目種 |
| メダカ | 絶滅危惧Ⅱ類(VU) | 絶滅危機増大種 |
| アカザ | 絶滅危惧Ⅱ類(VU) | 希少種 |
| アジメドジョウ | 絶滅危惧Ⅱ類(VU) | 希少種 |
| アブラボテ | 準絶滅危惧(NT) | 絶滅危機増大種 |
| カジカ類 | 準絶滅危惧(NT) | 希少種 |
| アマゴ | 準絶滅危惧(NT) | 要注目種 |
| タカハヤ | 要注目種 | |
| アブラハヤ | 要注目種 | |
| モツゴ | 希少種 | |
| フナ類 | 要注目種 | |
| ドジョウ | 要注目種 | |
| シマドジョウ | 要注目種 | |
| ナマズ | 要注目種 | |
| ドンコ | 要注目種 | |
| アユ | 分布上重要種 | |
| 絶滅危惧種(爬虫類) | 環境省レッドリスト | 滋賀県レッドリスト |
| ニホンイシガメ | 情報不足(DD) |
- 環境省レッドリストのカテゴリー定義は環境省ウェブサイト(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8648)を参照
- 滋賀県版レッドリストのカテゴリー定義は滋賀県のウェブサイト(http://www.pref.shiga.jp/d/shizenkankyo/rdb/index.html)を参照
Q7:特定外来生物は発見されたの?
A7:ブルーギルとブラックバス(オオクチバス)が確認されました。この2種は、環境省に悪影響の大きい魚種として、特定外来生物に指定されています。
5年間のお魚観察会では、太田川や芹川という琵琶湖水系では比較的上流域で環境省指定の特定外来生物であるオオクチバスが確認されました。琵琶湖の湖岸に多く生息し、上流には少ないと考えられていたオオクチバスが、上流域で確認されたことは、その下流域すべてでオオクチバスの悪影響を受ける可能性を示しています。そのため、観察会の結果は、数十年でオオクチバスが急速に生息地拡大をしていることを示し、さらに生息地を広げる可能性を示す科学的に貴重なモニタリング結果になりました(表2)。
| ヌマチチブ | 国内の別の地域から、もともといなかった地域に持ち込まれた国内外来生物。外来生物法で規制されていない。 |
|---|---|
| ブルーギル | 外来生物法の特定外来生物に指定 |
| オオクチバス | 外来生物法の特定外来生物に指定 |
| 外来シジミの可能性ある個体 | 外来生物法の要注意外来生物に指定 |
| シナヌマエビの可能性のある個体 | 海外から入ってきた国外外来生物。外来生物法で規制されていない |
Q8:つまり何がわかったの?
A8:WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクトが関わってきたお魚観察会の場所が、「絶滅危惧種が生息し、外来種が少なく在来種による『生物多様性』が維持されており、琵琶湖流域でも貴重な場所であること」を確認することができました。
その一方、これらの貴重な場所が、「外来生物の侵入による生態系の破壊の危機に瀕していること」も判明しました。
Q9:これからの予定は?
A9:今まで調べてきた芹川水系や犬上川水系などを中心に、継続的にモニタリング活動をして、すんでいる生き物たちを見守っていきます。

美しい芹川の上流域

外来魚のブルーギル
琵琶湖の流域全体を対象とする保全活動への支援
琵琶湖流域では、市民の環境意識が高く、市民により、自然観察会や調査といったモニタリングによる保全活動が各地で行なわれています。
しかし、市民が継続的に流域の生態系をモニタリングするためには、環境情報の共有と、流域各地での活動の拠点となる施設の存在が重要となります。
そのため「環境の情報のネットワークを持ちつつ、流域各地域での環境保全活動の拠点を形成すること」が、現在の琵琶湖流域の保全活動に必要な「社会システム」と考えられます。
そこで、WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクトでは、流域全体を見据えたモニタリング調査や、その継続に必要な施設間の環境情報のネットワークを構築するため、次のような支援を行なっています。
1)市民による魚類モニタリング調査ネットワークへの支援(琵琶湖お魚ネットワーク)
琵琶湖流域の魚類の分布について、琵琶湖博物館うおの会の統一マニュアルを使い、市民参加によって魚類調査データを集めることを目標として、2005年から2007年にかけて構築されたネットワークが、琵琶湖お魚ネットワークです。
琵琶湖博物館うおの会を事務局として、ボテジャコトラストや琵琶湖を戻す会、滋賀県立大学などの大学院生らが中心となって、市民による魚類調査活動を普及してきました。WWF・ブリヂストンびわ湖生命の水プロジェクトでは、地域住民らによるこの活動を支援してきました。
2005年から2007年まで支援が続けられ、その間だけでも、琵琶湖お魚ネットワークは、総計1万1,700地点ものデータを集めました。集まったデータからは、外来生物の分布状況など、保全政策に重要な情報が得られたということが、琵琶湖お魚ネットワーク交流会などで報告されました。(ページ下参照)
その成果は、2009年7月から、滋賀県立琵琶湖博物館で展示されています。
なお市民による魚類調査を通じての保全活動は、琵琶湖お魚ネットワークとしての活動終了以降も、「だれでもどこでもお魚調査隊」として、琵琶湖博物館うおの会が主体となって引き続き行なわれています。
2)琵琶湖流域における保全活動拠点施設ネットワーク形成への支援(環境と科学のフェスティバル実行委員会)
琵琶湖流域は、国際的な湿地保全条約「ラムサール条約」の登録地であり、世界でも貴重な自然が残っている地域です。
ラムサール条約のガイドラインには、流域レベルの自然生態系の変化を継続的にモニタリングして、保全活動に応用していく方法が望ましいとあります。市民が流域レベルのモニタリングを続けるには「各地域に保全活動の拠点があり、さらに、拠点施設間に環境情報の連携があること」が重要となります。
そこで各地域の博物館など拠点施設の連携を促すことを目的に、関係者らの有志により「環境と科学のフェスティバル実行委員会」が構築され、本プロジェクトの資金的な支援によって、2008年と2009年に「環境と科学のフェスティバル」が開催されました。拠点施設の担当者が一つの場所に集まり、自然科学と環境をテーマとした、親子向けの展示・実験・体験ワークショップを実施しました。
また、各館のさらなる連携を目指して、タンポポ調査にも取り組むなど、参加施設の環境情報ネットワークの展開も見られました。
この取り組みには、以下の3つの利点があります。
- 多くの市民が環境と科学を体験し楽しみながら学べる
- 拠点施設の専門性を生かした体験イベントを通じて各地域の拠点施設の認知度が上がる
- 異なる専門をもつ施設関係者間の円滑な環境情報共有ネットワークが構築される
こうした専門性を超えた環境情報ネットワークは、例えば、植物を専門とする拠点施設でも、魚類の質問や情報が入れば、すぐにネットワークを介して、魚類を専門とする拠点施設へ助言を依頼することが可能となります。
つまり、各地域拠点は専門性を超えた環境問題のモニタリングに対応できるようになり、流域レベルでの継続的な市民モニタリングへの貢献が期待できます。
WWF・ブリヂストン びわ湖生命の水プロジェクトでは、2010年も、このようなイベントの継続を資金的に支援することにより、流域の拠点施設と関係者のネットワーク化の推進に貢献したいと考えています。









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