意見書 2010年3月5日
WWFジャパンは、地球温暖化問題への対応を国の法体系の中に明確に位置づけることは重要であると考えており、地球温暖化対策基本法設立へ向けての議論を歓迎します。しかし、現在行われている法案の議論に関しては、重大な懸念があります。特に排出量取引制度については、原単位による排出枠設定ではなく、総量での排出枠が設定されなければなりません。
以下は、現在の法案議論に対する意見です。
「中長期的な目標」について
- 「25%削減」の条件をより建設的な形にする:「25%削減」目標については、国際合意がなければ目標がなくなるような表現は避けるべきである。ましてや、国際合意が無い場合に、国内削減目標と共にその実現のための政策も全て放棄するような表現が同法案に存在してはならない。そのような表現は、日本の非建設的な姿勢を内外に印象付け、国際合意の成立可能性そのものを阻害しかねない。
- 「脱炭素化」を目指す:長期目標として、原則としては80%以上の削減を求め、最終的には排出量を(技術的に不可能な部分を除き)ゼロにすることを目指すことも言及すべき。
- カーボン・バジェット概念を採用し、中長期にわたる排出削減のプロセスも明確にする:中長期の目標を基礎として、英国の気候変動法でも採用されているカーボン・バジェット(炭素予算)の概念を採択するべき。2020年や2050年という特定の年での目標はもちろん重要であるが、そうした「断面」だけに着目するのではなく、2050年までの「期間」に、一体どれだけの温室効果ガス排出量が許される(削減が求められる)のかを量的に把握し、それをある種の予算として扱って管理することが必要。今後講じる全ての政策・対策・施策は、炭素予算の収支を十分に考慮した上で、制度設計を行うものとする。そして、その予算は、気候変動の最新の科学によって見直され、修正が行われるものとする。
「基本計画」について
- 基本計画の要件の追加:基本計画は、2050年長期目標達成へ向けての大きな方向性を示す計画と、2020年中期目標達成へ向けての具体的な政策・対策を示した詳細な計画の2種類から構成されるものとするべきである。
「基本的施策」について
- 導入年度の明示:いずれの制度も、可能な限り早期に導入することが望ましい。排出量取引制度は、2012年度からの導入(2013年の本格運用)とするべきである。
- 排出量取引制度は原単位を基礎とするのではなくあくまで総量を対象とする:排出量取引が環境政策として意味を持つのは、確実な総量削減につながるからである。その大前提を崩すような原単位方式の採用は避け、あくまで総量での削減ができるような制度としなければならない。ただし、ベンチマーク方式の採用は問題ない。
- ボトムアップ型ではなくトップダウン型のキャップ&トレード:現行の基本法案は、「個別の排出者の排出許容量」→「全体の排出許容量」という順に決めるボトムアップ型の排出量取引になる可能性がある。むしろ、「全体の排出許容量」→「個別の排出者の排出許容量」という順に決めるトップダウン型のキャップ&トレードを目指すべきである。そうでないと、1)「許容限度を定める方法」が排出者ごとの多種多様な事情に配慮しすぎた形で作られ、結果として、最も重要な「全体としての」削減量の確保が犠牲にされる、2)「キャップ」とは本来「全体の排出許容量」を指すが、個別企業の削減目標=キャップという誤った理解が助長され、制度に対する理解が妨げられる、といった危険性がある。
- 大規模排出者の直接排出を対象とする:キャップ&トレードの対象は、主要な産業部門を含むものとし、特に大量に排出する電力部門をカバーできるよう直接排出を対象とすることを明記する。エネルギー・産業部門を含まないキャップ&トレードは、著しく環境十全性を損なう。また間接排出を対象とすると、排出削減の責任があいまいになる恐れがあり、将来的に世界の排出量取引制度とリンクする際の整合性も難しくなる。間接排出に対しては、また別のインセンティブを与える制度を考慮することができる(後述)。
- 「日々の暮らしにかかわる取組」に省エネコンシェルジュを追加:家庭での排出量削減を促進する制度として、家庭での省エネを診断・助言するサービス(省エネコンシェルジュ)を制度として導入することを検討する(※注)。
- 業務部門の間接排出量を対象とした排出量取引制度の導入の追加:東京都が実施している排出量取引制度や英国のCarbon Reduction Commitment 制度のように、業務部門の間接排出量に対して、通常の国内排出量取引制度とは別の排出量取引制度の導入を検討する(※注)。
- 建築基準法と連携した建築物・住宅への基準導入:新築の建築物・住宅および増改築の際に、省エネ等の基準を満たすことを義務付けるべき。
- 運輸部門に対する排出量取引制度適用の検討:運輸部門については、燃料の購入段階に制度を導入することで、通常の排出量取引制度とは違った形での排出量取引制度を導入する可能性を検討する(※注)。
※以上で述べた制度の詳しい内容については、WWFジャパンの『脱炭素社会へ向けたポリシーミックス提案』を参照されたい。 URL:http://www.wwf.or.jp/torihiki/
追加すべき事項
気候変動委員会(仮称)の設立
- カーボン・バジェットの維持および適応対策に関する科学的知見に基づいた助言を行う機関として、気候変動委員会を設立する。
- 同委員会は、自然科学、社会科学などにおいて優れた学識を有する者、及び気候変動を専門とする環境市民団体の代表者などの専門家から構成され、政府に対して、第三者的な立場から助言を行う。政府は、その助言を参考にしなければならない。
- 委員の任命に当たっては、十分な公平性と透明性を確保する。
- 同委員会は、毎年、カーボン・バジェットの維持とその達成のための政策提言、および適応対策に関する提言を含む報告書を国会に提出する。政府は、この報告書に提示された助言については応える義務が生じる。
2010/3/05
キーワード
削減目標, 原子力, 地球温暖化対策基本法, 排出量取引
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