世界の"トラ"ブル スポット10カ所
この「“トラ”ブルスポット10カ所」は、世界各地で野生のトラを脅かす要因を、WWFが地図上に表記したもので、トラとその生息環境の保全に向けたポイントをアピールしたものです。
【スポット1】インド: トラと人との「衝突」
インドでは、トラの生息地の減少と、人間側の人口の増加が重なったために、人間とトラの間でさまざまな衝突が起きています。
このことはインド全土にわたって共通しており、保護区であるコーベットやカジランガなどの国立公園も、例外ではありません。
トラと人間の衝突は、人間にとっては生命や財産を失うことになり、トラは報復的に殺されたり、密猟や密輸の危険にさらされる大きなきっかけになります。
【スポット2】バングラデシュ: トラの生息地を海が浸食
WWFが発表した研究によって、バングラデシュのスンダーバンズ(サンダルバンズ)地方にすむトラの生息地は、今世紀中に96パーセントが失われるかもしれないことが判明しました。
これは地球温暖化が影響していると考えられる海面上昇のために、トラの生息地となっているマングローブ林の浸食が始まっているためです。
世界自然遺産にも登録されているスンダーバンズのマングローブ林が、もし本当に失われることがあれば、トラはホッキョクグマと並ぶ、地球温暖化による初期の犠牲者となるでしょう。
【スポット3】ロシア: 違法伐採と密猟
チョウセンゴヨウ (ゴヨウマツの仲間)など、極東ロシアの生態系を支えている樹木が、木材としてさかんに伐採され、利用されています。
この木材の需要が増すにつれ、シベリアトラ(アムールトラ)の生息地である森が狭まってきており、トラが人里に現れるケースも報告されています。このような事態は、もともと数の少ないトラが、さらに密猟の犠牲になるきっかけにもなっています。
極東ロシアから輸出される木材には、違法伐採されたものも多く混入していると推定されています。密猟対策や持続可能な木材生産の取り組みが始まっていますが、トラの生息数は今も少なく、危機的な状況にあります。
【スポット4】中国: トラへの根強い需要
中国では長い間、漢方薬などの伝統的な薬の原料に、トラの体の一部分(骨や生殖器など)を利用してきました。この需要が、依然として根強く残っているため、このことが密猟の引き金になっていると懸念されています。
また、中国国内で、現在は禁止されている、トラの骨などの売買が解禁されるタイミングを狙って、トラを飼育したり、トラの体の一部分を備蓄する事業者もいます。
幸い、中国政府はワシントン条約のもとで、トラの骨などの取引禁止を継続すると発表。2009年12月には、中国国家林業局がトラの違法取引への対策を、生息地の管理と併せて強化することを発表しました。中国は、周辺諸国と協力し、国境を越えたトラの保護活動に、強い意欲を示しています。
【スポット5】ベトナム: ブラックマーケット
2009年10月、ハノイで冷凍されたトラの死骸2体が見つかりました。これは、トラの密猟が行なわれている事実を示す、氷山の一角にすぎません。トラの体の一部分が押収される事例が、ベトナムをはじめ、アジア諸国で増加しているためです。
この背景には、トラの骨や生殖器などが、強壮剤や伝統的な薬の原料として、肉が食用として、毛皮がファッション・アイテムとして、高い需要がある事を物語っています。
アジアの伝統的な医学を教えているほとんどの学校では、トラをはじめとする、さまざまな希少生物を、薬などの原料に用いることを、徐々に廃止してきています。
にもかかわらず、ブラックマーケットは依然として繁盛しています。また、こうした違法な取引は、アメリカやヨーロッパなどの大都市で摘発されることもあります。
【スポット6】アメリカ: 飼育下のトラが野生に及ぼす影響
現在アメリカでは、野生のトラを上回る数のトラが飼育されている(約5,000頭)。そして、アメリカの連邦法や州法では、これらの飼育下にあるトラの売買が、十分に規制されていません。ブラックマーケットを生むことにつながる、法律の大きな抜け穴が空いているのです。
現在のアメリカでは、国内のどこで、何頭のトラが飼育されているのか、誰がそれを所有し、どこに移動しているのか、また、そのトラたちが死んだ時、骨などの体の部分がどうなっているのか、ほとんど管理されていません。
このような、管理されていないトラの骨などが、国際的な密輸ルートに流れるようなことになれば、需要の拡大を呼び、さらなる野生のトラの密猟を引き起こす可能性もあります。
【スポット7】ヨーロッパ: 巨大なパーム油の消費地
ヨーロッパの国々は一年間に580万トンのヤシ油などのパーム油(パームオイル)を輸入しています。このパーム油は、口紅などの化粧品、アイスクリームなどの食品、洗剤など、実にさまざまな製品に使われています。
しかし、このパーム油の生産には、自然環境の大きな犠牲が伴っています。
熱帯林を広範囲に切り開き、パーム油を生産するためのプランテーション(巨大農場)が作られているためです。
このような事態が、スマトラトラやマレートラの生息地である、インドネシアやマレーシアの森林でも頻発しており、トラの危機をより大きなものにしています。
森を壊さず、持続可能な形でパーム油を生産するための取り組みが始まっていますが、パーム油への需要はそれを上回る勢いを見せています。
【スポット8】ネパール: 違法取引の交差点
ネパールは、アジア南部からチベット自治区を含む中国へ、違法なトラ製品が流れる主要な交差点となっています。
インドやネパールのトラ保護区から、チベットの伝統的な衣装に使われるトラの毛皮や、アジア地域の伝統薬の原料となるトラの骨など、たくさんの違法な野生生物由来製品が、首都のカトマンズなどにあるとみられる仲買人の地下ネットワークを通じて流通しているのです。
【スポット9】メコン川周辺: 無計画な開発による影響
メコン川流域に位置する各国(カンボジア、中国、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)の発展は、かつてないほどのペースで進んでおり、ダムや道路の新設が、何百件も計画されています。
こうした計画には、環境への配慮が含まれていないものが、多く含まれていると見られ、環境破壊につながる可能性が高いと指摘されています。
これらの事業が行なわれた結果、流域の自然は破壊され、密猟者が容易に近づけるようになるばかりでなく、トラや人間をはじめ、さまざまな生きものの未来を保障するはずの自然度の高い地域が分断されてしまうおそれがあります。
WWFが最近発表したレポート「Tigers on the Brink」は、メコン流域のトラの個体群が急減していると指摘しています。
【スポット10】インドネシア、マレーシア: パルプ、紙、パーム油、そしてゴム
インドネシアに生息する唯一のトラの亜種、スマトラトラは、野生に400頭ほどしか残っていない絶滅寸前の状態にあります。トラだけでなく、オランウータンやアジアゾウ、スマトラサイのふるさとでもある、スマトラ島の熱帯林が、急速に失われつつあるためです。
森は今、世界中からの需要が集まる、紙とパーム油を生産するために、プランテーションへと姿を変えています。1985年から2008年のあいだに、スマトラ島の森は、3,100万ヘクタール余りから、1,250万ヘクタールへと半減してしまいました。その3分の1以上は、トラやゾウがすむスマトラ中部のリアウ州で起きており、この地域固有の生物多様性を消滅へと追い込んでいます。
また、マレー半島では、連邦政府が、「マレートラの個体数を2022年までに倍増する」という意欲的な目標を掲げる一方で、州政府は、木材の切り出しを増加させ、森林をゴムとパーム油のためのプランテーションへ転換する方針を掲げており、保護と開発のせめぎ合いが続いています。




