COP15:議定書AWGおよびCOP/MOPでの議論の報告
議定書AWGでは何が議論されたのか
今回の議定書AWGは、基本的に、これまでの議論をそのまま継続しました。具体的には、4つの分野が対象となりました。
- 1つ目は、このAWGの主要議題である先進国の削減目標です。この分野は、削減の「数値」目標を議論するので、通称ナンバーズ(numbers)と呼ばれています。
- 2つ目は、先進国が目標達成のために使うことができる柔軟性メカニズム(排出量取引、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM))、吸収源、そして、新しい温室効果ガスの種類等についての議論です。これら3つの分野は合わせて、「その他の争点」(Other Issues)と呼ばれていました。
- 3つ目は、温暖化対策がとられることによって生じうる波及的効果です。これは「潜在的帰結」(potential consequences)と呼ばれました。
- 4つ目は、議定書の改正に関わるさまざまな法的問題を取り扱う「法的事項」(legal matters)です。
これらの分野ごとに、コンタクト・グループと呼ばれる分科会が作られ、議論が進められました。
ただし、2つ目の「その他の争点」に含まれるメカニズム・吸収源・ガス等の方法論は、個々に大きな論点であったため、実質的には時間を分けて別々の論点として扱われました。
また、4つ目の「法的事項」のグループは、他の分野の議論の中で、必要なときにのみ議論されることになっていました。
以下では、4つの分野のうち日本に特に重要であった、先進国の削減数値目標の議論について解説します。
また2つ目の分野の「その他の争点」のうち、メカニズムに関する議論のみ、別の報告書でより詳細にご紹介します。もちろん、残りの3つの分野も決して重要でなかったわけではありませんが、残念ながら、全ての議論をここでご紹介することはできません。
- COP15・COP/MOP5における「メカニズム」の議論 [後日掲載予定]
先進国の削減数値目標の議論
議定書AWGの議論が先行するべきかどうかをめぐる対立
議定書AWGの議論は、4年前に設立された時から、最終的には先進国の目標を決めることを目的として行なわれてきました。その意味では、本来、このプロセスが持つ役割はシンプルなはずです。しかし議論は、4年という時間経過の割にはあまり進んでいません。
前回のバルセロナ会議までに、主要な先進国のほぼ全てが、温室効果ガス排出量削減の中期目標を自主的に発表していました。したがって、個別の国の目標に関して議論を開始しようと思えば、できる状況にはなっていました。
しかし先進国は、この議定書AWGの議論のみが先行してしまうことに、大きな危機感を抱いています。
議定書AWGの議論は、あくまで「京都議定書に参加している」先進国の目標しか対象にできないため、アメリカの削減目標や途上国の削減行動について議論できません。したがって、ここでの議論が先行して、京都議定書に参加している先進国の目標のみが改定されると、アメリカの目標や途上国の削減行動の議論が停滞してしまう可能性があります。オーストラリア、日本、ニュージーランド、EUなどは、この危機感から議定書AWGの議論を先行させることに消極的でした。
他方、途上国は、ここでの議論が進展すること自体が、先進国が歴史的な責任をきちんと取ることの象徴だ、と考えるようになっていました。また京都議定書の条文自体に、この議論を進めるべき明確な根拠があると、再三に渡って強調してきました。
こうした先進国・途上国の対立は、なかなか解消されないまま、議論の進展を遅々としたものにしていました。
届かない「野心のレベル」
もう1つ、議論の進展を妨げた要因があります。それは、先進国が自主的に発表してきた目標が、途上国が要求していた水準よりはるかに低かったことです。
途上国はこれまで、先進国全体の目標として、2020年までに1990年比で40%以上の削減を主張してきました。小島嶼国連合(AOSIS)や後発開発途上国(LDC)グループは、これより更に踏み込んで、少なくとも45%以上の削減が必要だと主張してきました。
この「40%」という数字の根拠は、IPCCの第4次評価報告書にある、大気中の温室効果ガス濃度を450ppmに抑制するシナリオの上で、先進国に必要な削減幅である「25~40%削減」の上端をとったと理解されています。
一般的にこのシナリオは、地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して「2℃未満」に抑えるのに、必要な水準として理解されています。AOSISやLDCグループが主張する「45%」は、さらに踏み込んで、温度上昇を「1.5℃未満」に抑えるために必要なシナリオで必要とされる数値です。
先進国がこれまで自主的に発表した目標は、前提条件が異なったり、EUのように条件づけをしたりしているケースもあるので、全体の目標数値を計算するのは難しくなっています。
しかし、AOSISが行った試算によれば、吸収源を除外した数字では、先進国全体で11~19%の削減にしかなりません。研究機関や研究グループが行っている試算も似たようなものが多く、総じて、先進国の「野心」が、途上国が必要と考えるレベルには届かないことは明らかでした。
しかし、先進国としては、現状で目標を引き上げることは、ほとんどの国にとって選択肢として存在しませんでした(ノルウェーのように、前回の会議で引き上げた国もありましたが)。ましてや、巨大排出国のアメリカの目標と一体で議論しなければ、現実的な議論はできないと主張していました。
このように、先進国の削減目標数値の具体的な議論は、なかなか進められない状況があり、どちらかといえば、削減数値目標そのものに関するよりも、削減数値目標「周辺」の議論に集中しました。具体的には、前回のバルセロナ会議でも議論になった、基準年や約束期間の長さ、そして、オフセットや吸収源利用の割合に関する議論です。
基準年
基準年について議論になったのは、1990年を「法的拘束力のある」基準年とするのか、その他の年も基準年の選択肢に入れるのか、という問題です。
日本やカナダなどは、1990年を「法的拘束力のある」基準年としてしまうと、自国目標の基準年を2005年としているアメリカが参加する障害になると考え、その他の年も選択できるようにすることを主張しました。これに対し途上国グループは、京都議定書と同じ1990年を、公式基準年とするべきことを主張しました。
基準年の議論は、理論上はそれほど大きな意味は持たないはずです。
たとえば、「1990年と比較して10%削減」という目標を、「2005年と比較してX%削減」と換算しなおすことは、データさえあれば容易だからです。またデータの厳格性から見れば、なるべく最近の年にした方が良いという考え方もあり、実際、先進国はそのように主張します。
しかし、実際にはこれが対立点となるのは、途上国が京都議定書からの継続を特に重視しており(目標が上がっているのか、下がっているのか、一見して分かるようにという意味で)、先進国が基準年の変更を主張するのは、1990年以降の排出量増加を覆い隠したいと考えているからだ、という不信感を持っているからです。
実際、排出量を1990年から増やしてしまっている日本のような国は、もし基準年を2005年にずらせば、実際の削減量はそのままで、目標数値は大きくなります。
逆に排出量を減らしている国は、実際の削減量は保っても、削減数値が小さくなってしまいます。実質的な削減量に比べ、対外的な「イメージ」は随分と変わります。
日本にとっては、前政権では2005年を基準として自国目標を発表したため(2005年比15%削減)2005年に固執した面がありましたが、新しい目標は1990年比25%削減であり、大きな争点にはなりません。しかし上述したように、アメリカの再参加に少しでも障害になりうる争点は外した方がよいという観点から、2005年も基準年として選択可能な主張をしているようです。
この対立は前回の会議でも見られましたが、結局今回も合意に至りませんでした。
約束期間の長さ
現在、先進国の目標として議論されているものは、全てが「2020年」を目標年次として発表されていますが、実際に各国が削減目標として負うことになる約束の期間の長さは、必ずしも一致するとは限りません。
約束期間の長さについては、5年(2013~2017年)を主張する途上国と、8年(2013~2020年)を主張するEUや日本の間で意見が対立しています。こちらも、前回以前から続いている議論ですが、今回も対立は解消されませんでした。
途上国側が5年にこだわる理由は、京都議定書からの継続を重視するという点と、もう1つは、目標の立て直しのタイミングを早くできるという点があります。既に述べたように、先進国の「野心」はこのまま行けば、あきらかに必要なレベルに達しません。
そこで、5年という短い時間で、新しい科学的知見を基に目標を強化するタイミングを早く作りたいとの思いが、特にAOSISや後発開発途上国にはありました。2014年にはIPCCの第5次評価報告書が発表される予定になっており、これを議論の根拠とすることを、これらの国々は念頭においています。
他方、EUや日本などの先進国が8年を主張するのは、第3約束期間の目標を再交渉するまでの期間があまりに短く、現実的でないと考えているからです。2014年に第5次評価報告書が出たとして、翌年の2015年に交渉を開始しても、決着を2015年中につけなければ、新しい目標を含む合意の、批准に必要な時間の確保が難しくなります(2016年に必要国が批准完了→2017年発効)。こうした実際上の難しさもあるため、先進国は8年の期間をとるべきと主張しています。
本質的な意見対立というより、実施上の問題であるため、歩み寄る余地が残されていそうなのですが、他で築いてしまった相互不信もあるせいか、なかなか議論が進まない状況にあります。
オフセット/吸収源の利用割合
先進国が自主的に発表した2020年までの中期目標では、それぞれどれくらい国内で削減し、どれくらいオフセット(海外削減)に頼り、そして、どれくらいを吸収源に頼るのかの想定がはっきりしていません。独自の想定を置いているため横並びの比較が難しく、目標の適切さが正しく把握しにくい状況があります。
ここから、各国が目標のどれくらいまで国内削減するのかを明らかにすべきだという要求が、主に途上国からあり、その情報を前回から各国が提出し、条約事務局が整理するという流れになっていました。
しかしここにも、オフセットの使用量を事前に確定するのは難しいという国(EUやニュージーランド)や、吸収源のルールによって採用できる数字も変わるという国(EU、オーストラリア、ニュージーランド)、国内の議論が進んでおらず、具体的な内訳を決定できていない国(日本)など、さまざまな事情があり、情報は徐々に出てきてはいるものの、奇麗に比較できる状況にはありません。
表 1は、条約事務局が12月8日の時点で整理した表を転載したものです。吸収源とメカニズムの利用に関する情報は、中身を数字で出している国がある一方、単に使用することを宣言しているだけのところもあり、バラバラです。
表 1:先進国各国の削減目標と吸収源・メカニズム利用の割合

先進国全体の目標
議定書AWGの議論は、第2週目の半ばからは、多くの会合が非公開で行なわれました。
その中で、上述の3つの論点に関する議論の他に、若干議論があったとされるのが、2020年もしくは第2約束期間の先進国全体の目標に関する議論です。
京都議定書では、先進国は全体として、2008~2012年の第1約束期間の間に、少なくとも1990年比5%の削減をしなければならないと第3条1項に書かれています。先進国全体の削減目標の議論は、具体的には、この条文をどう改正するかという形で行なわれたようです。
しかし、議論は平行線のままで、テキストには他の箇所と同様に複数の選択肢が並列される形となりました。
前述の通り途上国は、先進国全体で40%以上の削減を求めており、中でもAOSISやLDCグループは45%以上の削減を求めています。交渉途中のテキストには、この45%削減という数字や、ボリビアなどの国々が求めている2013~2017年に49%削減という数字、EUが提案している30%削減という数字、そして合意ができていないことを示すX%という標記などが残っています。
余剰割当量(Surplus AAUs)
以上の議論は、過去の会議論点の継続という面が強いのですが、今回新たにクローズアップされた論点もあります。それは、一部の先進国で生じる余剰割当量の扱いという問題です。
ロシアや一部の東欧諸国は、1990年以降の経済停滞により、温室効果ガス排出量が大幅に減っています。この排出量の減少により、これらの国々は特段の対策をとらずとも、京都議定書の目標を達成するどころか、大量の余剰割当量が発生しています。
この余剰割当量は俗に「ホットエア」と呼ばれますが(「ホットエア」には「たわ言」の意味があり、空気(排出量)のエアにかけたもの)、このホットエアを、2013年以降の第2約束期間に持ち越してもよいかという問題です。
この余剰割当量の大きさがそれほど大きくなければそれほど問題にはならないのですが、AOSISの試算によると、その量は100億トン(CO2換算)にものぼると言われています。100億トンという数字は極めて大きな数字です。日本の年間の排出量が約14億トン、アメリカの年間排出量が約70億トン程度であることを考えれば、その影響が極めて大きいというのがわかると思います(ただし、この100億トンは1年間の数字ではなく、第2約束期間全体での量です)。
これがもし第2約束期間の先進国の目標に使われるようなことがあれば、最悪のケースでは、先進国の排出量は1990年よりも削減どころか増加になってしまうと、AOSISは警告しています。
この問題について、具体的にどのような議論がされたのか(あるいはされなかったのか)、残念ながら非公開であったために詳しい様子は分かりません。議論の経過を示すものとして出てきた文書には、この点についてほとんど語られていません。これは、第1約束期間に作り出された負の遺産が、文字通り第2約束期間に引き継がれることを意味するため、非常に重要な問題です。
1つの解決策は、余剰割当量を次の期間に持ち越せないようにする(“バンキング”を禁止する)ことです。ただし、これにはロシアを始めとした国々が当然反対するのに加え、難しい問題も孕んでいます。なぜなら、「ホットエア」のように元々の目標が緩すぎて余ってしまった割当量と、目標は適切であり、かつその国が頑張って削減努力をしたが故に割当量が余ったケースとを、客観的に区別するのが難しいからです。
後者のケースはむしろ奨励されるべきなので、それまで禁止してしまうと、頑張れるはずの国が頑張らなくなってしまうという結果を招いてしまうかもしれません。これには、バンキングはしてもよいが、他国への売却は禁止するなどの形での、対処が必要になるでしょう。
いずれにしても、今回の議論では、この問題については結論を出すことができませんでした。
結末:たどり着けなかった個別の先進国目標についての議論
前節の冒頭で述べたように、議定書AWGの議論は、そもそもこの議論が先行するべきかどうか自体について、先進国と途上国の意見に不一致があり、議論の「本丸」である個別の先進国目標の議論まではたどり着きませんでした。
途上国側は、当然、この議論に到達することを望んでいたわけですが、先進国側としては、条約AWGの議論との統合が図れない現状で、こちらの議論を先行させるわけにはいかないので、両者の主張は真っ向から対立してしまっています。その対立を解消できないまま、時間切れとなってしまいました。
本来ならば、第2週目の前半で議定書AWGには一応の結論が得られ、その結論がCOP/MOPに報告された後、COP/MOPが何らかの決定を下す、というのが形式上の理想型でした。
しかし現実には、一応、議定書AWGは第2週目の水曜日に終了し、その結果はCOP/MOPの総会で報告されたものの、中身はとても決定に繋げられる段階ではなかったので、実質的な議論は以下のように、再び議定書AWGと同じ枠組みで続けられました。
議長国のデンマークは、議定書AWGおよび条約AWGの議論をベースに、独自の新しい合意文書案を出したいと考えていたようでした。しかし、その「案」の作成を一部の国々の間で行なったことで、途上国の一部からはプロセスが不透明だという非難の声が挙がってしまいました。
そして結局、議長国としての「案」は公式に提示されることはなく、あくまで議定書AWGおよび条約AWGの既存の文書をベースに議論は進められるべき、という多くの途上国の主張が通りました。
これにより、COP/MOPの議長であるデンマークのラスムセン首相は、第2週目の木曜日(17日)、条約AWGと議定書AWGそれぞれのテキストを引き続き議論する、コンタクト・グループを作ることを宣言しました。
そこで議定書AWG側のコンタクト・グループにおいて、再び、1)先進国の目標、2)吸収源、3)メカニズム、4)新しいガス等の方法論、5)潜在的帰結という5つの分野について、ドラフティング・グループと呼ばれる作業部会を作り、議論をすることになりました。
このグループで非公式に議論は継続されましたが、どの論点も合意を得ることはできませんでした。この後の議論をどの形でやっていくのかの検討も行なわれましたが、議論はきれいな決着を見ないまま、次回に全てが持ち越しになってしまいました。
したがって、形式上は議定書AWGが継続することになっており、議論のベースは、16日の段階で報告されたFCCC/KP/AWG/2009/L.15という文書になると考えられます。しかし、上述のように、議定書AWGがCOP/MOPに公式報告をした後にも議論は継続したため、実際の交渉官の手元には、また別のテキストが存在しているかもしれません。
今後、どのような議論が、何に基づいて行なわれるかはっきりしないまま、議定書AWGとCOP/MOPは終了したことになります。
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