条約と議定書 開催された2つの会議
2009年12月7日から19日まで開催された、国連気候変動コペンハーゲン会議は、正確に言えばCOPとCOP/MOPの2つの会議が同時に開催された会議でした。
それぞれの意味を説明すると、まずCOPは、「締約国会議(Conference of the Parties)」の略で、国連気候変動枠組条約の締約国会議という意味です。今回は、その第15回目に当たったので、COP15と呼ばれました。
も う片方のCOP/MOP(もしくは更に縮めてCMPとも書きます)は、「締約国会合として機能する締約国会議(Conference of the Parties serving as the Meeting of the Parties)」の略で、京都議定書の締約国会議という意味です。今回は、その第5回目に当たっていたので、COP/MOP5もしくはCMP5と呼ばれ ました。
2つのAWG(アドホック・ワーキング・グループ)とその役割
さらに、これら2つの会議の他に、条約AWG(AWG LCA)と議定書AWG(AWG KP)という2つの作業部会も開催されました。
これらは、それぞれ、上の2つの会議の下に作られた作業部会に当たり、通常は年に1回しか開催されないCOPやCOP/MOPに加えて、追加的に必要な議論を行なう場として、これまで開催されてきました。
今回の会議では、形式上は、途中まで条約AWGと議定書AWGの議論が継続され、その作業結果の報告をCOPとCOP/MOPが受取り、そして、それを踏まえた決定をCOPとCOP/MOPが下す、という形式がとられました。
条約AWGと議定書AWGの2つの交渉プロセスは、共に2013年以降の国際的な枠組みを作るためのプロセスです。これらのプロセスは、別々の時期に発足し、それぞれに異なる役割を持っています。
条約AWGは、2007年の国連気候変動バリ会議(COP13・COP/MOP3)の際に、バリ行動計画の中で設立された交渉プロセスです。条約AWGは、議定書AWGよりも幅広い論点を扱うプロセスで、特に、
- 京都議定書を離脱したアメリカがどのように2013年以降の枠組みに参加するのか
- 途上国は、どのような形で2013年以降の枠組みに参加するのか
という論点を議題に含んでいるため、より大きな注目を集める会議体でした。そして、バリ行動計画の中では、条約AWGは今回の会議までに合意文書を作る予定となっていました。
条約AWGおよびCOPの議論については、以下のページで詳しく解説します。
こ れに対し、議定書AWGが取り扱う議題は限定されており、その最終目的は、京都議定書に参加した(アメリカ以外の)先進国の2013年以降の削減目標を決 めることです。このプロセスは、2005年のモントリオール行動計画において設立が決定され、以後、約4年間にわたって議論されてきました。
議定書AWGおよびCOP/MOPの議論については、以下のページで詳しく解説します。
2つのプロセスの”進め方”をめぐる意見の対立
先進国と途上国の意見相違
それぞれのプロセスは、多数の争点を含んでいますが、まず先進国と途上国の間では、これら2つのプロセスの“進め方”自体について意見が対立しています。先進国側は、
- 京都議定書にはアメリカが参加していないこと
- 成長著しい途上国がどのような対策をとるのかも踏まえなければ、温暖化防止にはつながらないこと
等を理由に、2つのプロセスを一本化するか、もしくは両方のプロセスを同時並行で議論するべきとの主張をしています。
一方、途上国側は、温暖化を引き起こしてきた歴史的責任は先進国にあり、まずは先進国が対策をリードするべきであることを理由に、議定書AWGの議論を先行させて、先進国の削減目標を先に決めるべきであるという主張をしています。
こうしたプロセスに関する意見の不一致は、時としてそれぞれのプロセスの中身である、種々の論点に関する議論にも影響を及ぼしてきました。
今回のコペンハーゲン会議でも、こうしたプロセスの進め方に対する意見の不一致から、議論が膠着状態に陥ることが幾度かありました。
詳しくは、こちらのページで解説しています。
今回のコペンハーゲン会議では、それぞれのプロセスで得られた結果を基に、総合的な合意を生み出すのが1つの理想形でした。しかし、結果から言うと、残念ながらそれは果たせませんでした。
総 合的な合意は、会議の公式な予定での最終日であった12月18日(実際には翌日まで延長された)に、約100カ国の首脳が集まり、作り出されようとしてい ました。しかし、今回の会議では、実際には約30カ国に絞られた一部の国々による合議という形で、その議論が行なわれ、その結果が、「コペンハーゲン協定 (Copenhagen Accord)」という名前でまとめられました。
この結果、議論が一部の国々の中だけで行なわれた過程と、最終合意について検討する十分な時間が与えられなかったことを不服とする一部の国々の間から、最後に強い反対が起こることになりました。
そして、「コペンハーゲン協定」は、協定を作る過程に参加した国々の間だけでの合意、として扱われることになり、今回のCOP(およびCOP/MOP)全体の合意としては、扱われないことになってしまったのです。
条約の本会議は最終的に、コペンハーゲン協定について「留意する」(take note)という形で決定し、正式に「採択する」(adopt)ことはできませんでした。
最後の2日間の議論については、以下のページでより詳しく解説します。
会議の外で:NGOの参加について
内容的にも大きな課題を残した今回の会議は、他にもさまざまな点について問題が指摘されました。その一つは、世界中から参加していた、NGOメンバーの扱いです。
今回のコペンハーゲン会議は、3万人以上の人々が参加を登録する大会議となりました。通常、この類の国際会議の参加者は1万人程度ですから、これは群を抜いた規模です。
ところが、条約事務局と議長国の不手際もあって、実際に準備された会議上の収容能力は最大で1万5,000人どまり。さらに2週目に入ると、NGOメンバーの会場へのアクセスが、極端に制限されるという、異例の措置までとられました。
ハ イレベル会合が始まった2週目、増えつつあったNGOメンバーの会場へのアクセスは9,000人に限られました。事前に団体ごとに厳格に配られた入場パス を持っていても、アクセスが制限され、雪の舞う厳寒の中、10時間以上も会場の外で待たされるという事態の揚句、入場を拒否されるケースが続出したので す。
とりわけ混乱したのは、各国の環境大臣をはじめ、世界の首脳陣が100人以上参加した、最後の3日間です。会場の警備も厳重を極めま したこの3日間、参加可能なNGOのメンバーは、9,000人からさらに90人まで制限され、実質的に、これまでの交渉で大きな役割を果たしてきたNGO が不在という形での会議となってしまいました。
そのような中、コペンハーゲン市内で行なわれたパレードで、一部の参加者が暴徒化するケースが発生しましたが、まるでNGO全体が暴徒化したような報道が日本の一部でなされ、誤解を招いていることは残念でなりません。
現実には、気候変動枠組条約会議の会場に参集して政策提言を続けるNGOのスタッフたちは、理不尽に厳寒の中で待たされる事態にも、辛抱強く対応していたのでした。
そ もそもNGOは、国の利害を超えて地球益のために活動している市民社会の代表であり、これまでの気候変動の会議では重要なステークホルダーとして位置づけ られ、その声は各議長や各国政府の交渉官にも尊重されてきた存在です。そのNGO不在の今回の会議は透明性を欠くものであり、このようなことは繰り返され てはならない事態です。
条約AWGおよびCOPでの議論の報告
すべてのドラフト作成は、すべてインフォーマルな場でスタート
AWG LCA初日の2009年12月7日に、会議のクタヤール議長は、今まで5つのコンタクトグループと、6つのワーキンググループに分かれて話し合われてきた内容を、一つのコンタクトグループでまとめて話し合う、と発表しました。
こ れまでは論点ごとにグループに分かれて議論してきましたが、締約国の意見の隔たりがいまだに大きいため、文書は論点ごとにまとめられたノンペーパー(まだ 公的文書になっていないテキスト)の状態だったのです。このペーパーは、2年間の交渉を経てもまだ集約される気配を見せず、合計では200ページにもなる 膨大な文書でした。
この200ページから妥協点を探って、最大着地点を目指しながら数十ページの国際協定に落とし込んでいく作業を、一週間で行なう交渉がスタートしたのです。
もっとも、一つの場に統合されても、200ページものノンペーパーを、実際の協定の下書きに落とし込んでいく作業を、全体会合で行なうことはできません。そこで結局、論点ごとの非公式会合で、ドラフト作りが行なわれることになりました。
翌 日8日から、論点ごとに会合の議長がまとめた、「たたき台」が出始めました。これは、今までの2年間の交渉と異なり、ノンペーパーではなく、ドラフトテキ スト(公的な下書きであると認められたもの)であるため、さまざまな不協和音があちこちで起こりましたが、ともかく、このドラフトを元に、実質的な交渉が スタートしたのです。
会議5日目にAWG LCA クタヤール議長案が提出される
1週目の終わりの金曜日の朝に、AWGLCAのクタヤール議長が、各論点ドラフトの要点を集めてAWGLCAのドラフト統合文書とし、議長案を提出しました。
これが「コペンハーゲン議定書」のドラフトか、という期待と不安が渦巻き、朝からどの締約国も熱心に議長案の吟味に入りました。
WWFも内容の論点ごとに、担当者たちが集まり、一文ずつ文章を検討していきます。クタヤール案に関する交渉は、各締約国の吟味が終わった夕方6時から非公式の形で行なわれました。
この議長案は、一言で言えば、今まで2年間の交渉を反映した、バランスのよいものになっていました。
言葉を選ばずに言えば、「先進国、途上国双方痛み分け」のぎりぎりのラインを保っていた、ように思われる内容です。これは、京都議定書の第2約束期間で「附属書1国(アメリカを除く先進国)は、個別の削減約束を持つこと」を仮定して構成されていました。
先進国の目標は、全体として1990年比で2020年に25%から45%の間で、各国は選択肢で選ぶようになっており、京都議定書に入っていないアメリカは、他の先進国と同じ法的拘束力を持つ削減目標を持つことを定める文言があります。
そして途上国は、成り行きケースよりも15%から30%削減が選択肢に入っていますが、それは先進国の資金と技術援助で行うことになっていました。また、途上国が自主的に行なう削減行動にも言及されていた点が、ポイントの一つとなっていました。
し かし肝心の「資金援助」については、必要な予算額にも触れておらず、「新規で追加的な資金が必要であり、そのために革新的な資金メカニズムが必要になる」 という弱い表現に留まっていました。ただ2010年からすぐに必要となる資金については、新しい合意の附属書に、先進国ごとに資金援助額を書き込む形が整 えられました。
議長案をめぐる論争
12月11日夜の非公式な交渉に続いて行なわれた、12日の公式本会議において、各締約国から、クタヤール案に対する、さまざまな意見が噴出しました。
総じて、ブラジルをはじめとする途上国側は、「不足はあるが、新合意のたたき台としていいスタートだ」と評価。それに対し、EUその他の先進国は、「途上国(特に中国など主要途上国)に有利な内容であり、バランスを欠いている」として、反対に回りました。
WWFから見ると、国内法が上院で可決されることが大きな鍵となる、アメリカを引き込むために必要な要素をぎりぎりで確保し、その他の先進国、途上国には、双方ともに有利・不利な点がバランスよく点在している、と判断しましたが、先進国側からは不満が続出していました。
中でも日本は、締約国が決めるべき合意の形(議定書か、単にCOP決定のセットか、はたまた政治宣言になってしまうのか)について、議長が勝手に京都議定書の存続を前提としたとして、会議場から議長を強く攻撃しました。
AWG KPにおいて、京都議定書の存続に先に合意することに強く反対していた日本政府の態度は、交渉の進展を妨げる恐れがあるものとして、懸念されていました。
議定書AWGおよびCOP/MOPでの議論の報告
今回の議定書AWGは、基本的に、これまでの議論をそのまま継続しました。具体的には、4つの分野が対象となりました。
- 1つ目は、このAWGの主要議題である先進国の削減目標です。この分野は、削減の「数値」目標を議論するので、通称ナンバーズ(numbers)と呼ばれています。
- 2 つ目は、先進国が目標達成のために使うことができる柔軟性メカニズム(排出量取引、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM))、吸収源、そし て、新しい温室効果ガスの種類等についての議論です。これら3つの分野は合わせて、「その他の争点」(Other Issues)と呼ばれていました。
- 3つ目は、温暖化対策がとられることによって生じうる波及的効果です。これは「潜在的帰結」(potential consequences)と呼ばれました。
- 4つ目は、議定書の改正に関わるさまざまな法的問題を取り扱う「法的事項」(legal matters)です。
これらの分野ごとに、コンタクト・グループと呼ばれる分科会が作られ、議論が進められました。
ただし、2つ目の「その他の争点」に含まれるメカニズム・吸収源・ガス等の方法論は、個々に大きな論点であったため、実質的には時間を分けて別々の論点として扱われました。
また、4つ目の「法的事項」のグループは、他の分野の議論の中で、必要なときにのみ議論されることになっていました。
以下では、4つの分野のうち日本に特に重要であった、先進国の削減数値目標の議論について解説します。
また2つ目の分野の「その他の争点」のうち、メカニズムに関する議論のみ、別の報告書でより詳細にご紹介します。もちろん、残りの3つの分野も決して重要でなかったわけではありませんが、残念ながら、全ての議論をここでご紹介することはできません。
先進国の削減数値目標の議論
議定書AWGの議論は、4年前に設立された時から、最終的には先進国の目標を決めることを目的として行なわれてきました。その意味では、本来、このプロセスが持つ役割はシンプルなはずです。しかし議論は、4年という時間経過の割にはあまり進んでいません。
前回のバルセロナ会議までに、主要な先進国のほぼ全てが、温室効果ガス排出量削減の中期目標を自主的に発表していました。したがって、個別の国の目標に関して議論を開始しようと思えば、できる状況にはなっていました。
しかし先進国は、この議定書AWGの議論のみが先行してしまうことに、大きな危機感を抱いています。
議 定書AWGの議論は、あくまで「京都議定書に参加している」先進国の目標しか対象にできないため、アメリカの削減目標や途上国の削減行動について議論でき ません。したがって、ここでの議論が先行して、京都議定書に参加している先進国の目標のみが改定されると、アメリカの目標や途上国の削減行動の議論が停滞 してしまう可能性があります。オーストラリア、日本、ニュージーランド、EUなどは、この危機感から議定書AWGの議論を先行させることに消極的でした。
他方、途上国は、ここでの議論が進展すること自体が、先進国が歴史的な責任をきちんと取ることの象徴だ、と考えるようになっていました。また京都議定書の条文自体に、この議論を進めるべき明確な根拠があると、再三に渡って強調してきました。
こうした先進国・途上国の対立は、なかなか解消されないまま、議論の進展を遅々としたものにしていました。
届かない「野心のレベル」
もう1つ、議論の進展を妨げた要因があります。それは、先進国が自主的に発表してきた目標が、途上国が要求していた水準よりはるかに低かったことです。
途上国はこれまで、先進国全体の目標として、2020年までに1990年比で40%以上の削減を主張してきました。小島嶼国連合(AOSIS)や後発開発途上国(LDC)グループは、これより更に踏み込んで、少なくとも45%以上の削減が必要だと主張してきました。
この「40%」という数字の根拠は、IPCCの第4次評価報告書にある、大気中の温室効果ガス濃度を450ppmに抑制するシナリオの上で、先進国に必要な削減幅である「25~40%削減」の上端をとったと理解されています。
一 般的にこのシナリオは、地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して「2℃未満」に抑えるのに、必要な水準として理解されています。AOSISやLDCグ ループが主張する「45%」は、さらに踏み込んで、温度上昇を「1.5℃未満」に抑えるために必要なシナリオで必要とされる数値です。
先進国がこれまで自主的に発表した目標は、前提条件が異なったり、EUのように条件づけをしたりしているケースもあるので、全体の目標数値を計算するのは難しくなっています。
し かし、AOSISが行った試算によれば、吸収源を除外した数字では、先進国全体で11~19%の削減にしかなりません。研究機関や研究グループが行ってい る試算も似たようなものが多く、総じて、先進国の「野心」が、途上国が必要と考えるレベルには届かないことは明らかでした。
しかし、先進 国としては、現状で目標を引き上げることは、ほとんどの国にとって選択肢として存在しませんでした(ノルウェーのように、前回の会議で引き上げた国もあり ましたが)。ましてや、巨大排出国のアメリカの目標と一体で議論しなければ、現実的な議論はできないと主張していました。
このように、先 進国の削減目標数値の具体的な議論は、なかなか進められない状況があり、どちらかといえば、削減数値目標そのものに関するよりも、削減数値目標「周辺」の 議論に集中しました。具体的には、前回のバルセロナ会議でも議論になった、基準年や約束期間の長さ、そして、オフセットや吸収源利用の割合に関する議論で す。
基準年
基準年について議論になったのは、1990年を「法的拘束力のある」基準年とするのか、その他の年も基準年の選択肢に入れるのか、という問題です。
日 本やカナダなどは、1990年を「法的拘束力のある」基準年としてしまうと、自国目標の基準年を2005年としているアメリカが参加する障害になると考 え、その他の年も選択できるようにすることを主張しました。これに対し途上国グループは、京都議定書と同じ1990年を、公式基準年とするべきことを主張 しました。
基準年の議論は、理論上はそれほど大きな意味は持たないはずです。
たとえば、「1990年と比較して10%削 減」という目標を、「2005年と比較してX%削減」と換算しなおすことは、データさえあれば容易だからです。またデータの厳格性から見れば、なるべく最 近の年にした方が良いという考え方もあり、実際、先進国はそのように主張します。
しかし、実際にはこれが対立点となるのは、途上国が京都 議定書からの継続を特に重視しており(目標が上がっているのか、下がっているのか、一見して分かるようにという意味で)、先進国が基準年の変更を主張する のは、1990年以降の排出量増加を覆い隠したいと考えているからだ、という不信感を持っているからです。
実際、排出量を1990年から増やしてしまっている日本のような国は、もし基準年を2005年にずらせば、実際の削減量はそのままで、目標数値は大きくなります。
逆に排出量を減らしている国は、実際の削減量は保っても、削減数値が小さくなってしまいます。実質的な削減量に比べ、対外的な「イメージ」は随分と変わります。
日 本にとっては、前政権では2005年を基準として自国目標を発表したため(2005年比15%削減)2005年に固執した面がありましたが、新しい目標は 1990年比25%削減であり、大きな争点にはなりません。しかし上述したように、アメリカの再参加に少しでも障害になりうる争点は外した方がよいという 観点から、2005年も基準年として選択可能な主張をしているようです。
この対立は前回の会議でも見られましたが、結局今回も合意に至りませんでした。
約束期間の長さ
現在、先進国の目標として議論されているものは、全てが「2020年」を目標年次として発表されていますが、実際に各国が削減目標として負うことになる約束の期間の長さは、必ずしも一致するとは限りません。
約束期間の長さについては、5年(2013~2017年)を主張する途上国と、8年(2013~2020年)を主張するEUや日本の間で意見が対立しています。こちらも、前回以前から続いている議論ですが、今回も対立は解消されませんでした。
途上国側が5年にこだわる理由は、京都議定書からの継続を重視するという点と、もう1つは、目標の立て直しのタイミングを早くできるという点があります。既に述べたように、先進国の「野心」はこのまま行けば、あきらかに必要なレベルに達しません。
そ こで、5年という短い時間で、新しい科学的知見を基に目標を強化するタイミングを早く作りたいとの思いが、特にAOSISや後発開発途上国にはありまし た。2014年にはIPCCの第5次評価報告書が発表される予定になっており、これを議論の根拠とすることを、これらの国々は念頭においています。
他 方、EUや日本などの先進国が8年を主張するのは、第3約束期間の目標を再交渉するまでの期間があまりに短く、現実的でないと考えているからです。 2014年に第5次評価報告書が出たとして、翌年の2015年に交渉を開始しても、決着を2015年中につけなければ、新しい目標を含む合意の、批准に必 要な時間の確保が難しくなります(2016年に必要国が批准完了→2017年発効)。こうした実際上の難しさもあるため、先進国は8年の期間をとるべきと 主張しています。
本質的な意見対立というより、実施上の問題であるため、歩み寄る余地が残されていそうなのですが、他で築いてしまった相互不信もあるせいか、なかなか議論が進まない状況にあります。
オフセット/吸収源の利用割合
先 進国が自主的に発表した2020年までの中期目標では、それぞれどれくらい国内で削減し、どれくらいオフセット(海外削減)に頼り、そして、どれくらいを 吸収源に頼るのかの想定がはっきりしていません。独自の想定を置いているため横並びの比較が難しく、目標の適切さが正しく把握しにくい状況があります。
ここから、各国が目標のどれくらいまで国内削減するのかを明らかにすべきだという要求が、主に途上国からあり、その情報を前回から各国が提出し、条約事務局が整理するという流れになっていました。
し かしここにも、オフセットの使用量を事前に確定するのは難しいという国(EUやニュージーランド)や、吸収源のルールによって採用できる数字も変わるとい う国(EU、オーストラリア、ニュージーランド)、国内の議論が進んでおらず、具体的な内訳を決定できていない国(日本)など、さまざまな事情があり、情 報は徐々に出てきてはいるものの、奇麗に比較できる状況にはありません。
表 1は、条約事務局が12月8日の時点で整理した表を転載したものです。吸収源とメカニズムの利用に関する情報は、中身を数字で出している国がある一方、単に使用することを宣言しているだけのところもあり、バラバラです。
表 1:先進国各国の削減目標と吸収源・メカニズム利用の割合

先進国全体の目標
議定書AWGの議論は、第2週目の半ばからは、多くの会合が非公開で行なわれました。
その中で、上述の3つの論点に関する議論の他に、若干議論があったとされるのが、2020年もしくは第2約束期間の先進国全体の目標に関する議論です。
京都議定書では、先進国は全体として、2008~2012年の第1約束期間の間に、少なくとも1990年比5%の削減をしなければならないと第3条1項に書かれています。先進国全体の削減目標の議論は、具体的には、この条文をどう改正するかという形で行なわれたようです。
しかし、議論は平行線のままで、テキストには他の箇所と同様に複数の選択肢が並列される形となりました。
前 述の通り途上国は、先進国全体で40%以上の削減を求めており、中でもAOSISやLDCグループは45%以上の削減を求めています。交渉途中のテキスト には、この45%削減という数字や、ボリビアなどの国々が求めている2013~2017年に49%削減という数字、EUが提案している30%削減という数 字、そして合意ができていないことを示すX%という標記などが残っています。
余剰割当量(Surplus AAUs)
以上の議論は、過去の会議論点の継続という面が強いのですが、今回新たにクローズアップされた論点もあります。それは、一部の先進国で生じる余剰割当量の扱いという問題です。
ロシアや一部の東欧諸国は、1990年以降の経済停滞により、温室効果ガス排出量が大幅に減っています。この排出量の減少により、これらの国々は特段の対策をとらずとも、京都議定書の目標を達成するどころか、大量の余剰割当量が発生しています。
この余剰割当量は俗に「ホットエア」と呼ばれますが(「ホットエア」には「たわ言」の意味があり、空気(排出量)のエアにかけたもの)、このホットエアを、2013年以降の第2約束期間に持ち越してもよいかという問題です。
こ の余剰割当量の大きさがそれほど大きくなければそれほど問題にはならないのですが、AOSISの試算によると、その量は100億トン(CO2換算)にもの ぼると言われています。100億トンという数字は極めて大きな数字です。日本の年間の排出量が約14億トン、アメリカの年間排出量が約70億トン程度であ ることを考えれば、その影響が極めて大きいというのがわかると思います(ただし、この100億トンは1年間の数字ではなく、第2約束期間全体での量で す)。
これがもし第2約束期間の先進国の目標に使われるようなことがあれば、最悪のケースでは、先進国の排出量は1990年よりも削減どころか増加になってしまうと、AOSISは警告しています。
こ の問題について、具体的にどのような議論がされたのか(あるいはされなかったのか)、残念ながら非公開であったために詳しい様子は分かりません。議論の経 過を示すものとして出てきた文書には、この点についてほとんど語られていません。これは、第1約束期間に作り出された負の遺産が、文字通り第2約束期間に 引き継がれることを意味するため、非常に重要な問題です。
1つの解決策は、余剰割当量を次の期間に持ち越せないようにする(“バンキン グ”を禁止する)ことです。ただし、これにはロシアを始めとした国々が当然反対するのに加え、難しい問題も孕んでいます。なぜなら、「ホットエア」のよう に元々の目標が緩すぎて余ってしまった割当量と、目標は適切であり、かつその国が頑張って削減努力をしたが故に割当量が余ったケースとを、客観的に区別す るのが難しいからです。
後者のケースはむしろ奨励されるべきなので、それまで禁止してしまうと、頑張れるはずの国が頑張らなくなってしまうという結果を招いてしまうかもしれません。これには、バンキングはしてもよいが、他国への売却は禁止するなどの形での、対処が必要になるでしょう。
いずれにしても、今回の議論では、この問題については結論を出すことができませんでした。
結末:たどり着けなかった個別の先進国目標についての議論
前節の冒頭で述べたように、議定書AWGの議論は、そもそもこの議論が先行するべきかどうか自体について、先進国と途上国の意見に不一致があり、議論の「本丸」である個別の先進国目標の議論まではたどり着きませんでした。
途 上国側は、当然、この議論に到達することを望んでいたわけですが、先進国側としては、条約AWGの議論との統合が図れない現状で、こちらの議論を先行させ るわけにはいかないので、両者の主張は真っ向から対立してしまっています。その対立を解消できないまま、時間切れとなってしまいました。
本来ならば、第2週目の前半で議定書AWGには一応の結論が得られ、その結論がCOP/MOPに報告された後、COP/MOPが何らかの決定を下す、というのが形式上の理想型でした。
しかし現実には、一応、議定書AWGは第2週目の水曜日に終了し、その結果はCOP/MOPの総会で報告されたものの、中身はとても決定に繋げられる段階ではなかったので、実質的な議論は以下のように、再び議定書AWGと同じ枠組みで続けられました。
議長国のデンマークは、議定書AWGおよび条約AWGの議論をベースに、独自の新しい合意文書案を出したいと考えていたようでした。しかし、その「案」の作成を一部の国々の間で行なったことで、途上国の一部からはプロセスが不透明だという非難の声が挙がってしまいました。
そして結局、議長国としての「案」は公式に提示されることはなく、あくまで議定書AWGおよび条約AWGの既存の文書をベースに議論は進められるべき、という多くの途上国の主張が通りました。
これにより、COP/MOPの議長であるデンマークのラスムセン首相は、第2週目の木曜日(17日)、条約AWGと議定書AWGそれぞれのテキストを引き続き議論する、コンタクト・グループを作ることを宣言しました。
そこで議定書AWG側のコンタクト・グループにおいて、再び、1)先進国の目標、2)吸収源、3)メカニズム、4)新しいガス等の方法論、5)潜在的帰結という5つの分野について、ドラフティング・グループと呼ばれる作業部会を作り、議論をすることになりました。
このグループで非公式に議論は継続されましたが、どの論点も合意を得ることはできませんでした。この後の議論をどの形でやっていくのかの検討も行なわれましたが、議論はきれいな決着を見ないまま、次回に全てが持ち越しになってしまいました。
し たがって、形式上は議定書AWGが継続することになっており、議論のベースは、16日の段階で報告されたFCCC/KP/AWG/2009/L.15とい う文書になると考えられます。しかし、上述のように、議定書AWGがCOP/MOPに公式報告をした後にも議論は継続したため、実際の交渉官の手元には、 また別のテキストが存在しているかもしれません。
今後、どのような議論が、何に基づいて行なわれるかはっきりしないまま、議定書AWGとCOP/MOPは終了したことになります。
コペンハーゲン合意に至るまでの会議の経過
今回の会議の進行は、まずAWGLCAとAWGKPが1週目に行なわれ、その結果報告(ドラフト)をCOPとCMPが2週目の2日目に受け取って採択します。
交渉官レベルで決められなかった内容は、ドラフトの中でカッコつきで選択できるように入っており、2週目の3日目から始まるハイレベル会合(通常は環境大臣レベル)でカッコの中から選択し、最終的にCOPとCMPで、コペンハーゲンの決定として採択されるはずでした。
さらに今回のコペンハーゲンでは、環境大臣レベルでは決められない内容を含むことになるので、最終3日間には、アメリカのオバマ大統領や日本の鳩山首相、中国温家宝首相など世界の首脳陣100人以上が集結して、最後の判断を下すことになっていました。
プロセスの不備:一週目の終わりに募ったCOP15議長国に対する不信感
コ ペンハーゲ ン会議の総議長はデンマークの気候変動エネルギー相のコニー・ヘデガー氏でしたが、デンマーク首相であるラスムセン氏は、国連の交渉外で、事前に決着点を 図っているとうわさされていました。実際に、コペンハーゲン会議の事前会合で、ラスムセン首相は、ラスムセン案を数カ国に示したようで、会議のホスト国か らの首相案とあって、WWFも不透明なプロセスに懸念をもちながら、内容を追いかけていました。
内容は、当初から法的拘束力のある議定書 をあきらめて「政治合意」を目指したもので、他国から非難を浴びては、少しずつ形を変えてきたようですが、2050年に世界全体で50%削減を目指し、先 進国は80%削減など、今までG8などで宣言された内容を繰り返しているだけで、野心的な内容とはなっていなかったようでした。
何より、国連の場で世界190カ国あまりが2年もかかって交渉してきたプロセスを全く無視して、議長国の首相がごく狭い範囲で交渉し合意案を持ってくることは、国連プロセスそのものを軽視していることになります。
結局、イギリスのガーディアン紙が、12月8日に、どこかから手に入れたラスムセン案を暴露してしまい、世界に知られることとなりました。
当然、締約国のほとんどは、交渉プロセスを飛ばして合意案を出す議長国に対して不快感を示し、ラスムセン首相は、翌日になって、「そんな文書は存在しない」と、ラスムセン案そのものの存在を否定する発表をする羽目となりました。
会議1週目にして、議長国が信頼を失ってしまったこの残念な出来事で、コペンハーゲン会議の間中、不信感が尾を引く結果となってしまいました。
AWGLCAとAWGKPの結果報告がされるまで
ツバルをはじめとする島嶼国と後発開発途上国の必死の交渉
ツ バルは会議当初から、「G77+中国」の途上国の一員の結束を破ってでも、より野心的な協定をコペンハーゲンで確保することにかけてきました。第一週目の 終わり、AWGLCAとAWGKの結果報告をするためのCOPとCMPの本会議で、途上国側のタブーであった提案を行いました。
ツバルは小さな島国で、国土の消滅の危機に瀕して、もっとも気候変動の影響を受けている島嶼国の一つです。今までも2度未満をめざすのではなく、1,5度未満をめざすべき、など、最新の科学に基づいた真の温暖化対策を主張してきました。
この集大成となるべきコペンハーゲン会議において、ツバルは、新しい議定書の採択を目指して、それを話し合うべきコンタクト・グループの設置を提案したのです。
これは途上国に新たな義務が課せられる可能性を持つ、新議定書の誕生を強く嫌っている途上国側からでる提案としては、衝撃的な出来事でした。
会議場は水を打ったようにシーンとなって、ツバルの発表が終わった後は、大きな拍手が沸きあがりました。しかし、当然、中国、ブラジル、インドなどの途上国の大国は大反対。本会議場ではめったに見られない途上国対途上国の戦いが繰り広げられました。
ツバルの交渉官は、この国際交渉を京都議定書のときからフォローしている有名な交渉官イアン・フレミング。大国途上国の攻撃にもひるむことなく、堂々と、真に野心的な合意を目指す持論を展開していきました。
続いて行なわれた京都議定書の本会議でも、ツバルは、世界の30%の排出量しかカバーしていない京都議定書を強化するための、改定京都議定書を話し合うコンタクト・グループの設置を主張しました。こちらも当然物議をかもしました。
以上二つのコンタクト・グループの提案は、いずれも大きな反対を受け、会議は進まなくなってしまいました。結局、総議長であるデンマーク気候変動エネルギー相コニー・ヘデガーは、ツバルの提案を話し合うことを先送りし、非公式に話し合うこととして、会議は中断しました。
世界の市民社会は、国益優先の先進国の態度に対し、途上国内の亀裂をも恐れず、野心的な協定の合意を主張するツバルの姿に大いに感銘を受けました。
今回の会議では国際交渉でヒーローとなった国に贈る「本日の宝石賞」を新設しており、栄えある第一回「本日の宝石賞」はツバルに贈られ、ツバルの真のリーダーシップに世界の400NGOは、最大限の賞賛を贈ったのでした。
しかし、ツバルの思惑は新興途上国には受け入れがたく、究極の善意の提案は、むしろ2週目に入って時間がなくなったCOPとCMPの議論をストップさせてしまう事態に発展してしまいました。
ヘデゴー議長に対しあくまでも強くコンタクト・グループの設置を要求し続けたツバルは、議事の進行を妨げるとして非難が集中したようで、2回目に開催され たCOPの場でヘデゴー議長に対し、「ツバルは議事の進行を妨げ、ヘデゴー議長を困らせるために提案を行ったのではない。真に海に沈みゆく祖国を憂えてい るのであり、祖国を救う合意を持ち帰りたいという一心なのだということを理解してほしい」と涙ながらに訴える場面もありました。
宙に浮いたAWGLCAとAWGKPの結果
ツバルの抗議もあってヘデゴー議長の議事進行が進まない中、突然議長の交代が発表されました。
表向きは首脳陣が参加する会議となるので、議長も環境大臣レベルではなく、一国の首相レベルであるべきということで、ヘデゴー大臣からラスムセン首相に交代しました。
しかし、1週目ですでに締約国に、透明性に疑念を抱かせているラスムセンに対し、議事は進まず本会議も開かれず、結局2週目の2日目には、非公式会合も開かれている気配が止み、いったい今AWGの議論はどうなっているのか、よくわからないままとなってしまいました。
結局AWGLCAのクタヤール議長は、単にAWGLCAを予定通り終わらせてCOPの報告へ上げることを優先し、カッコだらけのドラフトのまま2週目の2日目に結果を採択し、そのままCOPへとあげてしまったのです。
そのような中、各国の環境大臣が到着し、別会場で大臣の演説が延々続き、会議は分断されたまま、首脳級レベルの会合へと突入していきました。
ハイレベル会合から首脳陣会合による合意に至るまで
今回の会議はどこで議論が行われているのが、大変見えにくい会議でした。
本来中心になるべく、2年間交渉が続けられていたAWGLCAとAWGKPは、多くのカッコがついたドラフトをあわただしく採択して終わり、大臣たちは別会場で演説しながら、COPとCMPの本会議に参加して発言していました。
そして本当の交渉は、首脳陣が到着してから、大量排出国と主要な国々、それに地域グループの代表からなる20数カ国の首脳だけで、密室の合意案作成交渉として始まりました。
最終日2日前からドラフト案を漏れ聞いていましたが、そのドラフトは、めまぐるしく書き換えられていった模様で、次々と弱められてあとからあとから出てきました。
当初は、法的拘束力のある協定をなるべく早く作るという文言が入っていたり、2050年に世界全体で半減、先進国で80%削減、さらに先進国からの短期の資金援助は各国別に附属書に書き込むなどの案がはいっていましたが、次々と抜け落ちていきました。
密室の中のトップレベルの交渉なので、誰がどのように反対してこのテキストになったのか、表には出てきませんが、噂としてもれ聞こえた内容を記しておきます。
コペンハーゲン合意が本会議場に出てきた後に巻き起こった大反対
なんとか妥協の産物であるコペンハーゲン合意が首脳陣の手によってまとめられ、最終日の18日金曜日、首脳は続々と帰国の途につきました。
そして、コペンハーゲン合意のドラフトは、ラスムセン議長によって、他の160カ国が待つCOPの本会議へと持ち込まれました。
しかし、ここでもデンマークは議事運営の不備を露呈しました。他の160カ国に対し、たった1時間でこのドラフトに目を通して賛成するかどうかを決めろ、と迫ったのです。
時間が無いのでやむをえないところもありましたが、やはり結果は思わしくないものとなりました。案作成にかかわれなかった他の160カ国の一部は、その場で強く抗議し、会議は延長して続けられることになったのです。
こうして、さらに時間の猶予が与えられました。
その後再開されたCOPの本会議において、まずツバルが「これはツバルの存続を脅かす内容である」として、受け入れ拒否を表明しました。
このコペンハーゲン合意の中に2010年かから2012年にすぐに300億ドルの援助が入っていることに対し、ベテラン交渉官イアン・フレミング゙は、「ツバルの未来は売り物ではない」と演説し、会場から感動の拍手を誘っていました。
そ の後も途上国は次々と拒否を表明しましたが、中でもスーダンは、このコペンハーゲン合意を「ナチスのホロコーストにたとえ、アフリカを大量虐殺するもの だ」とまで激しい言葉を使って糾弾し、「いくらなんでもいいすぎだ」といっせいに先進国、途上国双方から反発を浴びました。
スーダンは、この会期中ずっとこのような眉をひそめさせる発言を繰り返しており、主張はともかく、コペンハーゲンでの合意を妨害する明確な意図があるようにまで感じられました。
またベネズエラなどラテンアメリカ諸国の一部も強く反対し、ぎりぎりの妥協の産物であるコペンハーゲン合意ですら採択されず、会議は決裂するのかと、議場は絶望に包まれました。
会 議は夜を徹して行われ、交渉官たちが絶望で顔を覆う中、激しい言葉の応酬が繰り広げられました。いらだったイギリスのミリバンド大臣は、「これは少なくと も温暖化交渉を前へ進める合意であり、これに合意すれば、たった今から必要な資金が途上国へ流れるのである。受け入れなければ資金も流れない」と発言し、 途上国の賛同を買収するつもりかと、また反発を強められる場面さえありました。
また島嶼国内でも意見が分かれ、グレナダは島嶼国を代表し て(グレナダは案作成に加わっていた)、「このコペンハーゲン合意は確かにあまりにも弱いもので、私たちの必死の交渉を考えると忸怩たる思いがある。しか しこれが唯一の今回の交渉の成果なのである。だからどんなにつらくとも受け入れて、ここから前へ進めていこう」と必死で、仲間に訴えました。
そ の後、話し合いが行なわれた模様で、最終的には、ツバルも「とてもつらいが、決裂よりもこれを受け入れて、前へ進んでいくほうを選ぶ」として、賛同に回っ たのです。島嶼国の主張していた1.5度未満に気温上昇を抑える可能性は、コペンハーゲン合意の最後に、レビューのときの考慮として付け加えられることで 決着しました。
最終的にコペンハーゲン合意は、各国の主張を少しずつ取り入れて、なんとか採択に持ち込めるかと思われましたが、スーダン やベネズエラが相変わらず強く反対し、ラスムセン首相はとうとう全会一致が必要な採択をあきらめ、賛同する国だけが「留意する」という形での決着を図りま した。ラスムセン首相は、二晩を徹しての交渉に最後まで付き合うこともできず、途中から議長は副議長に交代しました。
第2週目に、2年間締約国の根回しを丁寧に行ってきたヘデゴー氏が、突然降板してから全く姿を見せなくなり、また交代したラスムセン首相も最後は顔を見せず、本会議は首脳陣も帰国したあとに、疲れ切った交渉官が詰まった会議場で粛々と行なわれました。
最後の最後に、コペンハーゲン合意は、賛同する国だけが1月31日までに「留意する」リストに名を連ねることになり、コペンハーゲン会議は、会議延長の翌日午後3時になってようやく幕を閉じたのです。
バリ行動計画から2年間に渡って続けられてきた交渉の、あまりにも弱い結末に、WWFのスタッフたちもすっかり肩を落としてしまいました。しかし、2010年末のメキシコ会議まで交渉が続けられる今、再び地球が必要とする強い国際協定をめざしての挑戦が続きます。
2009年【COP15/CMP5】国連気候変動コペンハーゲン会議
キーワード
関連するWWFの活動
京都議定書
京都議定書とは、温暖化防止のための国際会議(気候変動枠組条約締約国会議)で取り決められた世界で初めての国際協定です。 1997年に京都で会議が開かれたときに、その大枠が決まったため、「京都」の文字が冠されることになりました。この取り決めに基づき、日本政府も1990年比で6%の温室効果ガスの排出削減を...続きを読む
国連気候変動会議
国際条約に基づき、国という大きなレベルで行なわれる温暖化防止活動は、個人々々が日々の暮らしの中で行なう省エネ活動よりも、はるかに効率よく、大量の温室効果ガスの削減を実現できる可能性をもった取り組みです。 国際条約と国際会議 現在、世界には、加盟している先進各国に温室効果ガスの排出削減を義務付けた「京...続きを読む






