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WWFの活動

2009年 国連気候変動バルセロナ会議

2009年12月のコペンハーゲン合意を控えた最後の交渉機会として、11月2日~6日の日程で国連気候変動会議が、スペインのバルセロナで開催されました。 今回もこれまでの会合と同様、条約AWGと議定書AWGの2つの特別作業部会(AWG)が同時並行で開催され、議論が戦わされましたが、「本番前最後の交渉機会」であったにもかかわらず、切迫感の欠ける会議となりました。その中で、会議の動向として注目に値する、4つの点について取り上げてみます。

「政治的合意」か「法的拘束力のある合意」か

会議の冒頭、ホスト国の大臣やUNFCCC事務局長らのスピーチがあるのが通例です。今回は、それらと同時に、次回コペンハーゲン会議をホストするデンマークから、コニー・ヘデガー気候・エネルギー大臣のスピーチがありました。

コペンハーゲンでの合意が厳しいという憶測が飛び交う状況を憂いてか、ヘデガー大臣のスピーチの中には、以下のような発言がありました。
「来春、1年後になれば、合意をするのが容易になると、本当に言えるのでしょうか?」
ヘデガー大臣のスピーチは、全般的には、遅々として進まない交渉状況に対する危機感の表れた良いスピーチだったといえます。

しかし、この日、デンマークという国自体が、環境NGOから「本日の化石賞」を受けることになってしまいました。それは、デンマークのラスムセン首相が、コペンハーゲンにおける「政治的合意」を唱えていることに対しての授賞でした。
そして、この「政治的合意」という言葉こそ、コペンハーゲンでの合意が無理であること、を前提とした言葉だったのです。

この「政治的合意」という言葉は、これまでコペンハーゲンでの合意が目指されてきた「法的拘束力のある合意」と対置して使われるようになってきた言葉です。
つまり発言の意図は、コペンハーゲンの段階で、新しい議定書などの「法的拘束力のある合意」はもう無理であるから、それまでの間をつなぐものとして、「政治的合意」を達成することを、今の段階から目指そう、ということになります。

これは、コペンハーゲンでの大きな合意が無理そうだ、と言うことに対する、現実的な対応であると同時に、コペンハーゲンに対する期待値を下げて、大きな合意が出来なかった時の政治的なダメージを抑えよう、という動きでもあります。

この「政治的合意か、法的拘束力のある合意か」という問いは、会議場の中でおおっぴらに語られることは、これまで多くはありませんでしたが、会議の間のカフェテリアの雑談で、会議後の各国代表らのプレス会見のちょっとした一言で、また、非公式な会合の中で、人々の口の端に上ってきていました。

現状、コペンハーゲンでの議定書の締結など、最終的な合意がかなり厳しくなってきているのは事実です。しかし、会議の前から、期待値を下げるようなそぶりを見せるホスト国に対し、NGOは危機感を募らせました。
今回の会議に、今一つ切迫感が無かったのも、こうした「最終的な結末」 に対する不明瞭さと不安感が、会議の個別議題の議論にも影を落としていたためだったといえるかもしれません。

アフリカ・グループの怒り

会議での交渉は、初日から紛糾しました。
2つの作業部会(条約AWG・議定書AWG) のうち、議定書AWGにおいて、予定されていた吸収源およびメカニズムに関するコンタクト・グループ(分科会)の会合が急遽キャンセルになったのです。

その理由は、アフリカ・グループが、同コンタクト・グループでの交渉継続を拒否したからでした。より正確に言えば、アフリカ・グループは、議定書AWGの下で進められているコンタクト・グループのうち、先進国の削減目標に関するグループのみに議論を集中させることを要求し、その他のグループについての交渉継続を拒否したのです。

この背景には、3年以上に渡り議論が続けられてきたにもかかわらず、目立った前進を示すことができなかった議定書AWGの交渉に対する、同グループの強い憤懣があったようです。

この紛糾を解決するため、議長を含めた非公式での調整が進められ、結局、議定書AWGの再開には一日以上を要することになりました。
当初は、途上国グループの中でもこうしたアフリカ・グループの行動については多少の異論もあったようですが、非公式会合で決まった妥協案についての発表が行なわれた議定書AWGの臨時総会では、途上国グループは一致して、アフリカ・グループの主張を支持。
最終的に得られた妥協点は、今後の交渉時間の6割を先進国の目標に関する議論にあて、残りの4割をその他の議論にあてる、という内容となりました。

結果として、貴重な交渉の時間が失われてしまったので、果たしてアフリカ・グループが意図した結果が得られたのかどうかは判断の割れるところですが、先進国の目標に対する不満が交渉に大きな影響を及ぼし得ることが、あらためて確認されました。

鳩山イニシアティブ

日本について、今回の会議で最も注目を集めると、当初から思われていたのは「鳩山イニシアティブ」でした。
この「鳩山イニシアティブ」は、2009年9月の国連気候変動サミットで、国際的に宣言された、日本の途上国支援の枠組みです。9月の時点では、原則が述べられただけだったので、今回の会議までにより具体的な案が示されることが、期待されていました。
このイニシアティブ、原則の段階で、新規かつ追加的な資金の必要性の認識など、比較的よい内容が盛り込まれていたため、期待が集まっていたのです。

そのようなわけで、会議初日の午後に開催された条約AWGの資金に関するコンタクト・グループでも、日本政府代表団からの「発表がある」、と事前に聞いていたNGOのメンバーも、コンタクト・グループの会場に参集し、どのような発表がされるのかに注目していました。

ところが、その発表は拍子抜けするほどあっけないものでした。日本政府からの発表は、資金のグループで議論しているノンペーパーと呼ばれる文書へのインプットとして行なわれましたが、そもそも、内容を説明した紙すら、発表の時点では会合参加者には配られなかったのです。
「文書は条約事務局に提出した」ということで、発表は口頭でのポイント説明だけでした。今回のバルセロナ会議の会議場は、音響が極めて悪く、個々の発言が聴きにくかったこともあり、提案の内容自体が、この「発表」のタイミングで参加者にどれほど伝わったか定かではありません。

そして、提出された内容をコンタクト・グループ終了後に確認して見ると、NGOが期待していた内容はほとんど盛り込まれておらず、残念な内容であったことも分かりました。

この内容について、NGOが注目していたポイントは3つあります。

1つ目は、資金の規模。日本の提案は、3つの基金の設立を提唱していますが、資金の規模は明らかにしませんでした。

2つ目は、資金源。気候変動に対する取り組みを継続的に支援していくためにも、安定的かつ予測可能な資金源の確保が課題であると考えられています。しかし、日本の提案は、この点についても、期待に応える内容ではありませんでした。また、3つの基金うち、適応基金については、柔軟性メカニズムの収益の一部を活用することが提案されていますが、その他の2つの基金については、自主的拠出を受け入れる、ということしか示されていません。自主的拠出に頼るということは、従来型の基金と変わらず、再び、充分な資金が集まらない可能性があることを物語るものです。

3つ目は、資金を管理する制度的・組織的体制について。資金拠出国の意向ばかりが重視されることなく、公平なガバナンスが求められる、という点です。そのためには、意思決定機構を、国連の枠組みの下に置くことが望ましいといえます。しかし、日本の提案は、「COPのガイダンスの下で」という言葉は入れながらも、基本的には既存の機関による管理下にそれぞれの基金を置くことを示唆するものでした。

9月の国連サミットの場で、「25%削減目標」と共に、鳴り物入りで発表された鳩山イニシアティブ、当然、NGOの期待も高まっていたため、日本提案の不充分な内容には失望感が漂う結果となりました。
しかし、日本政府は、鳩山イニシアティブの全容については徐々に明らかにしていく方針であるようなので、まだ、提案の内容は改善されて行く可能性は残されています。そこに、一縷の望みがかかっている、といえるでしょう。

小さな前進

今回のバルセロナ会議は、普段と比べ、密室での非公式会合が多い会議でした。
議定書AWG・条約AWG共に、オブザーバーが参加出来ない密室での会合が連続し、会議の状況が、なかなか分からない事態が続きました。

そのような中、比較的、表にも議論が出てきたのが、議定書AWGの先進国の削減目標に関するコンタクト・グループでした。

そして、そのコンタクト・グループでは、進展が乏しかったこのバルセロナでの会議において、小さな前進が見られました。とても「ブレークスルー」と呼べるような内容ではない、地味な進展ではありましたが、今後の交渉に、小さいながらも希望を持たせる内容でした。

その内容は、先進国の次期目標の約束期間と基準年、オフセット・吸収源の使用割合などの論点について、選択肢が徐々に絞られ、かつ情報が少しずつ明らかになってきた、というものです。

まず、約束期間について。
現在の京都議定書の約束期間は、2008~2012年の5年間となっています。
他方、次期枠組みにおける約束期間の長さについては、現時点ではいくつかの考え方があります。
1つは、京都議定書と同じように5年間とする、つまり2013~2017年とする考え方。
2つ目は、8年間、つまり2013~2020年までを約束期間とする考え方です。
さらに3つ目として、5年間を2回、つまり2013~2017年、2018~2022年までとして、第3約束期間まで決めてしまおう、という考え方です。

日本やEUは8年間を支持し、途上国は5年間、もしくは5年間を2回支持していました。
日本やEUが8年間を支持するのは、その更に先の第3約束期間を見据えた場合、交渉の期間や国内体制の整備等を考えると、5年間ではキツいという理由からでした。
途上国グループが5年間を支持したのは、2014年に出るIPCC第5次評価報告書の知見を早期に反映させるためにも、5年間という短い期間にしておいた方が良いということがありました。

交渉は、主に8年間もしくは5年間という2つの選択肢の間で議論され、5年間を2回という案はまだテーブルの上には残っているものの、徐々に絞られてきた感があります。

基準年については、1990年を基準年として決める方式と、1990年の他に各国が好きな年を基準年として選択できる方式の2つの間で議論がなされました。
後者を支持したのは日本やカナダ、そしてニュージーランド。日本は、鳩山政権下での新目標は1990年比で立てているので、本来、基準年が1990年でも問題はないはずですが、主にアメリカに対する配慮から、カナダと共に特にこの点を強調したようです。

この背景には、アメリカで現在議論がされている法案が、いずれも2005年を基準年として目標を提示していることがあります。そして、議定書批准国でないアメリカは、議定書AWGの議論には、今のところ参加していません。したがって、ここでの交渉結果が、今後「アメリカ参加」の障害となるような状況を作り出したくない、というのが、これらの国々の考える理由になっているのです。

もっとも、アメリカという国がどれほど2005年という基準年にこだわりを見せるかは、分かりません。
ただ、1990年を一番基本的な基準年とすることには、多くの国が合意をしていることから、問題は、それ以外の基準年を採択の自由がどれくらいあるか、1990年という基準年を法的拘束力のあるものとして扱わなければならないのか、といった点に議論が収束してきた感があります。

この論点については、南アフリカを中心とする非公式なグループによって、個別協議が行なわれ、妥協案が次回会合で提示されることになりました。

最後に、オフセット・吸収源の割合について。
以前から、途上国の側より、先進国がすでに発表している目標のうち、一体どれくらいが国内削減で、どれくらいがオフセットや吸収源などに頼る削減なのかを明らかにせよ、との要望があがっていました。
今回の会議で、この論点が再び上がってきた1つの背景には、個々の先進国の目標を積み上げた先進国「全体」での目標が、「1990年比で10~17%程度にしかならない」ということを受け、いかにして目標の水準を引き上げるかを検討するよう、途上国が強く要請したことがあります。

そして、その1つの可能性として「オフセットの利用を拡大したら、どうなるのかについても検討して欲しい」との発言が、小島嶼国連合(AOSIS) や南アフリカから出されました。
オフセットという仕組みについて、従来厳しい意見を持っていたAOSISの立場からすれば、やや意外な発言ではありましたが、それだけ、目標に関する危機感があるのかもしれません。

この流れを受け、会議最終日前日の11月5日に、先進国が既に発表している個々の自主目標のうち、オフセット・吸収源の割合について、現状わかっている範囲の情報でよいから情報を出し、それを条約事務局がまとめ、最終日にペーパーとして参加者に配布されることになりました。

各国が発表している目標は、あるものは吸収源の利用を想定しており、またあるものは京都メカニズム等のオフセット・メカニズムの利用を想定しています。それぞれの想定のおき方についてもバラバラであるため、現状では各国の目標を横一列に並べて比較するのは難しいと言わねばなりません。その中で出た途上国からの要請は、それを可能にするための情報がほしい、というものでした。

しかし、これについて、先進国側はあまり積極的な態度を見せていません。
たとえば、オフセットの利用について、EUやニュージーランドは、どれくらい利用することになるかは事前に決まっているものではないので、難しいと渋る態度を見せました。また、日本のように、そもそも内訳についてはまだ決定していない国もありました。

結局、各国とも出せる情報は出したものの、数値的な情報を出せた国はさほど多くはなく、カナダ、EU、ノルウェー、ベラルーシなど、一部に留まりました。オーストラリア、スイス、ニュージーランドなども情報は提出したものの、定性的な表現に留まり、日本にいたっては、国内の議論がまだ進んでいないため、オフセットおよび吸収源いずれの情報についても、提出ができませんでした。

それでも、こうした情報が、まがりなりにもそろい始めたことによって、目標に関する具体的な議論が開始される兆しが見えてきたといえます。

以上のように、今回のバルセロナ会議では、それぞれの論点について、決して大きな進展があったわけではありませんが、会議場での議論は意外なほどに建設的な雰囲気で、先進国目標にかかわる個別論点についても、徐々に整理が進みつつあります。
おそらく、目標値という数字の議論は、最終局面にならないとなかなか決まらないと予想されますが、その周辺の「形式」に関する議論は、可能なだけでも進めておこう、という各国の姿勢が垣間見えました。

コペンハーゲンでの合意へ向けて

上記に述べてきた以外にも、他の個別論点でもさまざまな議論がありました。
中でも、部分的には進展と呼べる展開があったようです。しかし、会議全体として見たとき、着実な前進を見せたとは言いがたいその最大の理由は、コペンハーゲンでの最終的な合意のイメージがなかなか見えてきていない、ということです。

その不透明感は、今回の会議の成果のまとめ方にも影を落としました。
今回の会議の成果をどのようにまとめるのかについては、会期中から関心の的でした。

理想の型としては、現在、分割してバラバラに交渉をしている各分野の「ノン・ペーパー」を呼ばれる交渉文書を再度統合し、1つの文書に纏め上げて、次回のコペンハーゲン会議に送る、ということが考えられました。
しかし、結局、条約AWG、議定書AWG双方ともに、そのような統合形式で結論を得ることはできず、現状の文書はバラバラのままで扱われることになりました(条約AWGでは、今回の会議の報告の中に、形式上はまとめて入れ込まれるが、内容が統合されるわけではない)。

最後にそれぞれの総会で議長がアナウンスしたところによると、次回の会議では、「議定書AWGは、現在と同じ構成でコンタクト・グループを途中まで続け、第1週のある地点で1つのコンタクト・グループにまとめていく」ということのようです。
これに対し、条約AWGは「これまで複数のコンタクト・グループに分かれていた議論を、当初から1つのコンタクト・グループの下で行なっていく」ことにしました。

いずれも、コペンハーゲンで最終的な合意を目指すとなれば必要な作業ではありますが、交渉の現状を考えると極めて野心的な作業プランであるように見えてしまう点は否めません。
交渉が行き詰まる原因となっているような争点については、政治的な判断が必要なものもあるため、次回の会議に、どれくらい政治的な判断を下せる閣僚級、そして首脳級が乗り込んでくるかが、交渉のデッドロックを乗り越えていく際の鍵になりそうです。

なお、日本については、今回は世界の期待に応え切れませんでした、資金についての案を、少なくとも練り直してくることが1つの大きな課題になりそうです。

残された時間はわずかですが、政治や世間の関心は高まってきています。その勢いを活かし、総合的な合意を達成することができるか。交渉は、いよいよ正念場を迎えることになります。

 

2009年【COP15/CMP5】国連気候変動コペンハーゲン会議

 

2009/11/19

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