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WWFの活動

日本のマグロの目撃者たち

日本近海でもクロマグロ資源が、大幅に減少しているとみられています。「この数年、マグロがとれない」。「水揚げするサイズが小さくなっている」。現場の漁師たちからは、そんな声も上がるようになりました。WWFジャパンでは、このマグロ漁の現場を取材し、「日本のマグロの目撃者たち」の声をお届けします。

日本近海のクロマグロはどうなっている?

近年、大西洋を中心にクロマグロ(本マグロ)が世界で激減しているといわれています。特に深刻な状況にあるのは、大西洋東部、すなわち地中海のクロマグロです。

この「大西洋本マグロ」資源を管理する、大西洋まぐろ類国際保存委員会(通称ICCAT)では、加盟国それぞれに毎年漁獲してよいクロマグロの量を決めています。

しかし、これらの加盟国が現在利用している、クロマグロの年間の総漁獲量は、資源を持続的に利用できると科学的に推計される上限を超えています。
WWFや現場の漁業関係者は、「大西洋本マグロ」が近い将来獲りつくされてしまうおそれがあると、強く懸念しています。

また、心配されるのは、遠い地中海のクロマグロだけではありません。
日本人が世界の生産量の8割を消費しているといわれるクロマグロは、地中海近辺で産卵し、大西洋西部のアメリカ東部まで回遊する「大西洋本マグロ」のほか、日本の南方の海で産卵していると推測される、「太平洋本マグロ」の2種があります。

この「太平洋本マグロ」についても、日本では国産の本マグロとして、漁獲、取引されており、消費者によって購入されています。地中海で危機が指摘される一方、この日本近海のクロマグロの資源状態には問題ないのでしょうか?

日本近海でもクロマグロ資源が、大幅に減少しているとみられています。「この数年、マグロがとれない」。「水揚げするサイズが小さくなっている」。現場の漁師たちからは、そんな声も上がるようになりました。

WWFジャパンでは、このマグロ漁の現場を取材。マグロ一本釣り漁業を生業(なりわい)とする漁師たち「日本のマグロの目撃者たち」の声をお届けします。

クロマグロ(本まぐろ)

証言1: 勝本の漁師たちの証言

「みんなの利益を守る」から始まった漁法

長崎県壱岐勝本。ここには、一本釣り漁法を大切に守り続けている漁師たちがいる。島の人口は約3万、半数の島民は漁業に携わって生計を立てている。そのうち、勝本町には2,500世帯、6,500人が住んでおり、内、約800人が漁業協同組合(以下、漁協)の組合員だ。

本マグロといえば、青森・大間産が消費者の間では有名だが、マグロを扱う市場の業者には、ここ勝本の本マグロが高い評価を受けている。
品質の良さでは逸品だ。品質が良い理由は、古くから守られてきた漁法、一本釣りにある。

一本釣りは、漁獲の際にマグロに与えるストレスを極力おさえることで、品質保持を可能にする漁法だ。5トンクラスの小型船に1人から2人の漁師が乗り込む。文字通り竿1本、人の力だけで、時には200kg近い本マグロを釣りあげる。魚を追い込んで、一網打尽に漁獲する「巻き網」漁とは違い、獲る量を調整でき、魚の獲りすぎを防ぐことができる。

勝本では、海の恵みを平等に分かち合う文化が根付いている。
組合員の合意のもと、漁協は昭和30年代に「網」を使う漁法を全面禁止し、「釣り」のみで地域の漁業を行なうことにした。

その結果守られてきたのが、皆が平等に魚を漁獲する機会を得られる一本釣りだ。魚の豊かな勝本の漁場では、多い時には300隻ほどの漁船が操業する。明け方5時頃になると、決して広くない優良漁場に漁船が集中する。しかし一本釣り漁に限定した結果、豊かな漁業資源を守り続けることができていた。

長崎県壱岐勝本の港

海の生きものの多様性が育むマグロの豊漁

一本釣りの対象は、マグロに限らない。現在、勝本の水揚げの5割はイカ、4割はマグロ、他種が1割を占める。壱岐周辺は対馬海流の流れが入り込み水道を形成している。
そのため、遠くの漁場に行かなくとも、たくさんのイカや魚来遊し、これらの魚種を餌にするマグロも漁場にやってくる。待っているだけで十分な生産が可能な「守り漁」が成り立ってきたのである。

この周辺のマグロは餌としてイカを好むと勝本の漁師は言う。釣れたマグロの胃袋を調べると30本ほどのイカがそのままの形で出てくる(写真)。この海域はイカの産卵場所と考えられており、イカの一本釣り漁も盛んだ。海の中の生きものの食物連鎖がうまく機能し、生物の多様性が豊かな漁場をつくっている。それがこの海の特徴だ。

しかし、豊かであったはずの海で、今、本マグロが釣れなくなってきている。本マグロの餌となるイカの漁獲量も減少している。(15cm前後のイカ=バライカ)

「本マグロが釣れないことも問題だが、餌となるイカの漁獲量が減ったことも問題だ。それにより本マグロが漁場にとどまらなくなった。」と漁師は語る。海の中で生態系のバランスが崩れ始め、日本有数の豊かな漁場は姿を変え始めているのだ。
本マグロとイカが減っていることは、海の恵みを大切に守ってきた勝本の漁業にとっては大きな打撃だ。

釣れない原因は何か

「巻き網漁が原因だ」と漁師たちは口をそろえて語る。以前はアジ、イワシ、サバを対象としていた巻き網漁。しかし、近年、巻き網漁でこうした魚種が獲れなくなり、勝本周辺でイカを大量に獲るようになったと言う。一本釣りと巻き網漁とが競合するようになったのだ。

一度に大量にとれる巻き網漁が相手では、一本釣りでの漁獲量は減少する。効率の良さで巻き網漁にはかなわないのだ。これに加え、日本海では巻き網漁による本マグロ漁獲が大幅に伸びてきている。こうした巻き網漁の転換が、勝本の一本釣りに大きな影響を与えていると口をそろえる。

「一本釣りの漁師にとっても、巻き網業界にとっても、資源が持続可能に利用できるよう適切な漁業管理措置をとってほしい」と勝本の漁師たちは行政に訴えてきた。しかし、この紛争を収められるような有効な管理措置は未だとられていない。

資源量が徐々に少なくなっている上に、漁師全体が平等に恩恵を受けるために培ってきた勝本の地域的な漁業管理が、今、危機に立たされている。

せりの様子

マグロの胃と中から出てきたイカ。

巻網漁法(上)と一本釣り(下)

勝本町漁協
マグロ類とイカ類の生産量の推移

*2009年度マグロ類生産量は7月現在のもの

証言2: ある若者たちの証言

受け継がれてきた業と精神

勝本で本マグロが主な漁業資源として台頭してきたのは、ここ20年くらいのこと。親の世代にはなかった新しい本マグロ一本釣り漁を支えるのは、20~40代の若い世代だ。

漁師の家に生まれた子どもたちは、そのほとんどが家業を継いできた。親の仕事が格好よかったし、漁業はお金が泳いでいるのと一緒。だからそれを獲ればいいと教えられてきたという。何の迷いもなく、漁師を継いだ。

とはいえ、決して楽な仕事ではない。夜中の12時に、餌であるイカなどを獲るために船を出し、そのまま獲れた餌を使って夕方6時近くまで海に出っ放しだ。餌資源が少なくなった最近では、3杯程度のイカで本マグロを釣らなくてはならないこともある。きわめて厳しい状況だ。

 それでも、思い出に残る嬉しいことがあるという。それは本マグロが釣れた時だ。1尾釣りあげるのに、最短でも1時間半、長い時には20時間近く本マグロと格闘し、逃げられた事もある。それでも釣り上げたときの喜びはひとしおだ、と嬉しそうに語る。

インタビューに応える若い漁師たち

港と漁船

魚のいない水族館

若い世代の漁師たちは、小さな子供を抱える世代でもある。最近の不漁は、彼らの生活にも暗い影を落とす。
「ひどい時には5000円ほどしか稼げなかった月もある。」とある若い漁師は悲痛さを訴えた。「皆さんが想像する以上に今、ここの海の状態は悪い。海の中は、まるで魚のいない水族館ですよ。」

格好いい親たちの仕事にあこがれて後を継いだ世代が今見ている海は、昔とは様変わりし、安定した収入を見込めなくなった漁師という仕事では、家族を養っていくことも難しくなりつつある。

この状況を変えるためにはどうすれば良いか。この問いに、「巻き網漁を中心に小型魚の漁獲規制や産卵期の操業禁止を含めた、何らかの規制が必要だ」と語る。もう一度、豊かな漁場を取り戻すためには、親魚も稚魚も十分に管理しなくては始まらない。

「人に出しても恥ずかしくない魚を獲っているので、多くの人に食べてもらいたい」若い漁師たちは、親の世代の頃と変わらず、漁師としての誇りと願いを持っている。漁師たちがいつまでも魚を獲り続けることができ、私たちがおいしい魚を食べ続けることができるために、生産者から消費者まで、日本人全員が持続可能な漁業を真剣に考える時代がやってきている。

9月7日から10日まで、長崎県でWCPFC(西部太平洋マグロ類委員会)の北小委員会がひらかれる(*)。その会議では、日本を含めた太平洋の本マグロ資源状況に配慮した漁業管理について話し合われる。適切な管理措置が本会議で合意されるかどうかが、勝本を含めた日本の小規模な沿岸漁業の将来にも大きな影響を与えることになる。

  • *WCPFCは中西部太平洋まぐろ類条約の略称。北緯20度以北の条約水域に分布する魚種に関する措置の決定は、北小委員会の勧告に基づいて行なわれる。

世界の海のマグロ類の資源管理にかかわる国際機関。海域や魚種によって管轄が異なる。
くわしく見る

2009/9/07

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