南西諸島エコリージョン


九州から台湾にかけて連なり、温帯と亜熱帯、双方の気候と動植物相をあわせもつ南西諸島は、世界的に見ても貴重な自然環境が残る場所です。WWFジャパンはこの南西諸島の自然を、国内での生物多様性の優先保全地域と位置づけ、その保全を目指しています。世界に誇ることのできる、南西諸島の自然を守ることは、世界中の人々から託された大切な課題でもあります。

南西諸島の自然

「南西諸島」という呼称が示す範囲は広く、薩南諸島を北端とし、トカラ列島、奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島、南端の八重山諸島に加えて、大東諸島、尖閣諸島を含みます。

これらの島々は、それぞれが違った生態系を擁し、その生物種の希少性と多様さは、世界的にみても貴重なものです。

陸の環境としては、沖縄島北部に広がる「山原(やんばる)」に代表される亜熱帯性の森林や、樹齢千年を超える屋久島の杉林が、海の環境としては数百種のサンゴからなるサンゴ礁がその代表です。

南西諸島のサンゴ礁は、黒潮の流れの影響により『海の熱帯林』とよばれる豊かな生態系を有しています。

高緯度地域でありながら、世界最大のオーストラリアのグレートバリアリーフと肩を並べるほどの種数のサンゴが見られます。

中でも、八重山諸島のサンゴ礁は世界的にみても貴重なもので、石垣島白保のアオサンゴ群集は、世界最大級として知られています。

また、石垣島と西表島の間に広がる日本最大のサンゴ礁である石西礁湖は世界で三番目のサンゴの種数を誇る生物多様性の豊かな場所です。

しかし、これらのサンゴ礁は陸域からの赤土の流出や高水温による白化現象、オニヒトデの大発生などによって脅かされています。

石垣島・白保(しらほ)での活動について

新石垣空港問題をめぐって

世界最大級のアオサンゴの群集が世界的に注目を集めたのは、1979年に沖縄県が発表した沖縄県石垣島に広がる白保サンゴ礁の埋め立てによる空港の建設計画に端を発する新石垣空港問題でした。

白保集落の人々は、海とともにある暮らしを守るため、この計画への反対を表明しました。

その後、地域の反対運動は沖縄本島や全国的な運動に広がりました。

WWFジャパンでは、1985年に科学者委員会による海域調査を実施し、このサンゴ礁が学術的にも貴重であることを明らかにしました。

「開発」か「サンゴ礁保護」か。議論は国際的な関心を高め、1988年には国際自然保護連合(IUCN)が計画の見直しを求める勧告を出すに至りました。

その後、空港計画地は二転三転しました。

WWFジャパンは、サンゴ礁保全の立場からこの問題に関わるとともに、2000年4月には、多くの方々のご支援のもと、白保にサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」を開設。

サンゴ礁保全に関する普及啓発や環境教育に取り組むとともに、新石垣空港の環境アセスメントなどへの提言活動を行なってきました。

これらに加え、サンゴ礁に関する調査・研究にも着手し、サンゴ礁での赤土堆積量やサンゴの健康状態などを把握する自然科学調査や伝統的な地域でのサンゴ礁の利用方法や自然管理の知恵などを聞き取る社会科学調査を実施しています。

地域の方々と共に

2004年以降は、白保地域で、住民の皆さんが持続可能な形で取り組むことのできる、サンゴ礁保全の仕組みづくりを進めています。

この取り組みは、南西諸島の各地でサンゴ礁保全の活動モデルとなることが期待されるものです。

WWFは、南西諸島では人々の暮らしとサンゴ礁の生態系サービスが、密接に関わりを持っているため、その保全を進めるためには、地域コミュニティの参加が重要だと考えています。

生物多様性の保全はもちろん、長い歴史の中で自然と関わりながら育まれてきた地域の文化も、そうした取り組みの中での重要な保全対象です。

地域に暮らす人々が身近な自然とそれらと調和した郷土の文化に誇りと愛着を持つことが保全の推進力になるからです。

こうした考え方から、WWFでは白保地区で、サンゴ礁保全のための「人づくり」「組織づくり」「産業づくり」に取り組んで来ました。

その一環として、2005年には地域の多様な主体が参加するサンゴ礁保全団体「白保魚湧く海保全協議会」の立ち上げを支援。

地域との協働によりシュノーケル観光事業者の自主ルール策定や伝統的定置漁具「海垣」の復元・活用、ギーラ(シャコガイ)の放流事業、農地周辺へのグリーンベルト植え付けによる赤土流出防止活動などに取り組みました。

また、地域の自然の恵みを利用する知恵や手技を地場産業に育てる、地域に根差したイベント「白保日曜市」を定期的に開催。

これらの活動は、「サンゴ礁文化を継承する里海づくり」として広く内外に知られるようになっています。

2013年には、これらの活動を地域が自立的に運営していけるように、NPO法人「夏花(なつぱな)」の設立を支援し、エコツーリズムや環境調和型農業によるサンゴ礁保全の仕組みづくりを進めています。

「やんばる」での取り組み

沖縄島北部に広がる亜熱帯の森「やんばる(山原)」。

ここは、ヤンバルクイナやノグチゲラ、ヤンバルテナガコガネなど、世界でこの森にしか生息しない固有種を含めた、多くの野生生物の貴重な生息域です。

その自然は、島内最高峰の与那覇岳を中心とした山岳地帯から、東西の両沿岸域に連なり、森から海へと続く景観を形作っています。

とりわけ、沿岸域については、国の天然記念物にも指定されている東村の慶佐次川河口域にひろがるマングローブ林をはじめ、カキの養殖が始まった場所としても有名な、汽水域の湖を擁した大宜味村の塩屋湾など、美しい場所や景観が数多く知られています。

WWFジャパンでは以前よりこの「やんばる」の自然保護に関わってきました。

2007年12月には、「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として、世界で沖縄島北部の亜熱帯林やんばるの森にだけ生息する希少な固有種、オキナワトゲネズミの調査を支援。

2008年3月には、30年ぶりとなるオキナワトゲネズミの捕獲に成功し、その生息を確認しました。

その後も、分布域に関する調査活動を継続。2010年、2011年にも生息調査が行なわれ、謎に包まれてきたその生息地が、徐々に明らかにされることになりました。

2014年からは、久米島での、地域が主体となった自然の調査や赤土の流出防止に取り組む体制づくりの取り組みを、この「やんばる」地域でも展開しています。

赤土の流出は、多くが農業活動に起因する農地由来の流出であることが知られていますが、その原因や背景は、地域によって異なります。

たとえば、沖縄の主要農業作物としてサトウキビがあげられますが、やんばるでは、シークワーサーなどの柑橘系作物やパイナップルといった果物が多く生産されており、その農地も大きな赤土の発生源になっていると考えられます。

これは、同じく赤土が流出する農地でも、サトウキビの栽培を中心としている、久米島や沖縄南部と異なる点です。

また、山地から海へと続く比較的急峻な陸の地形もやんばるの大きな特徴で、今後の赤土対策を拡充していく上でも、重要なポイントになる可能性があります。

やんばるを地元とする大宜味村のご協力のもと、意見交換の場を開催した際には、参加された地元の方から、「ぜひ塩屋湾をよみがえらせたい」、「地域の振興のためにも取り組んでいきたい」、といったご意見や、海を脅かす問題は赤土だけでなく、他にもさまざまな問題があることを指摘する声も聞かれました。

WWFジャパンでは、地域の方々とともに今後の計画を練り上げ、対策活動を進めていきたいと考えています。

やんばるの森とジュゴン生息地の保全

沖縄島北部に広がる亜熱帯の森「やんばる」の東側は大半が米軍の演習場となっているため、開発の手が伸びておらず、ヤンバルクイナやノグチゲラ、アマミヤシギ、ケナガネズミなど、希少な野生動植物が現在も生き残っています。

しかし、1996年にSACO(日米両政府の沖縄に関する域特別行動委員会)の合意により、この米軍演習場7,800ヘクタールの約半分が日本に返還され、未返還の地域に7つのヘリパッドを移設する計画が持ち上がりました。

那覇防衛施設局の調査では、建設予定地には絶滅のおそれのある145種もの動植物が確認されています。

また、同じく名護市辺野古および大浦湾の海域には、絶滅の危機に瀕している海の哺乳類ジュゴンが生息していますが、この動物も危機に瀕しています。

日のあたる海の浅瀬にしか生えない海草(うみくさ)だけを唯一の食物にするジュゴンにとって、良質の海草が多く自生する名護市辺野古地区の海辺は大切なすみかです。

しかし現在、この海を埋立て米軍普天間飛行場の代替施設を建設する計画が進められています。

WWFジャパンは、こうした沖縄の自然の豊かさを訴えつつ、地元の住民、市民団体などと広く協力しながら、政府に対する要請を行ない、その保全を求めています。


これまでの取り組み

久米島応援プロジェクト

沖縄島の西約100kmの海上に位置する久米島は、同じ南西諸島の沖縄島や石垣島と比べると小さな島ですが、この島にしか生息しない固有種を含む、多様な生物が生息しており、高い生物多様性を持つ島と考えられています。

島には、湿地(ウェットランド)を保全する国際条約「ラムサール条約」に登録されている保護区があり、島全体が、WWFジャパンの南西諸島生物多様性優先保全地域に選定されており、島内でも、環境教育活動をはじめとした、積極的な環境保全活動が行なわれています。

しかし一方では、開発によって島の固有種クメジマボタルなどが絶滅の危機に瀕しているほか、今も続いている赤土の海への流入が、海に生息する生物と、その生息環境に悪影響をおよぼしており、将来的な生物多様性への影響もが懸念されています。

「久米島応援プロジェクト」のスタート

WWFジャパンでは、2009年10月から2012年9月末までの3年間、久米島での赤土流出によるサンゴ礁生態系への影響削減を目指して、自然科学・社会人類学、環境教育、広報など、さまざまな分野の専門家がプロジェクトメンバーとして取り組んだ「久米島応援プロジェクト」を実施しました。

科学的調査と分析に基づく効果的な保全対策活動と、自然を地域の資源として活性化する、地域支援モデルの試みとして、将来的な他地域への普及・展開を目指しました。

久米島の島尻湾内における赤土等の堆積状況を調査し、過去の調査結果との比較により土地利用状況の変遷と人為的な影響を調査・分析した結果、島尻湾には自然浄化機能があり、陸域の赤土等流出防止策を効果的に進めることで、島尻湾内の生物生息環境の回復が期待できることがわかりました。

また、白瀬川と儀間川の水質、底質の赤土等の土砂の堆積状況を調査し、同じく周辺の土地利用状況と流出の人為的影響について分析しました。

その結果、儀間川流域については、沿岸のサンゴへの影響を10年間で回避するには2010年を基準に、毎年前年の赤土流出量の15%削減を目標値にすることを設定しました。

国内最大級のサンゴ群落も確認

地元の方々の協力を得て行なった海域でのサンゴの調査では、国内最大級のヤセミドリイシを主とするイシサンゴ類が幅約200m長さ約1200m大規模な群落が確認されました。

さらに久米島沿岸の海底洞窟(海底鍾乳洞)での生物採取調査の結果、海域から新種のヌマエビを発見するといった成果も、地元の環境や赤土問題に対する関心を喚起しました。

プロジェクトの終了後、地元の保全団体である一般社団法人久米島の海を守る会が久米島町役場と連携協力協定を締結し、赤土対流出対策活動について相互に協働する地域体制ができました。現在島内の保全活動や対策支援制度について、官・民が協力し、継続しています。

また、久米島でのモデルを沖縄島北部の「やんばる」をはじめ、他の地域へと展開し、さらに相互の協力ネットワークを構築することにより、点から線、線から面へ、広域な対策が進むことを期待しています。

「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト

「WWF南西諸島生きものマップ」は、南西諸島の中でも、とりわけ生物多様性が豊かで、優先的に保全すべき地域(生物多様性優先保全地域)を明らかにした地図です。

これは、南西諸島の哺乳類、鳥類、魚類などの生物相と、サンゴ礁、自然林、自然海岸などの生息環境の現状を、地理情報システム(GIS)を用いて分析し、各分野の専門家の知見をいただいて作成されたもので、2006年10月から2009年9月の3か年にわたるプロジェクトとして、実施されました。

ご参加いただいたのは、南西諸島の生物、自然環境に詳しい約60名の研究者や地域の専門家の方々。

調査の過程で、オキナワトゲネズミなど、絶滅が危惧されるさまざまな生物の現状や、新種の存在を明らかにすることが出来ました。。

また、プロジェクトで抽出した生物多様性優先保全地域が、十分に公的な保護区として設定されていないことも明らかにしました。

オキナワトゲネズミの保護にも貢献

プロジェクトの過程では、オキナワトゲネズミの生息域が、森林伐採対象地に含まれていたことが判明し、WWFジャパンが沖縄県に保護の要望書を提出しました。

その結果、沖縄県が、対象地から除外するよう国頭村や関係機関に対して速やかに通知し、国頭村も沖縄県と連携すると回答を得ることが出来ました。

また、プロジェクトの終了後も、環境省、林野庁、沖縄県からの依頼に応じて、生物多様性優先保全地域選定に関わる全データを提供してきました。

これらのデータは、世界自然遺産登録推進を踏まえた国立公園、森林生態系保護地域など公的な保護区設定の見直しや様々な行政機関による自然環境の保全管理事業に役立てられています。

プロジェクトの概要、南西諸島南西諸島生きものマップ、報告書、関連DVDは以下のサイトからご覧、入手いただけます。

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