青木川自然保護区管理局 繆涛さんの報告
山の民の生活は素朴です。しかし、青木川自然保護区内の集落で暮らす人たちには、更なる負担を背負っています。周囲の自然に手を加えることが、制限されているからです。
そのことについて彼らに問いかけてみると、「何でもないことだ」という答えが返ってきました。キノコの栽培や樹木の伐採ができなくても、出稼ぎ等でお金を稼げる、というのです。「自分たちが山の資源を使い切ってしまったら、子孫はどうやって生きていくのか」と。

青木川自然保護区のスタッフ、繆涛さん
村にのしかかる膨大な再建費用
5月12日に発生した大地震は、そんな彼らの静かな生活を一変させました。80%に及ぶ建物が倒壊し、村の人々の暮らしは文字通り破壊されました。彼らは一体、どうやって生きていけば良いのでしょうか? 膨大な再建費用を、どうやって賄うかという課題に、村人たちは皆、頭を抱えていました。
村人たちが家の再建で悩んでいたとき、私たち青木川自然保護区管理局もまた、村々を支援するための資金をどうやって工面するかに悩んでいました。
そんな時に、WWFから、「保護区で暮らしている地域共同体が、持続可能な形で生計を立てられるようにするパイロット・プロジェクト」を援助したい、と申し出があったのです。導入されるのは、お茶の栽培や、養蜂、メタンガスタンクの設置、そして、エコツーリズムなどでした。
蜂を飼う
さっそく私たちは、新たな生活の手段として養蜂プロジェクトを導入する候補地となった保護区奥地の村を訪れました。村の人たちは、壊れた家の再建に忙殺されていましたが、私たちを暖かく迎えてくれ、プロジェクトについていろいろ尋ねてきました。
何人かの村人は、私たちの計画が、まず何軒かの家を選んでそこに養蜂の技を伝え、次にその家が、年間の収入の中から、他の家を支援していくというやり方であることを聞いて、少しがっかりしたようでした。しかし、ほとんどの人たちは、こうしたやり方に理解を示し、経験を積んだ人や、多くの蜂を飼育できる人を、試験的に養蜂を導入する家に選ぶことを約束してくれました。
8軒か9軒の家を訪ねた時点で、私たちは、青木川の町まで帰るには遅くなりすぎてしまったことに気づき、村に泊まることにしました。
一夜を過ごせる場所を探していたとき、羅剛さんという若い男性が、家に泊まっていけと言ってくれました。
木は、切らない
小川のそばに建つ彼の家に行くと、壁にはたくさんのヒビが入っていましたが、結婚式の飾りが残っており、彼が新婚であることがわかりました。
夕食のあと、羅さんに将来のことを訪ねると、彼はこう答えました。
「僕たちは若くて強い。地震の後に考えたんだけど、山で生活するのは無理だから、引っ越すよう父を説得しているんだ。この村以外の場所での暮らしには慣れないから、と反対されたけど、お金が集まり次第、街に家を建てようと思う。君たちもその時には遊びに来てくれよ! お金が一番の問題だけど、政府はいくらかの援助金を出してくれるだろうし、親戚からも少しお金を借りて、銀行でローンを組めばなんとかなる。そういう選択ができる僕はまだ恵まれている方だよ。何軒かの家は、わずかな蓄えもなくて、ローンを組むことさえできないんだ。食べる物にも事欠くような人たちは、これからどう生活を建て直すんだろう」。
「私たちが力になれることは、何かないですか?」
私がそう尋ねると、羅さんの奥さんがすがるような目で私を見つめ、言いました「いくらか、木を切らせてもらえませんか? 売ったり、使ったりしたいんです」。
すると、羅さんが怒って言いました。
「どうしてそんなことを言うんだ? 皆が木を切り倒すことを望んだら、ここは自然保護区じゃなくなってしまう。保護区のスタッフは、お茶の栽培や養蜂で、僕らの暮らしを助けようとしているんだ。それなのに、なんて身勝手なことを言うんだ」。
山の人々に感謝をこめて
私は彼の親切と、保全への理解に深く感動しました。その夜、羅さんは、家の中にとどまっていては余震があった時に危険だからと、彼らの唯一の避難場所に私たちを泊めてくれました。そこには、厚いマットレスを敷いた、清潔な毛布が掛かる2つのベッドがあり、明らかに新婚の2人のための部屋だとわかりました。
ですが私は眠れませんでした。余震が怖かったからではありません。村の人たちに、気持ちが、強くかき立てられていたからです。彼らは何も要求せず、自らの意思で、森を見守っていました。
私は、そんな彼らに対する尊敬の気持ちを胸に、そして、実際に現場で見なければ知ることが出来なかった、彼らの犠牲や貢献が報われるように、森の天然資源の保護や、村の暮らしの改善のために、これからも一生懸命に働いていきます。
青木川自然保護区の村人たちに、感謝を込めて。


青木川自然保護区とツキノワグマ


被災した村の人たち。苦しい生活が続く。



養蜂の設備を村の人たちに配る。
| WWF中国スタッフ 李子君より |
|---|
|
秦嶺山脈周辺地域の人々は、環境の保全に対する高い意識を持っています。彼らは実際の活動にも協力し、多大な貢献をしてくれています。WWFが実績をあげてきた活動の一つである、地域の環境教育や普及活動は、その基盤を作る役目を果たしました。 秦嶺山脈にある青木川自然保護区は、5月12日に発生した地震によって、最も深刻な被害を受けた20カ所の保護区のうちのひとつです。WWFの支援のもと、青木川の村人たちは、持続可能な形で生計を立てていける道を積極的に探っています。自分たちの生活を再建するために必要な自信を、取り戻しつつあります。村人たちが、震災によってもたらされた窮乏生活から脱することができれば、森林などの天然資源の乱開発は、きっと防ぐことができるでしょう。 ジャイアントパンダの生息地の保全を強化し、発展させるこれからの取り組みは、決して忘れられることのない、この青木川の村人たちの貢献に支えられているのです。 |
▼この現地レポートのオリジナルはこちら(英文/PDF:1.7MB)
関連するWWFの活動
パンダの保護活動
2000 A WWF Species Status Report より (C)WWF/Fritz Polking はじめに ジャイアントパンダは世界中で広く愛されている動物で、ご存知のとおりWWFのシンボルマークとしても、1961年の設立当時から幅広く認知されてきました。 しかし、ジャイアントパンダ...続きを読む
中国・四川大地震の救済活動
WWFは現在、四川大地震により被災したジャイアントパンダの保護区周辺において、被害の影響調査や、地域の住民への支援活動を展開しています。このプロジェクトを支援するため、日本でも緊急支援を募りました。ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。 保護区および周辺地域への支援を行なっています ...続きを読む





