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WWFの活動

「高速道路料金の割引・無料化」および「自動車関連諸税の暫定税率の廃止」に対するWWFジャパン意見

意見書 2009年8月20日

WWFジャパン 気候変動プログラム

概要

2009年8月30日の衆議院選挙へ向けて各党が発表したマニフェストの中で、一部の政党は「高速道路料金の割引・無料化」および「自動車関連諸税の暫定税率の廃止」を約束しています。

WWFジャパンは、これらの施策は自動車利用の増加を引き起こし、温室効果ガスの排出量を増大させる重大な懸念があるため、その負の効果を打ち消すような対策と同時でなければ実施してはならないと考えます。具体的には、鉄道、バス、フェリーなどのより排出量の少ない移動手段へのモーダルシフト(移動手段の変更)の積極的な推進や、廃止する暫定税率を上回る炭素税などの排出量削減対策が必須になります。

各党のマニフェストは、「高速道路料金の割引・無料化」や「暫定税率の廃止」に言及する一方で、地球温暖化対策を重視する姿勢を示しています。現政権のこれまでの温暖化対策や、掲げられている中期目標が不十分であることをふまえると、各党の温暖化対策についての積極的な姿勢自体は評価すべきであり、また、中には、負の効果への対策に言及しているものもあります。しかし、それらが負の効果を打ち消すに十分な水準なものになるかどうかについては、明確な記述はなく、温暖化対策の流れに逆行してしまうかもしれないという大きな矛盾を孕んでいます。

選挙後、いかなる政権が成立することになろうとも、「高速道路料金の割引・無料化」や「暫定税率の廃止」については温暖化対策の観点から慎重に検討するべきです。これらの施策を実施する場合は、増加してしまうであろう排出量分を削減対策によって打ち消し、全体としては必ず排出量の「削減」に持っていくことが必要です。

各党の立場

各党は、マニフェストにおいて、高速道路料金の割引・無料化や暫定税率の廃止の是非について表 1の通り言及しています。この中で、明確に「高速道路の無料化」および「暫定税率の廃止」を打ち出しているのは民主党です。この他、公明党は、高速道路料金の割引の「恒久化」および「自動車重量税の軽減など暫定税率を含む税率の在り方を総合的に見直し」に言及し、社民党は、「ガソリン税の暫定税率は廃止し、自動車の社会的費用や温暖化対策など環境面から抜本的に見直し」に言及しています。

他方で、社民党および共産党は、高速道路料金の割引や無料化については否定的な見解を示しています。

自民党は、両方の争点について特に言及していません。しかし、現政権の政策として、ETC利用者の高速道路利用料金を1,000円(週末)にする措置がとられていることを踏まえれば、一定の立場がその背景にはあると考えるのが妥当です。また、同政策の結果、本年(2009年)のお盆休みには、渋滞増加による排出量増大が引き起こされた可能性が高いと言われています。

表1:各党のマニフェストにおける立場

党名 高速道路料金の割引・無料化/暫定税率の廃止に対する立場
自民党 特段の言及無し
民主党

▼「マニフェストの工程表」において「暫定税率の廃止:ガソリン税等の暫定税率の廃止・減税」と「高速道路の無料化:原則として高速道路の無料化」に言及

▼「マニフェスト政策各論」において、それぞれ以下の記述がある:

29.目的を失った自動車関連諸税の暫定税率は廃止する

【政策目的】
○課税の根拠を失った暫定税率を廃止して、税制に対する国民の信頼を回復する。
○2.5 兆円の減税を実施し、国民生活を守る。特に、移動を車に依存することの多い地方の国民負担を軽減する。

【具体策】
○ガソリン税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税の暫定税率は廃止して、2.5 兆円の減税を実施する。
○将来的には、ガソリン税、軽油引取税
 は「地球温暖化対策税(仮称)」として一本化、自動車重量税は自動車税と一本化、自動車取得税は消費税との二重課税回避の観点から廃止する。

【所要額】
2.5 兆円程度

30.高速道路を原則無料化して、地域経済の活性化を図る

【政策目的】
○流通コストの引き下げを通じて、生活コストを引き下げる。
○産地から消費地へ商品を運びやすいようにして、地域経済を活性化する。
○高速道路の出入り口を増設し、今ある社会資本を有効に使って、渋滞などの経済的損失を軽減する。

【具体策】
○割引率の順次拡大などの社会実験を実施し、その影響を確認しながら、高速道路を無料化していく。【所要額】
1.3 兆円程度

公明党

▼「特性を生かした地域の発展」の一項目として以下に記述がある:

高速道路料金の大幅割引
●物流の効率化を図るため高速道路料金をさらに引き下げます。
●現在の高速道路料金割引制度の恒久化を目指します。」

▼「税制抜本改革の基本的な視点」の一項目として以下に記述がある:
(5)税制のグリーン化、自動車関係諸税の見直し
低炭素化を促進する観点から、税制全体のグリーン化を推進します。
また、自動車関係諸税については、取得、保有、走行各段階における複数の課税について
簡素化を図ります。特に、自動車重量税の軽減など暫定税率を含む税率の在り方を総合的に見直し、負担を軽減します。

社民党

▼「1.税財政改革」の一項目として以下に記述がある:

ガソリン税の暫定税率は廃止し、自動車の社会的費用や温暖化対策など環境面から抜本的に見直します。消費税との二重課税や複雑な自動車諸税の整理・見直しをすすめていきます。

▼「3.人・まち・環境にやさしい交通」の中の一項目として以下に記述がある:

○民営化された高速道路各社に料金割引分を税投入し、効率化や営業努力と関係なく料金保証をする
政策は、交通モード間の不公正な競争をもたらすものであり、受益者負担原則や地球温暖化対策、環境問題、財源問題、モーダルシフトや総合交通政策との整合性、地域生活交通への影響、地域雇用等の観点から問題があります。国は公共交通や物流などのすべての交通モードに対して必要な対策を講じるべきです。

共産党

▼(2)軍事費・大型公共事業などの歳出の無駄をなくします」の中の一項目として以下の記述がある:

高速道路無料化より福祉・教育を優先する......高速道路料金の無料化や大幅引き下げに何千億円、
何兆円という税金を注ぎこむことが、「税金の使い方」として適切でしょうか。無駄な高速道路建設に歯止めもかけないまま、旧道路公団の借金を国民に肩代わりさせて続けられようとしている高速道路
料金の軽減よりも、福祉や教育を税金の使い方として優先します。

高速道路料金の割引・無料化について

高速道路料金に関しては、そもそも、1956年に日本の高速道路計画がスタートしたときには、建設後30年で償還して無料になる約束だったにもかかわらず、現在は、通行料金を半永久的に取り続ける仕組みとなっています。したがって、割引や無料化の方向自体が問題というわけではありませんが、その具体的な実施にあっては、慎重にも慎重であるべきです。

民主党は完全な「無料化」を、公明党は「割引制度の恒久化」を主張していますが、今の社会制度のまま、高速道路料金の割引や無料化を性急に進めれば、自動車利用を促進させ、CO2 排出量を増加させることは必至です。ただし、完全な無料化の場合は、高速道路の料金所の撤廃等を含むため、渋滞の緩和につながり、一部排出量の削減効果が生まれる可能性もあります。また、これまで一般道路を無理して走っていた自動車が高速道路を使用することによる渋滞緩和や燃費改善も考えられます。しかし、他の交通手段からあえて自動車に切り替える利用者が増加することによって、それらの効果も相殺され、排出量の増加は避けがたいと考えられます。

しかも自動車利用を加速させる一方で、鉄道やバス、フェリーなどの公共交通機関の利用を縮小させることになるので、低炭素社会のインフラ整備を強化していくことには逆行する動きになります。

したがって、今後取るべき政策は、自動車交通のみを一方的に有利にするような性急な高速道路料金の割引・無料化の実施ではなく、むしろモーダルシフトを進めるべく、公共交通機関の機能性を高め、自動車への依存を下げながらCO2 を減らしていくものでなければなりません。

また、地域経済の発展と低炭素社会の両立のためには、地域交通需要と地域条件に合わせた対策が必要です。現状では、大都市圏と地方において、地域ごとに輸送人キロ当たりCO2排出量に、3倍近い差があります(*)。したがって、高速道路料金の割引・無料化などの実施は、大都市圏と、自動車利用が生活の足となっている地方都市とに対してきめ細かく変えていくべきです。

上記のように、高速道路の割引、無料化については、低炭素社会の実現との両立を最大限に考慮に入れながら、慎重に検討していくべきです。

  • *西岡秀三編著「日本低炭素社会のシナリオ」p125-127,日刊工業新聞社(2008年)

自動車関連諸税の暫定税率廃止について

暫定税率は、そもそも道路整備五ヵ年計画(1973-1977年)の財源不足を確保するため、暫定措置として導入されたものであるため、本来の課税の根拠を失った現在、廃止することは筋にかなっている面もあります。

しかし、廃止の弊害として、自動車価格および燃料価格を低下させ、自動車の利用を促進することにより、結果としてCO2の排出を増加させ、またその他の排ガスによって大気汚染や光化学スモッグなどの環境問題を促進する恐れがあります。

暫定税率の廃止を掲げている民主党および社民党は、2020年までに温室効果ガス25%または30%削減('90年比)など温暖化対策の推進を政策として掲げていますが、暫定税率を廃止することでCO2の排出増を招いてしまっては、温暖化政策に逆行することになってしまいます。

そこで、双方の政策を両立するためには、炭素税の導入を同時期に行い、その税率を、廃止される暫定税率以上に設定することで、排出増加を回避することが肝要です。民主党・社民党ともに地球温暖化対策税や環境税の導入には言及していますが、暫定税率廃止の負の効果を打ち消すだけの水準で設定するのかどうかが不明です。炭素税を導入したことによる税収は一般財源化したり、社会保障費の軽減やさらなる温暖化対策の推進に充てたりすることが考えられます。炭素税は本来、排出削減の努力をしたものが報われ、それ以外のものが負担を強いられる、いわゆる汚染者負担原則(polluter-pays principle)に則った政策ですので、道路の利用に応じて課税する道路特定財源とは類似の側面があり、負の効果を打ち消すための対策としても適切といえます。

以上のように、暫定税率廃止や高速道路料金の無料化などは、モーダルシフトや炭素税の導入とセットで、包括的な税制改革の一部として提示されるべきです。その詳細が明らかでないまま、これらだけが一人歩きするのは、せっかくの温暖化対策を後退させるものとなってしまいます。各党は、すみやかにこの点を是正して、包括的な地球温暖化対策のありかたを示すべきです。

2009/8/20

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