インドネシア政府と州により、環境に配慮した土地利用が公約されたはずのスマトラ島で、製紙企業による大規模な森の伐採の計画が明らかになりました。野生復帰したオランウータンをはじめ、多様な生物に残されたすみかの森が危機にさらされています。(5団体の共同発表より)
切り尽くされつつあるリアウ州の低地林
かつては全島が、熱帯の自然林に覆われていたインドネシアのスマトラ島。しかしその森林は、この数十年で急速に失われてきました。1985年から2007年までに消失した森林の面積は、合計約12万平方キロ。北海道の約1.5倍の広さにのぼります。
特に、島の中央に位置し、平地の熱帯林(低地林)が広がっていたリアウ州やジャンビ州では、大きな林道が造りやすく、開発が容易であったことから、短期間に広範囲の森林が伐採されてきました。
森の消失が懸念される中、インドネシア政府は2008年10月、スマトラ全島で一貫性のある、生態系に配慮した土地利用を進めていくことを公約しました。
スマトラでは、自然保護区として保全されている森林の周辺にも、保護区と同様に生物の多様性に富んだ森林が、部分的に残されており、公約は将来、これらの森を保全してゆく上で、大きな前進となることが期待されていました。
ところが政府が、このような保護価値の高い森林を伐採し、植林(プランテーション)などの造成を許可する森の使用権を、新たに企業に与えたことが、現地のNGOの調査で明らかになったのです。
スマトラオランウータンが野生復帰した森も危機に
今回問題となっているのは、ジャンビ州にある、ブキ・ティガプル国立公園に隣接した、2つの伐採許可地域です。ここは、国立公園の域外ですが、公園内に劣らないほど豊かで、保全の必要性が高いとされていた森林区域でした。
しかし、スマトラの森林破壊に長年かかわってきた、世界的な製紙企業アジアパルプアンドペーパー社(APP社)と、その関連会社は、政府よりこの地域の森の使用権を取得。2008年には、この2区域の境界に沿って広い林道を建設し、早晩にも伐採を始める姿勢を見せています。
実は、この森林の周辺区域は、ある試みのための重要な場所でもありました。ドイツのフランクフルト動物学協会などが、2002年にインドネシア政府から森の一部の使用権を取得し、スマトラオランウータンの野生復帰を史上初めて、成功させた森だったのです。
スマトラオランウータンは、かつてスマトラ全土の熱帯林に生息していましたが、森の消失に伴い、激減。現在は、スマトラ北部のグヌン・ルーサー国立公園周辺などに、6,700頭前後が生息するのみです。
この、絶滅寸前の大型霊長類を危機から救うため、ブキ・ティガプル周辺の森では、数十年にわたり、スマトラオランウータンを野生に戻す試行錯誤が続けられてきました。そして、その取り組みは近年ようやく実を結び、現在100頭前後が生息しているといわれ、さらに繁殖も確認されていました。

リアウ州の森林減少率は、スマトラ島内の10州のうちで最も高く、過去25年間に、元々あった面積の65%、約4万平方キロもの森が失われています。

スマトラオランウータン。スマトラの熱帯林にのみ生息しています。総個体数は1万頭以下といわれ、絶滅寸前の危機にあります。
【地図】スマトラ島ジャンビ州 ブキ・ディカプル周辺地図。クリックすると拡大されます。
日本と世界の動物関係者が「No!」
スマトラに残る、数少ない自然度の高い森を伐採し、また、回復の兆しを見せるオランウータンを再び危機に陥れ、長年にわたる保護の取り組みをも、無に返そうとするAPP社の行為。
これに対し、WWFは抗議の意を示すと共に、フランクフルト動物学協会、ロンドン動物学協会、スマトラトラ保全保護基金などと共に、インドネシア政府に対して、同社に与えた許可を撤回するよう求めました。
オーストラリア・オランウータン・プロジェクトもこの要請に賛同すると同時に、オーストラリア国内で、APP社製の紙製品が依然として利用されていることについて、問題提起を行なっています。
また日本では、SAGA(Support for African/Asian Great Apes;アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)も、以下のようにコメントしています。
「関係者の長年の努力により、100頭というまとまった個体数が維持されている、スマトラオランウータンの重要な生息地が失われるとしたらきわめて遺憾です。大型類人猿は繁殖がむずかしいだけに、今回の伐採が致命的なダメージを与える可能性が憂慮されます。インドネシア政府ならびにジャンビ州政府の慎重な対応を要望いたします」。(SAGA世話役代表 松沢哲郎 京都大学霊長類研究所・所長)
インドネシア政府は一刻も早い、土地利用計画の具体案を!
インドネシア政府が、生態系に配慮したスマトラ全島の土地利用を公約したことは、島の環境保全の歴史のうえで最大の、歴史的な朗報でした。
しかし政府が、実際にどの森をどのようにして保全していくのか、具体的な計画を示さない限り、実際の保全は前に進みません。今回のように、州政府が独自の判断で、公約に矛盾する森林の伐採許可を企業に与えてしまう事態も、引き続き起こる可能性もあります。
今、このスマトラの伐採問題をめぐり、国際的にも注目が集まる中、インドネシア政府の判断が待たれています。
日本で利用するコピー用紙も、その20%がスマトラ島産の木材を原料としています。日本をはじめ、海外の消費者が、紙や木材の原料がどこから来ているのか。よく確かめ、原産地の明らかでない製品を利用しないことも、インドネシアに残された自然林を守り、ゾウやトラ、サイそしてオランウータンなどの貴重な生物の存続につながることを、WWFでは訴えかけています。
記者発表資料
2009年6月12日
アジアパルプアンドペーパー社、森林破壊に着手 オランウータン野生復帰やトラの生存が危機に
SAGAのサイト
SAGA(Support for African/Asian Great Apes;アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)
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