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WWFの活動

WWFジャパン 地球温暖化対策の中期目標に関する意見

2009年5月15日(金)

意見提出者

提出者名:WWFジャパン(財団法人 世界自然保護基金ジャパン)
担当者名:気候変動プログラム・山岸尚之、小西雅子、池原庸介
住所:〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル6F
電話番号:03-3769-3509
電子メールアドレス:climatechange@wwf.or.jp

(1)我が国の温室効果ガスの中期目標(2020年)は、どの程度の排出量とすべきか

・以下の6つの選択肢から選ぶか、独自にふさわしいと考える排出量(■■年比●●%)を挙げてください。また、その理由も述べてください。

<意見> 日本は、2020年までに1990年比15~30%の排出量削減を行うべきである。

理由:1)世界の気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑え、気候変動による被害を最小限に食い止めるためには、世界全体で大幅な削減を緊急に行っていく必要がある

IPCC第4次評価報告書以降、気候変動は同報告書が予測した以上の速度で進展し、影響も顕れている。

  • 現状の世界のCO2排出量増加のペースは、IPCC第4次評価報告書で検討された排出シナリオのうち、A1F1シナリオという最も危険なシナリオ(最良予測で4℃上昇につながる)の経路をたどっていることが確認されている(Raupach et al 2007)。

  • IPCC第4次評価報告書以降の知見によって、海面上昇の予測値はより大きくなっている。

  • 北極の夏期における海氷面積の減少ペースは、IPCC第4評価報告書が示した予測値を既に超えている。

したがって、IPCCの第4次評価報告書が示した内容以上に、気候変動への対応の緊急性は高まっている。その事実を踏まえて、世界全体で大幅な削減を緊急に実施することを達成するために、日本は積極的な貢献をする必要がある。

Raupach, Michael R., Gregg Marland, Philippe Ciais, Corinne Le Quere, Josep G. Canadell, Gernot Klepper and Christopher B. Field. (2007) Global and regional drivers of accelerating CO2 emissions. PNAS. 104(24): 10288-10293.

理由:2)先進国全体としての排出量削減目標は、25%では不十分でなるべく40%に近い水準で行う必要がある。日本はその中で、相応の負担を率先して負い、削減を行っていくべきである

気温上昇を2℃未満に抑えるためには、大気中の温室効果ガス濃度を450 ppm 以下に抑える必要がある(ただし、仮に450 ppmに抑えたとしても、2℃を超えてしまう可能性は50%近く残る)。

そして、450 ppm に温室効果ガス濃度を安定化することを前提とし、かつ先進国が気候変動を引き起こしてきた責任を重視するという原則にたって、先進国・途上国の削減分担を考慮した場合、先進国は全体として、25~40%の排出量削減が必要であることをIPCC第4次評価報告書は示している。

前述のように、IPCC第4次評価報告書が出版されて以降、気候変動に関する緊急性がさらに高まっている事実を踏まえれば、先進国全体としては40%に近い削減を実施していかなければならない。

しかし、選択肢1~4は、先進国全体の削減量が-9%~-29%の幅でしか検討されておらず、そもそも先進国全体の削減水準の想定が不十分である。

尚、アメリカが現状では「1990年比0%」しか掲げていないため、先進国全体で-25~-40%レベルの削減はそもそも無理という指摘もある。しかし、アメリカの目標が低いことを言い訳にして、日本が低い目標を掲げていいことにはならない。オーストラリアは、他の先進国が追随すれば-25%の目標を掲げると主張を変えてきた。日本も他の先進国のさらなる削減を誘導するような高い目標を掲げるのが、京都の名を冠した議定書のホスト国の責務である。また、万が一アメリカが応分の負担を国内削減でどうしても達成できないとすれば、その削減に対応する国際的な貢献を求めていくことが必要である。

理由:3)先進国内で排出量削減の分担を行う際、比較同等性の基準として限界削減費用だけが採用されることはありえないため。「責任」、「能力」、「削減ポテンシャル」等に関する他の指標も含めて総合的に検討した既存研究を参考にすると、日本は15~30%程度の排出量削減が必要となる

中期目標検討委員会での検討では、限界削減費用という指標が、国際的な公平性・比較同等性を確保する指標として重視されている。そして、次善の候補として、GDPに占める費用の割合(%)も別指標として検討されている。

これらの指標は、確かに一定の有用性はあり、国際的な議論の中でも取り上げられる可能性は高い。しかし、現状の国連での議論や各国・各研究機関の主張を見る限り、それらの指標だけで公平性や比較同等性がはかられることはまずあり得ない。

したがって、日本の目標が、他の先進国の目標と比較して公平であるか、または比較同等性を確保できるかという点については、他の指標も考慮して総合的に判断する必要がある。他の指標の例としては、以下のようなものがある。

  • 「責任」に関する指標:一人当たりの(累積)排出量、(累積)排出総量、世界全体に占める排出量の割合、等

  • 「能力」に関する指標:一人当たりGDP、人間開発指標(HDI)等

  • 「ポテンシャル」に関する指標:GDP当たり排出量、GDP当たりエネルギー消費量、特定部門のエネルギー効率、ベースラインからの改善率等

  • その他の国別事情に関する指標:人口(の傾向)、一定期間の排出量傾向、排出総量の規模、排出量の増加率、等

現在の国連での議論では、これらの指標について、各国が様々な選好を示しており、議論はまとまっていない。

また、これらの指標をどのように扱うのかについては、さらに色々な手法・アプローチが存在する。

そうした様々な指標・アプローチを検討したいくつかの既存の研究を参照に日本の目標を検討すると、日本の目標はおおよそ15~30%程度が適当であると考えられる。

たとえば、den Elzen et al (2008) によれば、先進国全体で30%もしくは40%の削減を達成することを想定し、いくつかの指標・アプローチを活用して先進国各国の分担を検討した結果を見ると、日本の削減幅は13%~39%となっている。

また、Hohne and Moltmann (2009) によれば、450 ppm の濃度安定化を想定し、いくつかの指標・アプローチを活用して先進国各国の分担を検討した結果を見ると、「削減量」に海外での削減支援貢献分を明示的に含むアプローチ以外は、日本の削減幅は32%~34%となっている。

また、国立環境研究所・京都大学・東京工業大学のチームが、先進国全体で25%の削減を達成することを想定し、いくつかの指標・アプローチを活用して先進国各国の分担を検討した結果を見ると(西岡 2009)、日本の削減幅は-3%~-30%となっている。

それぞれ、想定している先進国全体の削減量が違うため、単純な結論を出すのは難しいが、「先進国全体で40%に近い削減を行う」という原則にたてば、日本としてはおおよそ15%~30%程度の削減が妥当であると考えられる。

西岡秀三 (2009) 「中期目標に関する意見」 第7回中期目標検討委員会資料 2009年4月14日

den Elzen, Michel, Niklas Hohne, J. van Vliet and C. Ellermann. (2008) Exploring comparable post-2012 reduction efforts for Annex I countries.Netherlands Environmental Assessment Agency.

Hohne, Niklas and Markus Hagemann. (2009) Comparable efforts between Annex I countries based on principles proposed by the EU and Japan. Presentation at Bonn Side, Bonn, Germany, 30 March 2009.

Hohne, Niklas and Sara Moltmann. (2008) Distribution of emission allowances under the Greenhouse Development Rights and other effort sharing approaches. Ecofys.

理由:4)日本の目標設定は、他の先進国の目標の水準に影響を及ぼす。先進国全体の目標を低く抑えることになれば、中国・インドなど主要途上国の削減行動を鈍らせ、ひいては世界全体の排出量削減の水準にも悪影響を及ぼす。特に、選択肢1のような低い目標を掲げた場合は、次期枠組みの合意そのものを危うくする可能性すらある。

現在の国連の議論では、多くの途上国は、先進国に全体として40%以上の削減を求めてきている。この中には、中国やインドなどの国々も含まれる。

また、小島嶼国と一部の中南米・アフリカ諸国は、共同で45%以上の削減を求める宣言を先のボン会議で発表した。

こうした状況において、極端に低い目標、特に京都議定書からの進展がほとんどみられない選択肢2や3,ましてや逆行を意味する選択肢1といった目標を掲げれば、それは翻って途上国がどれだけの行動を次期枠組みの中で約束するかに影響を及ぼす。最悪の場合、次期枠組みの成立そのものに悪影響を及ぼす可能性がある。

次期枠組みにおいて、世界全体での排出量削減の進展を重視するのであれば、なおさら、日本は先進国として責任ある目標を掲げるべきである。

理由:5)比較同等性の基準として、限界削減費用を使用したとしても、各国・各研究機関によって、限界削減費用のデータそのものが異なる。異なるデータを調整する必要があり、結果として日本が想定している排出削減量よりも大きくなる可能性が高い

中期目標検討委員会では、公平性・比較同等性の指標として、限界削減費用を重視している。しかし、国毎の限界削減費用曲線を作成するためには、当該国での利用可能な技術やその費用に関するデータが必要となる。このデータの情報源やその扱いは各研究機関や各国によって異なるため、同じ国の限界削減費用曲線であっても、研究機関によって違った曲線が描かれることがある。

こうした性質を持つ限界削減費用を国際的な公平性・比較同等性の指標として使用する場合、当然ながら、異なるデータや想定の調整が必要となる。その結果として、日本が現在想定しているほど、日本にとって有利な目標にはならない可能性がある。また、研究機関および各国の間での調整自体が「交渉化」するリスクもあることは留意する必要がある。

たとえば、オーストリアの研究機関IIASAがウェブ上で公開しているGAINS IIASA Gains Mitigation Efforts Calculatorを使用して、日本の各選択肢が想定している限界削減費用やGDPに占める費用の割合を入力して削減量を求めると、おおむね日本での計算よりも大きな削減量が求められる。

理由:6)高い目標を掲げることで、表面上の費用の増加は発生するが、それ以上に、モデル試算には含まれていない利益(新規産業および雇用の創出、技術革新の奨励)がもたらされる可能性が大きい

気候変動対策の要となる省エネ産業や再生可能エネルギー産業は、今後、成長や拡大が見込まれる産業としても有用である。たとえば、CleanEdgeという機関が発行している報告書によれば、再生可能エネルギー産業の市場は今後10年間で倍以上に大きくなっていくことが予測されている(Makower et al 2009)。

他方で、日本のGDP当たりのエネルギー消費量や二酸化炭素排出量などの、日本の効率性を示す指標は、1990年以降は改善が滞ってしまっている。1970年代の石油危機をきっかけとして行われた大幅な改善による日本の優位性は、近年では失われつつある。

このことを踏まえ、大幅な削減目標を設定して、技術開発や省エネ産業・再生可能エネルギー産業に明確な拡大の方向性を示すことが、結果としては日本に利益をもたらす。具体的には、新規の産業が創出され、雇用が拡大したり、技術力の優位性を海外に対して確保したりといった利益が考えられる。しかし、そうした利益はモデルの影響評価には十分には取り入れられていない。目先の対策費用ばかりではなく、低炭素社会へ向けた施策のもたらすプラスの効果を積極的に評価して目指していくべきである。なお、プラスの効果をもっと積極的に国民に伝える義務がある。

Makower, Joel, Ron Pernick and Clint Wilder. (2009) Clean Energy Trends 2009. Clean Edge.

理由:7)いずれの選択肢でも2050年までに60%~80%の削減をするという長期目標は達成可能とあるが、そこに至るまでの累積排出量は、小さい削減目標では増えてしまう。また、次世代に必要削減量の多くを押し付けるのは公平とはいえない

政府資料では、選択肢のいずれをとっても、日本が掲げる長期目標(2050年までに60%~80%削減)は達成可能とある。しかし、どのようなペースで削減をするかによって、2050年までの期間内に累積して排出してしまう排出量は異なるため、地球環境に対するインパクトは異なる。一般的に、小さい削減目標ほど、より多くの排出量を累積では排出してしまう。

IPCC第4評価報告書の知見によれば、気温上昇を2℃未満に抑えるための2100年までのカーボン・バジェットは、1100Gt-CO2未満と限られている。したがって、2020年までに多くの排出を許すということは、この予算を早期に使い過ぎてしまうことを意味する。たとえ、2050年における到達地点が同じであったとしても、途中の排出経路が違えば、2℃未満に抑えられる予算を使いきってしまう恐れもある。

また、小さい削減目標を掲げることは、即ち2020年以降の排出削減のペースをより急激にしなければならないため、そうした負担を将来世代に押し付けることになる。政府資料でも指摘されているように、技術開発もそのインセンティブが明確でなければ進まない可能性もあり、小さい削減目標で、誤ったインセンティブを与えるべきではない。

(2)その中期目標の実現に向けて、どのような政策を実施すべきか

・規制的措置(エネルギー効率改善規制、機器等の導入義務付けなど)、経済的助成措置(補助金、減税等)、経済的負担措置(炭素税、排出量取引等)など様々な種類の政策を、どのように組み合わせて実施すべきか。

1)排出量取引制度を中核とし、炭素税を補完的に使用するポリシーミックスを導入するべきである

部門別には、エネルギー転換、産業、工業プロセスの3部門に属する一定規模以上の排出量を持つ事業所は、排出量取引制度の対象とする。これらに加え、全部門を対象に、上流にて炭素税を導入する。先の3部門における排出量取引参加者については免税扱いとして、排出量の算定報告の手続き時に還付を受けられるようにする。排出量取引対象部門のキャップおよび炭素税の税率は、中期目標および長期目標の達成と整合的な水準に設定する。対象とするのは、直接排出量とする。

この他、各自治体において、主に業務部門を対象とした地球温暖化対策計画書制度を導入することを義務とする。主体数の数などから考慮して、意義があると認められる場合は、東京都で実施されているような排出量取引制度を同時に導入する。この場合の対象は、間接排出量とする。上述の排出量取引制度と二重負担が生じる部分については、過度な負担につながるケースを特定し、必要な軽減措置を講ずる。

2)家庭用・業務用機器に対するトップランナー形式は拡充・深化を行う

現在の家庭用・業務用機器に関するトップランナー目標の対象範囲を拡大し、また、水準も中期目標上の想定に合うように設定する。

3)発電施設など省エネ法下でのベンチマーク作成に適する部門については、ベンチマークを元に基準を設定する

現在、省エネ法下で進められているベンチマークの作成が進展している業種については、作成されたベンチマークを元に、効率基準を設定する。この際、単に日本国内で最高効率を目指すのではなく、各業種の施設が全て世界最高効率になることを目指すような基準の設定を行う。

4)車両に関するトップランナー基準は、燃費基準からCO2排出量基準に切り替え、目標の強化を行う

電気自動車等の拡大も想定して、トップランナー基準を燃費基準からCO2排出量基準に切り替えることが必要である。また、水準も中期目標上の想定に合うように設定する。

5)建築物に関する断熱基準(壁やガラス等)を義務化する

建築基準法において、建築物の省エネ水準を設定して、新築については少なくとも早期から、そして既存住宅についても漸次的に改修を義務化する。ただし、既存住宅の改修にあっては、政府からの助成が得られるようにする。

6)排出量取引制度内の中で実施する排出枠オークションからの収入や炭素税税収を再生可能エネルギー・省エネルギー支援に一部振り向ける

排出量取引制度の中で実施する排出枠オークションや炭素税による税収は、その一部を再生可能エネルギー導入および省エネルギー導入の支援に振り向ける。再生可能エネルギーについては、太陽光発電設備の導入等の支援策を重視する。省エネルギーについては、HEMS・BEMSなどの省エネルギーの進展を総合的に支援し得る枠組みの支援の他、具体的な設備導入、住宅・建築物の省エネ基準達成のための支援策に使用する。

7)同じくオークション収入や炭素税税収を、途上国支援に充てる

途上国での適応対策や脱炭素化政策の支援の資金源とする。

8)同じくオークション収入や炭素税税収を、逆進性問題が発生した場合の救済に充てる

炭素価格の上昇は、エネルギーコストの上昇につながるため、低所得者層の家庭に対して影響がより大きくなる可能性もある(逆進性の問題)。このような問題がどの程度発生し得るのかを客観的に分析・検討した上で、オークション収入・炭素税収入を活用して、その救済に充てる。

9)上述の用途で使用する以外のオークション収入は社会保障費負担の低減に使用する

6や7で述べた支援策・救済策に使用される分以外のオークション収入については、社会保障費負担低減のために使用するなどして、その収入・税収が一般の人々の生活負担軽減に回るようにする。

・政策の実施に伴うコスト(規制に伴う国民や企業への負担、経済的助成に伴う財政負担など)について、どのように考えるか。

1)モデル試算で示されているGDP成長率の押し下げは、成長スピードの鈍化を示すものであって、成長が止まることを示すものではないことを重視するべきである

政府資料では、2020年の実質GDPの押し下げが強調されているが、これは基準ケースとされている選択肢1からの差である。

選択肢1では、年平均1.3%のGDP成長率を見込んでいる。この成長率であれば、2005年を基準として考えると、2020年には累積の21.3%の成長が達成されていることになる。それが、25%の排出量を削減する選択肢6では、3.2%下がって、18.2%の成長になると計算できる。決して、2020年の実質GDPが現状から3.2%下がるという意味ではない。

したがって、いずれのシナリオでも、経済の成長そのものは持続することがモデル試算では示されている。日本社会が、今後「経済成長」や「GDPの拡大」ということに「豊かさ」の重きをおくべきなのかということ自体、見直さなければならない課題ではあるが、それを差し置いたとしても、GDPの成長は持続することは重視するべきである。

ましてや、対策を行なわない場合の気候変動の悪影響による被害が、一体どれくらいの費用に相当し、GDPの何%になるのかは分かっていない。被害の費用を重視せず、対策の費用のみを重視することは、誤った判断に結びつく。

2)モデル試算で示されている世帯当たりの可処分所得への影響については、その計算の仕方に一部問題があり、過大な影響の見積もりになっている可能性がある

「地球温暖化対策の中期目標の選択肢」という資料の注を見ると、世帯当たりの可処分所得への影響は、

(2007年の家計調査実績値)×(2020年時点での基準ケースからの増減率)

という形で求められていると解釈できる。たとえば、選択肢6では、日経センター・CGEの可処分所得押し下げ率が「-4.5%」なので、

483万円 × 4.5% = 21.735万円(約22万円)

という形で求められていると推測できる。

しかし、この算出の方法には問題がある。

まず、モデルそのものの試算から算出されているのは、基準ケース(選択肢1)からの増減率である。したがって、それを2007年の実績値に乗じるのは適切でない。

「基準ケースは現状継続だから、2007年と変わらない」という想定なのかもしれないが、そもそも、基準となる選択肢1でGDP成長率年平均1.3%が想定されている。そうであれば、可処分所得についても、過去の実績を元に上昇が想定されるべきである。もしそれが想定されないとすれば、経済が成長するにもかかわらず、可処分所得(一般の人々にとっての使用可能なお金)は上昇しないことがモデルの想定となる。

3)モデル試算で示されている世帯当たりの可処分所得への影響および光熱費の影響には、税収を還流して負担を軽減する等の措置は考慮されていない。したがって、適切な政策措置を講じることによって、家庭への影響は緩和できる

「経済・社会への影響の分析結果(一般均衡・マクロモデルによる)」という資料の備考欄では、AIMの部分にだけ、可処分所得への影響については、税収還流分が入っていないという注記がある。しかし、通常の一般均衡モデルによる影響評価を行っている限り、これは他のモデルにおいても同様と考えられる。

したがって、排出量取引制度におけるオークション収入や炭素税の税収を活用することによって、家庭等への影響の軽減措置をとることは可能である。

4)モデル試算に示されている光熱費への影響には、太陽光発電や住宅の次世代省エネルギー基準が想定通り普及した場合の光熱費減の効果が考慮されていない

「地球温暖化対策の中期目標の選択肢」という資料の注を見ると、世帯当たりの光熱費への影響は、

(2007年の家計調査実績値)×(2020年時点での基準ケースからの増減率)

という形で求められていると解釈できる。たとえば、選択肢6では、日経センター・CGEの光熱費の増加率が「81.0%」なので、

17万円 × 81.0% = 13.77万円(約14万円)

という形で、「14万円の増加」と求められていると推測できる。

しかし、可処分所得の場合と同様、この算出の仕方には問題がある。

まず、モデル試算において基準ケースとの比較において算出されている光熱費の増減率を、2007年の実績値に乗じるのは適切であるとはいえない。

また、より重要な点として、選択肢5や6のような目標においては、既存住宅および新築住宅の相当な割合に太陽光発電が導入されていることが想定されている。さらに、同じく既存住宅および新築住宅の相当な割合が、世代省エネ基準を満たしていることが想定されている。

こうした太陽光発電や次世代省エネ基準の普及を想定した場合、電気代、ガス代、灯油代といった光熱費は、住宅の省エネ化によって引き下げられると想定するのが妥当である。したがって世帯当たりの光熱費が現状のままで推移すると想定して、光熱費の影響を算出した場合には、影響が過大推計になっている可能性がある。

(3)その他、2020 年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見

1)長期的な視点を

  • 日本は2050年に60~80%の排出削減を世界に約束している。2020年は、この2050年に向けた最初の中間点として重要であり、世界に約束した60~80%削減を可能にする道筋を選んでいなければならない。このような大規模な低炭素社会へ移行するには、社会や産業の構造自体を変えていく必要がある。既存のインフラ・社会基盤を前提とした小手先の対策では、気温上昇を2℃未満に抑え温暖化の深刻な悪影響を食い止めることは困難である。長期的な産業、社会構造変革計画を持って実行していく中間点として2020年を位置づけるべきである。

  • 日本が進んでいくと見られる少子高齢化の社会の将来を見据え、ふさわしい温暖化対策を選択していくことが必要である。たとえば、都市の計画段階から、バリアフリーなインフラ整備、車がなくても日常の用が足りるコンパクトシティーなど、少子高齢化の社会が、低炭素社会とカップリングするような開発を当初から想定していくべきである。

2)政策で解決を

  • (2)で述べたように、規制的措置、経済的助成措置、経済的負担措置などあらゆる政策を、拘束力を持った形で導入して、低炭素社会へ導いていくべきである。その際に、いたずらに国民啓発運動などを、政策がないことへの代替としてはならないことを肝に銘じるべきである。国民啓発は大切ではあるが、しっかりした政策の組み合わせの上に行われるべきである。したがって、家庭における省エネなども、意識の高い国民の行動を待つだけではなく、助成措置などの政策での解決を図るべきである。

  • 原子力発電の稼働率だけに頼った排出削減の道ではなく、再生可能エネルギーを中心とした多様なエネルギー源を積極的に推進する方向で、低炭素社会を実現していくべきである。

  • 日本国内において、対策による経済的な負担をいたずらに誇張して対策を逃れようとするのではなく、積極的な対策により得られる経済効果や雇用拡大などのプラス面をより強く意識して、技術的優位性を活かして「豊かな低炭素社会」を、世界に先んじて実現することが、日本が世界へ貢献できる一番の道である。また、世界に先駆けて「豊かな低炭素社会」の実例を目指すことが、日本の国際競争力を高めることをもっと認識したいものである。

3)世代間公平性に配慮を

  • 2020年に日本で生きていく子どもたちや孫たちの世代に、温暖化の影響のつけを回すようなことはできない。と同時に2020年に今の私たちの世代が温暖化対策を怠ることは、より厳しい排出削減の対策を、子供たちや孫たちの世代に押し付けることになる。たとえば2020年に+4%の目標を持つと、2050年に80%減を達成するには、2020年以降毎年2.8%ずつ削減しなければならなくなる。また、 25%削減ケースでも、毎年1.83%ずつ削減していかなければならない。京都議定書の「6%」達成においてすら苦しんでいる国にとって、「毎年」2.8%削減しなければならないというのは、決して小さな数字ではない。+4%は論外としても、緩い目標を選べば選ぶほど、現在世代の私たちは、子供たちの世代により厳しい対策努力と対策費用を押し付けることになることを自覚すべきである。子どもたち、孫たちの世代に、よりより地球環境を残すためには、今なにをしなければならないかを考えて、2020年までにとるべき道を選ぶべきである。

4)途上国への支援を

  • 途上国は、すでに温暖化の影響に苦しんでいる。歴史的に排出に責任のある先進国の一員として、温暖化の影響に脆弱な途上国への支援策、特に急務である適応への資金援助や技術移転の仕組みを、日本の国内政策の中に組み込むべきである。EUは、域内排出量取引制度の排出枠配分方法をオークションに移行し、その収益からの一部を途上国支援へあてることを表明している。アメリカオバマ政権も、排出量取引制度のオークション収益からの一部をまわすことを示唆している。日本も、持続可能で予測可能な金額を途上国の適応支援へ回すことを前提とした包括的な温暖化政策を確立していただきたい。

5)日本の適応戦略を

  • 温暖化の進行は避けられないので、日本の適応の戦略も立てるべきである。国土計画、災害計画、治水、農業、漁業などあらゆる分野で適応戦略をたて、予算も確保していくべきである。短期的にみると、温暖化による食糧生産量へのプラスの効果も予測されるが、長期的にみればマイナス効果が顕著に現れてくることが予測される。日本の食糧自給率は約40%と低く、将来的にこれを高めていく上で、温暖化の悪影響に対する対策が大きな鍵を握っているといえる。

6)最新の科学の知見と、現状の排出傾向などに基づくレビューを

  • 現状の排出傾向は、IPCCが示す最も排出量が高くなるA1F1シナリオに沿っている。このままでは、世界は21世紀末に平均気温が4度上昇するシナリオに沿っていることを認識すべきである。温暖化対策を遅らせるような低い目標や、効果の高い政策の導入をためらっているような時間はない。高い削減目標を掲げて政策でその達成を確実にしながら、直近の排出傾向や最新の科学的知見に応じて、削減目標や政策手段を定期的にレビューし、必要に応じて修正しながら、常に最も野心的な温暖化対策に更新しながら実行していかなければならない。

参考資料

WWFジャパン:中期目標の考え方(PDF形式)

2009/5/15

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