2009年5月13日 意見書
【提出者】
(財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
事務局長 樋口隆昌
〒150-0014 東京都港区芝3-1-14
環境影響評価法第18条の規定に基づき、環境の保全の見地から、次の通り意見を提出します。
この準備書は、普天間飛行場代替施設(辺野古新基地)が自然環境や野生生物に及ぼす影響を「大部分の項目で影響はない、あっても軽微である、回避・低減措置がとられているなど保全措置が適切である、したがって、事業実施区域周辺におよぼす影響は総じて少ないものと判断される」と結論づけています。
しかし、先に結論ありきの準備書で、調査結果を羅列しただけで、考察をほとんどせずに、表面的にのみ影響を予測し、影響がないか軽微と結論づけ、重大な影響については、実際は回避・低減ができない可能性が高いにもかかわらず「事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られている」としている点で、非科学的であり不適正と言わざるを得ません。
また、方法書作成前に、環境へ悪影響を及ぼすような事前調査を行い、後に、方法書追加修正版や準備書で新たな事業内容を追加するなど、手続きの進め方に違法性があります。
このような合理的でない環境アセスメント手続きでは、不適切な影響予測によって絶滅危惧ⅠA類のジュゴンを絶滅させる可能性が高いだけでなく、科学的で適正なプロセスを怠り、アセス制度の形骸化をさらに進めるものとなるでしょう。基地建設計画を根本的に見直す、あるいは、再度、方法書に立ち返り、環境アセスメント手続きを適正にやり直すべきです。
1.環境アセスメント手続きについて
普天間飛行場代替施設の環境アセスメントは、その手続きの進め方自体にアセス法の趣旨と条文を無視する違法性があります。方法書(2007年8月)を縦覧し住民意見を求めた後で、方法書追加修正資料(2008年2月)、修正版(同年3月)を出し、ヘリコプターや固定翼機の機種、弾薬装弾場、洗機場、誘導灯などを新たに追加し、さらに、演習時や緊急時には集落の上空を飛行すること、また、埋立材として莫大な量の海砂が採取されることなどを明らかにしています。
また、今回の準備書では、新たに4か所のヘリパッド、汚水処理浄化施設が加わり、さらに、ゴルフ場造成が加わる可能性もあるなど、方法書で示されなかった事業内容がなし崩し的に追加されています。これらの重大な変更については住民が意見を述べる機会はありませんでした。
このような追加項目は、軽微な変更とは認められず、一つ一つの追加項目およびその集積が、大きな環境影響を生じる可能性が大きいと考えられます。したがって、環境影響評価法第28条および沖縄県環境影響評価条例第25条に基づき、方法書手続きに戻ってやり直すべきです。
2. 事前調査等の環境攪乱について
2004-2005年の現地技術調査(ボーリング等)、2007年の事前調査(水中ビデオ、パッシブ・ソナー、サンゴ着床板の設置)は、方法書が出される前に行われたうえに、自然環境と野生生物に大きな攪乱を与え、その影響が回復しないうちに2008年に環境アセスメントの現地調査が行われています。そのため、特に、ジュゴンの生息状況にはその悪影響が現れ、辺野古沖での生息、地先の海草藻場での採食が不可能となり、観察記録が得られなかったものと考えられます。
方法書の前に強行された事前調査は、方法書手続きを通して検討された手法で行われてはいないため、アセスメント自体が、非科学的で不適正なものとなっています。
少なくともジュゴンに与えた負荷が回復し、通常の行動が見られるようになるまで、ジュゴンに影響を及ぼすような調査や軍事演習は数年間中止し、安定状態を取りもどしてから、再調査を行うべきです。
3. 大気質
大気質は環境基準を満たすとされていますが、環境基準は、最低限満たすべき基準であり、基準を満たしたからといって良い大気質が維持されるわけではありません。今回の調査では、調査地点が少なすぎ、全集落で測定するべきでしょう。
また、地球温暖化対策として、工事中、供用後の軍事演習で排出される二酸化炭素についても、その排出量を見積もり、影響を予測するべきです。なお、排ガス対策型機械、アイドリングストップ、防塵シート、散水、法定速度の遵守、タイヤ洗浄などは、通常の配慮であり、取り立てて環境保全措置と言うほどのことではありません。
4. 騒音
予測の前提として、ヘリコプター(AH-1,UH-1,CH-46,CH-53)と固定翼機(C-35,C-12)の離着陸やタッチ&ゴーが1日あたり合計266回実施され、さらに、ホバリングやエンジン・テスト等も行われるとされています。準備書では、騒音は、V字型滑走路で周辺地域上空を回避するので、相当程度低減される、工事中の騒音も環境基準を満たすとされています。
しかし、一方では「訓練時や非常時には集落上空を飛ぶ可能性がある」と書かれていることから、予測の前提自体がそもそも不確実なものです。米軍の軍用機は、想定された飛行コース、飛行回数どおりに飛ばないことは明らかであり、現在の普天間飛行場のように、集落上空を低空で何回も飛行訓練することなど、最悪のケースを想定して影響を予測するべきです。また、実際に米軍が使用するヘリコプター、固定翼機を使用してデモ・フライトを実施し、住民に騒音とその影響を体感してもらい、意見書を書いてもらうべきです。なお、タッチ&ゴーでは、V字型の着陸用滑走路と離陸用滑走路を使い分けるなど、あり得ないことです。
軍事訓練の航空機騒音や工事中の海中騒音は、ジュゴンへ悪影響を与える可能性が高いと思われますが、その対策は、ジュゴン出現時に、水中音を発する工事の休止、航行船舶の回避など言葉だけで実際上の運用がどうなるのか不明であり、回避、低減が図られているとは言えないでしょう。そもそもジュゴンは、工事船が航行するような海域には近づかないと考えられます。
低騒音型機械、車両行調整、米軍車両の適正走行なども、保全措置というより行われて当然の工事手法です。
5. 振動
法令に基づく適正な工事、車両運行調整、低震動型機械、アイドリングストップ、米軍車両への適正走行依頼などによって、振動は、回避、低減が図られるとされています。しかし、これらは工事をする上での当然の配慮であり、取り立てて環境保全措置と言うほどのものではありません。基準が満たされたとしても、それは最低限であり、より良い環境状態を目指すものではありません。
6. 低周波音
米軍機は、V字型滑走路で周辺地域の集落上空を回避するので、低周波音は相当程度低減されるとありますが、騒音の項目で述べたように、米軍機の演習では、前提どおり集落上空を飛ばないとは考えられません。したがって、低周波については、その影響の危険性が指摘され、個人差もあるらしいことから、詳細に分析し、影響を予測するべきです。
7. 水の汚れ
コンクリート工事からのアルカリ排水の処理、基地内排水の浄化槽での処理、法令による濃度での海への排水によって、影響を回避、低減できるとしています。しかし、沖縄の米軍基地内での化学物質による汚染は、たびたび報道されており、軍事空港としての供用後の汚染については、何も触れられていません。また、工事中の排水や供用後の排水による汚染の蓄積についても触れられていません。塩分を落とすために、軍用機の機体を洗浄する洗剤あるいは薬品についても浄化方法、排出方法を詳しく述べるべきです。
8. 土砂による水の濁り
汚濁防止膜、裸地の転圧、洗浄石材の投入、台風時は工事を中止することによって、影響を回避、低減するとしています。しかし、これらも工事上の当然の措置です。沖縄の地域特性として、台風だけでなく局地的な集中豪雨も頻発することから、そのようなケースも想定して対策を検討する必要があります。豪雨時に、土堤や沈砂地、汚濁防止膜などが役に立たない例は数多く見られます。
さらに、すでに赤土の蓄積があるところ(バックグラウンド)は考慮されていませんが、これも大きな問題です。辺野古ダム周辺の丘陵から、海域埋立用の土砂を200万立方メートル、キャンプ・シュワブの平地から200万立方メートル、合計400万立方メートルも採取する計画なので、豪雨時における工事中の赤土流出、また工事後の法面、側溝等からの大量の流水の影響についても十分検討するべきです。
9. 地下水の水質
地下水位と水質に影響はないので何も対策をしないとされています。しかし、サンゴ礁のイノー(礁池)には、通常、地下水がわき出す場所があり、埋立によって、地下水脈が分断されたり、水量が変化したり、基地による化学物質汚染の可能性もあり、サンゴ礁海域や海草藻場への影響が予想されます。準備書では、この点に何も触れていないので、再検討が必要です。また、辺野古ダム周辺の森林が土砂の採取によって失われることから、集水域の環境が大きく変化し、これが地下水へも影響を及ぼすと考えられるので、その影響についてきちんと調査するべきです。
10. 水象
潮流の変化は基地周辺だけで、大浦湾等では大局的には変化しないとされています。しかし、そのような結論を出す根拠となったシミュレーションに関しては、実施要件、境界条件など、基本的な条件が示されておらず、観測値と実測値についてもよく一致しているというだけで、シミュレーションの精度など肝心の点に触れていません。そのため、このシミュレーションは、大きな変化はないという結論に合わせるために操作を加えたのではないか、という疑問を生じさせます。
したがって、シミュレーションについては第3者機関の検証を受け、潮流の変化と地形の変化、その結果に伴うサンゴ礁や海域生物への影響などの予測も、再度行うべきです。また、埋立地の堤防ができることにより、台風時や高潮時の高波などによって、陸上部に越波や塩害の被害が起きる可能性についても検討するべきです。
11. 地形・地質
重要な地形・地質の一部が失われるが、区域外にもあるので問題はないとしています。しかし、他地域にあるから問題ないというのでは環境アセスメントにはなっていません。辺野古のサンゴ礁地形、岩礁、大浦湾の南西側の急深斜面の喪失は一連の自然海岸の地形を大きく損なうものであり、地形・地質への影響は大きいというべきです。方法書への県知事意見では、重要な海岸地形・地質に関して詳細な調査を求めていますが、それは実現されていません。
12. 塩害
内陸への塩害は生じないとしていますが、埋立地の堤防ができた場合、波当たりが強くなり、海水の飛沫の飛び方も大きくなり、特に、台風や暴風雨時は、塩害が生じる可能性が増大することを否定できないと思われます。
13. 電波障害
航空機による電波障害の事例があり、発生したらアンテナ、ケーブルなどで対策を取るとしていますが、米軍機の演習は飛行ルートを変化させることから、特定の場所ではなく、周辺全域に電波障害の事例が増加する可能性を否定できないと思われます。
14. 海域生物
実行可能な保全措置で回避、低減が図られている、大浦湾奥部の作業ヤードを取りやめた、海上ヤードは工事後に撤去する、事後調査で影響が認められれば対策をとる、とされています。
しかし、サンゴ礁や藻場、浅瀬や深場などの海域生物について、影響が及ぶ範囲を、埋立によって失われる部分だけに限定していることに大きな問題があります。埋立の影響はすぐには現れなくても、次第に近傍から遠方へと波及していく可能性が高いと考えられます。事後調査の結果、後で悪影響が明らかになったとしても十分な対策はとれず、形式的対策になりがちです。
海域生物については、「重要種」のみを選んで影響を予測していますが、海草藻類、ベントス、魚類など記録種数の多い分類群については、それぞれの種の多様性について、他の海域と比較して検討するべきです。また、辺野古・大浦湾の海域生物の多様性の観点からも分析を行い、その評価と影響予測を行うべきです。
ウミガメ類については、キャンプ・シュワブの辺野古側の海岸(埋立予定域)を産卵の可能性の低い場所と判定していますが、辺野古側での唯一の産卵・ふ化が確認されている場所であることから、この判定は訂正するべきです。
海底ヤードについては、工事後に撤去するとしても、その建設工事、使用状況、撤去と海底への影響は大きいと考えられることから、現在の影響予測は不十分と思われます。
15. サンゴ類
大浦湾西岸作業ヤードの取りやめと中央部作業ヤードの移動、汚濁防止膜や防止枠の使用により濁りを低減する、埋め立て区域内のサンゴを移植するとしていますが、台風や集中豪雨時の濁りの発生については触れていません。台風や集中豪雨は、可能性として十分考えられることであり、影響を予測し、保全措置も検討するべきです。
サンゴ類は、埋立予定域のサンゴ類が消滅するだけでなく、近傍のサンゴ類も巨大な埋立地の存在による海流の変化等の影響を受ける可能性があります。水象の項目では、潮流の変化は埋立地近傍に限られるとしてありますが、このシミュレーション自体の信頼性が疑われます。辺野古崎から長島にかけての狭隘部が埋立により、さらに狭められることから、海水の流動が変化する可能性は、むしろ大きいのではないかと考えられます。もしそうならば、大浦湾のアオサンゴやハマサンゴなどの巨大な群集も海流の変化による影響を受ける可能性が高いと考えられます。
なお、サンゴ類の被度に関する調査では、調査結果としてスケッチだけが示されていますが、写真もそえて客観性を示すべきでしょう。
16. 海草藻類
辺野古地先の海草藻場は、面積が488.7ヘクタールとされており、沖縄島に現存する最大の海草藻場です。絶滅のおそれが極めて強い沖縄のジュゴンにとって、最も重要な採食場所と考えられます。しかし、辺野古および大浦湾で、埋立により71.8ヘクタールの海草藻場が失われるとされています。嘉陽・安部の藻場の面積が46.5ヘクタールであることから、その1.5倍の藻場が消滅することになります。また、埋立により直接消滅する場所だけでなく、埋立地の周辺も藻場としては次第に衰退する可能性が高いと思われます。
保全措置として、専門家の助言により、海草の生育基盤の環境改善と生息範囲拡大を図ると書かれているが、あいまいで具体的内容がありません。保全措置は実現可能なことを明確に示すべきです。海草の移植は、泡瀬干潟の例で見られるように、成功していません。
なお、辺野古地先の藻場のある海域は、現地技術調査(2004-2005年)や事前調査(2007年)、現地調査(2008年)、米軍演習によって著しく攪乱され、ジュゴンが利用できない状況になっている可能性が大きいと思われます。保全措置としては、現存の藻場海域を攪乱しないことが第一です。海草藻場の保全とジュゴンの保護は一体的なものとして検討する必要があります。
17. ジュゴン
ジュゴンはIUCN、環境省と沖縄県のレッドデータブックで、それぞれ絶滅危惧(VU)、絶滅危惧ⅠA類(CR)、であり、国指定天然記念物です。分布域の狭さ、個体数の少なさ、個体群の孤立、生息地での軍事基地計画などから、日本国内では最も絶滅のおそれの高い哺乳類と言うことができます。この点を十分に認識した上で、軍事基地建設の影響予測や保護に関する評価を行うべきです。しかし、準備書では、絶滅の可能性や保護対策に関する考察が、きわめて不十分であり、おざなりです。
嘉陽沖のジュゴンにとって、採食場所を含む生息範囲への影響は(埋立と軍事基地の工事、その存在、供用=軍事演習のどの段階も)、ほとんどないとする結論は、明らかに誤りです。影響がないという結論が先にあり、それに向けて強引に誘導したものに過ぎません。
準備書では、嘉陽地先の海草藻場の面積は44.2ヘクタールで、辺野古地先は488.7ヘクタールとされています。また、単位面積あたりの海草の乾燥重量も辺野古のほうが相当大きいという結果が示されています。したがって、採食場所としてみれば、辺野古地先は嘉陽地先より好適な条件を備えていると言えます。そのため、ジュゴンが辺野古地先の海草藻場で採食していない、沖でも観察されていないとするならば、その理由を考察しなければなりませんが、この点について準備書には何も書かれていません。
辺野古地先の海草藻場を利用せず、沖に生息しなくなってしまったのならば、以前からの軍事演習に加えて、2004、2005年の現地技術調査(4か所の単管足場、夜間の操船、スパット台船など)、また、2007年の環境現況調査(ビデオ、ソナー、サンゴ着床板の設置など)の影響があると考えるのが自然であり、きちんと考察するべきです。嘉陽沖で観察されるジュゴンおよび古宇利島から遊泳してきた個体は、辺野古沖および海草藻場のある地先のイノー(礁池)を利用できないことによって、大きな悪影響を被っている可能性が高いと考えられます。
ジュゴンが辺野古地先とその沖合を利用しないと結論づけるのなら、事業者は、事前調査と軍事演習の影響を消してから、すなわち、軍事訓練を2年ないし3年ぐらい中止して、その間およびその後にもジュゴンは辺野古地先と沖を利用しないことを証明しなければなりません。ジュゴンは辺野古付近の海域を利用していないから、埋立と軍事基地の建設、軍事演習の影響はないという結論は、あきらかに間違っています。
古宇利島東側の2頭へも、基地建設の影響はないとしているが、これも間違っています。準備書によると、古宇利島から辺戸岬、嘉陽、大浦湾への移動があると考えられており、古宇利島の個体らしいものが大浦湾中央部で遊泳する観察例があることから(沖縄島北部の狭い海域で交流があるのは、むしろ当然と言って良い)、行動圏のなかに軍事基地が建設され、演習が行われることによって、既に受けている影響に加えて、さらに大きな悪影響を被ると予測するのが合理的です。
準備書では、飛行場の供用=軍事演習における騒音は、ジュゴンへの影響レベルを上回る可能性があるが、飛行コースの直下に限られるとしています。飛行ルートの北東端は、まさに嘉陽沖のジュゴンの記録範囲に重なり、軍用機の騒音の影響はジュゴンの生息に大きな影響を与える可能性が高いと考えられます。準備書によれば、辺野古沖ではジュゴンが記録されなくなっており、近い将来、嘉陽沖も、埋立工事による海中騒音の伝播や軍用機の騒音によって生息場所として不適になる可能性があるとしたら、ジュゴンの生息域はさらに縮小し、重要な海草藻場が利用できなくなることから、生存はさらに危機的な状況になると予測されます。
一方、大浦湾での刺網による混獲の可能性を指摘していますが、その対策は示されていません。数十億円をかける環境アセスに比べれば、ジュゴン保護のための刺網漁への補償は微々たるものであり、保全措置として準備書で取り上げるべきです。
なお、航空機による飛行ルートは概念図ではなく、実際の調査時に飛んだ飛行ルートをGPSの記録にもとづいて示すべきでしょう。実際にどのように飛行したのか、準備書には示されていません。
18. 陸域動物(鳥類について)
鳥類調査は、ライン・定点調査とも広い範囲で薄く、道路と海岸沿で行われています。しかし、何の目的でこのような方法を採用したのか意味不明です。調査結果は、得られたデータを一括して表にしだけですが、地域別、環境別にまとめなければ、影響予測や保全措置の検討は困難です。データを羅列し、考察をほとんど加えずに、影響は無いか軽微と結論づけているに過ぎません。
ラインセンサス法を用いたのなら、記録個体数に関するデータを示すべきです。数量データがないので、定量的な解析、影響予測、評価がなされていません。個体数が多いのか少ないのかは、影響を予測、保全措置を評価する上で不可欠です。
留鳥および夏鳥については、繁殖の有無が影響予測と評価の上で重要ですが、準備書では、繁殖に関する調査や繁殖確認の方法がまったく示されていません。それにもかかわらず「改変区域では・・・調査地域では営巣繁殖は確認されておらず」という記述が並んでいます。調査のラインや定点に偏りはないのか、繁殖を確認するためにふさわしい方法を用いたのか、明記するべきです。そうでなければ、繁殖にかかわる観察ができないような手法で調査を行ったという疑いが残ります。少なくとも、環境庁(1978)の繁殖地図調査の手法を用いるべきです。
改変区域内で記録されたカラスバト、リュウキュウコノハズク、リュウキュウオオコノハズク、リュウキュウアオバズク、リュウキュウサンショウクイ、リュウキュウサンコウチョウ、リュウキュウコゲラ、アマミヤマガラなどについては、繁殖しているのか、していないのか、再調査するべきでしょう。フクロウ類は、繁殖期に、営巣可能な環境で、頻度高く鳴き声が聞こえれば、繁殖の可能性が高いと見るべきです。
工事中の騒音が鳥類に与える影響について、飛び立ちなど一時的な反応はあるが、生息地の放棄などの重大な影響はないとしています。しかし、その根拠は示されていません。土地改変区域では、鳥、コウモリ、トンボなどは周辺へ飛んでいくので影響がないと言うに到っては、アセスを放棄したのも同然です。辺野古ダム周辺は土取り場として、キャンプ・シャワブ海岸部は埋立と滑走路の建設で、大きく環境が改変されることによって、鳥類の繁殖、生息はほとんど不可能になります。
なお、予測結果(6-17-407ページ)では、ネズミ類に関して「新たにゴルフ場、芝地環境が創出され、生息環境が増加する可能性がある」、イノシシ、コウモリ、鳥類について「イジュ-タブノキ群落等が、ゴルフ場、芝地などによって減少する」と書かれていますが、そもそも「ゴルフ場」造成は施設計画に入っていないはずです。
19. 陸域植物
土地改変区域で個体が失われることによって、周辺区域の個体群の存続に影響が生じると考えられる種については、類似環境へ移植する、生息環境の保全に努める、事後調査を行い、専門家の助言を受けるとしています。しかし、類似環境とは何なのか、移植における活着とその後の成長、繁殖はどうなのかなど、技術的な検討は何もされておらず、形式的な保全措置を述べているに過ぎません。事後調査と「専門家」の助言に、結果を先送りしてしまうのは無責任と言えます。
また、土取り場の植物が刈り取られた後、緑化工法や植林が行われても、地形変化や風の吹き込みなどで、周辺植生への影響は大きいと考えられます。安易な移植は、移植先を攪乱することになるし、移植は、単に個体が生きのびればよいと言うことではなく、生態系の中で自然に世代交代していけるような手法を考えるべきでしょう。
20. 海域生態系
海域生態系の項目の中では、海草藻類、サンゴ類、底生動物類、魚類、爬虫類のリストを並べ、生態系を海浜、干潟、藻場、サンゴ礁、内湾に類型し、それぞれの生態系(意味は環境)と優占的(代表的)な種を結びつけたに過ぎません。
海域生態系への影響としては、他の項目と同様に、埋立によって失われる部分は、生息空間の消失として影響があり、機能が失われるが、保全措置として、消失藻場を最小化し、サンゴを移植することにより、可能な範囲で回避、低減が図られるとしています。しかし、辺野古地先で消失する藻場の重要性、特に、ジュゴンの採食場所としての意味を考察していません。
21. 陸域生態系(アジサシ類)
準備書では、陸域生態系と言いながら、中心となる記述は、アジサシ類など、上位性、典型性、特殊性という視点で選んだいくつかの種に関する調査結果を並べただけです。
アジサシ類については、その生息数(記録数)について、文献により5種947羽の記録があるとしながら(シュワブH18環境現況調査)、2007年、2008年の調査結果では生息数のデータを示していません。なぜ、データを示さないのか、生息数の調査をしていないのかどうか、明記するべきです。
辺野古・大浦湾で繁殖するアジサシ類は、フィリピン、インドネシア等で越冬して再び渡ってくる群であり、生活史の上で繁殖地が最も重要です。繁殖については、準備書でも触れているように、人の立ち入りによって妨害されることも少なくありません。また、台風によって卵やヒナが全滅することもあります。沖縄島全体でも、アジサシ類の繁殖数は大きく変化することが知られています。したがって、わずか2年の調査で、繁殖数が少ないから重要度は高くない、また、集団繁殖地ではないと結論づけるのは誤りです。
準備書では、埋立による生息場所の消滅、工事による騒音、軍用機による影響はいずれも小さく、回避、低減措置によってアジサシ類の個体群は維持されるとしています。しかし、長島、平島等は残されるとしても、近接した場所での埋立工事や空港の存在、軍用機の演習は、生息条件の悪化を積み重ねていくことになり、近い将来、この海域の個体群の繁殖は不可能になり、生息数も激減する可能性を否定できません。他にも生息地があるとか、採食できる海面があるから影響は少ないなどというのは影響評価ではありません。
陸域生態系におけるアジサシ類の位置づけをやり直すべきです。他地域、過去の記録との比較が重要です。辺野古、大浦湾では、過去2年間の繁殖はほとんどありませんでしたが、生息数は100羽から180羽が記録されています。
22. 生態系の構造と機能
生態系の構造として書かれている内容は、一般的な食物連鎖の記述とほとんどかわりません。生態系の機能についても、いくつかの生物類の生息場所を羅列しただけに過ぎず、生物多様性に到っては、分類群ごとの確認種数と重要種数を表にしただけで、物質循環は一般的記載のみです。これでは、生態系の構造と機能について調査したとは言えず、地域特性をもとにした考察もなく、影響を予測し、保全措置を評価できるものでもありません。
影響予測のフローチャートのみ肥大化していますが、生態系への影響は予測されておらず、生態系の代表として選定した数種について、直接改変区域内で、移動性の少ない種は影響があるが、鳥類のように移動できるものへは影響がないと、実際の予測の仕方はお粗末と言わざるを得ません。生態系への影響予測に関しては、内容が不十分であることから、やり直すべきです。
23. 生態系の関連
陸域生態系と海域生態系の関連性を明らかにし、保全の行動計画を立案することは、島嶼生態系において、たいへん重要な視点です。しかし、準備書では、わずか3分の2ページのみの記述で、生物の分布情報を並べ、環境の類型区分をしただけに過ぎません。海と陸との相互の影響を魚類と魚食性鳥類のみに限定しているのも不十分です。
多野岳等の脊梁山地東側の亜熱帯林、そこを水源とする河川、河口の干潟、マングローブ林、砂浜、岩礁、島、サンゴ礁、沿岸域まで、一連の水系としてみた場合の生物多様性、生態系の多様性の重要性について分析されていません。
24. 景観
辺野古・大浦湾における広大な埋立地の出現や辺野古ダムの水源林となっている森林の伐採と埋立用土砂の採取は、地域の景観を大きく変貌させます。また、供用段階に到り、軍用機による演習が開始されれば、騒音だけでなく、墜落の危険性など、景観全体が恐怖心を呼び起こすものとなるでしょう。陸から見た海、海から見た陸地、景観の大きな変貌と軍事演習は、地域住民にとって許容できるものではありません。
25. 人と自然の触れ合い活動の場
影響は工事中の一時的なものではなく、埋立地と軍事基地の存在、供用後の軍事演習は、人々の海岸の散歩、貝やタコの採集、釣りなど、これまで親しんできた自然の中での活動を不可能にしたり、あるいは景観の変貌、軍事演習によって、気分を阻害する可能性が高いと思われます。また、グラスボート、ダイビングなどの観光への悪影響も当然出てくると思われます。
26. 歴史的・文化的環境
辺野古沖や大浦湾のサンゴ礁には、古くから地名がつけられ、陸上と同じように親しまれてきました。このような民俗文化、歴史性も埋立等によって失われてしまいます。これらは、回避、低減されるものではありません。歴史・文化環境の代替性はありません。
27. 廃棄物等
事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られているとしていますが、供用後の使用者は米軍であり、どのような廃棄物が出されるのかは不明です。危険な廃棄物についても想定し、影響を予測するべきです。特に、化学物質等は、長期間残留し悪影響をおよぼします。
28. 環境保全措置
事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られ、環境保全措置は適切であるとされています。しかし、実際には、回避、低減にならないと思われるものが少なくありません。当然の工事手法(台風や休日には工事を休むなど)についてまで保全措置であると強弁するべきではありません。
29. 事後調査
予測の不確実性が大きいもの、効果の知見の不確実性の大きい環境保全措置について、事後調査をおこない、また、環境監視も行うとされています。しかし、特に、不確実性の大きいものについては、影響予測が難しいとして事後調査に先送りするべきではありません。いくつかのあり得るケースを想定してきちんと影響予測をするべきです。事後調査やモニタリング調査で悪影響を察知しても、その時には手遅れになっている可能性が高いのです。特に、ジュゴンの生息数が準備書に書かれているように、わずか3頭であるとすれば、日本では最も絶滅のおそれの高い哺乳類であり、その将来を事後調査にゆだねるという無責任な手法をとるべきではありません。
30. 総合評価
大部分の項目で影響はない、あっても軽微である、実行可能な範囲で回避、低減措置がとられている、環境保全措置が適切である、として「事業実施区域周辺におよぼす影響は総じて少ないものと判断される」と結論づけています。しかし、これは、先に結論ありきで、調査結果を、ほとんど考察しないまま、表面的にのみ影響を予測しているに過ぎません。重大な影響については、実際は回避、低減ができない可能性が高いにもかかわらず、「事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られている」と評価している点も作為的です。特に、供用後の軍事空港では、事業者(使用者)は米軍であり、日本の法律が及ばないことから、事業者の実行可能な範囲の回避、低減などは無意味です。
31. 埋立土砂
160ヘクタールの埋立には、2,100万立方メートルの土砂が必要で、そのうち400万立方メートルをキャンプ・シュワブ内の山林と平地から採取するとしています。しかし、残りの1,700万立方メートルについては、どこから調達するのか記述がありません。沖縄県内の海岸、海底から採取するのであれば、その量は沖縄県の海砂採取量(2006年度)の12年分以上になるとされています。県内から分散して採取すると仮定しても、総量は膨大であるため、沿岸海洋環境への影響は必至であり、土砂の採取に関しては環境アセスメントの対象とするべきです。
県外からの購入にしても、膨大な量であることから、採取地の環境を損ねる可能性は大きいと思われます。海外からの購入であれば、外来生物の侵入防止は困難であり、有害な生物の影響に関するアセスが必要でしょう。埋立土砂については、その入手に係わる計画をきちんと示す必要があります。
32. 不慮の事故
準備書には、米軍機の墜落、燃料庫、弾薬庫の爆発、化学物質の漏洩など、不慮の事故に関する記述がまったくありません。これらは、地域住民の安全、安心に直結する事柄であり、環境アセスの項目として含めるべきです。
33. 災害時の対応
上記と関連し、不慮の事故や台風、地震などの災害についても、どのような想定がなされ、どのような対策を取るのか、まったく示されていません。環境アセスの実施要項に書かれていなくても、住民にとっては重大な関心事であり、事業者は答えるべきです。
34. 米軍と治安
海兵隊員や米軍車両の増加は、地域の治安の悪化、交通事故等の増加に結びつく可能性があり、社会的不安が増加する可能性があります。この点も、住民にとっては重大な関心事であり、事業者は答えるべきです。
35. 水問題
将来の基地内の人口を約6,400人として、給排水計画が立てられています。しかし、給水量を1日当たり4,200立方メートル、排水量を1日当たり2,600立方メートルにした根拠は示されていません。
住民にとって水問題は深刻であり、辺野古ダム周辺が土取り場となることから、いつまで同ダムが辺野古地区の水源として存続できるのか、いつから県企業局の供給が始まるのか、水道料金などの条件はどうなるのか、準備書できちんと説明するべきです。
以上
この件に関する問い合わせ先
WWFジャパン 花輪伸一
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