3月17日、経団連をはじめとする業界団体は、各紙朝刊に「CO2を3%削減すると、一世帯あたり105万円かかる」という内容の意見広告を出しました。WWFジャパンは、この広告には表現や計算の方法に問題があり、コストの過大さを印象付けるものだとして、抗議する声明を発表しました。
コスト高を強調? 問題ありの意見広告
2009年3月17日、日本経済団体連合会を始めとする複数の業界団体が、新聞各紙の朝刊に「考えてみませんか?私たちみんなの負担額」と題した、意見広告を出しました。
その内容は、温暖化の主因とされている二酸化炭素の排出量を、日本が3%(1990年比)削減すると、一世帯あたり105万円のコストがかかる、というものです。
しかし、この広告には、表現や計算の方法に大きな問題が見られます。

「1世帯あたり105万円」は、2020年までの数字
これは日本が2020年までに、温室効果ガスの排出量を3%削減(1990年比で)すると52兆円かかる、という試算に基づいています。105万円という数字は、この52兆円を単純に世帯数で割ったものです。
つまり、52兆円という数字も、105万円という数字も、2020年までの累積の額であり、1年間の負担でみると、およそ7万円ということになります。この金額の表現の違いは、見る側の人に、大きく違った印象を与え、安易に負担の大きさを強調するものに他なりません。
コメント: 世帯への負担は105万円になるか?
本当に52兆円? それは一体誰が払う?
また、この根拠になっている、総額52兆円という数字も一つの試算に過ぎません。そもそも、この金額は市民だけでなく、政府や、今回の広告を出した企業を含めた業界が負担するもの。
しかも、その用途によっては、日本の内需拡大や、雇用増大につながる投資となるものです。
また、温暖化の防止が、お金がかかるだけでなく、コスト削減につながる点も、見落とされています。
広告で負担額とされている52兆円には、実際この省エネ効果などによって見込まれる、エネルギーのコスト削減分が含まれていません。
国立環境研究所の試算では、1990年比で4%削減したとしても、このコスト削減によって、日本全体では「負担」でなく「得」になるとしています。
日本は世界トップレベルの低炭素社会?
広告で強調されている「日本は世界トップレベルの低炭素社会です。」という一文も問題です。
広告左側のグラフを見ると、これは「GDPあたりのCO2排出量(2006年)」であり、「2000年の基準為替レート」を指標にしています。
しかし、このGDPあたりのCO2排出量は、指標の選びかたによって全く違った数字になります。たとえば、為替レートではなく、物価の違いを反映した購買力平価を指標にしてみると、日本とヨーロッパの間には、ほとんど差がなくなります。
日本は1990年当時は世界でも最先端の低炭素社会でしたが、今は他の国々に追いつかれてしまっているのが現状です。
また、仮に日本がある程度、低炭素社会の実現に成功しているとしても、地球温暖化問題の深刻さを考えれば、これで満足してよい理由にはなりません。
コメント:日本は「世界トップレベルの低炭素社会」か?
温暖化防止こそがコストの削減になる!
また、経済全体の未来を考えても、現時点でかかるコストばかりに目を奪われ、排出削減の努力を怠ることは、結果的にマイナスにつながります。
温暖化を放置した結果、進んでしまうさまざまな環境への悪影響に対処する費用は、現時点での取り組みに必要なコストの数倍にのぼると予測されているからです。
温暖化の経済分析「スターン・レビュー」によると、温暖化の予防と対策のため必要な費用は、世界全体のGDPの1%ですが、悪影響が起きてしまってから対処に必要な費用は、GDPの5%から20%にもなると予測しています。
21世紀後半には、4度上昇すると予測されている地球の平均気温。温暖化が進んだ結果おきる、海面の上昇や、頻発する異常気象は、経済や社会に甚大な被害をもたらし、日本にも計り知れない悪影響を及ぼすことになるでしょう。
しかし今すぐに、世界がその防止のために動けば、その深刻な被害を、なんとか軽度に抑えることが可能です。そのためには、京都議定書に続く2013年以降の温暖化対策のための約束を、全世界が協力して果たさなければなりません。
その約束とは、先進国は2020年までに1990年比で25~40%の排出削減を実現し、主要な途上国も大規模な排出削減努力を実現することです。
未来の世代のために
日本政府は6月に、「2020年までにどれだけ排出を削減するか」、その中期目標を発表することにしています。しかし、この広告は、発表される中期目標の達成には「コスト負担が大きすぎる」という、一方的で誤った認識を誘導するものです。
現在、京都議定書に続く、新たな削減のための約束を、世界の国々は交わそうとしています。その中で、各国が温暖化対策のコストを避けるため、ゆるい目標で合意を済ませようとするならば、未来の世代が、温暖化の悪影響を受け、対処のためのコストを強いられることになります。
今の世代の決断が、将来の地球の運命を決めるのです。
真に技術と経済力を誇る国というならば、日本にはその誇りにかけ、世界に率先して温室効果ガスの排出削減に取り組むべきでしょう。
WWFジャパンは、コスト負担が過大であるという認識にこだわり、温暖化対策を渋ることの危機を訴えていきます。
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