記者発表資料 2009年3月19日
このところの世界的不況対策として、各国ともグリーン・ニューディール政策を打ち出している。欧米のみならず、東アジアの日本や中国、韓国も同様である。
米国ではオバマ大統領が、10年間に1,500億ドルを投じ、500万人の雇用を生み出す計画を表明している。短期的な景気対策にとどまらず、再生可能エネルギー分野を新たな産業として育成し、米国再生の柱としようとするものである。2月24日の米議会演説でも、オバマ大統領は「クリーンで再生可能なエネルギーの手綱を握る国が21世紀を主導すると分かっている”We know the country that harnesses the power of clean, renewable energy will lead the 21st century.”」とまで述べている。石油という化石燃料に固執し、京都議定書にも背を向けていたブッシュ政権下の米国の方針転換としてまずは歓迎したい。
ひるがえって我が国は、同日のオバマ大統領の議会演説で、太陽光発電の生産においてドイツとともに一歩先をゆく国として言及されているが、実際には、政策的には不十分である。太陽光発電推進への後押しとして打ち出されているのは、我が国の場合、余剰電力の買い取りであり、ドイツのように全量買い取りではない。普及に大きな弾みがつくようには制度設計がなされていない。
また、風力発電開発にしても、希少鳥類のバードストライクや騒音、景観、設備の強風による倒壊などの問題と折り合うためには、事前のアセスメントが必須であるが、現行法では対象となっていない。NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)作成の「風力発電のための環境影響評価マニュアル」や一部自治体(4つの県、1つの政令都市)の条例にしたがっているのが実情である。
現在、次期国会での上程に向けて、アセスメント法を改正するための「環境影響評価制度総合研究会」が環境省主催で7回にわたり開かれている(7回目が18日にあったばかり、8回目は4月開催見込み)。ところが、極めてマイナーな改訂にとどまる方向であり、これでは“グリーン”の名の下に、環境破壊的な公共事業がおこなわれても歯止めがきかなくなるおそれがある。
これまでのアセスメント法は、その趣旨を活かして、我が国の各種事業を環境調和的なものに変えた場面はほとんどなく、“アワス(合わす)メント法”とまで揶揄されてきた。すでにある事業計画を追認するだけのものに終わっていたのが実情である。
そうしたなか、「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」が当時の環境影響評価課課長・課長補佐の尽力によって取りまとめられた(平成19年4月)。戦略的環境アセスメント(SEA)は、早い段階からより広範な環境配慮を行うことができる仕組みとして待望されていたものである。しかしながら、那覇空港の滑走路増設に際しての環境省意見提出(本年3月9日)が同ガイドラインの第1号案件であるように、いまだ端緒についたに過ぎない。本当に望まれているのは、ガイドラインから踏み込んで、正式に“法制化する”ことである。そうでなくては、効力が十分には期待できない。
各国の戦略的環境アセスメントは、欧米では、米国:国家環境政策法(1969年)、カナダ:閣議決定(1990年)、オランダ:環境管理法(1987年、1999年)のほか、EU加盟国がSEA指令に基づき25カ国が導入している(平成19年1月末時点)。また、アジアでも、中国、韓国、ベトナム、香港で導入されている(平成17年12月末時点)。
世界各国でグリーン・ニューディール政策が展開される際には、戦略的環境アセスメント(SEA)の点検を受けることになるが、いまだ法制化されていない我が国では心許ない。我が国でもグリーン・ニューディール政策を立案するのとあわせて、戦略的環境アセスメント(SEA)の法制化を図ることが切望される。
なお、西尾哲茂環境省事務次官は平成20年5月27日の参議院・環境委員会において、当時、総合環境政策局長の立場で、「環境省の戦略的環境アセスメント導入ガイドラインにおきましては、事業を行わない案、いわゆるゼロオプションにつきましては、これが適切な場合には代替案に含み得るものとしております」と、事業が適切でない場合には実施しない選択肢もあると前向きな答弁をしている。
米国に典型的に見られるように、グリーン・ニューディール政策は単なる景気対策ではなく、将来の国の在り方を決めるものとして進められている。オバマ大統領は3月3日、絶滅危惧種を保護する法律を所管する内務省での演説で「科学的な評価を法の中心に据えて、生物保護を強化すべきだ」と述べた。これは Endangered Species Act of 1973(絶滅危惧種法)を弱めようとしたブッシュ政権に対して、反対の姿勢を表明したものであり、注目に値する。このような姿勢を持つがために、米国のグリーン・ニューディール政策に対して、今のところ一定の安心感がある。
我が国も早期に戦略的環境アセスメント(SEA)の法制化を図り、21世紀のグラインドデザインを描く中に、日本版グリーン・ニューディール政策を位置づけるべきである。海図なき後追い的施策では、よき国の舵取りにならない。
国民の将来への不安材料のなかには、年金や医療制度のみならず、環境の悪化が含まれている。これらの問題をどう解決しながら国作りをしていくのか。これが今、政府と政権党に問われている事項ではないだろうか。
問合せ先:WWFジャパン 自然保護室 草刈秀紀/広報担当:大倉寿之 Tel:03-3769-1713
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