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活動トピック

黄海エコリージョンの環境問題

昔から多くの恵みをもたらしてきた黄海では今、環境の破壊によって、貴重な自然が失われつつあります。中国では1950年当時と比べ、干潟が約37%も減少。韓国の沿岸でも1917年以降、43%の干潟が失われました。その主な理由は、沿岸域の開発に伴う、埋立や干拓、そして養殖産業の拡大などです。また、過剰な漁獲による漁業資源の枯渇や汚染の問題も深刻になりつつあります。

干拓・埋立てなどによる開発

経済発展の代償として

黄海エコリージョンの沿岸域では、自然の海岸線が今、干拓により農地や塩田、魚やエビ、貝などの養殖場に作り変えられています。また、近縁の経済発展に伴い、港の開港や工業開発や都市建設のための埋立ても盛んに行なわれており、貴重な自然が急速に失われています。

中国では沿岸部に広がる湿地や干潟などのおよそ37%が過去50年の間に開発されてきました。
浅い海に広がる藻場(海草の群生地)は、1940年以降減少を続けており、埋立てのほか、汚染や、船舶のスクリューや錨による被害によって、その3分の1以上が失われたとみられています。

また、黄海沿岸に作られている養殖場は、63万ヘクタールにおよび、中国の養殖場全体の面積の6割近くを占めているほか、干潟に造成される塩田も増加。黄海の中国沿岸にかつて広がっていた干潟の約3割が、現在塩田に作り変えられています。

続く大規模な開発の脅威

韓国でも沿岸部の自然が20世紀の100年間に、およそ43%失われたと見られています。

現在も、各地で開発が続けられており、特に規模の大きな事業として知られるセマングム河口での大干拓事業などによる、環境への悪影響が懸念されています。

このセマングム干拓事業は、河口域に広がる4万ヘクタールもの干潟を、33キロの巨大な河口堰(潮受け堤防)で閉め切り、干拓地を造成する、というものです。
ここは、数十万羽のシギやチドリが飛来する韓国最大の渡り鳥の飛来地であるばかりでなく、貝類、特にハマグリの重要な漁場でもあるため、韓国では事業に対する反対運動が起きています。

セマングムに限らず、河口域にダムのような河口堰が建設されると、淡水と海水の混ざり合う汽水域が消滅してしまうため、海中に含まれる窒素の量が減少したり、塩分濃度が大きく変化することがあるため、沖合いで行なわれるノリの養殖にも影響が及びます。

さまざまな開発などがもたらす自然環境の劣化・減少は、そこに生きる植物や貝やエビなどの無脊椎動物、さらにそれを食べる鳥類や哺乳類にとっても、深刻な問題です。特に、生きものの密度が高く、生物多様性の豊かな自然は、人間にとっても水産資源をはじめとする、さまざまな恵みをもたらしてくれる大切な環境に他なりません。
黄海エコリージョンに生きる、あらゆる生命にとって、大規模に自然を変えてしまう開発は大きな脅威です。

天津市の港。都市部に近い沿岸周辺には規模の大きな港も造成されている。
(C)WWF-Canon/Michel GUNTHER

江蘇省の黄海沿岸で進められる油田開発。自然を破壊するだけでなく、汚染も心配される。
(C)WWF-Canon/Michel GUNTHER

韓国沿岸の工業地帯。工場が干潟だった場所を干拓して造成された。(C)WWF

漁業資源の乱獲

過剰な漁獲が問題に

黄海エコリージョンは、世界でも屈指の漁業資源に恵まれた海ですが、同時に、世界で最も資源が乱獲され、その枯渇が心配されている漁場の一つでもあります。

黄海では、経済の発展や漁業技術の進歩に伴い、沿岸地域での水揚げ量が増加の一途をたどってきました。漁獲される魚介類も、カレイやサワラ、キグチ、タラなどをはじめ、エビやタコ、イカ、貝類など多数にわたり、養殖業も盛んに行なわれています。
しかし、乱獲が環境の悪化と共に、漁業資源の枯渇を招く大きな要因になってきました。魚の種類によっては、現在の漁獲量が1960年と比べ、約10分の1にまで減少してしまった例もあります。これらの資源の過剰な利用も、黄海の生態系を脅かす大きな要因となっています。
 

激減した「最も豊富な魚」

黄海で漁獲され、また近年資源量の激減が心配されている魚の一種としては、キグチが挙げられます。
キグチは西日本と九州を除いた地域ではそれほど有名ではありませんが、中国や韓国では一般的な魚で、よく食べられています。体長は最大で40センチほど。中国では「小黄魚」または「小黄瓜」と呼ばれるニベ科の魚の一種で、天ぷらや塩焼きなどにされます。

主に黄海から東シナ海に生息するキグチにとって、黄海は重要な生息域であり、またそれを漁獲する人間にとっては、黄海は最大の漁場でした。
1950年代から1960年代まで、キグチは、黄海でもっとも漁獲量の多い魚といわれ、中国では、1959年のこの地域の総漁獲量の37%をこのキグチが占めていました。同じく韓国でも1960年代、およそ3分の1がキグチの漁獲であったといわれています。

しかし、この乱獲がたたり、その後キグチの漁獲量は激減。中国では、1981年になると、総漁獲量の9%にまで減少し、韓国でも1957年から1983年までにキグチの漁獲量が80%以上も減ってしまいました。
中国のデータによると、1990年代になってキグチに多少の回復の兆しが見られるものの、かつて黄海で最も重要な漁業資源であった頃とは比較になりません。

黄海では、このキグチをはじめとするさまざまな魚介類が、過剰な漁獲により、資源の枯渇に曝されていると考えられています。

キグチ(Larimichthys polyatis)
(C)Jin Xianshi

漁業をめぐるさまざまな問題

漁業が原因となる環境問題は、資源の乱獲だけではありません。
沿岸水域や長江の河口周辺で行なわれる、大型の流し網などを使った規模の大きな漁は、本来の漁獲する必要の無い、目的外の魚や哺乳類などを一緒に「混獲」してしまいます。スナメリなどの鯨類は、とりわけこの混獲の犠牲になりやすく、希少な野生生物の減少も懸念されています。

また、水産物の取引も、漁業によるさまざまな問題を大きなものにしています。黄海沿岸の国々では、地元や国内で水産物を消費するだけでなく、海外に売ることで利益をあげており、そのための漁獲、養殖も広く行なわれているいるからです。

とりわけ、黄海に産するハマグリやアサリ、タコなどの海産物を、大量に輸入・消費している日本は、この問題に深くかかわっています。ここ10年ほどの間に、日本が輸入している黄海の水産物は急激な勢いで増加してきました。主な輸入元の国も、韓国から中国へと移り変わり、さらに北朝鮮からも間接的に、相当な量を輸入しています。
日本への輸出が増えた水産物で、その後、漁獲が減少した魚介類がある場合は、日本の消費が黄海の資源状態や環境の変化に影響を及ぼした可能性があります。
日本には、消費者として、黄海の自然環境の保全に対し、大きな責任があるのです。

海洋の汚染

開発や漁業の影響を受け

海水や海に流れ込む河の水質汚染も、黄海エコリージョンの生態系にとって、大きな脅威になっています。
沿岸部の開発に伴った活発な経済活動によって生じた排水による水質や塩分濃度の変化、また拡大されるエビや魚の養殖場から出る汚水などは、魚類や貝、カニ、さまざまな海藻類などの小さな海辺の生きもののくらしに影響を及ぼします。

一部では、海棲哺乳類に、水質汚染が原因と見られる生殖障害や免疫力の低下が疑われているほか、同じく、水質汚染によって分布域が小さくなっている藻類があることも報告されています。

赤潮も発生

黄海エコリージョンでは、魚介類の大量死などを引き起こす、赤潮も発生しています。

赤潮とは、植物プランクトンが大量に発生し、そのプランクトンの色により、海水の色が赤や赤褐色になる現象のこと。赤潮が発生すると、プランクトンが大量に酸素を消費するため、海水の酸素濃度が低下したり、プランクトンそのものに毒性があるため、海の生きものが大量死することがあります。

この赤潮は、昔から見られた現象で、内湾や内海など、海水が循環しにくい海域で、春から秋にかけてしばしば発生してきました。しかし、黄海沿岸では近年、工業化や人口の集中などにより、発生回数や規模が拡大。1980年代中盤以降、特に頻度が高くなり、深刻な環境問題となってきました。

植物プランクトンの大量発生は、沿岸部での開発や、干拓によって干潟が減少した結果、起こっていると考えられています。
プランクトンの栄養となる窒素やリンを含む、温度の高い生活廃水や工場廃水が、大量に海に流れ込むようになったこと。また、干潟が失われ、プランクトンを食物とするアサリなどの生物が減少したことが、その原因です。

また、赤潮の原因となるプランクトンの中には、毒素を持つものがあることが知られており、この毒が貝や魚などの体内に蓄積され、それを人間や海鳥が食べてしまうという危険性も指摘されています。

赤潮は、多くの野性生物を含む黄海の自然環境や、漁業で支えられている沿岸地域の経済にも、深刻な被害をもたらすものなのです。