記者発表資料 2009年1月30日
国指定剣山山系鳥獣保護区の拡大と国と地方自治体が連携した保護管理施策の実施を要望
四国のツキノワグマは、徳島県と高知県をまたがる剣山山系に10数頭から多くても数10頭が生息していると推測され、絶滅の危険性がきわめて高い状況におかれている。
その生態を明らかにするために、2005年から5頭のツキノワグマを捕獲し、追跡調査を行った。食物を確保し、越冬・繁殖するための環境を調べたところ、現在、指定されている国指定鳥獣保護区や緑の回廊区域は、ツキノワグマの生息地を十分にカバーしていないことが示された。この捕獲個体の遺伝子解析では、四国のツキノワグマが独自の遺伝的特性をもっており、その希少性が裏付けられた。しかしながら、ここ数年以内に剣山山系で確認された残存個体は10頭程度にとどまっており、現在、国や地方自治体が取り組んでいる対策は、四国のツキノワグマを将来にわたって安定的に維持するには不十分であると言える。
そこで、平成21年1月29日付けで、日本クマネットワーク、WWFジャパン、四国自然史科学研究センターの3者連名にて、環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事に対して、(1)「国指定剣山山系鳥獣保護区」をツキノワグマの行動範囲にもとづいて見直し、拡大を求める要望書を提出した。平成21年10月には現在、指定されている国指定剣山山系鳥獣保護区の存続期間が終了する。新たに保護区を指定するにあたり、これまでに蓄積した生態情報をもとに保護区指定区域を見直すことが求められる。
また、要望書の中では、(2)国と地方自治体が連携して長期的な視野に立った計画的な保護管理施策を立案し、実施することも求めている。鳥獣保護法では、増加が著しいもしくは減少が著しい野生鳥獣に対して「特定鳥獣保護管理計画」を任意で策定することができるが、四国のツキノワグマについて特定鳥獣保護管理計画は策定されていない。昨年、施行された生物多様性基本法においても、種の多様性の保全の観点から絶滅のおそれのある種の保護及び増殖等に必要な措置を講ずるとしている。ツキノワグマは県境を越えて広い範囲を生息地として利用していることから、生息地保全や具体的な保護対策の実施には、国と各自治体の連携が不可欠となる。この要望書が、具体的な四国のツキノワグマの保護対策へとつながることを強く願う次第である。
関連資料: 共同要望書
四国地域のツキノワグマ保護のための国指定剣山山系鳥獣保護区
指定区域の拡大と保護管理計画の策定を求める要望書
平成21年1月29日
環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事 殿
日本クマネットワーク 代表 山�ア晃司(押印省略)
財団法人世界自然保護基金ジャパン 事務局長 樋口隆昌(押印省略)
NPO法人四国自然史科学研究センター 理事長 町田吉彦(押印省略)
四国におけるツキノワグマ地域個体群は、かつては四国の東西にわたって分布していましたが、1980年代には東部の剣山山系を中心とする範囲に分布域が縮小しました。これは、狩猟や有害獣とみなされての無制限な捕獲、人工林の増加による生息地の減少などが主な原因と考えられています。現在、生息頭数は10数頭から数10頭と推定されており、環境省が「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定しているように、九州地方に次いで絶滅の可能性が高い状況にあります。
これまでに保護施策として、環境省は剣山山系を中心に国指定剣山山系鳥獣保護区(面積10,139ha、H1年更新、H21年期間終了)を、林野庁は四国山地緑の回廊剣山地区(面積10,142ha、H15年設定)を指定しています。また、徳島県、高知県および愛媛県では全面的な捕獲禁止措置を実施、継続しています。高知県はさらに、平成20年10月に本種を高知県希少野生動植物種に指定しました。しかしながら、以下に述べるように、上記の対策ではこの絶滅のおそれの高い地域個体群を将来にわたり安定的に維持するには不十分と考えられます。現時点では、個体群管理に不可欠な個体群のモニタリングも実施されておらず、保護施策における各関係機関の役割分担や責任を明確にした上で、それに取り組むことが求められます。
4年間にわたり実施された生態調査により、国指定鳥獣保護区および緑の回廊の指定区域には、ツキノワグマが採食や越冬のために利用している空間が一部含まれていないなど、個体群を将来にわたって維持するために必要な広さを有していないことが判明しました。最近、遺伝子分析により、四国のツキノワグマは独自の遺伝的特性を持つことが明らかになっています。四国の森林の象徴種であるツキノワグマを保護していくことは、四国の生物多様性を将来にわたって保全していくことにつながり、昨年施行された生物多様性基本法(平成20年法律第58号)の理念を実現する上においても、この個体群の絶滅の回避に緊急の措置が必要です。
この地域個体群の絶滅を回避するためには、1.良好な生息地を確保するとともに、その周辺地域において生息地の改善を図ること、2.長期的な視野に立ち、保護管理計画を検討し、策定すること、3.人身被害や林業被害を防止するための対応策を検討することが急務と考えられます。そのため、以下の事項について、国が地方自治体と連携し、四国のツキノワグマ地域個体群の保護管理について検討し、実施していただけるよう要望いたします。
記
1.国指定剣山山系鳥獣保護区および特別保護地区の指定区域について、ツキノワグマの行動範囲にもとづいて見直し、拡大を検討すること
2005年からWWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターが実施した生態調査により、5頭のツキノワグマの行動範囲が明らかになりました。その結果から、現行の国指定鳥獣保護区から外れた東側(折宇谷から六郎山にかけて)、西側(綱附森から京柱峠、高板山にかけて)、南側(中東山から赤城尾山にかけて)が活動域として広く利用されていることが新たに立証されました。また、越冬場所として国指定鳥獣保護区から外れた地域(中東山から石立山、折宇谷から六郎山にかけて)が利用されていることも確認されました。これらの地域は、ツキノワグマが食物を確保し、越冬・繁殖するための環境を有しており、その保護を図るための重要な地域になります。
2.国、地方自治体が連携して保護管理計画について検討し、策定・実施すること
保護管理計画は、個体群のモニタリングの結果にもとづき個体数管理、生息地管理、被害対策を中心として長期的な視野で立案する必要があります。絶滅を回避できるツキノワグマの個体数(存続可能最小個体数)は100頭以上と考えられていますが、過去数年間の生態調査により剣山山系にて確認できたツキノワグマは10頭程度です。愛媛県と高知県の県境付近においては、毎年、ツキノワグマの目撃情報が寄せられています。四国西部を含め、残存個体の生息状況、個体数を正確に把握するための調査が求められます。
さらに、生物多様性の保全の観点からツキノワグマの生息地保全の取り組みが求められます。多様な生態系を再生し、維持することは、ツキノワグマをはじめとする多くの野生鳥獣に良好な生息環境を提供し、四国の豊かな自然環境の保全へとつながります。
四国では幸いにして、ツキノワグマによる人身被害の報告はありませんが、今後、人身被害と林業被害を含めた対策を検討することも必要です。個体数が減少した要因として、過去に林業被害防止のために報奨金を出し、多数のツキノワグマを駆除したことがあげられます。人間とツキノワグマが共存するためには、これらの被害対策も同時に講ずる必要があります。
四国の地域個体群は県境をまたがって分布しているため、国のリーダーシップのもとに各地方自治体が連携して検討会を設置し、保護管理計画を策定するなど、保護管理施策を実施することが望まれます。

ツキノワグマ5頭の行動範囲(赤枠、2005年から2008年までの約3年間)と保護区域拡大要望箇所(黄枠)
以上
この件に関する問い合わせ
日本クマネットワーク 事務局長 佐藤喜和
神奈川県藤沢市亀井野1866 日本大学生物学資源科学部森林動物学研究室内 TEL:0466-84-3663
財団法人世界自然保護基金ジャパン 自然保護室次長 草刈秀紀
東京都港区芝3-1-14日本生命赤羽根橋ビル6FTEL03-3769-1772
NPO法人四国自然史科学研究センター 金澤文吾
高知県須崎市下分乙470-1TEL0889-40-0840
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