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WWFの活動

排出量取引制度の「試行的実施」に当たってのポイント

 
  福田前総理が2008年6月9日に発表した方針“「低炭素社会・日本」を目指して”において、政府は2008年10月より国内排出量取引制度の「試行的実施」を行なうと表明した。
  これを受け、7月29日に政府がまとめた「低炭素社会づくり行動計画」では、「関係省庁から成る検討チームにおいて、2008年9月中を目途に試行的実施の設計の検討を進め、10月を目途に試行的実施を開始する」としている。

 WWFジャパンは、政府が排出量取引制度に関する議論を本格化させ、入り口の議論ではなく、具体的な実践へと踏み出したこと自体は歓迎したい。
 しかし同時に、短い準備期間によって、制度設計に関する充分な議論を経ずにその実施が開始されることに懸念を持っている。

 理想的には、充分な制度設計の議論を行ない、排出量取引制度によって対象とすべき部門を定め、対象部門の全ての主体が参加する形で、取引制度の試行が行われることが望ましい。排出量取引対象部門のキャップや排出枠配分方法など、制度の肝となる部分の検討のためには、本来そのような形式で試行は行なわれることが必要である。

 今回の試行的実施はそのような形式ではなく、多くの参加者が自主的に参加する形式となるため、排出量取引制度の限定的な評価にならざるをえない。

 ここでは、今回の試行的実施を有意義な制度設計につなげていくために、WWFジャパンが重要と考える以下の点を公表し、試行的実施が適切に実施されるよう呼びかける。

 (2008年9月4日 発表)

試行的実施の目的と期間

ポイント1

  試行的実施は、その目的とその期間内の段階分けをはっきりとさせる必要がある

 試行的実施はただ闇雲に行なわれるべきではなく、前総理のスピーチにもあるように、最終的には「日本の特色を活かせる設計」を行ない、「国際的なルールづくりの場でもリーダーシップを発揮」することが目指されるべきである。
  そしてそのような制度とは、一定程度以上の大規模排出源をカバーし、他の政策との連携によって日本全体の排出量を低減へと導いていけるようなキャップ&トレード型の排出量取引制度であるとWWFジャパンは考えている。

 しかし、そうした制度設計は一朝一夕にはできない。したがって、試行的実施の期間をいくつかの段階に分け、その中で明確にされるべき点・準備されるべき点を事前にしっかりと示しておくことが必要である。

 第 1段階としては、2009年度までが1つの目安になる。2009年末にはコペンハーゲンにおいて次期枠組みが合意される予定であり、将来の削減目標や達成手段に関するルールの概要も徐々に定まっていくはずである。その交渉過程を踏まえて、いま一度、試行的実施の中で明らかにすべきことも検討し直す必要がある。
  ただし、経験の蓄積のためには一定以上の期間が必要であるため、参加者による目標自体は2010年までを定める

 そして2010年度の第2段階では本格導入に近い形での試行的実施を開始し、課題を整理した上で、第1約束期間内に排出量取引制度の本格導入ができるように作業を進めるべきである(*)。この際、第1段階で自主的に早期参加を表明した参加者は、第2段階においても第1段階での目標設定等を継続できるものとする。

*:この間、並行して第1段階の排出量・排出枠マッチング作業とレビューを行なう

ポイント2

 第1段階では、排出枠の各種配分方式の実施上の課題整理および取引制度のインフラ整備を主な目的とすべきである

 第 1段階における試行は、日本としての中期目標が決まっていない中で行なうことになるため、範囲や規模において限定的な試行とならざるをえない。
  このため、排出量取引制度の確実性・効率性や炭素に価格がつくことの意義を本当の意味ではかることは極めて難しい。また、制度の肝となる排出枠の配分について、包括的な実験を行うことも現段階では難しい。

 ただし、そのような本格的なフル・パッケージでの試行へ向けて、制度的基盤を整備するための知見の蓄積は現段階からも一定程度は可能である。
  ここで制度的基盤の整備とは、以下のような例を指す。

 たとえば、排出枠配分についてのいくつかの方式(オークション、ベンチマーク、マルス、グランドファザリング等)のどれが最も望ましいかの判断は難しくとも、それぞれの方式がどのような分野に適用可能で、どのような課題があるのかを検討するための実験は可能である(ポイント3および9を参照)。

 また、複数種類の排出枠・クレジットを扱う統合型登録簿の運用が可能なのかどうか、ベースライン&クレジット型の仕組み(国内クレジット制度)をキャップ&トレードとどれくらい整合性を保つことができるのかなどを、実践を通じて判断材料を揃えていくことが必要であると考えられる(ポイント6を参照)。

 第1段階では、そうした点が重視されるべきである。

試行的実施の“設計”について

ポイント3

 今回の試行的実施に既存制度以外で自主的に参加する事業者に関しては、排出枠配分方法として、可能な限りベンチマーク方式での目標設定(=排出枠配分)が推奨されるべきである。

 本格的な排出量取引制度の導入を念頭においた場合、ベンチマーク方式による排出枠配分は、効率性に関する努力が重要視される日本の文脈においては特に有力な候補であると考えられる。

 したがって、試行にあたっても、極力ベンチマーク方式による目標設定が試みられるべきである。具体的には、参加主体が所属する部門・業種のベンチマークを政府が設定し、それに基づいて、排出枠の配分(目標の設定)が行われなければならない。この際、ベンチマークは当該部門・業種における利用可能な最良の技術(Best Available Technology)に基づくべきである。

 こうして、実際のベンチマーク設定、それに基づいた排出枠の配分、その結果を踏まえて、各業種におけるベンチマーク方式の課題や可能性を検討する材料とすることが重要である。

ポイント4

 ベンチマーク方式が適用できない自主的参加者については、目標(排出枠量)の妥当性の検証を受けた上で参加が認められるべきである

 ベンチマーク方式での参加ができない自主的参加者(たとえば、ベンチマークの設定が不可能な業種からの参加者)は、自主的な目標を持って参加を検討することになるが、その際は、その目標の妥当性の検証が行なわれなければならない。

 試行的実施とはいえ、実際に排出枠の売買を可能にする以上、その目標が妥当であるかどうかの確認をしなければ、参加者の間で不公平が生じる可能性がある。したがって、ベンチマークによって客観的に排出枠の配分(目標の設定)ができない参加者については、目標の妥当性を、政府が設置する第三者委員会(専門家で構成)で判断する必要がある。

 また、その際、もともと原単位目標を掲げており、それをもって参加を希望する参加者については、目標を総量に換算した上で参加することが必要である。その際に使用される活動量の想定も、第三者委員会での検証を受けることが必要とし、活動量変動によるリスクは参加者が負うものとする。

ポイント5

 既存制度以外の自主的な参加者は、間接排出ではなく直接排出をベースとした参加とすべきである

 燃料転換の可能性や大規模な排出源を有効的に管理する観点から、排出量は間接排出ではなく直接排出をベースとした参加にすべきである。この際、電力会社から自主的に参加した場合は、既存制度において間接排出で参加する参加者の削減とのダブルカウントが生じないように配慮する必要がある。

ポイント6

 複数の種類の排出枠・クレジットを整合的に扱うことができるかどうかを登録簿の中で実験する

 試行的実施で扱われる排出枠・クレジットは、環境省のJVETSの排出枠、経済産業省の国内クレジット制度の国内クレジット、そしてその他の自主的な参加主体の排出枠、京都クレジットなど、その種類・性質・国際的な互換性に大きな違いが生じる。

 これらの性質の違うクレジットを、整合的に登録簿で扱うことができるかどうかを、試行的実施の中ではよく検討し、判断していくことが重要である。

ポイント7

 ボランタリーオフセットから生じるVERは、試行的実施の中で他のクレジットに互換性を持たせるべきではない

 民間のボランタリーオフセットから生じるVERは、その質において、他の排出枠・クレジットと同等の水準を保つことを強要するのは難しいと考えられる。逆にそれを強要した場合、ボランタリー・オフセットの可能性自体も縮小する可能性が高い。したがって、それらのVERと、他のクレジットとの互換性は持たせるべきではない。

ポイント8

 試行的実施への参加主体は、企業のグループでの参加を認めてもよいが、最終的な排出枠提出の義務は個々の企業が負うべきであり、排出量と排出枠管理の単位は事業とすべきである

 たとえば、Aというグループは共同で目標を掲げて参加を希望したとする。その場合、Aというグループはグループ内での目標をどのように分担するかを明らかにし、個別の参加者の責任を明らかにしなければならない。そして、排出量と排出枠のマッチングは、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度を活かし、事業所単位で行なうことが必要である。

 これは、グループという単位で責任の所在を曖昧にすることを防ぎ、かつ排出量・排出枠のマッチングを精度高く行なうために必要である。

その他

ポイント9

オークションによる排出枠配分について、別途、複数の方式に関するシミュレーション事業を行うべきである

 オークション方式の実施には、様々なパターンがあることが分かっている。第1段階において現実の実施は無理でも、シミュレーションや実験を通じて、実際の企業担当者自身の体験を伴う試行をするべきである。

 その際、欧米での検討・実施状況からの教訓をきちんと反映することが必要である。

ポイント10

 排出量取引制度設計に関する議論は、試行的実施と並行して粛々と進めるべきである

 試行的実施は、いわば実験の場であるが、それとは別途、他国の情勢も踏まえ制度設計に関する議論は粛々と進められるべきである。

2008/9/04

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