スーパーマーケットなどで、「養殖」と表示されているマグロは、実は完全な養殖ではなく、「蓄養(ちくよう)」という方法で供給されたものです。「蓄養」は、海で獲ったマグロを生け簀で育てて、餌をたくさん与えて大きく太らせ、脂(トロ)を乗せた上で売りに出す、という方法。資源の乱用や餌の扱いによって、深刻な海の環境問題になり始めています。
「養殖マグロ」のからくり
資源が減ったなら、養殖すればいいのでは? そんなふうに思われるかもしれません。
しかし、産卵から孵化、生育までを成功させたマグロの養殖は、実験では成功しているものの、経済的な採算が合わないため、産業としては成立していません。
それにもかかわらず、スーパーマーケットなどでは、「養殖」と表示されているマグロをみかけることがよくあります。実は、これらのマグロは「蓄養(ちくよう)」という方法で供給されたものです。「蓄養」というのは、海で獲った天然のマグロを生きたまま生け簀で育てて、餌をたくさん与えて大きく太らせ、脂(トロ)を乗せた上で売りに出す、という方法です。
1990年代にオーストラリアでミナミマグロの蓄養が始まって以来、日本でも、この方法によって安価なトロが大量に出回るようになりました。実際、今では地中海やメキシコでも、クロマグロの蓄養が活発に行なわれていますが、その輸出先は、ほとんどが世界一の消費国である日本です。

地中海、スペインのマグロ蓄養場。巨大な生け簀が沿岸に作られる。ここには、海から大量に獲ってきた天然のマグロが入れられる。
写真(C)WWF-Canon/Jorge SIERRA
しかし、飼育するマグロを海から獲って来るこの蓄養は、マグロ漁と同様、天然資源を利用していることに変わりはありません。
オーストラリアでは20~30kgの未成魚が蓄養のために漁獲されています。地中海ではかつて蓄養は産卵後のやせたクロマグロを太らせて売る、という形で始められましたが、安いマグロの供給競争が激しくなってきたため、飼育のために捕獲する魚の量が増加。小型の未成魚の漁獲までもが行なわれるようになっており、資源への影響が心配されます。
大量の餌が引き起こす問題
また、この蓄養マグロに餌として与えられている冷凍された小魚も問題になっています。
そもそも、蓄養マグロの体重を1キロ増やすためには、餌となるイワシなどの小魚が10~20キロも必要になるといわれています。
さらに、その海域にもともと生息していない魚を、海外から安く買い取り、マグロに与えている蓄養の例も少なくありません。たとえば、地中海で行なわれている蓄養では、マグロの餌に冷凍したニシンを与えたりしています。
しかし、ニシンはもともと地中海には生息していません。このような行為が、地中海の魚に新しい病気などを広げてしまう原因になるのではないかと心配されています。
資源が減っているのに、安価なトロが今もあふれている日本。一般の消費者が資源の状況を実感するのは、とても難しい状況ですが、安くて大量のマグロが並ぶ背景には、このような問題があることを、忘れるべきではないでしょう。

海上に見える輪の一つ一つがマグロ蓄養の生け簀になっている。投入される餌の量も膨大だ。
(C) WWF-Canon/Jorge SIERRA
地中海のクロマグロと蓄養
東部大西洋のクロマグロはICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)が資源管理を行なっています。しかし、ICCATの調査統計委員会(科学委員会)が「年間2万6,000トン以上の漁獲は持続的ではない」と勧告しているにも関わらず、ICCAT自体が加盟国に3万2,000トンという漁獲量を認めてしまっているのです。
資源を崩壊させないためには科学者の勧告に従って、漁獲量を2万6,000トンまで、23%減らす必要があるでしょう。さらに、東部大西洋のクロマグロは多くが蓄養されて日本に輸出されています。しかし、蓄養のためのマグロ漁ではリアルタイムで正確な漁獲量を把握し、割当量に達した時点で漁獲をストップさせることが困難です。つまり、すでに科学委員会の勧告をオーバーしている割当量さえ、守られているかどうか検証するのが難しいのです。
2004年6月、WWFは、地中海におけるマグロ蓄養業に関する報告書を発表しました。WWFは、この「マグロ蓄養業」の問題点を詳細にレポートすると共に、現状を転換するための緊急措置を提案しています。




