2008年9月22日
日本で一度は絶滅したトキ。このトキが9月25日に、新潟県の佐渡島で再び野外に放たれることになりました。これは、中国から送られてきたトキを人工繁殖させ、自然に戻す試みです。日本でも生物多様性の保全に関心が集まる中、トキの野生復帰に、どのような成果と課題を見るべきでしょうか。

トキ(NIpponia nippon) コウノトリ目トキ科
WWFが初めてトキの保護活動を支援したのは、WWFが日本に設立される前の1960年代でした。当時、世界的にも最も希少な鳥の一種であったトキの保護活動が佐渡で行なわれるようになると、WWFでは海外から支援金を送付。トキの食物となるドジョウを飼うための池づくりや、トキ保護センターで捕獲したトキを飼育するためのフライングケージの設置を支援しました。 イラスト (C) Paul BARRUEL/WWF-Canon
トキの絶滅
2003年、新潟県の佐渡島で日本産の最後のトキが息を引き取り、絶滅しました。もっとも、「キン」と名づけられたこのトキが、30年以上にわたり飼育されてきた個体であったことは、よく知られている通りです。
野生のトキが日本で絶滅したのは、キンの死を20年以上さかのぼる1981年のことでした。
それまで、能登半島や佐渡島では、生き残っていたトキを保護するため、さまざまな活動が行なわれましたが、いずれも奏功せず、最終手段として、トキを捕獲し、人工的に増やすことが決まったのです。
トキは20世紀の初頭までは、日本各地をはじめ、朝鮮半島、シベリア、中国、台湾などに広く生息していました。大陸に生息していたトキの中には、季節によって渡りを行なう個体群もあったようです。
しかしその後、トキは各地で減少。朝鮮半島の非武装地帯で見られたわずかな群も、1970年代を最後に記録が途絶えました。原因は、日本における減少の原因と同じく、狩猟の標的とされたことや、主な生息場所であった低地の水田、その周辺の山林の自然が、広く失われたためと考えられています。

中国陝西省の秦嶺山脈
(C)Michel GUNTHER /WWF-Canon
中国のトキ
現在、野生のトキが生息しているのは、世界でただ一カ所、中国の秦嶺山脈のみです。実は中国でも、1960年代からトキの姿が見られなくなり、一時は絶滅したのではないかとも考えられていました。
しかし、1981年に秦嶺山中の陝西省洋県で生き残っている数羽が再発見され、以後厳重に保護されてきました。
この取り組みが成功し、再発見当時10羽ほどしか確認できなかったトキは、現在までに最大で360羽ほどまで回復。いまだに、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」には「EN(絶滅危惧種)」としてリストアップされているものの、保護活動は継続されており、数も少しずつ増え続けています。
また、中国では1992年に飼育下での人工繁殖にも成功し、後にその繁殖個体の一部が日本に送られました。この中国産のトキが日本でも繁殖に成功したことで、飼育下の個体数が増加。現在までに100羽を超えるトキが国内で飼育されており、新たなヒナも毎年かえっています。

コウノトリの飼育個体 (C)WWF Japan
野生復帰に何を学ぶか
2008年9月25日、飼育されていたトキの一部が、佐渡で野外に放たれることになりました。新潟県や環境省、何よりトキのふるさとの佐渡の人たちの努力がもたらしたこの試験放鳥は、2005年の開始以来、順調な経過をたどっている兵庫県のコウノトリの再導入に続くものとなります。 経済発展と引き換えに失ってきた自然の象徴ともいうべきトキが、再び日本の空を飛ぶこと。それは、日本の自然保護の歴史に記される、大きな試みとなるに違いありません。
また、日本のトキ絶滅の原因が、その生息場所だった里山や水田の開発や、農薬による汚染であったことを考えると、トキ放鳥の環境が整ったことは、近年これらの自然の大切さが見直され、保全に向けた試みが進められてきた一つの証ともいえるでしょう。
しかし、その一方で、日本国内には今も、絶滅の危機に瀕した多くの生きものたちがいることも忘れるべきではありません。絶滅からの復帰、それは華々しい成功と映るかもしれませんが、本来であれば、そのような事態に立ち至る前に、危機を回避できるよう、野生生物とその生物が生息する自然環境を保全しなくてはならないはずです。
一度いなくなった生きものを自然界に戻す再導入のガイドラインについても、日本では基本的な考え方が確立されていません。トキとコウノトリについては野生復帰が先行して進められていますが、他の野生生物にも適用できる再導入のための枠組みは、まだ無いのです。
減った動物は捕まえて殖やして外に放せばいいのだ、などという、乱暴な意見を正してゆくためにも、今後IUCNの国際的なガイドラインなどを参考にしながら、国内での議論を積み重ねてゆく必要があるでしょう。
一度は絶滅したトキの遺訓を、今の日本は果たして十分に活かしているかどうか。再び空を舞うトキの姿に、あらためて問い直してみたいものです。
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