沖縄などの島々を含む南西諸島の重要な自然の現状を明らかにする、「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトの、第二回目となる地域検討会を、2008年6月7日~8日に鹿児島県奄美市で開催しました。2007年の第一回検討会に続き、さまざまな生物群の専門家やオブザーバーの行政関係者など50名ほどが集まり、今後、南西諸島の中で優先して保全するべき地域と、そのための取り組みについて、活発な意見交換が行なわれました。

(C)WWF Japan/Hatori Nobuyuki
南西諸島で真っ先に守るべき場所は?
2006年10月に、ソフトバンクモバイル株式会社の携帯電話のリサイクル収益金による支援を受け発足した「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトでは、東洋のガラパゴスとも呼ばれる南西諸島の自然環境の現状を把握して、優先的に保全すべき地域を選ぶためのマップ(地図)づくりを進めています。
南西諸島の多様性に満ちた生態系が急速に失われている現在、この地図は自然環境の保全や利用に携わる、地域内外の関係者にも活用してもらう基礎資料となるものです。
このプロジェクトは以下の3つのステップで実施されます。
生物多様性の観点から優先的に保全すべき地域を選ぶ(2007、2008年度)
生物多様性の保全ビジョン(将来像)を立案する(2008年度)
保全ビジョンを達成するための保全・管理計画を検討する(2009年度)
今回の検討会はこの1および2に関わる作業を行ないました。

(C)WWF Japan/Hatori Nobuyuki

9つの生物群の重要地域それぞれの重なりや隣接状況を色分けした地図を作成し、優先して保全すべき地域の候補を抽出する。

グループにわかれて保全ビジョン立案の作業を行なう参加者たち
優先して保全すべき地域を選ぶ試み
検討会では、まずWWF担当者が、2007年に沖縄の宜野湾市で開催した、第一回地域検討会の結果を集約して作成した9つの生物分類群(哺乳類、鳥類、両生・爬虫類、昆虫、魚類、甲殻類、貝類、海藻類、造礁サンゴ)それぞれの重要保全地域地図を示しました。
またGIS(地理情報システム)を活用し、これら9つの生物群にとって重要な地域が重なりあっている場所や、隣接している状況を色分けして示した地図を示し、その根拠を説明しながら、南西諸島の中で、優先的に保全すべき地域を選定するに際しての、基本方針の原案を提案しました。
さらに、南西諸島の生物多様性全体の保全を考えたとき、この抽出方針に漏れがないかなど、地域毎に確認する作業を行ないました。
この確認作業では、優先的に保全する地域についての解釈や、地域間で異なる基準の採用、参照する調査データの有無や精度、時期など、さまざまな点について指摘や提案がなされました。
そして、将来に向けた保全ビジョンを立案するための話し合いでは、保全に関する問題点や理想のあり方、それらにかかわる関係者が、どういう立場の人たちであるかを確認しながら、現状発生している問題と、問題が解決した際の理想のスタイル、また、今はまだ起こっていないけれども将来起こる可能性のある問題などについて、積極的な意見交換が行なわれました。
多様な生物、多様な主体との関係に目を向けた保全活動の展開
特定の種や生物群という枠を超え、さまざまな生物にかかわる研究者が一同に会し、環境の保全について話し合う取り組みは、日本ではあまり行なわれてきませんでした。
WWFでは現在、南西諸島のように広大なエリアを持つ地域で、こうした取り組みを「エコリージョン保全(下記参照)」という新しい自然保護スタイルとして提案し、実施しています。
日本では初めてとなるこの取り組みについては、今回の検討会に出席した専門家からも、多様な分野・視点を交えて行なわれた優先保全地域の抽出作業に参加できたことは、たいへん意義のあることだ、という意見が多数聞かれました。
さらに今回の検討会には、研究者の他に、オブザーバーとして、地域の保全活動に取り組む団体や、行政関係者も出席していただき、研究者とは異なる視点の意見やアドバイスを積極的に提示していただけました。
現在のところ、まだ一部では現地の調査が継続されて行なわれている分野もありますが、WWFでは今後、それらの調査情報を地図に加え、また、この検討会を通じて交わされた意見やアイデアを整理し、再度優先保全地域の地図を提案し、研究者に確認をお願いすることにしています。
そして仕上がった地図を基に、3年目となる次のステップへとプロジェクトが進められます。3年目にあたる2009年度は、研究者だけでなく、その地域で自然保護活動に取り組む団体や、観光業や環境教育に携わる関係者、行政、住民など、保全の担い手として重要な立場にある人たちにも幅広く参加を呼びかけ、その地域の保全ビジョンや、それを達成するための保全・管理計画の検討を実施していく予定です。
一般向けの講演会も開催
6月7日の夜には、一般の方向けの基調講演会「奄美と沖縄最近の野生生物事情」を奄美哺乳類研究会と共催しました。高校生から地元のお年寄りまで、約80名の参加者で会場は満員となりました。
オキナワトゲネズミの調査報告
最初に、WWFが南西諸島生きものマッププロジェクトの一環として支援した、オキナワトゲネズミ調査を指揮した森林総合研究所の山田文雄さんから、「オキナワトゲネズミの再発見の意味」と題した講演をいただきました。
オキナワトゲネズミは、森林伐採による生息地の喪失や、ノネコ、ノイヌ、マングースなどの外来種の影響により、個体数が減少しています。また、Y染色体を持たない極めてまれな哺乳類で、ここ30年は生きた個体全く捕獲された記録がありませんでした。
講演では、生息実態の把握と、遺伝学的分析などに供するために捕獲調査や情報収集を開始した背景、捕獲した場所の環境状況について、詳しい調査データを示しながらご説明いただきました。
今回の再発見を契機に、絶滅回避や個体群の安定化を図るため、関係者が連携した形での生息地の保全と、外来種への対策が必要であると山田さんは訴えました。
外来生物の影響
続いて、地元奄美大島の哺乳類研究者であり、WWFジャパンもエコパートナーズ事業で支援している、野生化したヤギに関する研究に携わっている奄美哺乳類研究会の亘悠哉氏が「奄美が抱える諸問題を整理する」講演を行ないました。
亘さんは、マングース、イヌ、ネコ、ヤギなどの外来種や、森林伐採がもたらす野生生物への影響の実例、伐採によりこうした外来種による個々の悪影響が助長させることを指摘。その上で、開発の計画段階で希少種の生息状況を考慮する場を導入することや、事業者の保全意識を向上させる取り組み、重要地域マップの作成と共有が、これからの保全活動のカギであるとお話いただきました。
講演を受けて、地元高校生からは、なぜ奄美大島や徳之島と比べて、沖縄本島の調査では何故トゲネズミ捕獲率が低いのか、等というするどい質問がありました。これに対し、山田さんは、人口の多さ、人間居住地からのアクセスのし易さによるノイヌ、ノネコの補食圧が関係しているかもしれない、と回答されました。
また、外来種の駆除方法が自治体によって異なっている事情について、フロアの出席者を交えたコメントが取り交わされるなど、短い時間でしたが、活気あふれる講演会となりました。
WWFの「エコリージョン保全」について
エコリージョン(生態域)とは、生態系の大きなつながりを地理的に捉えたものです。
野生生物が豊富であること。種の多様性が高いこと
固有性が高いこと。その地域にだけ見られる生物が多いこと
特異性が見られること。氷河期の生き残りや、原始的な種などが生息すること
生態学、進化学の見地から、特異な現象が見られること
地球規模で見て、珍しいタイプの自然環境であること
この5つの基準に沿って、WWFでは世界の中で優先的に保全するべき、約200カ所のエコリージョン『グローバル200』を選んでいます。南西諸島はその中の1つに数えられています。
このエコリージョン保全という考え方が、従来の保護区や国立公園などと違う点は、まずその圧倒的な規模の大きさと、資源の持続的な利用をふまえた環境保全が推進できる点にあります。
これまでの環境保全の多くは、動植物や、地域の環境などに重点が置かれていました。もちろん、それなりの成果を挙げた取り組みは、多くありましたが、それでも、多様な広がりを持つ環境や生態系の保全を実現してゆくという点については、まだまだ新しい取り組みが必要とされます。
WWFはこうした保全の手法を通し、希少な野生動物の保護をはじめ、地域住民への普及活動、そして、自然保護区の設立・管理といった、さまざまなタイプのプロジェクトを組み合わせ、よりスケールの大きな環境保全の実現をめざしています。
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