記者発表資料 2008年2月12日
2008年7月(7~9日)、北海道・洞爺湖でサミット(主要国首脳会議)が開催される。今のところ、地球温暖化問題とアフリカ支援が主要議題となる見込みである。米国のサブプライムローン問題に端を発した世界経済の変調も大きな話題となりつつある。1月のダボス会議でも日本の福田首相は、この3つに言及した。
しかしながら、昨年のハイリゲンダム・サミットで、議長国ドイツのメルケル首相の呼びかけで、初めてサミットの主要議題となった「生物多様性」の問題に焦点が当てられていない。ただし、サミットに先立つ5月の神戸での環境大臣会合(5/24-26)では、気候変動、3R(Reduce, Reuse, Recycle)と並んで議題のひとつとなる見込みである。
ここで、もう一度、生物多様性をめぐる議論を整理しておきたい。メルケル首相が議長国としてとりまとめた議長総括がまだ適切に実行に移されてはいないからである。
生物多様性と気候変動は表裏の関係にある。地球温暖化(気候変動)の進行は、生物多様性に多大な影響をもたらす。逆に、違法伐採等による森林の大規模な喪失が、CO2の吸収源を失わせ、地球温暖化をさらに進行させる。ブラジル国立宇宙研究所は、アマゾンでは昨年の5月から12月までの5ヶ月間だけで、東京都のおよそ3倍に当たる7千平方キロもの森林が伐採されたという調査結果を発表した。昨年の3月中旬にドイツのポツダムで開催されたG8環境・開発大臣会合で合意した10項目の「ポツダム・イニシアティブ」でも第8番目に「気候変動政策と生物多様性政策の連携向上」が取り上げられている。
我々は海洋生物から年間10億ドルにも上る抗ガン剤を生成し、植物からも年間430億ドルもの薬草を産出している(UNEP2007のGlobal Environmental Outlook4による)。生物多様性が損なわれ、こうした自然の恵みを失うことは、人類の行末に暗雲を立ちこめさせることになる。「ポツダム・イニシアティブ」では、第1番目に「地球規模で生物多様性を喪失することの経済的重要性」が言及されており、いわゆるスターン・レビュー(*)における気候変動と経済的損失の関係を想起させる。
我々は、メルケル首相の問題提起を受け止め直し、再度、生物多様性の保全に向けた確かな取り組みを進めていかなくてはならない。生物多様性の保全のためになすべきことは多い。
地球の生態系の健康診断と言われる「第二期ミレニアム生態系評価」を実施すること
IPCCに相当する常設の科学機関を設置し、ポツダム・イニシアティブで示された“生物多様性の経済的価値を評価する研究”を推進すること
森林の違法伐採や野生生物の密猟・密漁の取締りと法制度の強化
(生物多様性保全の観点に立った)持続可能な資源利用のための途上国支援
貿易、投資、遺伝子組換えが生物多様性に及ぼす影響を回避させる国際基準の設定
こういった課題を先送りすることは、やがて人類の存続基盤に関わる問題となるだろう。
2010年は国連の定める「生物多様性年」である。この年は、名古屋で生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催される見込みである。日本が環境分野で世界をリードするためには、“生物多様性”という角度からも光をあてることが必要になってくる。
さる1月22日の衆議院本会議において、公明党の太田代表が、生物多様性条約に対応した国内法として生物多様性基本法を制定することを提案した。これを受けて福田首相は、与党内にも生物多様性基本法制定の動きがあることを認め、前向きな回答をした。野党・民主党は生物多様性基本法の骨子をすでに示し、パブリックコメントを募集している。与野党をあげて生物多様性に向けた法制度を整備する動きがあることは歓迎したい。
肝心なところは、その中身である。特に、資源の利用が持続的なものでないときには、生物多様性基本法の精神にもとることになるので、この点への留意が必要になってくる。森林にせよ、水産資源にせよ、ほかの野生生物にせよ、過剰な利用が生物多様性を危うくしているのであるから。
真に生物多様性保全に資する国内法が制定されるとともに、上にあげた諸課題が、日本のリーダーシップのもとに、世界的レベルで解決されていくことを強く期待したい。
*元世界銀行チーフエコノミストであるニコラス・スターン氏が英国政府の委託を受けてまとめた気候変動の経済的影響に関する報告書(将来的に、気候変動による経済的損失が世界のGDPの20%にもおよぶ可能性を示し、世界を揺るがした)
生物多様性に脅威となる要因の例
天然資源の過剰な利用(exベニザケやマグロの乱獲、違法な漁業)
違法な野生生物の取引(ex東南アジアでの違法なペットの捕獲と日本への密輸)
外来種の侵入(ex生息域を広げて農作物等への被害を拡大させているアライグマ)
横行する森林の違法伐採と野生生物の生息地の消失(exインドネシア、アマゾン)
地球温暖化の進行(ex異常気象の多発、砂漠化の進行、農作物への高温障害)
途上国における開発に際して、生物多様性および社会経済的な視点の不足
(exメコン川流域において、野生生物の生息地の分断化が起き、河川の汚染がみられる。農業が換金作物に置き換わり、原住民が世界経済に巻き込まれて貧困を招いている。同地域への投資の47%は日本からのものである)
問合せ先
WWFジャパン 自然保護室 草刈秀紀/広報担当 大倉寿之 Tel:03-3769-1713
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