深刻な熱帯林破壊が進むスマトラ島では、すみかを追われたアジアゾウと、住民の間で衝突事故が繰り返し発生しています。インドネシア政府は2006年7月、スマトラ島リアウ州の森林を、アジアゾウ保護の拠点とする政令を公布。問題の解決に向け、一刻も早いその施行が求められています。
世界中から森とゾウの保護を求める声が
かつては豊かな熱帯林に覆われていた、インドネシア、スマトラ島。しかし、この半世紀の間に、森は激減し、島の中央部に位置するリアウ州でも、過去20数年の間に、3万7,000平方キロ(東京都の約17倍に相当)もの天然林が失われました。主な原因は、紙パルプの原料となる木材の獲得を目的とした、現地企業による天然林の皆伐です。そして、これらの企業が生産する紙製品は日本でも販売されています。
また、熱帯林の減少は、絶滅が危惧されているスマトラ島のアジアゾウをさらなる危機に追い込もうとしています。リアウ州でも森林伐採によって、すみかを追われたゾウの群が、伐採地周辺の集落に出没し、住民と衝突事故を起こす例も後を絶ちません。そして、住民が時に死亡する事故が起きる一方、ゾウが毒殺されたり捕獲されたりする出来事も急増しています。2006年9月にも、テッソ・ニロ国立公園の周辺で住民の手により毒殺されたと思われるゾウの死骸が発見されました。
この問題を広く知らせ、早急な解決を図るため、WWFがリアウ州のゾウ保護に賛同を求める電子署名を世界中から募ったところ、2006年4月の1カ月間に、149カ国から3万8,842人分の署名が寄せられました。日本から寄せられた159人分を含むこの署名は、その後、インドネシア政府に手渡され、問題解決に向けた一つの動きを引き出す力となりました。
7月19日、インドネシア政府が、スマトラ島リアウ州の森林を、アジアゾウ保護の拠点とすることを明記した、画期的な内容の政令を公布したのです。
新政令に謳われた内容とは?
WWFインドネシアも作成に協力したこの政令には、リアウ州のアジアゾウと森林が直面している問題の根本的な解決につながる次のポイントが含まれています。
州内に残っている天然林の皆伐による用途転換を、今後一切禁止すること
州内の国立公園、テッソ・ニロとブキ・ティガプルを繋ぎ合わせる回廊(コリドー)を設け、ゾウの移動範囲を拡大すること
さらに、これらを実現するための行動計画の策定や、ゾウが民家付近に出没してきた場合に適切にゾウを扱うための手順書の運用などが謳われています。
こうした要点が盛り込まれたこの政令がきちんと施行されるならば、リアウ州の森林減少を食い止め、現地の生物多様性を維持する活動は、確実に前進することになるでしょう。
政令を確実に施行するために
しかし、政令が公布されただけでは、決して十分ではありません。
たとえばこれが日本ならば、法律と同様の効力を持つ政令可決され、公布されれば、基本的に実施が確約されたことと同じ意味を持ちます。しかし、インドネシアでは、一度公布され、成立した政令や法律でも、正しく施行されなかったり、法に基づいた取り締まりなどが十分に行なわれない事例が多く、法制度が、日本などの国々ほど十分に機能していないのが現状です。
さらに、一度公布された政令が、力の大きい大規模な現地企業などにより、現場で骨抜きにされたり、事実上空文化してしまう懸念も、大いに残されています。
こうした事態を回避するためには、リアウ州の天然林を皆伐して木材で作られる紙やパルプチップ(木片)、天然林を伐採して植林されるアカシアやアブラヤシから作られた紙製品やパームオイル(ヤシ油)などを、日本をはじめ、世界中の企業が購入しないことが大きな力になります。違法な形で生産された製品を、世界中が求め、買い続ける限り、熱帯林の破壊は止まらないからです。
また、多くの一般消費者が、島の問題や、政令のことを知ることも重要です。世界中の多くの利害関係者が「証人」となることで、インドネシア政府によるこの画期的な政令の施行が、より確実なものになるとWWFは考えています。
WWFは今後もインドネシア政府や関連企業の動き、リアウ州での天然林やゾウその他の野生動物保護の動向を追いながら、今回の政令が本当に意味のある形で施行されるよう、働きかけを続けてゆきます。
関連資料
2006年9月26日 WWFインドネシアの記者発表資料
【仮訳つき】止まらないゾウと人間の衝突
WWF、リアウ州をゾウ保護の基幹拠点とするインドネシア政府林業大臣の法令を歓迎
衝突の軽減には、法令の適切な施行が不可欠インドネシア政府による政令
Establishment of Riau Province as Sumatran Elephant (Elephas maximus sumatranus) Conservation Center (英文版/PDF形式:31kb)
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