マグロの資源管理のための国際的な枠組みがあっても、それが活かされなかったり、枠組みを逸脱するようなことが横行すれば、資源は枯渇してしまいます。最近でも次のような違法漁業や過剰漁獲が行われてきたことが明らかになっています。
台湾船によるメバチの原産地偽装
2004年11月の大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)で日本政府は、台湾船が大西洋で漁獲したメバチを他海域で漁獲したと虚偽の報告をしてきたとする報告書を提出しました。
同報告書によると、同年6月海上保安庁は清水港に寄港した1隻の台湾系冷凍運搬船の立ち入り調査をおこないました。この結果、この冷凍運搬船は25隻の台湾漁船と3隻のバヌアツ船籍の漁船(台湾人オーナー)が漁獲したメバチを運搬していましたが、28隻すべてのマグロ漁船で二重の漁獲報告書(本物と偽物)が発見され、漁獲海域、漁船名(メバチの漁獲が許可されていない漁船から許可された漁船への付け替え)、転載地(認められていない海上での転載)の偽報告を行ったことが明らかになりました。
さらに同年9月水産庁は日本の大手商社系冷凍運搬の立ち入り調査を行ない、同様の手口の他に、漁獲した船の船籍を中国としたり、メバチを漁獲した海域が実際には漁獲枠の定められている大西洋であるにもかかわらず、漁獲枠が定められていない太平洋で漁獲したものと虚偽の報告をしていたことが明らかになりました。
同報告書はさらに、上記2隻の冷凍運搬船に関連する漁船だけでなく、台湾船が国別漁獲割当量が設定され厳しい規制のある大西洋産のメバチを資源管理措置がまだないインド洋産として多量に日本に輸出してきた可能性を指摘しました。
これらの問題を受けて、2005年11月のICCATの年次会合では、台湾に対してメバチを主に漁獲するマグロ漁船(メバチ専業船)を2005年の98隻から2006年は15隻に減らし、さらにメバチの漁獲枠を2005年の16500トンから2006年は4600トンに減らすという制裁がとられることになりました。これに加え、メバチ専業船について、全ての船にオブザーバーが乗船すること、指定した港で水揚げをして検査をすること、洋上でマグロを他の船に載せ替えることを禁止し、さらに小型のマグロ漁船を減らすことなどが決められ、これらが守られなければ、2006年の年次会合で貿易制限措置がとられることになりました。
中国船によるメバチの原産地偽装
2005年12月、日本の水産庁は太平洋産として輸入申請が行われた、中国のマグロ漁船が漁獲したメバチについて、港湾での陸揚げ時にサンプルを採取し、DNA検査を実施したところ、その漁獲海域が太平洋ではなく厳しい管理のルールが定められている大西洋であったことが判明したと発表しました。このマグロは中国政府が発行した証明書に基づき、漁獲海域を「東部太平洋以外の太平洋」として輸入手続が行われ、既に国内で流通・消費されてしまいました。つまり外国政府が発行した書類に基づき、正規の輸入手続をふんだのにも関わらず、ルールを守らないマグロが流通してしまったのです。マグロの流通に関係する企業は単に輸入手続を守るだけでなく、漁船がルールを守っているかどうかの確認をする必要があるといえるでしょう。
日本船によるミナミマグロの過剰漁獲
2005年10月に開催されたCCSBT(ミナミマグロ保存委員会)年次会合で、オーストラリアが行った日本の市場調査で、漁獲割当量を大幅に超えるミナミマグロが日本に流通している可能性が指摘されました。これを受け、2005年の年末に水産庁は日本船の水揚量の調査を実施したところ、2005年の日本船が1500トン (※最終的には約1800トンと報告された) を超える漁獲枠超過をしていたことが明らかになりました。日本のマグロの漁獲量管理方法は、漁船がファックス等で水産庁に漁獲量を報告するという方法が主にとられており、報告された漁獲量と実際の漁獲量が同じであるかどうかの検証をするのが困難でした。
このため、日本のミナミマグロの漁獲量のより正確な把握と漁獲枠の遵守を確実にすることを目的に、水産庁は「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」を一部改正し、漁業者ごとに漁獲量を割り当てる、番号を表示したタグをマグロに取り付ける、日本の港で陸揚げする際にはタグ番号を届け出る、割当量を上回って漁獲した場合、漁業者だけでなく、販売、加工した流通業者も、省令違反で罰金を科す、としました。
地中海のクロマグロの違法漁獲
地中海を含む、大西洋のマグロ資源を管理する国際機関「ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)」の科学委員会(SCRS:調査統計常任委員会)では、地中海でクロマグロを今後も持続可能な形で利用してゆくためには、各国の年間の漁獲量(漁獲割当量)の合計を、2万6,000トンと算定。加盟国に対して提言を行ないました。しかし、クロマグロの輸出を続ける地中海沿岸諸国の意向が反映された結果、ICCATでは2003年から2006年のクロマグロ漁獲割当量を、1年間で3万2,000トンに設定。科学委員会の提示した数値を大きく上回る条件が採択されることになりました。このことだけでも問題であるのに、さらに違法な過剰漁獲が行われてきたことが明らかになりました。
WWFは2006年7月に発表した報告書「2004年、2005年の地中海と東部大西洋におけるクロマグロの違法漁業」の中で、2004年と2005年に、それぞれ4万5,000トン以上のクロマグロが、漁獲されていた事実を発表。フランスを中心とするEU諸国と、リビア、トルコの漁船が、国際的な合意のもとで取り決められた漁獲量の割り当て(漁獲可能なトン数)を、大幅に上回る規模で、クロマグロを漁獲し、しかも、意図的に漁獲量の超過を報告をしなかった事実を指摘しました。また、2006年10月初頭に、スペインのマドリードで開催された、ICCAT科学委員会の会合でICCAT科学委員会が推定した実際の漁獲量は5万tで、このWWFの報告と一致する内容でした。
これらの地中海のクロマグロの多くは「蓄養」され、トロの多い「養殖マグロ」として日本に出荷されてきたのです。日本人がトロの多いマグロをいつでも安く大量に安定して食べることができたのは、このような違法な過剰漁獲と密接に関係していると言えるでしょう。




