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WWFの活動

多発するゾウと住民の衝突 ~インドネシア・スマトラ島より

熱帯雨林の伐採・消失が進むインドネシアのスマトラ島で、絶滅のおそれのあるアジアゾウと地域住民の間で衝突事故が多発しています。島で最後の低地熱帯雨林が残るテッソ・ニロ国立公園やその周辺でも、他の場所から公園に移されたゾウが近くの村に出没したり、集落に現れた群がそのまま留まってしまい、一部が捕獲され食料もなしに放置されるなどの問題が発生。ゾウのすみかである森の保全と衝突の回避が求められています。

減り続けるリアウ州の森林

かつてはそのほぼ全てが、熱帯林に覆われていた、インドネシアのスマトラ島。その面影は、今ではほとんど残されていません。島の中央部に位置するリアウ州の森林面積も、2004年には294万4,065ヘクタールありましたが、2005年は274万3,198ヘクタールに減少。20万ヘクタールあまりが失われてしまいました。現在、残されている低地熱帯雨林は、きわめて希少なものになっています。

森が失われる大きな原因は、紙の原料となるアカシア、ヤシ油を採るためのアブラヤシの植林、居住地を作るために用地転換が行なわれていること。そして、紙の原料とするために、天然林を広範囲に渡り違法に皆伐していることです。法律などで名義上保護されている森の多くも、実際には保全されず、植林に転換されたり、伐採されたりしています。
それにもかかわらず、リアウ州では、国立公園などの保護区として指定されている森林、保護価値の高い森林(HCVF)として企業により、自主的な保護を受けている森林の面積さえ、まだ限られているのが実情です。

スマトラ島およびリアウ州周辺の地図。

アジアゾウがすみかを追われる

熱帯林の減少は、そこに生息する野生生物にとっても、大きな問題です。とりわけ、大量の食物や広い生息域を必要とするアジアゾウのような大型動物は、深刻な影響を受けることになります。

現在リアウ州内に生息しているアジアゾウは推定で350頭。7年前と比べ、その数は半減したと見られています。このままでは近い将来、野生のゾウは州内には1頭もいなくなるのではないかとWWFは危惧しています。

しかも、スマトラ島では、すみかを失い、食物に困ったゾウの群が、かつて森だった場所に作られた集落に現れ、アブラヤシの実などの農作物を食い荒らしたり、住民が死亡する事故が多発。住民の側も、毒などを使ってゾウを殺す例が跡を絶ちません。

多発する野生生物保護区での事件

2005年8月、テッソ・ニロ国立公園に近い、ルブ・ケンバン・ブンガという集落で事故が起きました。集落に8頭のゾウが出没したのです(※1)。この8頭は以前、他の森から国立公園に移送されてきたゾウでした。
リアウ州政府は現在、伐採や用地転換によって狭くなった森から抜け出し集落に出没するようになったゾウを捕獲して、森林が残っている他の場所に移送する取り組みを行なっています。その移送されたゾウが、一カ月と経たないうちに、付近の村を襲撃したのです。

2006年2月下旬から3月にかけても、リアウ州北西部のバライ・ラジャ・ドゥリという野生生物保護区 (Wildlife Sanctuary)内の集落で、別の事件が起きました。保護区内にあるバライ・ラジャという集落にゾウが出没し、農作物を繰り返し荒らして、民家を破壊したのです。その数17~51頭。ゾウがやってきたのは、集落から実に25キロあまりも離れた、リボという地域の森でした。
ゾウは食物を求めて森を抜け出し移動している途中で、この集落に迷い込んできたと考えられていますが、久しく民家の周辺に留まり、なかなか森へ帰ろうとしないため、住民はいつまた襲撃されるかわからない不安に怯える状況が続きました。

WWFはゾウの群を近くにある森にうまく追い返すよう提言していましたが、WWFインドネシアの現地スタッフは3月21日、襲撃地の付近で10頭のゾウが住民によって捕獲され、水や食糧もなく木につながれているのを発見しました。(※1)

このように、住民とゾウが衝突を繰り返す中で、ゾウが殺傷されたり、住民側に死傷者が出るケースは跡を絶ちません。2006年2月末にも、リアウ州と北スマトラ州の州境付近のアブラヤシ農園で、6頭のゾウの死骸が確認されました。このゾウの群は、アブラヤシの植林を襲った折に、住民に毒殺されたものと思われます。この場所もやはり保護区であるマハトという区域から1キロほどの所にありますが、1994年の保護区指定後も天然林が伐採され続けており、現在までに森林はすべて植林や居住地に転換されています。(※1)

ゾウが破壊した住居。 ルブ・ケンバン・ブンガ集落にて(写真:WWFインドネシア/ 2006年3月2日)

リボ林区周辺の地図。ゾウの殺傷や住民に犠牲者が出た場所が示されている。

ゾウの移送が抱える問題

体が大きく、力も強いゾウを森へ追い返したり、ゾウの収容所や動物園などへ移送するのは容易なことではありません。しかも、これまでリアウ州が行なってきたゾウの捕獲や移送作業については、その途中や移送後にゾウが死ぬケースが大変多く、事実上、充分な保護策になっていません。

この事態を改善するため、2004年、NGOと林業省は協力して人間とゾウの遭遇事故を削減するための手順書を作成しました。WWFインドネシアも州の林業局に対し、ゾウの捕獲と移送を止めることを再三にわたり勧告。しかし、一連の事故が物語る通り、現在も状況は変わっていません。準備された手順書が結局運用されなかったため、事故を防ぐことが出来なかったのです。

州政府は、バライ・ラジャで捕獲された10頭について、テッソ・ニロ国立公園への移送を計画しています。しかし10頭のゾウの健康状態は大変悪いため、移送すると死亡する危険性が高いと見られています。しかも、仮に移送に成功したとしても、再びゾウが集落を襲い、事故が再発する可能性が懸念されます。
WWFインドネシアはまず、ゾウに適切な医療措置を施し、水・食料を与えるよう政府に要求すると同時に、無秩序な移送は行なわないよう働きかけています。さらに、ゾウの扱いに習熟したチームを提供することで、ゾウの保護活動への支援を提案しています。

共存、そして森林の保全を!

WWFインドネシアは地域住民とアジアゾウの衝突を防ぐため、2004年4月から、飼育されているゾウ(使役ゾウ)を使った「フライング・スクワッド」というパトロールチームを編成し、集落に出没する野生のゾウを森に追い返す活動を実施してきました。
同じアジアゾウの背に乗ってパトロールを行なうフライング・スクワッドは、野生のゾウを傷つけることなく、また民家への損害も最小限に抑える実績をあげています。同時に、地域の人たちが活動に協力し、森林保全への理解を深めるきっかけにもなっています。2005年8月にテッソ・ニロ国立公園付近の、ルブ・ケンバン・ブンガで起きた事故の際も、フライング・スクワッドが出動し、大事には至りませんでした。

しかし、出てくるゾウを森へ追い返すだけでは、解決にはなりません。
何よりも優先して取り組まねばならない活動、それは、ゾウが生きられる森を保全することです。スマトラ島の中で保護価値が高く、大規模な伐採を停止すべき森林と見なされている、テッソ・ニロ国立公園、バライ・ラジャ保護区のリボ、マハト保護区、それらのいずれの場所でも、保護区指定後も森林の急激な伐採が止まらず、森が失われ続けています。

WWFでは今後も「フライング・スクワッド」の取り組みを強化する一方で、全ての自然林の皆伐、違法伐採と人々による不法侵入を即刻止め、また、テッソ・ニロ国立公園を現在の3万8,576ヘクタールから10万ヘクタールに拡大するよう、インドネシア政府に求めています。(*2)

関連サイト

 

2006/3/28

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