意見書 2004年6月16日
那覇防衛施設局長
岡崎 匠 様
財団法人 世界自然保護基金ジャパン
(WWFジャパン)
事務局長 日野 迪夫
〒105-0014東京都港区芝3-1-14
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環境影響評価法にもとづき「普天間飛行場代替施設建設事業にかかわる環境影響評価方法書」について、本会の意見書を提出します。
意見の要約
標記の方法書は、対象事業の内容に関する記述が極めて不十分であること、調査・予測・評価の手法が論理的に関連していないことなど、方法書の核心部分が欠落している。また、IUCN(国際自然保護連合)の勧告を無視していること、縦覧の仕方が排他的であることなど、大きな問題を含んでいる。その結果、「環境影響評価法」の精神をないがしろにし、環境アセスメントの形骸化を進めるものとなっている。この方法書による手法では、代替施設建設による環境への影響を正しく予測、評価できないだけでなく、このような方法書がまかり通れば、他の環境アセスメントの質も低下していくことが心配される。事業者は、この方法書を科学的、合理的な観点で全面的に書き改め、説明会を開催し、広く公開して多くの意見を求めるべきである。
意見と理由
- 事業内容の記述が不十分
対象事業の目的・内容に関する記述が極めて不十分である。これでは事業内容を的確に理解して批判することができないし、どんな事業が行われるのかあいまいなままでは、環境調査、影響予測、評価に関しても、的確な手法を採用して実行することが困難である。事業内容が正確に記述されていなければ、方法書として成り立たないし、内容が決まっていないのであれば、方法書どころか環境アセスメント手続きに乗せるべきではない。
- 普天間飛行場代替施設建設の目的は「同飛行場の移設・返還」および「北部地域の振興」とされている。代替施設の候補地については、検討過程や選定方法が書かれていない。しかし、移設候補地の選定は、ゼロ・オプション(移設しない)を含む複数の代替案について環境アセスメントを実施するべきであり、方法書でその手法を明確にすべきである。目的の一つである北部振興については具体的記述がない。
- 名護市辺野古への移設については、名護市民投票での反対多数、地域住民や環境団体による反対運動、IUCN(国際自然保護連合)の勧告(アンマン、2000年10月)など、多くの異論があるにもかかわらず、これらを表記していない。海上ヘリ基地から軍民供用空港への拡大、15年使用期限問題など、方法書には事実経過をきちんと記入するべきである。
- 代替施設は、対象事業の種類としては「飛行場及びその施設の設置」および「公有水面の埋め立て」とされている。しかし、飛行場でありながら軍用、民航用ともに使用機種は不明確である。軍用機に関しては、演習等の飛行経路、頻度、範囲などには触れていない。また、燃料、弾薬、化学薬品などの貯蔵・供給、給水・排水など、ほとんどの施設について記載されていない。民航機についても同様で、管制塔、整備工場、ターミナルビルなどの記述がない。環境アセスメントを行う上で、もっとも基本的な情報が欠落している。また、民航機の需要予測は明らかに過大評価である。
- 埋立地の護岸構造設計のために行われる「現地技術調査」のボーリング調査(63本)や弾性波探査は、サンゴ礁生態系やジュゴンの生息状況に大きな影響を及ぼすことから、環境アセスメントの対象に含める必要があり、方法書にそのことを記載するべきである。大規模なボーリング調査等により、環境や野生生物に影響を与えておいてから、環境調査や影響予測をしても意味がなく、環境アセスメントの体をなさないのは明らかである。
- 大浦湾に埋め立てによる31haの作業ヤード、捨て石による3haの海上ヤードを造成する計画が伝えられている。方法書ではその可能性を述べ検討課題としているだけだが、きちんとした影響予測を行うためには、明確な計画を示すべきである。
- 埋め立て土砂として1,770万m3を購入するとしているが、その土取り場、運搬手段、経路を明記しなければならない。土砂の採取、運搬も環境アセスメントに含め、方法書でとりあげるべきである。
調査・予測・評価の方法が不明瞭
方法書で具体的に記述されるべき環境アセスメントの「調査項目の選定」、「調査の目的と方法」、「環境への影響予測」、「保全に関する評価」のそれぞれを関連づける基本的、論理的な考え方が不明瞭または欠落している。調査項目の選定はマニュアル通りの形式的なものであり、対象地域・海域の普遍性、特殊性を絞り込んだものではない。また、調査の目的と方法、環境への影響予測では、予測の目標が示されていないため、調査結果をもとに、どんな方法、どんな論理で影響を予測し、保全に対する評価を行うのか不明である。この方法書は、核心部分が欠落している。
- 方法書の核心部分であるはずの「予測の基本的な手法」をみると、どの項目も同じような短い文章が並んでいる。そこにはマニュアル通りに「事業計画の内容及び現地調査結果で得られた注目種の分布状況や生態、生息環境等を整理し、類似の事例や既知の知見等を参考に、注目種の生息状況等に及ぼす影響を定性的に予測」と書いてあるに過ぎない。何を予測するのかわからない書き方になっている。環境も生物も、場所や種ごとに、影響に関する予測と評価のポイントは異なるはずである。具体的に何を予測するのか、調査項目ごとに予測の目標を明確にしなければ、方法書としての意味はない。
- 辺野古海域の環境の特性は、外洋に面したサンゴ礁生態系であり、リーフやラグーンが発達した浅海域である。ラグーンには、沖縄島では最大面積の藻場が広がっている。また、大浦湾には大規模なサンゴの群落が発見されている。沖縄県は、辺野古海域を「自然環境の厳正な保護を図る区域(ランク�T)」に指定している。このような自然環境保全上重要な海域に、大規模な埋め立てによる飛行場建設を計画したことについて、方法書では、その正当性、合理性、妥当性を証明する手法を述べなければならない。
- サンゴ礁生態系については、地形、地質、活断層、潮流、波浪、気象、生物相など総合的な調査にもとづいて、生態系を構成する要素、その間の関係性、全体像について、できるだけ定量的に解明すべきである。その結果にもとづいて、大規模事業によってサンゴ礁生態系が受ける影響を予測する必要がある。また、潮流の変化や生物の生息域の分断により、影響を受ける範囲は辺野古周辺の狭い海域にとどまらないことが予想される。しかし、方法書では、上位性、典型性、特殊性などから注目される構成種の調査のみであり、サンゴ礁生態系への影響予測という観点から調査が設計されているわけではない。
- これは、陸上生態系についても同様である。上位性としてツミ、ミサゴ、典型性としてアジサシ類を選んでいるが、それらの行動圏を示すだけでは、生態系調査ではない。まして、従来のように、行動圏と埋め立て範囲が重ならないので生態系への影響はないなどという予測は成り立たない。軍用機の訓練飛行による騒音の強さとその影響について、調査と予測の手法を示すべきである。従来のように、鳥類は騒音に慣れるなどという無責任な予測をするべきではない。
- 沖縄島のジュゴンは、分布域が狭く、孤立し、個体数が少ないことにより、絶滅寸前の状態にある。辺野古海域は、沖縄島におけるジュゴンの分布中心と見ることができる。このようなジュゴンに対して、大規模な埋め立てによる軍民供用空港の建設とそこでの軍事演習、民航機運行がどのような影響を及ぼすのか、ジュゴンの保全対策をどうするのかが、サンゴ礁生態系への影響予測、評価とともに、この方法書の重要なテーマにならなければならない。ジュゴンに関しては各種の調査が計画されているが、絶滅寸前の種に対する保全生物学的視点での調査を組み立てるべきである。方法書に示されているわずか1年間の調査は、むしろジュゴンをディスターブするものではないか。さらに、実際のジュゴン調査の前に、大規模なボーリング調査や弾性波探査を行ってしまえば、方法書に書かれているジュゴン調査と影響予測、評価は無意味になる可能性が高い。
- 辺野古海域には沖縄島最大の海草藻場があり、ジュゴンの採食場所となっている。また、稚魚や甲殻類など多くの小動物の生息場所であり、海中への酸素供給にも貢献していると考えられる。海草藻場は、工事中の埋め立てによって面積が大きく減少し、周辺部にも赤土流出、汚水流出の可能性がある。また、大規模な埋立地の出現、辺野古漁港からの掘削航路の付け替えなどにより、潮流、潮汐、流速、底質、水質が変化し、海草の生育状況に影響を与える可能性が高い。しかし、方法書では、その予測目標、予測手法については示されていない。
- 辺野古周辺海域および陸域には、いろいろな鳥類が生息、繁殖していると予想される。現状では、鳥類の状況は、キャンプ・シュワブ内の実弾射撃演習の影響を受けたものとなっている可能性が高い。海上空港ができれば、さらに軍用機の演習飛行、民航機の就航によって、陸海双方から恐怖感を与える強い騒音を受けることになる。これは地域住民にとってはさらに深刻な問題である。鳥類に対しては、陸域、海域(島)における繁殖状況、生息状況にどのような影響を及ぼすのかを予測しなければならない。
- 景観および人と自然のふれあいは、昔から地域で生活を続けてきた人々によってかたちづくられたものである。辺野古では陸域に名称があるように、サンゴ礁のクチや岩にも名称がある。これらは文化遺産であり、このような遺産を消滅あるいは大規模に改変することによる地域社会、住民への影響を予測する手法を方法書に書き込むべきである。また、地域社会、住民への影響は、歴史的な視点と将来の展望を含めて評価する必要がある。
方法書の縦覧方法が排他的である
444ページの膨大な方法書は、沖縄本島内の8か所で縦覧されたに過ぎない。しかも、そこでは手写しのみであり、コピーは許されていない。コピーを取るには情報公開請求をしなければならないという。ホームページでの公開やCD-ROMによる配布もないのである。また、説明会の開催があってしかるべきであるが、それもなかった。これでは、住民への情報公開と意見の聴取を拒絶しているのと同じである。このような事業者の態度は、強く批判されるべきである。環境アセスメントは事業者と住民のコミュニケーション・ツールであると言われることの意味を深く考えるべきである。
IUCN(国際自然保護連合)勧告に従うべきである
2000年10月にヨルダンのアンマンで開催されたIUCN(国際自然保護連合)の第2回世界自然保護会議では、日本政府に対し「ジュゴンの生息場所やその周辺における軍事施設の建設に関する自発的な環境アセスメントを、できるかぎり早急に完遂すること」、「自発的な環境アセスメントの結果を考慮しながら、それにもとづいてジュゴン個体群の存続を確実にするために役立つ適切な対策を講じること」が勧告されている。事業者は、この勧告に従い、国際的なレベルの環境アセスメント、すなわち、科学的、合理的方法で、ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討し、住民参加を得て環境アセスメント手続きを進めるべきである。
結論
この方法書は、対象事業の内容に関する記述が極めて不十分であること、調査・予測・評価の手法が論理的に関連していないこと、IUCN(国際自然保護連合)の勧告を無視していること、縦覧の仕方が排他的であることなど、方法書の必要かつ十分な条件を満たしていない。事業者は、この方法書を科学的、合理的な観点で全面的に書き改めるべきである。
以上
ジュゴン保護活動について
WWFジャパンは、沖縄の海の自然を広く保全することをめざした活動に取り組んでいます。現在、その活動の一環として、沖縄島の東海岸を中心とした海域に、わずかに生息する希少種ジュゴンの保護活動を展開しています。



