記者発表資料 2004年3月16日
【スイス・グラン発】WWF(世界自然保護基金)とトラフィック※1は、インドネシアに生息するスマトラトラが、違法取引の広がりと、生息地の激減によって絶滅に向かっていると発表した。
トラフィックが発行した最新のレポート『Nowhere to Hide: The Trade in Sumatran Tigers』は、1998~2002年までの間に、少なくとも毎年50頭のスマトラトラが密猟されていることを明らかにした。野生のスマトラトラの個体数は、約400~500頭と推定されている。
こうしたトラの密猟は、プロかそれに準ずるハンターによって行われている。その背景には、インドネシア国内でトラの毛皮や、装飾品・魔よけ・土産物として利用される爪や歯などを扱う市場の存在がある。スマトラでは、トラ製品は業者から簡単に手に入る。また、多くの場合、オープンに展示され売られている。トラフィックでは、調査した24カ所の町のうち17カ所、453店舗のうち20%でトラ製品を発見した。レポートは、アジアの別の地域で売られている違法に国際取引されたトラ製品の存在についても明らかにしている。
トラフィックの事務局長であるスティーブン・ブロードは、次のように述べている。「スマトラトラを救う唯一の方法は、規制の強化と改善です。その第一ステップとして、特にスマトラ北部にある、取引の中枢であり小売りの販路となっている市場に対して対策を取るべきです。また、密猟対策に高い専門性を持つ組織が早急に作られることも必要です。」
生息地の消失もまた、スマトラトラにとって大きな脅威である。WWFは、アジアの二大製紙会社であるAPP(Asia Pulp & Paper Company Ltd.)とAPRIL(Asia Pacific Resources International Holdings Ltd.)によって行なわれているスマトラ島低地林の伐採を一時停止するよう求めている※2。スマトラトラの主要な生息地である低地林の伐採は、トラが集落に出没する結果を招いている。
WWFの国際野生生物保護プログラムの代表を務めるスー・リーバーマン博士は「世界中で、トラの密猟や生息地の消失、そして近隣住民との軋轢が起きています。スマトラトラは今、絶滅の淵に立っているといえるでしょう。個体数がある程度以上に減ると、個体群そのものが存続できなくなる可能性が出てきます。現在の密猟は、個体群全体の存続を脅かすものです」と述べている。
インドネシアによるスマトラトラの違法取引への取り組みは、今週、スイスのジュネーブで開かれるワシントン条約の常設委員会で審査されることとなる。WWFとトラフィックは、インドネシア政府に対して、スマトラトラの密猟防止策を強化し、国際および国内の違法取引を厳重に取り締まるよう求めている。
- ※1トラフィック(TRAFFIC)ネットワークは、野生生物の取引をモニターする世界最大の民間機関で、WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムである(http://www.traffic.org/)
- ※2APPよびAPRILの紙製品は、日本国内でも販売されている。特に、日本に輸入されるコピー用紙のうち約8割はインドネシアからのものであり、その約8~9割がAPP製品という。
WWFは、APPとAPRILに対し、数年に渡って、持続可能な木材供給計画と違法行為の是正を求めてきた。昨年8月には、APPおよびその親会社であるシナル・マス・グループと、持続可能な森林の利用に向けた同意書を交わし、APPは保護価値の高い森林の保護やアクションプランの策定などを約束した。しかし、2004年2月19日の期限にAPPがWWFに提出したアクションプランは"自然林の保護には不十分"なものであった(参照→http://www.wwf.or.jp/activities/2004/02/700120.html)。それは、APPとシナル・マス・グループが関与する森林において、自然林の皆伐・アカシアの植林を実施する前に、その環境・文化・社会的保護価値について適切な分析・評価を行っておらず、また、適切な評価およびその間の一時伐採停止とその結果に基づくアクションプランの改善をWWFが求めたのに対し、それらを拒んでいるためである。
WWFは現在も、日本・アメリカ・ヨーロッパのAPPの顧客企業と協力して、APPが保護価値の高い森林の分析・評価の実施とその間の一時伐採停止に同意するよう求めている。同時に、これら企業が責任ある調達方針を採用するよう望んでいる。
- レポート本文のダウンロードはこちら
Nowhere to Hide: The Trade in Sumatran Tigers(PDF形式:935kb)
キーワード
関連するWWFの活動
インドネシアの森林保全
大小の島々からなるインドネシア。かつてはうっそうとした熱帯林に覆われたこの国の島々でも、今では広く森林の伐採が行なわれ、原生の姿をとどめている場所は、きわめて希になっています。日本もまた、インドネシアから大量の木材を輸入する国の一つ。WWFジャパンは、スマトラ島中部のテッソ・ニロをはじめとするインド...続きを読む
トラについて
トラは、アジア大陸に分布する、ネコ科最大の動物です。 トラは古来より、アジアの文化の中で力や威厳の象徴として、様々な形で親しまれてきました。トラが生息していない日本でさえ、それは変わることはありません。 現在トラは、世界的に絶滅が心配されている動物の一種です。20世紀初頭、10万頭が...続きを読む
野生生物の違法取引対策
世界の野生生物を脅かす問題 世界にはさまざまな野生の動植物が生息しています。しかし現在、少なからぬ野生生物が減少し、絶滅の危機に瀕しています。 その理由の一つが、人間による、野生生物の「過剰な利用」です。 私たちは、食品、医薬品、ペット、衣類、装飾品などいろいろな形で野生生物を利用しています。 利用...続きを読む






